Fate/WizarDragonknight   作:カラス レヴィナ

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エクゼロス……人の何かを好きな気持ちを奪う敵、主役はとてつもないエネルギーの持ち主、全てが頭がおかしい内容……
うん、俺ツイだこれ


勝手にケーキを切らないで

「やっと着いた!」

 

 真司がラビットハウスの扉を開けた時、すでに店内はぐったりとしていた。

 

「あ、お疲れ真司。バイトだったんだって?」

 

 テーブル席で制服のまま項垂れるハルト。

 

「お疲れ様。正直、いままでのほとんどの試合よりも疲れたかも」

 

 モップを掴んだまま、カウンター席で真っ白になっている可奈美。

 

「う~ん……勇者部ごかじょー……」

 

 刑事ドラマの被害者のように、床でダイイングメッセージを書いているようなポーズの友奈。

 

「お客様……本日はもう閉店です……ガクッ」

 

 と、カウンターの厨房で気絶したチノ。

 死屍累々の状況に、真司は口をあんぐりと開けた。

 

「ひでえなこりゃ。俺もさっきまでバイトしてたけど、ここまででもなかったぜ?」

「今日は折角のクリスマスってことで、滅多に行かないところを使う人が多かったみたい……むしろ、大型チェーンのそっちはどうだったんだ?」

「俺のところはそこまででもなかったけど、いつもよりも忙しかったぜ。あ、これ差し入れ」

 

 真司はハルトの目の前の机に差し入れが入った袋を置いた。

 

「あ、ありがとう」

「後でパーティの時に食おうぜ。準備するけど、奥入っていい?」

「いいですよ」

 

 チノが掠れた声で答えた。

 真司は礼を言って、店の奥へ行く。

 

「こんにちは。クリスマスパーティの招待状をもらってきたんですけど」

 

 奥の厨房では、六人の少女たちが集まっていた。

 

「あ、真司さん!」

 

 唯一見知った顔のココア。

 

「今準備終わったところだよ! 持っていくの手伝ってくれる?」

「ああ、それはいいけど、それより先に店主の人にあいさつしたいんだけどさ。どこにいるの?」

「チノちゃんのお父さんだね。今書斎にいるから、案内するよ」

「お、ありがたい」

「待って、ココアちゃん!」

 

 その時、大和撫子といった出で立ちの少女がココアを止めた。

 

「その前に、あれ、やるわよ!」

「千夜ちゃん……うん、そうだね!」

 

 千夜、という名前なのかと真司が考えていると、ココアは千夜と背中を合わせる。

 

「今宵、聖なる夜の宴が始まる!」

「加わるならば、その証を見せよ!」

「お、おおっ!」

 

 真司は驚きながら、ポケットから……ちょうど、龍騎がカードデッキからカードを抜くような動きで……招待状を取り出す。

 そのままドラグバイザー(架空)に装填する動きで、左手から招待状を渡す。

 

「招待状ベント」

「「受け取った!」」

「な、何なんだこのノリ……」

 

 ツインテールの少女が、ただ一人、困惑の表情を浮かべていた。

 

 

 

 タカヒロへの挨拶を終えた真司も加わり、いよいよ閉店後のホールでパーティが始まった。

 

「「「「「「「「「「「「「「「「メリークリスマス!」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 ココアたちが作ったのは、巨大なケーキだった。

 如何せん大人数なので、ケーキも圧巻する大きさ。店頭でみる一番大きなケーキの優に二倍はある大きさの生クリームケーキだった。持とうとすれば、両腕を一杯使ってしまう大きさのものが、集めたラビットハウスのテーブル席の上で威厳を放っていた。

 

「すごいな、これ」

 

 ハルトはそれ以外の言葉が出てこなかった。

 

「えっへん! お姉ちゃん直伝、特製ラビットハウスケーキだよ! 皆に切り分けるからね!」

 

 ココアは笑顔で皆にケーキを切り分けていく。

 

「はい! 妹たちには、一杯あげるよ! はい、チノちゃん!」

 

 チノに分けた分を考えれば、明らかに人数分足りない。コウスケと真司が慌ててココアの手腕を止めようとしている。

 

「ああ、ココアちゃん待って! ここは俺がやるから!」

「皆まで言うな! オレがやるぜ!」

「ダメ! お姉ちゃんに任せなさい!」

「やめろココア! お前に任せておけるか! ここは私が! 軍隊式給仕を見せてやる!」

「リゼ先輩!? 軍隊式のものをここで出さないでください!」

「ココアさん……せめて最初に等分を考えてからにしてください」

「うふふ……。楽しいパーティが誕生したわ」

「まどかちゃ~ん。ちょっと抱き着かせて」

「うわっ! 響ちゃんどうしたのいきなり!?」

「あっははは! なあメグやっぱりラビットハウスって面白いな!」

「そうだね、マヤちゃん!」

「大丈夫! だったら、私が斬るよ! 斬るのは得意だから!」

「うわー! ダメだよ可奈美ちゃん! 可奈美ちゃんの切るは、ここでやっちゃ駄目な奴だから! 千鳥を持ってこようとしないで!」

 

 切り分け作業が遅々として進みそうにない。

 ハルトは離れて、カウンター席に腰を下ろす。

 

「ふう……」

「参加しないんだ」

 

 そう言ってハルトの隣に腰を下ろしたのは、さやかだった。

 ハルトは少し顔を強張らせて、ほほ笑む。

 

「……少し、疲れただけだよ」

「ふうん……」

 

 さやかは、ドリンクを口に含みながら頷いた。

 紙コップに入っているのはコーラ。それをじっと見つめながら、ハルトは口を開いた。

 

「ねえ、さやかちゃん」

「何?」

「その……生活とか、困ったこと、ない?」

 

 上手く言葉が出てこない。さやかは少しきょとんとした顔をして、くすりと笑った。

 

「何それ? あたしのこと、どんだけ心配してんのよ」

「……さやかちゃんのままなんでしょ? その……もう一か月くらい経つけど、色々変わんない?」

「うーん、どうなんだろうね」

 

 さやかは足をプラプラさせながら呟いた。

 ケーキの現場では、相変わらず誰が切り分けるかで揉めており、決着はしばらく着きそうにない。

 

「家族には今のところ隠し通せてるし、そもそもあたしは自分が今まで通りの美樹さやかだって思ってるよ。それとも、人間の心のままファントムになったケースって、初めて?」

「……いや」

「だったら、少しは信用してよ」

 

 さやかがポンポンとハルトの背中を叩いた。

 

「ねえ、魔法使いさん」

「……何?」

「あたしのこと、倒そうと思ってる?」

「……前にも言ったでしょ。君が……人に危害を加えない限り……」

「怖い顔で言ってるよ」

 

 さやかの言葉に、ハルトは押し黙った。

 

「頭ではそう思ってるけど、心の中では納得いかないって感じ。あたし、そんなに信用してないんだ」

 

 さやかはコーラが入ったコップを揺らす。彼女のコップでは、コーラが波打っているが、やがて水面の中心に、小さな水柱が立った。

 

「何のために戦ってるかは知らないけどさ。あたしは、生きていちゃいけないのかな? ファントムは全員、倒すべきだと思う?」

「……」

 

 その言葉に、ハルトは無意識にケーキの切り分けでわちゃわちゃしている響へ目を反らしていた。彼女が言った、ファントムとの共存のことを思い出す。

 

「分からないけど……俺は……」

「まあ、別にどうでもいいけどね」

 

 さやかは立ち上がる。

 

「魔法使いさんがあたしを倒そうとしてもしなくても。さっき言った通り、あたしの意識は、美樹さやかのまま。現に、あの時ファントムになってなかったら、あたし多分死んでたし。助けられそうにもなかったでしょ?」

「……」

 

 ハルトは口を閉じた。

 病院でさやかを救えず、恭介のアマゾン化を食い止められなかった。

 さやかの顔を見ることもできず、ハルトはラビットハウスの床に目線を落とした。

 

「あ、さやかちゃん! 久しぶり!」

 

 その声は、可奈美のものだった。

 二皿のケーキを持って、ハルトとさやかに渡す。

 

「私のこと、覚えてる?」

「おお、あの時の刀使さんじゃん! ここにいたんだ! あの時はどうもどうも!」

 

 さやかはケーキを受け取り、お辞儀をする。

 

「うん。でも、そのあと色々大変だったって、この前まどかちゃんから聞いたんだけど」

「……!」

 

 可奈美とさやかが顔見知りだったとは知らなかった。必然的に、さやかがファントムになったことも可奈美には伝えていない。

 だが、さやかは笑顔の仮面で答えた。

 

「大丈夫大丈夫! まあ、アマゾンに襲われて本当に死にかけたけどね」

「ごめんね。駆けつけられなくて」

「気にしないでよ。あ、このケーキ美味しい!」

 

 さやかがフォークで生クリームケーキを切り取り、口に運ぶ。

 

「これいいね! あたし結構気に入ったかも」

「ココアちゃんが気合入れて作ったからね。ほら、ハルトさんも!」

「あ、ああ。頂くよ」

 

 ハルトは可奈美に急かされながら、フォークでケーキを切る。

 

「……うん、美味しいね」

「でしょでしょ!」

「可奈美ちゃん、意外と料理とかできるんだよね」

「意外とって何!?」

 

 可奈美が憤慨した。

 ハルトはほほ笑みながら。

 

「だって、君のあの部屋の散らかり具合からして、家事能力あるとは思えないし」

「ひどっ!」

「え? 刀使さん、片付け苦手なの?」

 

 さやかが驚いた声を上げた。

 すると可奈美は、顔を真っ赤にして首をふる。

 

「ち、違うよ! ただ、片付けている最中に、ちょっと剣術の型とかを見たくなって、練習とかしたくなるんだよ!」

「え? よく片付けに集中できない話はよく聞くけど、それが剣のためってのは初めて聞いたかも」

 

 さやかが唖然としている。可奈美は「一通りの家事はできるって……」と弱気に抗議の声を上げていた。

 

「あの……」

 

 弱々しい声が聞こえてきた。

 振り向けば、まどかが紙袋を抱えてきていた。

 

「まどかちゃん、どうしたの?」

「ココアちゃんがケーキを切る切らないで言い合ってて。みんなでわちゃわちゃしちゃってるから、先に真司さんが持ってきてくれた差し入れ頂いちゃおう? はい、プレーンシュガー」

 

 まどかが大きめの皿に人数分用意してきたのは、砂糖が散りばめられたプレーンシュガードーナツ。可奈美は嬉しそうにそれをもらった。

 

「ありがとう! あ、真司さんもありがとう! ……って聞こえてないか」

 

 ココアを食い止めるのに必死の真司へ、可奈美は頭を下げる。

 ハルトもさやかとともに、プレーンシュガーを受け取る。指に付着する砂糖の量に驚きながら、ハルトはプレーンシュガーを口にする。

 

「甘~い!」

 

 隣のさやかが、いい笑顔で声を上げた。

 ハルトは目を大きく見開きながらさやかを凝視する。

 

「ハルトさん? どうしたの?」

「え? ああ、ごめん。何でもない」

 

 可奈美の言葉にはっとしたハルトは咳払いして。

 

「うん。美味しいね。やっぱり」

「? うん。あ、それで、向こうはまだ終わらないのかな」

 

 ハルトはケーキに注目する。断片的に聞こえる声によれば、「お姉ちゃんに任せなさい!」「ココアちゃん、マメちゃんたちにも多めに振り分けようとしているわね」「やめろ! 私たちの分が!」「リゼしぇんぱい、落ち着いてください!」「皆まで言うな、オレに任せろ!」「うわ~! ナイフの取り合いに!」とのことらしい。

 

「……気負いすぎかな……」

 

 ハルトはため息をつき、外の雪景色を見やる。

 静かな雪景色は、見滝原が平和だと言いたいかのように、静かで、穏やかだった。

 ハルトは、もう一度プレーンシュガーを噛む。

 砂糖の味はしなかった。

 




ハルト「あれいつまでやってるつもりかな?」
まどか「あはは……多分、しばらく終わらないかも」
ココア「お姉ちゃんに任せなさい!」
真司コウスケ「任せられるか!」

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