この素晴らしい世界に魔獣使いを!   作:黒チョコボ

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Mission12

Mission12

 

静けさが辺りを包み始める夕の刻。カズマとアクアはVから渡された紙を頼りに街中を歩いていた。

 

元々クエスト後にのんびり行こうと考えていたのだが、オークやらゴブリンやらに出くわしたせいで、本来もう少し早く行くはずがほとんど日が沈みかけている時間に行く羽目になっていた。

 

軽く人混みに揉まれながらも人通りの少ない道へと出る。数秒遅れでアクアも同じく弾かれるように道へと出る。アクアはどこかぐったりした様子であったが、遅くなるのを嫌ったカズマはその手を取り、半ば無理矢理引っ張っていった。

 

だんだんと人の流れが少なくなっていき、気が付いた頃には道を歩いているのはカズマとアクアだけだった。傾いていた日は既に落ち、小さな街灯だけが道を示す唯一の物だった。

 

「本当に合ってんのか? この道……」

 

「その紙切れが正しければ合ってるはずよ」

 

小声ですらかき消されずに辺りに響く。それほどまでに人気の無いこの道を歩いていくにつれ、心の中の懐疑がだんだんと大きくなっていく。

 

「お前に言われるとなんか信憑性が薄くなるんだよなあ〜」

 

小声で呟くカズマ。しかし、その頭からはこの路地が恐ろしいほどに静まり返っている事は抜け落ちていたようだ。

 

「聞こえてるわよ! そもそも、私がいつそんな疑われるような事したって言うのよ!」

 

「……この前の悪魔だなんだって言ってたやつ、嘘だったじゃねえか」

 

「ゔっ……!」

 

あのミステリアスな雰囲気を漂わせた男。Vが悪魔を操っている的な事を言っていたアクアだったが、先日実際にVと会った感想は、“食べ物が美味かった”というのと”次はあのクソ鳥を負かす“の二つだけであった。

 

流石のカズマも呆れを通り越した。

 

その後、なんとかしてアクアに本来の目的を思い出させ、あの鳥達は悪魔だったのか聞き出した。

 

結果から言うならば、アクアの言っていたアレらは悪魔である可能性は低いらしい。どうやら、悪魔特有の気配的な何かがかなり希薄だからだそうだ。

 

しかし、そんな気配など分かるはずもないカズマにとって、アクアのその言い草は推理が外れた事を誤魔化す言い訳にしか過ぎなかった。

 

今の会話でその時の出来事を突っつかれたアクアは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、ただただ道端の小石を蹴飛ばしていた。

 

「さっきから嘘だ嘘だって言ってるけど、可能性はまだゼロって訳じゃ無いんだからね! まだアイツらが容疑者である事に変わりないわよ!」

 

面倒そうに”あーはいはい“と軽く聞き流す。そんな態度にムカッとしたアクアがうるさく騒ぎ立てるが、聴覚を意識的に蚊帳の外に追いやりそれをブロック。今のカズマにとってアクアの声はチューニングの失敗したラジオの様にくぐもっていた。

 

少しして、騒ぎ疲れて静かになったソレにため息をついていると、すぐ前の街灯下の黒い影が蠢いた。

 

「うおっ!? って、何だよ……あの猫か」

 

この暗く静まり返った通りに少しばかりの恐怖を感じていたからか、その影の案内人の登場に声を出して驚いた。

 

「出たわね、この悪魔……もどき!」

 

「……なあ、今悪魔って断言しようとして途中で止めただろ?」

 

「い、いや別にそんな事は……」

 

両手の人差し指をツンツンと合わせ、額には冷や汗を浮かべ、おまけに視線は明後日の方向。

 

「自信無くなってるじゃねーか!」

 

「ち、ち、ち、違うわよ! まだ、悪魔って決めつけるのは早いと思ってあえて言ったのよ! もし断言して違かったら名誉毀損ってやつになるでしょ!」

 

早口で並べられた言葉に苦笑いを浮かべる。“絶対にコイツはそんな事考えてない”と思いつつ、影の国の住人の動きを目で追っていく。

 

導かれた先には大通りの安宿よりもボロボロでみすぼらしさが前面に押し出された宿がひっそりと建っていた。猫はその入り口を開け、中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中に入った二人を迎えたのは、ボロボロの外見とは似ても似つかない整った内装と、それでいて表通りの宿よりも安い価格の書かれた板。そして、二階の一つの扉の前で座っている黒い猫、シャドウの姿だった。

 

カウンターに置かれた椅子で店主と思われる老人がうなだれている。寝ているのだろうか?店主を起こさないように、足音を殺しつつシャドウの元まで軋む階段を上がって行った。

 

扉の前まで辿り着くと、目の前に居たはずのシャドウの姿はいつの間にか消えており、それに驚くカズマに追い打ちを掛けるかのようにドアがひとりでに開く。

 

心臓が爆発しそうなほどに驚いたカズマと全く動じずにケロっとしているアクアの二人が開いた部屋へ入る。案の定、奥には二人をここへ呼び寄せた張本人が、ベッドに座っていた。

 

「やっと来やがったか。コッチから出向くか迷っちまったゼ」

 

「悪い悪い。えーと……なんか顔色悪そうだけど……大丈夫か?」

 

「……気にするな」

 

普段の白い肌が、光の当たり方のせいかさらに白く見える。さながら亡霊の様である。しかし、そんな見た目と裏腹に帰ってきた返事はいつも通りのトーンであった。

 

「こんなじめじめした場所で寝泊りしてるから体調崩すのよ!」

 

「ご指摘はごもっともってトコロだが、少なくとも馬小屋よりはマシな所だぜ? ナァ? アクアちゃんヨォ?」

 

「なんで知ってるのよ!?」

 

恥ずかしさのせいか赤面したアクアとグリフォンが騒ぎ出さんとしたその時、杖が二人の目の前を遮った。

 

「……本題に入るとしよう」

 

彼の瞳がカズマを見据える。

 

「確か……カズマと言ったな? 俺の予想が正しければ、お前らはここの住人では無い。合っているか?」

 

核心を突く一手に、カズマは助言を仰ぐべくアクアへアイコンタクトを試みる。

 

(おい! これってどうすれば良い? マジなこと言っちゃって良いのか?)

 

数瞬の沈黙の果てに帰ってきたのは、”多分良いんじゃない?“という適当さが滲み出ている返答だった。

 

責任は全部アクアになすりつける決心を固め、カズマは首をゆっくりと縦に振った。

 

「……そうか、だとしたら一つだけ聞きたい。お前がここに来る前……レッドグレイブという都市で事件が起こっていた筈だ。知っているか?」

 

「レッドグレイブ?」

 

カズマにとって馴染みのない海外の都市の名前。しかし、聞き覚えが無いわけではなかった。この世界に転生する直前、確かにテレビやネットのニュースでその名を見た。内容は覚えていないに等しいが。

 

「……その事件の結末を知りたい。断片的でも構わない。知っているか?」

 

カズマは黙って首を振った。Vは残念そうに“そうか”とだけ呟いていた。

 

「ちょっと待って……少しだけなら知ってるわ! 事件ってのは悪魔騒動の事よね?」

 

「……ああ」

 

「確か……あのでっかい木、何だったっけ? そう! クリフォトが完全に枯れて、なし崩し的に終わったって聞いたわ」

 

「クリフォトが枯れた……か」

 

「オイオイオイオイ! 訳わかんないワードが出てきて完全に置いてかれてるんだが! というか、何でアクアは分かるんだ?」

 

何故かカズマが全然理解できないこの話に難なくついていくアクアを見て、思わず素朴な疑問をぶちまけた。しかし、この質問はアクアにとって良い物ではなかったようだ。

 

「……私が担当させられてたからよ!! 上から無理矢理押し付けられたのよ! おかげでその日は転生とかの手続きで1日が終わったわよ! 完全にこれはパワハラよ! パ ワ ハ ラ!」

 

「お、おう」

 

「くぅ〜! 思い出したら腹が立ってきたわ! あの上司め! バチでも当たっちゃえばいいのよ!」

 

徐々にヒートアップする言葉。カズマの後悔も時遅し。怒りのお陰でアクアのテンションはMAXである。

 

「ハッハァー、面白えなぁ! 聞いたか? 転生だってよ! まるで自分が神様で、上下関係に悩まされてますって言ってるようなもんじゃねーか! もうちっとマシな嘘ってモンがあるダロ! アー……もしかして変な妄想癖持ちだったりする?」

 

「妄想癖なんて持ってないわよ! アクアって名を聞いた事ないの? あの有名な水の女神じゃない!」

 

「なんていうか……だな、見てるだけで痛々しいぜ……意外とオマエさんも苦労してるんだな」

 

まるで友人かのようにカズマの肩へ翼を回し同情するそぶりを見せるグリフォン。初めてこの問題児に対しての理解を共有できた事にカズマはひしひしと喜びを感じていた。なお、グリフォンのこの行為が本心からかどうかは定かではない。

 

「何どさくさに紛れて慰め合ってるのよ! さっさとそこのクソ鳥は離れなさい!」

 

カズマの肩に留まっている彼に向かって拳を弓のように引き絞る。グリフォンはその様子を見たからか、すぐさま肩から飛び退いた。

 

「まあまあ、落ち着けって。暴力はよくないんじゃねーの? それともアレか? 嫉妬してんのか?」

 

「はあーーー!? 誰がこんなヒキニートに嫉妬するのよ! 要素がゼロどころかマイナスなのよ!」

 

「なあ? 殴っていいか?」

 

「流石に言い過ぎなんじゃネェの? せめて良いとこ一つくらいはくれてやろうぜ? えーっと…………アレだアレ……そうアレだよ

……」

 

「擁護に見せかけてジャブ打つのやめない?」

 

二人にラリアットでもかまそうかと半ば本気で考え始めていたところ、Vがため息混じりに行動を起こす。

 

Vの華奢な腕がゆっくりと前へと突き出される。開かれた手のひらは上を向き、そして緩やかな動作で閉じられていく。

 

手が閉じきった瞬間、カズマの目の前にいたグリフォンは何かに気付いたかの様に声を上げるが、それが部屋に響くよりも先に彼の姿は魔法の様にポンと消えた。途切れた声の続きがその行き先を示していた。

 

「……少しは静かにしていると良い」

 

再び開かれたVの手の上に彼はいた。普段と変わらず何か喋っている。しかし、その声が響くことはない。手のひらサイズの身体では大きな声は出せるはずがないからだ。

 

「……話の続きをしよう。クリフォトが枯れた後、どうなった?」

 

「枯れた後? そこからは知らないわよ。う〜ん……残党狩りして終わりってところじゃない? というか何でそんな事聞くのよ? 何か怪しいわよ!」

 

アクアにしては珍しい指摘がVへと向けられる。確かに、この一連の会話がスムーズに進む事自体おかしいのである。本来ならカズマの様に意味不明の単語に惑わされるはずなのだ。

 

カズマには、まるでVが本来知る由もないはずの悪魔に精通しているように感じた。

 

「……関係者とだけ言っておこう」

 

「関係者……? まさか、Vがこっちの世界に来たきっかけって……!」

 

カズマの脳裏に良くない光景が浮かび上がる。Vの細々とした身体の悪魔がフォークのような物で串刺しにする。そんな想像。

 

僅かに顔をしかめるカズマを横目に、アクアは当たり前の疑問をぶつける。

 

「関係者ってどういう事よ! 誤魔化さないでちゃんと教えなさいよ!」

 

「……詳しく話すと長くなる。簡潔に言えば、この事件を引き起こした悪魔を知っていた。そしてソイツを倒すため行動していた……それだけだ」

 

「それ、本当? 本当ならその悪魔の名前ぐらいなら言えるわよね?」

 

「ああ……」

 

アクアの質問にVの動きが止まる。彼の顔は下を向いているが、何かを葛藤しているかのような険しい表情をしている事だけはなんとなくわかった。そして数十秒の沈黙の後に彼は再び顔を上げた。

 

「ヤツの名は……ユリゼン」

 

「ユリゼン……?」

 

Vはその言葉だけ言い終えると立ち上がり、部屋の外へと歩き出す。もちろん、アクアは引き止めようとするが

 

「この話は終わりだ。お前は俺の質問に答え、俺はお前の質問に答えた。もう十分だ」

 

その言葉だけ言い放ち、彼は部屋から出て行った。突然の気の変わりように不気味さすら覚える。

 

部屋は明日の朝までは使えると、いつの前にか置かれたメモ書きにあったが、気分的にもここで泊まる気にはなれず、いつもの小屋へ戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあアクア。何であんなに疑ってかかってたんだ? 俺にはVが変なこと言ったようには聞こえなかったんだが?」

 

「いや、おかしいわよ。悪魔関係の情報だったら、うちの悪魔撲滅派のお陰でほぼ秒で天界まで届くのよ?」

 

「そんな派閥あんのかよ……」

 

「今回の事件はそのヤバイ派閥がいくら頑張ってもほとんど情報が集められなかったのよ! なのに、その情報を何であんなモヤシが持ってるのよ!? 不可解だわ!」

 

「でも、主犯の名前は教えて貰ったろ? えっと、確かユリゼンだっけか?」

 

「それもおかしいのよ!」

 

「これもかよ!?」

 

「カズマは分からないかも知れないけど……ユリゼンとか言う悪魔は聞いた事ないのよ!」

 

「お前がそもそも覚えてないだけじゃねえの?」

 

「そんなはず無いわよ……無いわよね?」

 

「あ、これダメなヤツだ」

 

暗い路地で行われた一連の会話は誰にも聞かれる事なく消えていったのだった。

 

 

 

 




誤字報告ありがとうございます。
ちゃんと確認してから投稿しているはずなのですが、どうやら目玉の代わりにビー玉が詰まっているようです。

感想、評価の方もよろしくお願いします。
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