Fate/WizarDragonknight   作:カラス レヴィナ

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先にこっちができたので、投稿します


選択肢

「クトリちゃん!」

 

 その部屋のドアを開けると同時に、ハルトは叫んだ。

 孤児院としての役割を持つ、最上階の部屋。白一色の病院の部屋とは思えない彩りを加えた壁が特徴の部屋である。

 前回ここに来た時は、この病院に住んでいる子供が無数にいた。それぞれ、自分にせがむようにマジックを見せてほしいと訴えていた。キラキラした目も、ハルトにはよく覚えている。

 だが今は。

 

「……っ!」

 

 ハルトは歯を食いしばる。

 赤青桃色と並んだマットが、赤黒い色のみで染め上げられている。あちらこちらに小さな人影が転がっており、生存者は見当たらない。

 そして、その原因。

 むしゃむしゃと、少年___よくハルトの膝に乗っていた子___を貪っていた。

 小動物。リスの姿をしたアマゾン。真っ白なその毛を赤く染めるのもいとわず、一心不乱に幼い子の命を吸い取っていた。

 

「どうして……」

 

 手放したドアが、静かに閉まる。その物音により、リスアマゾンはハルトという乱入者の存在に気付いた。

 リスアマゾンはゆっくりとハルトを振り向く。まるで肉食獣の気配を見せないその体は、子供たちによって赤く塗りつぶされていた。

 

「どうして……どうしてなんだよ……!」

 

 リスが強襲してくる。それを受け流しながら、ハルトは指輪をはめる。

 

「……変身……!」

『フレイム プリーズ』

 

 ルビーの輝き。火のウィザードは、リスアマゾンのパンチを反らし、指輪を使う。

 

『コネクト プリーズ』

 

 魔法陣よりウィザーソードガンを取り出す。リスアマゾンの二度目の拳を回避と同時に、その背中を切り裂く。

 悲鳴を上げたリスアマゾンは、そのまま倒れこむ。子供を素体としているためか、一撃だけで動けなくなっていた。

 

「……」

 

 ウィザードは静かに、ウィザーソードガンのハンドオーサーを開く。

 

『キャモナスラッシュ シェイクハンド キャモナスラッシュ シェイクハンド』

 

今の空気とは真逆の明るい音声。それを塞ぐようにルビーを通し、炎の刀身を宿した。

 

「……ごめん」

『フレイム スラッシュストライク』

「……」

 

 沈黙するリスアマゾン。

 脊髄に突き刺したウィザーソードガンを引き抜き、ウィザードは変身を解除する。

 

「もう……止めてくれ……」

 

 それが無駄な願いだと分かっていながら、ハルトはそう口にせざるを得なかった。

 だから。

 

 クトリがドアを開けて入ってきたのに対しても、喜びなど湧かなかった。

 

「……」

「……来ていたんだね」

 

 クトリは静かにドアを閉じて部屋に入る。

桃色のナース服。あたかもさっきまで病院での仕事を行っていたかのようだった。はたまた、どこかに無事な箇所でもあったのだろうかという希望を持つも、クトリの頬に少しだけ張り付く血に、その希望は捨て去った。

クトリは子供だったらしきアマゾンや、動かない子供たちを見ながら、少しずつハルトに近づいていく。

 

「っ……!」

 

 ハルトは思わずウィザーソードガンの銃口を向ける。

 ハルトのほぼ無意識な動きに少し驚いた様子を見せたクトリは、やがて柔らかい笑顔を見せた。

 

「いいよ。撃っても」

 

 彼女は抵抗しない。そういうように、両手を広げた。

 引き金を引こうとしても、指が動かない。

 

「分かってるよ。だって君、魔法使いなんでしょ?」

「……」

 

 ウィザードとしての正体を彼女が知っていることに、ハルトは驚かない。すでに二回もウィザードとしての姿を見られている。

 そして。この状況。

 

「そういうクトリちゃんも……アマゾンなんだよね……?」

「驚かないんだね」

 

 クトリの体が、蒸気によって包まれる。それが消滅していくと、クトリがいた場所には、蝶の姿をしたアマゾンがいた。目深なシルクハットの頭部を低くし、再び蒸気に覆われる。

 

「ねえ。君は……」

 

 蝶アマゾンは即座にその姿を、クトリのものに戻す。だが、彼女の姿はもともとの彼女のものではない。

 

「……! クトリちゃん、その髪……」

 

 彼女の空のように美しく蒼い髪は、炎のように燃ゆる紅となっていた。水晶のごとき瞳も、血のように紅くハルトを見据えていた。

 

「ねえ。君は、どう思う?」

「何が?」

「私、何歳だと思う?」

 

 質問の意味が分からなかった。ハルトは目を白黒させながら、

 

「……十五とか、十六とか?」

 

 その答えに、クトリは少し嬉しそうに、どことなく悲しそうな表情をしていた。

 

「違うよ。私ね、本当は……一歳だよ」

「……え?」

 

 ハルトは耳を疑った。だが、クトリは続ける。

 

「私はね。親が誰かも分からない。それは、前にも言ったことあるよね?」

「……あったね」

「私が病院に最初に引き取られて、行われたのが、体に溶原性細胞を埋め込むことだったんだよ。だから、本当はここの子供たちの中で、私が一番年下」

 

 少しだけ、クトリは口を閉じた。やがて流れてきた沈黙の中、クトリは絞り出すように言った。

 

「……だからね」

 

 そういいながら、クトリはナース服のボタンを外す。一つ一つ、その数を増やし、やがて脱ぎ捨てた。頭のナースキャップも落とし、次にインナーにも手をかける。

 

「おい……」

 

 ハルトが止める間もなく、クトリは上半身の衣類を放った。思わぬ状況に目をつむる前に、それがハルトの目に入ってしまった。

 美しいクトリの体に、複雑に刻まれる溶原性細胞の血管。それは、これまでの感染した人々のそれとは比較にならないものだった。

 胸元に、心臓のような、溶原性細胞の塊。それは、クトリの白い肌を真っ黒に染め上げ、全身に行き渡っている。しかもそれは胎動を続けており、時間が経過するごとに首から顔にかけてどんどん浸食している。

 

「私の体は、アマゾン細胞でできているんだよ。生まれた時からずっと。生きているとね。人を食べたいってさえ、思っちゃう」

「……今まで、そんな素振り見せたこともないのに」

「ふふっ。流石に慣れているから」

 

 いつもの笑顔。だが、その顔に黒い血管が入ると、後ずさりたくなる。

 

「あとね。もう一つ」

 

 クトリは髪を捲りながら、背中を向ける。綺麗な彼女の背中には、点在する溶原性細胞。そして、ひと際大きな。

 アマゾンネオの頭部のような紋章があった。

 ハルトは、右手の甲にある、黒い紋章と見比べる。

 

「それって……令呪……?」

「そう」

「令呪って……腕に付くものじゃないのか」

「キュゥべえから聞いたんだけど、生後一か月には、もうマスターになっていたらしいから。だから、背中に令呪を入れたんだって」

「キュゥべえ……!」

 

 ハルトたちを聖杯戦争に巻き込んだ白い妖精の姿が脳裏に浮かぶ。さっき病室で会ったとき、拘束しておくべきだったと後悔した。

 

「でも……そっか……そろそろダメかな……?」

 

 クトリは振り返る。

 

「聖杯戦争は、願いをかなえるために、マスターが戦うんでしょ?」

「……違う……」

「だったら。バーサーカーのマスターである私と、ライダーのマスターの君。戦わなくちゃいけないんだよね?」

「違う!」

「違わないよ」

 

 赤髪のクトリは、インナーを着なおす。その瞬間、彼女の体から、蒼いが発せられた。

 

「だから私たち、出会ってはいけなかった」

 

 彼女の背中から、蒼い蝶の翼が伸びる。半透明なそれは、部屋の空間の半分を占めるほど大きく。

 いつ握られたのか。彼女の腕には、黒く、無数の機械が複雑に絡み合ったような剣が握られていた。

 

「これは、アマゾンと魔法使いの戦いじゃない。これは、聖杯戦争の戦い。マスターとマスターの戦い。だから構えて。魔法使いさん」

 

 黒い剣(セニオリス)が、その刀身を開放させる。

 

「私には、願いなんてない……せめて、私のサーヴァント(千翼)が幸せに生きてくれれば。それくらいかな。そのために、私は戦わなくちゃいけない」

「なんでだ……なんで……」

「私も、つい最近キュゥべえから聞いたことだから。君がマスターだったなんて思ってもみなかった」

 

 彼女の翼が羽ばたく。

 吹き荒れていく遊具たち。彼女に、もう説得は通じない。

 もう、他に選択肢など見えなかった。

 

『ドライバーオン プリーズ』

 

 それは一番簡単で、一番残酷な選択肢だった。

 

『シャバドゥビダッチヘンシーン シャバドゥビダッチヘンシーン』

「変身」

『フレイム プリーズ ヒー ヒー ヒーヒーヒー』

『ルパッチマジック タッチゴー ルパッチマジック タッチゴー』

『コネクト プリーズ』

 

 殺しあう(戦う)という、選択肢。

 

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