この素晴らしい世界に魔獣使いを!   作:黒チョコボ

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Mission14

Mission14

 

Vは適当な棒切れを拾い上げる。朽ちてか細くなったそれを杖の代わりとして握る。ミシミシと音を立てるが、折れはしない。

 

そのあまりに頼りない杖を振るい、口笛と共に号令をかけた。

 

「ヘッヘッヘ、随分とヤル気満々じゃねぇか?」

 

その号令に応じる様に、一つの唸り声が響く。戻ってきたシャドウが杖と地面の間から滲み出すように現れる。

 

「ネコチャンもヤル気満々か……? いや、ヤル気じゃなくて殺る気の方だな」

 

「……殺すな。それ以外は好きにしろ」

 

「だってよネコチャン! 残念だったナ!」

 

からかうグリフォンに対して、不満げに吠えるシャドウ。何を言っているかは分からないが、いつものVと似た様なことでも言っているのだろう。

 

「確か……カズマとか言ったな?」

 

Vの冷たい目線がカズマを射抜く。今までそんなものを向けられた事もないカズマにとって、それは恐怖以外の何物でもなかった。

 

「……そいつを奪った褒美に、良いことを教えてやる。それはただの杖だ」

 

「え? マジで?」

 

「嘘に決まってるわよ! そう言って返してもらいたいだけよ!」

 

「……あながち間違いでは無いな」

 

「そうだよなぁV。あんなカッコ良さ全振りの杖なんてなかなかお目に掛かれねえ! おまけに頑丈だしナ! 要らネェって言う方が珍しいってもんだぜ!」

 

カズマは右手に握った杖を見る。見たことのない彫刻が高級感と共になんとも言えない不気味さを感じさせる。

 

なんだか持っているのが怖くなってきたカズマは後衛の誰かにコレを押し付けようと決める。

 

「めぐみん! パス!」

 

「わ、私ですか!?」

 

「杖の扱いならお前の方が上手いだろ? そんじゃ頼んだ!」

 

半ば強制的にめぐみんへと杖が手渡される。彼女は邪魔になるだけだと感じていたが、杖の二刀流という夢のある構図を思いつき、意外にも満更でもない様子であった。

 

「遊んでやれ、シャドウ」

 

Vが棒を向けた先には、現在の杖の持ち主が。シャドウは溶ける様に地面に沈み込み、地を這う影となってめぐみんの真後ろへ。

 

音も無くその姿を現すと、めぐみんの足を硬化させた尻尾で回転する様にして払う。

 

「なっ!?」

 

両手に杖を持っていたせいか、受け身を取れずに地面に転がるめぐみん。すぐさま立ち上がろうとするが、背中に乗っかる獣の足の感覚にその動きを止める。

 

「させるか!」

 

めぐみんにマウントを取っている存在に対し、横薙ぎに剣を振るうダクネス。声を聞いた時点で回避行動に移ったシャドウは剣が振られる前にめぐみんから少し距離を取る。

 

だが、振られた剣は元々シャドウがいた空間にかすりもせず、倒れためぐみんのすぐ横の地面に突き刺さった。

 

「ダクネス!? 私を殺す気ですか!?」

 

「ち、違うんだ! ちょっとだけ……手が滑っただけだ!」

 

「……ダクネスは前出て下さい」

 

めぐみんに催促され、苦笑いを浮かべつつ前衛となるため前へ出るダクネス。

 

体勢を整えた矢先、シャドウが音もなくダクネスの目の前に姿を現す。

 

「何やってるんですかダクネス。さっさとそのチンチクリンをぶった斬って下さいよ」

 

「あ、ああ。ま、まかせろ」

 

再び剣が振るわれる。姿勢を低くし迎撃態勢を取るシャドウ。しかし、またもやその剣は掠ることなく空を切る。

 

刃を返し振るうも当たらない。十回ほど繰り返し、ダクネスはやっと剣を振るのを止める。

 

「あの、ダクネス? 何というか……ごめんなさい」

 

「頼む、頼むからそんな目で見ないでくれ……」

 

ダクネスへと周囲から哀れみの視線が飛ぶ。彼女の気迫がだんだんと縮こまっていく。そんな様子を好機と見たのか、シャドウは手を巨大な爪に変えて襲い掛かった。

 

しかし、直撃したにも関わらず、彼女には傷一つ付いていなかった。

 

「ハァ!? マジかよ! ネコチャンの攻撃が効かねえ!?」

 

先程の返しと言わんばかりに、何度も爪での攻撃を繰り返すが、結果は変わらない。

 

それどころか、攻撃を受ける毎に元気になっている。あまりの攻撃の効かなさに、そんな錯覚を感じさせる。

 

「ん……! 中々……効く攻撃だな。 だが、もっと強いものでなければまんぞ……倒す事は出来ないぞ!」

 

何故かシャドウの本能が警鐘を鳴らす。攻撃を止め、後ずさる。しかし、まるで子猫を追い詰めるが如く、口角を上げて前進する。

 

「Vチャン、ありゃマズいぜ。完全に押され始めてる」

 

「……心配する暇があるなら前を向け。さっさと終わらせた方がアイツにとっても良いだろう」

 

「なるほどな! そんじゃ、どっちから潰すよ?」

 

「あの女をシャドウとやれ」

 

「エッ!? 俺は構わネェけどよお……お前は大丈夫なのか?」

 

「ああ……あの程度なら何とかなるだろう」

 

「何考えてっかは知らネェが、しくじって死ぬんじゃねーぞ!」

 

Vの確信を持てない返事にグリフォンは一縷の不安を抱きながら、アクアを潰しに向かう。

 

「ヨォ! アクアちゃん! オレらはこっちで楽しもうぜ?」

 

グリフォンは獲物を狩る鷹のような勢いでアクアに突っ込んでいく。そして、アクアの背中に回り込み、その強靭な脚でガシッと掴んだ。

 

「何するのよこのクソ鳥! さっさと離しなさい!」

 

「ザンネンだが途中下車は出来ねぇぜ! 安心しな、行き先はシッカリお仲間のとこだからヨ!」

 

グリフォンは低空飛行のまま戦闘中のシャドウの元へ。そして、空爆と言わんばかりにその脚で握った物をスキだらけのめぐみんへと投下した。

 

「エクスプロー……うぐっ!」

 

「イテテテ……あのクソ鳥絶対許さないわ!」

 

物理的に尻に敷いためぐみんを気に留めることなく、アクアは鳥と猫へと目を向けていた。

 

「せっかくあの真っ黒な奴を仕留めるチャンスだったのに……なんて事をしてくれるんですか」

 

「そんなこと言われたって不可抗力よコレ!」

 

そんな二人の話し声を遮るように雷鳴がバチバチと鳴り響く。

 

「ナンダァ? 色々小さいと短気になんのか? ア〜……ソッチの赤いのには禁句だったナ!」

 

わざとらしい挑発だが、それでもめぐみんの怒りを買うのには十分だった様だ。表情は変わっていないが、代わりに握り締められた木製の杖がギシギシと悲鳴を上げていた。

 

「……ありがとうございますアクア。おかげであの空飛ぶ鶏肉を焼き鳥に変えられます」

 

「め、めぐみん? 目が、目が怖いんだけど……」

 

彼女は憤りを瞳に映しながら、再び爆裂魔法の詠唱を始める。しかし、憎たらしい笑い声と共に足元へと雷が飛ぶ。

 

地面が弾け、土が飛来する。運悪く目に入ってしまい、詠唱が止まる。

 

「おっと? どうしたチビ助、詠唱が止まっちまったぜ?」

 

「何言ってんのよ、アンタこそ雷思いっきり外してるじゃないの! もしかして、当てられないとか……?」

 

「アー……ミスっちまっただけだ! 次は当てるぜ?」

 

当たらないならチャンスだとめぐみんは三度目の正直と言わんばかりに詠唱を始める。予想通り、降り注ぐ雷。当たらないと分かっている故に彼女の集中は止まらない。

 

しかし、足元の地面が少しばかり陥没し、バランスを崩す。もちろん詠唱は止まる。

 

「プププッ! あんだけ言っといて外してるじゃないの!」

 

「マジかよ! もしかしてオレ、才能ナイ感じ?」

 

そんな事を言う割には、アクアが放った水の弾はキッチリと迎撃している。

 

そして、この一連の流れをもう二回ほど繰り返した後に、めぐみんは気付く。

 

あの鳥はあえて当てていない。あえて当てずともお前を崩せると挑発しているのだ。言葉ではない、行為での挑発だ。

 

「そう言う事でしたか……!」

 

その行為に憤りを覚えようともめぐみんのやる事……いや、やれる事は一つしかなかった。

 

詠唱する事を止める。それだけだ。

 

「どうしたおチビちゃん? 詠唱が止まっちまったぜ? もしかしてガス欠か?」

 

空からグリフォンの声が響くが、気に留める事なくめぐみんはアクアへ声をかける。

 

「アクア、ダクネスと一緒にアイツらを止められませんか?」

 

「止める? なるほど、そういうことね! だったらこのアクア様に任せときなさい!」

 

そう自信満々に言い放ったアクアだったが、肝心のダクネスの姿が無かった。ため息混じりに周囲を見渡すと、何故か遠くの方で膝をついているダクネスの姿。そして、そのすぐ前にはあの猫が。

 

嫌な予感が頭をよぎる。

 

しかし、その心配は杞憂に終わる。

 

「ダクネス! 大丈夫ですか!」

 

「あ、ああ、問題ないぞ。ただ、ちょっと疲れていただけだ。この黒い奴、中々のやり手だ! 私の剣が一発も当たらなかった!」

 

どうやら、目の前の座っている黒いアイツにずっと斬りかかっていたらしい。スタミナが尽きるまで。

 

「オイオイ、ネコチャンは後半全く動いてないって言ってるぜ? 当たらないんじゃ無くて、当てて無ェんじゃねえの? ……エッ!? アイツそんな硬ェの? マジかよ……」

 

グリフォンの疑惑の目を晴らしたかったのか、シャドウが動く。不意打ちに近い形で、体を丸鋸に変えてダクネスに突っ込む。しかし、直撃はしたが、耳障りな金属音が鳴るだけで、大きな傷は一切付かなかった。

 

「ああ、今のは中々……悪くない!」

 

「ナルホドな、どうりでネコチャンが攻撃を諦めるワケだ」

 

この突破困難な肉壁を前に、グリフォンは思考を巡らせる。しかし、浮かんでくるのは力押しな方法のみ。お隣の同僚にも話を聞くが、有用な案は無し。

 

「ったくよ……予想以上に荷が重いじゃねぇか。後でイイモン食わせてくれよVチャン? そうじゃなきゃ、割りに合わネェ!」

 

同意するかの様にシャドウが吠える。そして、二匹は走り出す。最終的に決まった策は至って単純。面倒な奴はガン無視する。ただそれだけ。

 

なんとかなりますように、頭の隅っこでそんな事を願いながら、後衛の二人へと襲い掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在進行形で起こっている戦いからポツンと弾かれた二人。カズマとVは未だ硬直状態にあった。

 

だが、お互いの武装を見る限りこのような状態になる理由は無いに等しい。一方はしっかりとした剣。もう一方はただの木の棒なのだ。普通に考えれば剣を持つ方が棒を叩き折り、決着がつく。

 

しかし、そんな状況とは反対に彼の本能は警鐘を鳴らす。得体の知れない恐怖と脆弱な体躯に似つかわない威圧が彼の足を鉄の様に重くしていた。

 

(やべえ……怖えぇ! 何でこんな怖えんだ!? どう考えても俺でも勝てる見た目だろ? 肝心のお供は全員アクアの方に行ってるし、怖がる要素なんて無えじゃん!)

 

剣を持つ手が震える。弓で狙撃する戦法が頭をよぎるが、既に相手との距離は剣の間合い。そんな隙などない。

 

「な、なあ! 何でわざわざ俺と一対一になったんだ? 不利なのはわかってるんだろ?」

 

カズマの苦肉の策。一旦話し合いに持ち込もうと剣を下ろしVへと話しかける。ありがたい事にVはカズマの問いかけに応じ、足を止めた。

 

「……理由は単純だ。お前が一番厄介だからだ」

 

手に持つ棒でカズマを指すV。圧が僅かに和らいだ気がした。

 

「あの中じゃ一番弱いんだけど、俺……」

 

「弱いからこそ厄介だ。弱いからこそ強者に並び立つための術を考える。蹂躙されないための術を編み出す」

 

カズマを評価する意外な言葉に喜びたいところだったが、それが原因である意味最も警戒されている事実に複雑な感情を抱く。

 

「“狐の言葉は獅子ですら狡猾にする“ お前の言葉は遮らねばならない。奴らに知恵を与えないようにな」

 

いつの間に取り出したのだろうか、Vの手には開かれた詩集がある。もし、一度も彼に会ったことがなければあの本を魔導書とでも勘違いしていただろう。

 

そして、詩集をしまうVを見ながらカズマは気付く。Vの目論見は今自分がしている事と同じだと。そう、時間稼ぎだ。

 

「じ、時間稼ぎしてどうするんだ? あいつらはそんな簡単には倒せないぞ」

 

「……なら見てみると良い」

 

Vがカズマの視線上から外れる。彼の体で隠されていた光景がカズマの瞳に映り込む。

 

遠すぎるが故に目立つものしか見えない。しかし、紫電と黒い何かが赤、青、黄色を圧倒しているように見える。

 

そして、赤が紫電に弾き飛ばされる。

 

気付けば彼の足は勝手に走り出していた。しかし、それを遮るようにまた別の黒が立ち塞がる。

 

「残念だが上映はここまでだ」

 

Vの木の棒がカズマの首へ向けられる。こんな貧相な物でも人を殺すのには十分だと思わせる行為だ。

 

カズマの中で葛藤が始まる。恐怖で止まる自分。仲間を助けたい自分。矛盾した二つの思いがせめぎ合う。

 

「くっそおおおおおお!」

 

僅かに勝った方の思いに身を任せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開けたときに映ったのは地面に突き刺さる剣。どこを斬ったのか見当もつかないが、地面についた深い靴の跡が答えだろう。

 

喉元過ぎれば熱さを忘れる。さっきまでカズマに纏わりついていた恐怖は無かったかの様に消え去った。不自然なほどに。

 

しかし、そんな些細な事など気に留めず、カズマはVへと再び斬りかかった。

 

「……面倒だな」

 

苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたVは木の棒をレイピアの様に構える。そして……

 

 

流した。

 

 

木の棒が折れないように、剣の側面を軽く叩き、軌道を変える。剣は勢い良く地面へと刺さる。

 

地面から抜かれ、再度襲い掛かる剣。同様に流す。相手が手練れならこう上手くはいかなかっただろう。

 

「ハァッ……ハァッ……ハァッ……」

 

しばらく自分自身の勢いに任せ剣を振っていたカズマだが、とうとう息が切れる。何故か全力の攻撃も綺麗にいなされる。相手が熟練の剣士だったらまだ納得しただろう。しかし、剣すら持てるか怪しい細身の男が何故こんな芸当が出来るのかは理解出来なかった。

 

剣の技量で圧倒的な差がある。不思議にもカズマはそう感じた。

 

ただ、疲弊しているのは何もカズマだけでは 無い。彼とは違い軽い棒を振っていたVも息は切れてはいないが、表情に疲れが見えた。

 

「やべえ……! 勝てる気がしねえ……!」

 

息を整えつつ何か手を探す。こちらにあって向こうにない物。そこで一つだけ彼は思い出す。何故か通用しないと勝手に思い込んでいた魔法の存在を。

 

頭の中で策を組み上げる。そうなれば後は実行するだけだ。左手を握りしめ、タイミングを見計らう。

 

「……こっちから近づかないとダメかぁ」

 

バレているのか、それとも元々警戒心が高いのか、お互いの距離が縮まることは無かった。時間の浪費は避けたいカズマは仕方なく自分から距離を詰める。

 

「これでもくらえ!」

 

剣で斬ると見せかけて、左手から土と風の魔法を組み合わせて作った土埃をVの顔面へと飛ばす。

 

「当たると思うか……?」

 

しかし、予知していたかのようにスッと横へ避けられる。隙を狩るように彼に武器を振るうV。だが、カズマの行動に中断することを余儀無くされる。

 

「クリエイトウォーター!!」

 

なんと、彼は剣を捨てた。空いた右手から放たれた水はVの顔面へと命中し、目潰しとして作用した。しかし、それだけでは止まらない。杖を持つ手へと魔法を放ち顔と同様にびしょ濡れにする。

 

「フリーズ!」

 

締めの一撃と言わんばかりにカズマが右手をVへ向けそう叫んだ。次々と凍りついていく杖に勝ちを確信する。

 

だが、骨は断たせまいとするVによって開かれた右手に杖が投げつけられる。完全に凍りついた杖がカズマの掌にドライアイスのようにくっ付いた事で、凍らせたのは杖だけに留まった。

 

「へっへっへ! 降参した方が良いんじゃないか?」

 

丸腰になったのを良いことに調子良く挑発をかます。しかし、当の相手は至って冷静。何事も無かったかのように、濡れた顔を手で拭っていた。

 

「魔法……か、ならバランスを取らねばな」

 

Vが何も無い空間を人差し指でなぞった瞬間、カズマの頬を白い光が掠る。

 

「えっ……?」

 

「魔法と呼ぶには些か不出来だが……使えない事もない」

 

足元に刺さった何かを見て理解する。光では無い、白い杖だ。カズマが足で軽く蹴るだけで、ガラスのように割れてしまうほど儚い幻影の杖だった。

 

「こんなもん当たっても……」

 

続く言葉が出るよりも先にカズマは察してしまう。例え脆くともそれが尾を引くほど高速で飛来するのだ。直撃したらどうなるのか、想像に難く無い。

 

後悔が頭に残るカズマに対し、Vは軽い笑みを浮かべながら無慈悲にも言い放った。

 

「始めるとしよう……第二ラウンドだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマとVが遊んでいる中、もう一方では二匹の魔獣に陣形を崩され、乱戦となっているアクア達の姿があった。

 

めぐみんの詠唱には必ず妨害が加えられ、逆にダクネスは完全無視されている。実質置物となった二人がいるのにもかかわらず、アクアは二体の魔獣相手に善戦していた。

 

「さっきからちょこまかと鬱陶しいのよ! 大人しくしなさい!」

 

「大人しくしたらブッ飛ばされんダロ? だったらお断りだな!」

 

空に注意を向けていると、地上から黒い鞭が飛んでくる。逆に地上ばかり見ていると空から雷が。そんな陸と空のコンビネーションに翻弄されていた。

 

どうにか攻撃したとしても、避けられるか相殺される始末。どうにかしてこの状況を打開出来ないかと考えを巡らす。当然、都合のよい搦手など思いつくはずもなく、我が物顔で動き回る二匹を悔しげにただ目で追うしか出来なかった。

 

「ナンダァ? 攻撃が止まっちまったぜ? もしかしてお疲れ? だったらすぐにラクにしてやんヨ!」

 

トドメを刺しにきたのか、超広範囲の雷の波が彼女達に襲い掛かる。

 

「で、デカ過ぎません!?」

 

「避けるのは無理だな。よし! ならば私が!」

 

ダクネスが文字通り盾となるため一歩前に出る。しかし、範囲が広すぎる。防ぐにはあと十人程必要だろう。

 

しかし、彼女らの元へと波が着く前に地面から凄まじい量の水が滝をひっくり返したかのように噴出する。めぐみん達を中心としたドーナツ型のそれは天まで届き、文字通りバリアのように雷を防ぐ。

 

だが、役目を終えた水は重力に引かれ雨のように周囲に降り注ぐ。特に中心部の者達は一時的な豪雨に襲われた。

 

ダクネスはなんともなさそうだが、めぐみんは帽子が水で重くなり、つばが目元を隠すほどに下がってしまった。

 

「……アクア」

 

「ひっ! ま、待って! こんなつもりじゃなかったの! ただちょっと出力を間違っちゃっただけで……」

 

「コレです! 何とかなるかも知れません!」

 

「……え?」

 

「確かに、コレは有効打になるかもしれないな!」

 

アクアの技に勝機を見出す二人。しかし、考える時間は与えられない。

 

「ヘッヘッヘ! よそ見厳禁だぜ?」

 

小雨が降り続く中、グリフォンが小さな雷の弾をマシンガンの如く放ち始める。アクアとめぐみんは避けようとしていたが、放たれた全ての弾が彼女達へ追尾し、なす術もなく弾丸の嵐に晒される。

 

「逃げてもムダだぜ〜! なんせそっちはビショ濡れだ!」

 

しかし、調子付くグリフォンの前に仁王立ちをする一つの影が。

 

「アー……またかよ。ダクネスちゃんさぁ、もう追いかけてくんのヤメね?」

 

「いや、私は何度でもお前の前に立ってやる」

 

「カッコいい事言ってるワリにはヨダレ垂れてんぞ」

 

「え……き、気のせいだろう」

 

「今完全に手で拭ったじゃねぇか!」

 

やってられないと思ったのか、ダクネスを無視して後方のめぐみんやアクアへと弾を撃つグリフォン。しかし、後ろを狙った弾は最も近くかつずぶ濡れのダクネスへ次々と誘導する。

 

「ん! そう、これだ……この痺れがイイ!!」

 

「ヤベッ! 全部あの変態に吸われてやがる! オイ、ネコチャン! 代わりにナントカしてくれね? コッチはさっきのヘンな雨のせいでガス欠気だ!」

 

グリフォンが疲れたような声シャドウへ呼びかける。

 

返答は小さな小さな声だった。

 

「ネコチャン? オイ、マジかよ……」

 

完全復活したと思っていたが、それは見た目だけだったようだ。グリフォンよりも先にガス欠を起こしてしまった彼は、いつもの身体とは比較にならないほどに小さくなっていた。

 

そう、Vが前にお遊びでやっていた手乗りの大きさに縮んでしまっていた。想定外の出来事にグリフォンの開いた口は塞がらなかった。

 

「今だ!」

 

「うぉっ!? マジ? どうやって掴んできたんだよこの変態ヤロー!?」

 

驚きで固まったグリフォンの身体へと飛び付いた影は彼の今一番嫌っている存在だった。引き剥がそうと電気を纏うが、弱った身体では十分な出力は得られず、鎧も含めた重さが彼をズルズルと地面へと引っ張ってゆく。

 

「アー! チクショウ! 離しやがれってんだ!」

 

「こんなものでは足りない! もっと強力なのを頼む!」

 

「何言ってんだこのバカ! 頭ぶっ壊れてんじゃねぇのか!?」

 

完全に狂人のものとなんら変わりない発言にグリフォンは動揺する。そして、その動揺は他の二人に意思疎通の時間を与えてしまう。

 

「今ですアクア! 先ほどのアレでコイツらを閉じ込めてやって下さい!」

 

「なるほど! 任せときなさい!」

 

めぐみんの合図にアクアは頷くと、先ほどゲリラ豪雨を降らせたあの魔法を唱えた。

 

噴き出した水は牢獄の如くグリフォンを閉じ込める。出れる可能性のあった真上からは滝のような雨が降り注ぎ、その翼を広げる事を許さない。

 

「めぐみん! さっさとぶっ放しなさい!」

 

「言われなくともそうしますよ!」

 

杖を前に突き出し詠唱を始める。もう、あの忌々しいチキンに妨害される事はない。

 

何故かいつもより短く感じる詠唱を紡ぐ。そして、牢獄の囚人へ最大限の私怨を乗せ完成したそれを解き放つ。

 

「エクスプロージョンッ!!!」

 

全てを等しく吹き飛ばすその魔法は、牢獄どころかその周辺の地面ごと抉るように消し飛ばした。普段より大きく深く開いたクレーターに満足した表情を浮かべ、めぐみんはそのまま地面と熱いハグを交わしたのだった。

 

「あ……そういえばダクネスは? 一緒に吹き飛ばしてしまった気がするんですが……」

 

「何ともない。一応魔法が発動する前に離れたからな」

 

めぐみんの問いに答えつつ、うつ伏せの彼女の体をひょいと持ち上げたのはダクネスだった。

 

「え? でも水で囲われたじゃない! そこは一体どうしたのよ?」

 

「どうしたと言われてもな……ただ普通に通り抜けただけだ」

 

「普通の人は通り抜けられないわよ……」

 

「そうか! 出れるように一部だけ威力を弱めてくれたのだな!」

 

「え? あー……そ、そうよ! よく分かったわね!」

 

「茶番は後にして下さい。それで、あのチキンはどうなりました?」

 

めぐみんのその言葉に全員の目が爆心地へと向く。そこには、謎の球状の物体がポツンと一つ浮いていた。不気味に蠢く何かに近づくことすら躊躇われる。

 

そんな中、ダクネスに背負われていためぐみんの手から例の金属製の杖がポトリと落ちる。杖はカランカランと音を響かせながらアクアの足元へ。

 

「あ、アクア。その杖拾って下さい」

 

めぐみんに頼まれ、二つ返事で濡れた地面に横たわる杖へと手を伸ばす。しかし、彼女の手が杖に触れる瞬間、奇妙にも杖そのものが滑る様にしてその手から逃げる。

 

「え? 嘘! 何なのよこれ!?」

 

何度拾おうとしても結果は同じだった。黒い軌道を残し、移動するそれはアクアの手をすり抜けて、あのクレーターの中心部へと向かっていく。

 

アクアも負けじとそのまま杖を追いかけようとするが、めぐみん達に止められ、渋々足を止める。そして、あの謎の球体にたどり着いた杖はひとりでに立ち上がり、そのまま地面へと突き刺さった。ただそれだけだった。

 

「何も起こりませんね……」

 

めぐみんがそう呟いた瞬間。突如として杖のすぐ側にあの男、Vが現れる。幻でも見えたのかと疑ったが、残念ながら目は正常な様だ。

 

「あの男……魔法使いなのか? ますますわからなくなってきたな」

 

「ねぇめぐみん、あんな魔法あったっけ?」

 

「一応あるにはありますが……あんな手ぶらで出来る魔法ではないです」

 

動揺する皆の視線の先で、Vは杖を地面から抜く。そして、そのすぐ隣にある球体へと手をかざす。みるみるうちにその球体は粒子へと代わり消え去ってしまった。

 

今何が起きているのかよく分かっていない彼女達の元へ、妨害から解放された彼が駆けつけた。

 

「おーい! そっちは大丈夫か?」

 

「カズマじゃない! 今頃来てももう遅いわよ! あのクソ鳥はこっちで片付けちゃったんだから!」

 

「え? マジ……? お前ら勝ったの?」

 

「そりゃあもちろ……「自慢してる場合じゃないですよ! アイツがこっちに来てます!」

 

Vは杖を片手にクレーターの中心からこちらに歩いてきていた。始めと違い従者はいない。だが、何故か威圧感は同じだった。いや、より強くなっている様な気がしてならなかった。

 

「見くびっていたな……俺もアイツも……」

 

悔しがる様な言動とは裏腹に表情は一切変わらない。何か不吉な予感がカズマ達を襲う。

 

「……"成されない欲望を育むぐらいなら"」

 

Vの右手が真上へとゆっくり上がる。不吉な予感がより強くなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"揺りかごのうちに殺すべき"」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Vの右手からパチンと音が鳴る。その音を最後にカズマ達の視界は綺麗な星空へと向かう。まるで()()()()()()()()()()()()()を味わいながら彼らは意識を手放した。

 

しかし、これでよかったのだ。この先の本当の悪夢を見ずに済んだのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想・評価ありがとうございます!
また、誤字報告もありがとうございます。
何というか、どうして自分で見た時に気付かないんですかね。
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