この素晴らしい世界に魔獣使いを!   作:黒チョコボ

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Mission11

Mission11

 

廊下を駆ける。ただひたすらに駆ける。後ろから迫りくる轟音がその行為を妥当とする何よりの証拠だ。

 

角を数え切れないほど曲がった所で、後ろから響く音が鳴りを潜めた。

 

幸運にもその追跡者は一応にも植物の分類であったため、長距離の移動は出来ず、ある一定距離になると渋々といった様子で去っていった。

 

「はぁっ……はぁっ! ひとまずは…撒けた…!」

 

息を切らしながらもその様子を見て、一時的にだが安堵する。そして、四つん這いになっているエリスのもとに一つの手が差し出される。

 

 

 

「大丈夫かい?」

 

 

 

顔を上げたエリスの前に居たのは、前にアクアに恐ろしい量の仕事を振り分けたあの上司だった。

 

「何でここに?」

 

「ここら辺もそろそろヤバくなる。だから詳しい話は歩きながらにしよう」

 

迷わず手を取り立ち上がる。そして、言われた通りに少し早足気味にここから離れるように歩き始めた。

 

 

 

 

 

「さて…と、多分聞きたいことは山ほどあるんだろうけど、まずはあの気色悪い植物からいこうか」

 

「クリフォト…ですよね? 知ってるのは名前と見た目だけですけど」

 

「ご名答。アレは確実にクリフォトだ」

 

普段と同じようにふざけた口調で答える。しかし、そこにはいつもの様な余裕さは無く、むしろ焦りさえ感じさせる物であった。

 

「でも、アレは魔界にしか生えていないはず!」

 

「その通り。そして、そこが今回私達がやらかしたポイントの一つにもなっている」

 

たまたまあった窓から外を軽く見る上司。その顔が少ししかめた物になる。そんな様子が気にかかり、自分も同じように窓から視線だけを外に向ける。

 

そこには天界の下の方から今にも枯れそうなほどに細々とした魔界の樹木が生えてきている光景が良く見えた。

 

「前に言ったかな? レッドグレイブ市で悪魔が出たってさ。ただ、その悪魔の力が強すぎたが故に近づけなかった。さらに、そのせいでクリフォトの存在に気づけなかった。そして、手をこまねいてる内にこのザマさ」

 

「気付けなかった?」

 

「そう、クリフォトの気配を覆い尽くすぐらいにその悪魔はヤバかったそうだ。まあ、クリフォト自体も純粋な悪魔って訳じゃないから気配とかで判別しづらいんだけどね」

 

振動が二人を襲う。先ほどまで見ていた細々とした魔界の植物は、どこか太くなってきている様に感じ、思わず冷や汗が落ちる。

 

「おっと、これ以上もたもたしてるとヤバそうだね」

 

窓から目を離し、早足でここから離れる。しかし、危機感からか早足というよりも走るに近かった。

 

「……でも、クリフォトどうしてここまで生えてきたんですか? ここは地上とは繋がっていないはず……」

 

「そうだね、そもそもクリフォト自体が魔界から出る事が無いはずなんだ。まあ、誰かが手引きしたんだろうね。ただ……あの大きさになると……」

 

流れ出ていた言葉が止まる。苦笑と冷や汗が場を包む。

 

「もうあの大きさになると世界の壁を乗り越える事は難しい事じゃないのかもしれない…多分。実際、魔界の門を無理矢理自分に見合うサイズにこじ開けてたっぽいし」

 

「世界の壁を乗り越える……!?」

 

「多分、ね。恐らく何処でもいいって訳じゃ無くて、綻びがあったり、単純に弱っている部分に限るかもしれないけど」

 

「でも先ほど見た細々としたものにそんな力があるんですか?」

 

「……君は現地で見てないからね、そう思っても仕方がない。まあ……一つ言える事としては、もう二度と見るのはごめんだ」

 

脳裏に大きく肥えたクリフォトの姿が鮮明に映る。どれ程の養分(血液)を吸えばああなるのか、想像するだけでも悍ましい。

 

「今あのクリフォトは養分を探してここまで来てるんだろう。ここには女神や天使だけじゃ無く、他にもたくさんの人がいる。奴にとってはバイキングさ」

 

「他にもたくさんの人? それは、どういう?」

 

「ここには別の世界への扉がある。それをもしアレが通ってしまえば……行き着く先は地獄さ。それだけは何とかして防がなきゃいけない! そのためにここまで来たのさ」

 

二人の足が止まる。目の前の扉はエリスの良く知る場所、アクセルの街への転送場所、その入り口だった。

 

「一体……どうするつもりなんですか?」

 

「キミをココから向こうに送る。そしたら……転送門を壊す……! そうすれば奴らは簡単には向こうには行けない」

 

「そんな!? じょ、上司はどうするんですか!」

 

「どうするって言ってもねえ……まあその時になったら考えるよ。実は、もう他の子達は全員同じようにして送っちゃったからさ、後はココだけ! ほら! 行った行った!」

 

エリスを魔法陣へと入れようとするが、彼女は全く動かない。逆に、両手を固く握りしめ魔法陣から離れようとしている。

 

「……私も! 私も残ります! 何か解決法があるはずです!」

 

「そうきたか……だったらこうしよう、これは上司からの命令だ。大人しく従いな。生き残ったら、後でパワハラでも何でも上に報告するがいいさ!」

 

エリスの背中を少々乱暴に押す。案の定、エリスはバランスを崩し、魔法陣の中で転倒する。

 

この上司がそんな隙を逃すはずもなく、起動した魔法陣の光に飲み込まれ、その姿を消したのだった。

 

そして、すぐさま魔法陣の模様に持っていたナイフで傷をつける。その光は失われ、チカチカと不安定な照明だけが残った。

 

「……ああ言ったは良いけど、肝心の相手がいないんじゃ意味無いじゃん……ははっ……」

 

激しく叩かれる。いや、正しくは殴り付けられガンガンと音を鳴らしている扉を見て、小さく、そして悲しく呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最近、晴れが続いている。照る日差しの中、白い肌を見せ、暑そうに歩く一人の男。

 

「ナァ、今どこに向かってんだ? 街があんなに遠くなっちまってるぜ」

 

「……こいつを返しに行く。嫌だったか?」

 

そう言いつつ懐から取り出したのは、アクアの敗戦記録を生み出すきっかけとなったトランプだった。

 

「ア〜! あの商人の姉ちゃんか! スッカリ忘れてたぜ」

 

「……勝手に貰ってきておいて良いご身分だな」

 

どうやら、以前グリフォンがギルドにて喋っている時に会った女性が置いていった物らしい。ご丁寧にも中に入っている紙に忠告のようなものと、住所らしきものが書かれていた。

 

再度場所を確認し直した後、例のトランプと共に懐へと仕舞い込もうとする。が……

 

「……何がしたい?」

 

その様子を何か訴えかけるような瞳で見つめるシャドウに思わず疑問の声が漏れた。

 

「ン? ネコチャンはアンタの手伝いがしたいみたいだぜ? ナンダァ? もしかして最近役に立ってネェからってアピールしてんのか? ハッハー! 子猫みたいじゃねぇか! 猫じゃらしでも……って痛ってぇ!」

 

ガトリングトークが終わらないのがわかっていたのか、はたまた単にムカついただけなのかわからないが、細く変形させた尻尾でムチのようにグリフォンの頬を引っ叩いた。当然、体勢を崩し真っ逆さまに地面へと落ちる。

 

「イテテ、クチバシが刺さらなくて良かったぜ……」

 

地面に這いつくばり安堵している様子を見て、相変わらずだと一人鼻で笑っていたVであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、長く歩くこともなく目的地へと辿り着く。着いた先は“ウィズ魔法具店”と書かれた少し古ぼけた店。ドアの前に掛けられた板によると、ちゃんと営業しているようだ。

 

「……ここか」

 

少し嫌な音を立てる扉をゆっくりと開ける。チリンチリンと呼び鈴の音が室内に響くが、誰も来る気配が無い。

 

しびれを切らしたのか、グリフォンが奥へと大声で呼びかける。しかし、帰ってきたのは静寂だった。

 

「……仕方が無い、待つとするか」

 

恐らく来客用だと思われる椅子に勝手に座り、愛用の詩を取り出す。表紙の手触りがかつての物と違うことに軽いため息をはいていると、彼の従者が声を上げた。

 

「オイ……Vチャン。このお星様にスゲェ見覚えネェ?」

 

彼が足で指し示した先は陳列棚ではなく、その横の床に置かれた木箱の中だった。その中には緑色の何かがある事だけは立ち上がらずとも確認できた。

 

「コイツにはあんまし良い思い出が無ぇな……使われるとウザってえ」

 

「……そうか」

 

「エッ!? 反応うっす! アッチの世界のブツがあるんだぜ? もう少し驚くとかナントカするモンじゃねぇーの?」

 

「……そいつは錬金術で人工的に作られる物だ。こちらの世界でも作る事は可能だろう。器具さえあればな」

 

再び椅子に座り、詩を開こうとするが、それを遮るかのように一つの声がVへと掛けられた。

 

「あ…! もしかしてお客さんですか!? ごめんなさい! 気付きませんでした!」

 

店の奥から出てきたのは少し顔色の悪そうな若い女性。慌てた様子で挨拶をするが、Vの姿を見た途端、意識しなければ気付かないようなほどに僅かではあるが、その表情が変化する。出てきた表情を言い表すとするなら、それは“困惑”であった。

 

「ヨォ! 久しぶりじゃねえかネエチャン! 忘れモン返しに来たぜ!」

 

「うひゃあ! 鳥が喋った!?」

 

しかし、その表情は横から入った驚きによって上書きされ、表に出る事は無くなった。

 

「オイオイ! 以前ギルドで会ったじゃねえか! 何で忘れてるワケ!? もしかして認知症ってヤツ?」

 

「え? ええ!? 何でそうなるんですか! まだそんな歳じゃ無いです!」

 

グリフォンの絡みが店主へと襲いかかる。そのせいか、完全にVとシャドウの存在は忘れ去られているようだ。

 

向こうに気が付かれるまで売り物でも物色しようと椅子から立ち上がる。しかし、そんな間も無く、パキパキといった何かが凍りついたかのような音の後に店主がこちらへと話しかけてきた事で彼の行動は中断された。

 

「お待たせしました。この店の店主のウィズです。今日はどんなご用ですか?」

 

「……忘れ物を返しに来た。それだけだ」

 

杖で足元にいるシャドウを指す。ウィズはそっと咥えられていたトランプを受け取ると、すぐさまその顔を青く染めた。

 

「あれ? どうしてコレがここに……?」

 

「……ギルドに置いてあったそうだ」

 

「あ、ありがとうございます……あの〜誰かこれに触って倒れたとかは……?」

 

「……安心しろ。何も無かった」

 

「なら良いんですが……」

 

トランプを店の奥に持っていきホッと一息つく。その間、Vはこの空間がやけに静かである事に気が付く。

 

先ほどまで、お喋りなアイツがいる方向を見ると、そこには見事な鳥の氷像が佇んでいた。生きた鳥が瞬間冷凍されたかのような精巧さと美しさに、Vも感嘆の声が漏らす。

 

「冷やかしはあまり良くないか……そうだな、この氷像でも買っておこうか。コイツならどこに持っていっても静かだろうからな」

 

氷像の目がグルンと動く。そして、一瞬にしてヒビが表面を覆い尽くす。

 

氷の白さを打ち消すかのように、ヒビを広げて出てきたのは漆黒の翼であった。

 

「ダアアアァァァ!! オレは冷凍食品じゃネェっての!!」

 

「……解凍が早いな」

 

「Vチャン? もしかしてふざけてる?」

 

未だに霜が張り付いている脚や首を動かす。しかし、かなり上手く冷凍されていたせいか、取るのに難儀しているようであった。

 

“チクショウ…”と小さくボヤくグリフォンに対し、Vは“日光で解凍してこい”と返すと、シャドウにグリフォンを外へと運び出させた。

 

扉が閉まる音と共に店内に静けさが戻る。大声を出さずともしっかりと相手の耳に言葉が伝わるこの状況下で、ウィズに対して小さく話しかける。

 

「……さっきからジロジロと見ているな。顔に面白い物でも付いていたか?」

 

「……!? いえ、そんなことは……」

 

明らかに動揺した表情を浮かべるウィズ。顔というのはこんなにも心を映し出すのかと感心すると共に、ここまでの動揺を見せる要因が何なのかと興味と恐怖が入り混じったものを感じていた。

 

他に何も語らないVに睨み付けられるように見つめられる。しかし、固く閉ざされた口からは何も出ず、沈黙を含んだ空気が二人を包んだだけだった。

 

「……邪魔したな」

 

これ以上は時間の無駄だと判断したのか、あっさりと踵を返す。

 

「ま、待って下さい!」

 

扉に手をかける寸前。ウィズからかけられた静止の声にその手を止めた。

 

「さっき、冷やかしがどうこうって言ってましたよね…? だったらコレでも買って行きませんか?」

 

卓上に出されたのは一つのポーション。輝きの混じった緑色から回復関係の物だと判断する。

 

「……効果は?」

 

しかし、ここはVの常識が通用しない世界。故に先入観を捨て、大人しく効能を聞く。

 

「ただの回復ポーションです……ちょっと濃いですが……」

 

「そうか……だが、こういった手の物は高価だと聞くが?」

 

「落とし物を拾ってもらったお礼もあるので半額でいいです」

 

置かれたフラスコを掴み、クルクルと中身を回す。さながら科学者のような仕草だが、Vにそこまで専門的な知識は無い。

 

「……そうか、なら買うとしよう」

 

出された価格通りに金貨を一枚をカウンターの上に放る。金貨は勢い余ってカウンターの上から飛び出すが、店側に置かれた小銭入れの中へ綺麗に収まった。

 

ウィズがそれに驚いている最中、一言別れの言葉を告げ、音も無く店内から去っていくV。

 

静かになった室内にため息が一つこだまする。誰もいないこの空間でウィズはやっと心に溜め込んでいた物を吐き出したのだった。

 

 

 

「……どうして、どうしてあんな身体で…半分死んでいると言っても過言ではないはずなのに、平気でいられるんですか……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあVチャン、あのウィズとか言うネエチャンはトランプのこと心配してたけどよ、あん中になんか入ってたのか?」

 

「いや、ただ注意書きが入っていただけだ」

 

「注意書き?」

 

「……ああ、イカサマをすると何らかの形で不幸が訪れるそうだ。恐ろしい物だな」

 

「ハァ!? マジかよ!? 知ってたんだったら先に言ってくれても良いじゃねえか! まさか…初めから知ってたカンジ?」

 

「……かもな。もしそうだとしても、やる方が悪い」

 

その言葉に対し、従者は少しタメを置き“まあな”とだけ呟いた。その後に吐かれたため息が、イカサマをしなかった事に対しての安堵か、Vの悪戯心に向けられたのかは誰にも分からない。

 

同時刻、一人の女盗賊が珍しく大きなくしゃみをぶちまけた事をこの二名は知る由もない。

 




いつも感想、評価ありがとうございます。
最近は誤字が多く、報告して下さる方に感謝してます。
今回も感想、評価、誤字報告よろしくお願いします。
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