この素晴らしい世界に魔獣使いを!   作:黒チョコボ

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Mission15

Mission15

 

その日、真夜中にそれは起こる。魔力を感知出来るものには恐怖そのものに似た魔力が、それ以外の者には原因不明の悪寒が、女子供関係なく平等に襲いかかった。

 

しかし、幸運にもそれは雷の閃光の如く、ほんの一瞬だけの出来事だった。ほとんどの人々はただの夢、または気のせいで済ませたが、不思議にもその体は鼓動という信号で恐怖の名残を残していた。

 

適当な安宿で体を休めていたクリスも例外では無い。ただ、彼女の感覚は常人とは違う。

 

「……!? おっとっと! イテッ!」

 

飛び起きた彼女はベッドから転げ落ちながらも、慌てて窓へ向かう。冷や汗を額に浮かべながらも窓を全開にし空を見る。

 

街灯も消えた真夜中。しかし、広大な夜空には星は映らず、ただただ闇だけが広がっていた。

 

「今のは……悪魔……? しかも上級の……いや、それ以上……」

 

もう一度空を見る。もうあの気配は消え去り、雲の切れ目から月が顔を覗かせていただけだった。月明かりの眩しさがあの空での出来事を思い出させる。

 

「ふわぁああ……! 明日……時間的には今日か……まあ、起きてから確かめに行こう……」

 

緊張の糸が切れ、眠気に誘われたクリスは、気配の方向へ足を進める事を決めた後、すぐに再び眠りについたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…イ…………ろ……V…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オイ! 起きろV!」

 

「……!? ここは……?」

 

グリフォンの声に無理矢理叩き起こされたV。周囲を見渡したところ、ここはあの魔法具店の中の様だ。恐らく来客用だと思われる埃だらけのソファに寝かされていた。

 

「ココか? 例の魔法具店だ。何だ? 覚えて無ェのか? オマエはぶっ倒れたんだよ! ヤツを呼んだ反動でな!」

 

「そうか……お互いまだまだ回復の余地がありそうだ……」

 

グリフォンもシャドウも使えなくなったあの時、Vは切り札を出さざるを得なくなった。温存していた訳ではない、今の体では負荷に耐えられるかの確証が無かった。

 

案の定、たったパンチ一発分で保持していた魔力は尽き、Vは例の爆裂狂信者と同じ末路を辿ったのだった。

 

しかし、たった一発だけだといえ、切り札の名は伊達じゃない。地面から放たれた挨拶がわりの一撃は、二発目は必要ないと示すかの様に全員の意識を刈り取った。

 

おまけに溢れた魔力は波動となってグリフォン達へ伝わり、傷ついた身体を癒すどころか、かつての力を取り戻すほどに魔力注ぎ込む結果となった。

 

「ハッ! 回復の余地だって? ザンネンだがVチャン以外はナイ……ヤツを呼んだおかげでコッチは元どおりよ! 完全復活ダ!」

 

「そうか……という事はアイツもか」

 

呼び出すまでも無く、後ろから低い泣き声が響く。音の振動が直接頭に伝わる。どうやら、今枕がわりにしている物はソファの肘掛けでは無いらしい。

 

「イイ枕だろ? アノ時と同じ、最高品質の逸品だぜ?」

 

何とも言えない触り心地に身を任せたくなるが、いつまでも惰眠を貪っているわけにはいかない。誘惑を振り払い立ち上がる。

 

「あ、気が付いたんですね!」

 

ちょうどその時、ウィズが店の奥では無く入り口の扉を開け店内へと入ってきた。Vが意識を取り戻した事に喜んでいる様だ。足についた泥を落とすと、細かい様子を見に近づいてくる。

 

「オイオイ、男二人積もる話もあるんダ。ノックぐらいしてくれねえと困るぜ? ナァ?」

 

「へ……? そ、そうだったんですか!? す、すいません今すぐ出て行きます!」

 

「おい、落ち着け……積もる話など無い。そもそも、ここはお前の店だ。出て行くとしたらこちらの方だろう」

 

回れ右をして出て行こうとするウィズを止めんと、Vは彼女の肩へ杖を引っかける。そのまま杖を引っ張り、半ば転ばせる様にソファへと座らせた。

 

「それに……聞きたい事もある」

 

「聞きたい事、ですか?」

 

ただの気まぐれかソファに座るウィズの膝の上にシャドウが寝っ転がる。彼女は手頃な位置にあるその頭を優しく撫でる。

 

「オイオイ、Vチャン。そっちの聞きたそうな事はもう粗方聞いておいたぜ? ゆっくりオネンネしてる間にな!」

 

「……そうか、助かった。だが、お前の頭じゃどこまで覚えているか不安だな」

 

グリフォンをからかうようにVが鼻で笑う。どうやらそれに彼はご立腹のようで、物だらけで狭いカウンター上で翼を広げ、器用にVを指さすと"全部説明してやる。なんでも聞いてこいモヤシ野郎"と言い放った。

 

「そうか、じゃあ遠慮なく聞かせてもらうとしよう。あの店主は一体何者だ?」

 

「ソイツは簡単! 一言で言うんだったらアンデッドってトコロだ! ただ、そんじょそこらのヤツらとは違え。その上位種にあたるリッチーってヤツなんだとさ! まあ、要するに強えってワケよ!」

 

意気揚々と喋るグリフォン。Vはソファの向かいにある素朴な椅子に座ると、答え確認かのようにウィズへと疑惑の目を向ける。彼女は平然と頷いた。

 

「そうか……では次だ。お前の目に俺はどう映っている?」

 

「エッ!? 何ソレ! そんなこと聞いてネェよV!」

 

「……huh」

 

「アッ! オマエわざと変なこと聞きやがったな!」

 

動揺するグリフォンの様子にしてやったりという薄ら笑いを浮かべるV。しかし、それは嘘の質問では無いようだ。

 

グリフォンは悔しさを表に出さないようにするためか、白けた面で翼を手入れし始めた。そんな彼を横目に、先程の質問を再度ウィズへ問う。

 

「もう一度聞く。お前の目に俺はどう映っている? 俺と会うたびに全身隅々まで目を通しているのは知っている。……もしそれが趣味なんだとしたら、何も言わなくて良いが……」

 

「ち、違いますよ! そんな変な趣味は持ってませんよ!」

 

変人扱いを恐れたか、全力でその線を否定する。必死すぎたせいか、シャドウの頭を撫でていた手に思わず力が入ってしまう。

 

その結果、シャドウの頭はソファにめり込んだ。

 

「あ……ごめんなさい」

 

「完全にブッコロす勢いじゃねーか……」

 

「……気にするな」

 

体を粒子状にし、再びウィズの膝上に戻るシャドウを見て、ウィズはホッとした表情を浮かべ、話を続けた。

 

「あのー、さっきそこの鳥?が言っていた事と関係あるんですけど……私は、他人の生命力?的なものを視認する事が出来るんです」

 

「ほう……」

 

「それで、貴方のそれが特徴的で……つい」

 

「オイオイ、特徴的? ハッキリ言やあイイじゃねえか。ボロボロだってなぁ?」

 

ウィズの僅かにあやふやにした点をグリフォンがつつく。自虐を込めて。だが、ウィズの反応は予想していたものとは違かった。

 

「ボロボロってレベルじゃ無いですよ! 死にかけの病人と同じかそれ以下ですよ! なんでそんな平気な顔してられるんですか!?」

 

半分怒っているに近い言い方にグリフォンは狼狽する。それに対し、Vは至って冷静。朝日が差し込み始めた窓を見ながらその疑問に答える。

 

「……これが平気に見えるなら、お前の頭は幸せだろうな」

 

窓から視線を戻したVにウィズは思わず息をのむ。その顔、手、足、見える全ての皮膚には荒地のような亀裂が入り、醜く傷ついたその姿は惨いとしか言いようが無かった。

 

彼女が瞬きする間にその姿は平常時のそれへと戻る。手品の様な出来事に自分の目を疑うウィズにVは納得の一言を放つ。

 

「そもそも……この平気ではない状態をなんとかするために、お前の売るあの薬を買いに来たんだがな」

 

「あ、そういう事……だったんですか……」

 

「ヘッヘッヘ、アレだアレ! 墓行く前に頼んどいたオクスリがあんだろ? こちとらソイツが目的だ。早く売ってくれねえとクレーム入れちまうぞ?」

 

「あ、え? え!? し、しばらくお待ち下さいいいぃぃぃ!」

 

どうやらグリフォンの言葉で頼まれたポーションの事を思い出したようだ。そして、追い討ちの様に発した最後の一言がウィズを青ざめさせ店の奥へと向かわせたのだった。

 

膝上に乗っていたシャドウは、有無を言わさず転げ落とされ、唖然とした表情で冷たい床へ放り出された。その後、しばらく固まっていたシャドウだったが、起き上がってソファ上に戻ると不満そうに一匹丸まるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィズが店奥に籠ってしばらく経つ。窓から差し込む光はもう朝日のものでは無い。お喋りな一匹が待ちくたびれ、奥に突入しようと提案したその時、

 

「お、お待たせしました!」

 

両手いっぱいに例の薬を持ったウィズが奥から現れた。ゴトンと重い音と共に一瞬にしてカウンター上が薬で埋まる。

 

「ナ、ナァ……なんか、多くね?」

 

「……俺も同じ事を考えていた」

 

数としては20程だろうか。試験管のような瓶に入れられたそれは、彼女の手によって5個ずつ専用の台座に入れられていく。

 

「一つ聞いてもいいか?」

 

「は、はい?」

 

「……ちゃんと毒見したか?」

 

「毒見? 毒になるような物なんて混ぜて無いですよ?」

 

「そうじゃない……味だ。この間飲んだ時は……思い出したくないな」

 

「え? そんなはずは……」

 

心なしか青ざめた顔をしたVの言葉に、ウィズは首を傾げる。そして、瓶を一つだけ台から外し、数回クルクルと瓶底を回してから一気に飲み干した。

 

「うーん? そこまで不味くは……? ……ッ!?」

 

始めは文字通り苦虫を噛み潰したような顔をしていただけだったが、数秒後にはみるみるうちに顔が青ざめ、店奥へ切羽詰まったように走っていった。

 

Vとグリフォンは同情の意を込めてその背中を見送った。数分後、扉を開けて出てきたウィズは顔色は良かったが、どこかやつれた様子であった。

 

「頑張れば、飲めます……!」

 

「イヤイヤ、キツイだろ! というか、無言でその劇薬をコッチに押すんじゃねえ!」

 

商魂溢れると言うべきか、カウンター上にある瓶詰めのそれをそっとVの方へ押すウィズ。要はギリ飲めるから買えと言っているのだろう。

 

「……一本だけだ」

 

「まあ……そうですよね」

 

「当たり前だ、この瓶の数だけ地獄を味わいたくは無い。売るにしても、せめて味だけはなんとかしろ」

 

Vの要望にウィズはカウンター上に突っ伏した。そして、小さな小さな声で肯定の意を示す。

 

「味……一体どうしたら良いんでしょう」

 

「手っ取り早いのは冷やす事だ……時間経過で元に戻るがな」

 

「お? だったら丁度イイじゃねーか! Vチャン一個買うんだろ? ウィズちゃんに冷やしてもらえば完璧だぜ? オマケに冷え度合いは保証するぜ?」

 

グリフォンはそう言うなり勝手に瓶を一本だけ取り、ウィズへと差し出した。Vが止める前に彼女は氷の魔法で瓶をキンキンに冷やしてしまう。

 

どうやら今飲むのは確定らしい。

 

「はい! どうぞ、飲んでみて下さい!」

 

彼女の厚意がチクチクとVに刺さる。"余計な事をしてくれたな"と横の鳥に冷たい視線を送るが、当の本人はニヤニヤと悪い笑みを浮かべていた。

 

笑顔で渡された冷えた瓶。断るタイミングを逃した彼は意を決してその中身を口へ流し込んだ。

 

「どうだ、Vチャン? 健康の味ってモンはよ」

 

「……多少マシにはなった……最悪の味であることには変わらんが……」

 

杖をつき、うなだれたまま感想を述べる。冷たくしたのも多少は効果があったようで、前回のように意識が混濁するまではしなかった。

 

だが、大ダメージには変わりない様で、グッタリとした様子で椅子へと座り込んでしまった。

 

「アーア……何しても劇薬は劇薬か。安らかに眠ってくれよ? Vチャン」

 

「……お前も同じ棺桶に入りたい様だな? 安心しろ……お前の分は残してある……」

 

少しだけ液体の残った瓶を片手に危険な笑みを浮かべる。それを見て昨日の朝の出来事を思い出したグリフォンは戦慄する。すぐさま逃げ出そうと羽ばたくが、その首には既にVの杖が添えられていた。

 

「アッ! イヤ! 待て! ただのちょっとした言い間違いみてえなモンじゃねえか……なあ? そうそう、ゴヘイってヤツだ。だからさVチャン、そのお飲み物を仕舞ってくれると嬉しいナァ〜……」

 

「安心しろ……お前を元気にしてやるだけだ。それに、実験体は二つの方がより良いだろう?」

 

数秒後、一際大きな悲鳴と共に口から緑色の液体を垂らしながら気絶する哀れな鳥が生まれたのだった。

 

 

 

 

 

 

一仕事終えたVはシャドウに荷物となった誰かを担ぐよう指示すると、カウンターにポーション一個分の金とチップを置いた。

 

「……邪魔したな」

 

静かに開けた扉から、一足先にシャドウが外へ出る。しかし、その肝心の主人は出口の直前で立ち止まっていた。

 

「一つ聞き忘れていた事があった……お前を襲うつもりだった奴らはどうした?」

 

「えっ……? 一応、男性の方だけ意識があったようなので、治療しつつ話をしたら平謝りされて……後はその人がどうにかすると言って帰ったんですけど。でも……」

 

なぜ、その事を知っているかの疑問を口に出す前に、Vは杖で彼女の足元を指す。視線を下げるとそこには彼女自身の足と外出用の泥に汚れた靴がそこにあるだけだ。

 

意味が分からず首を傾げる。

 

「泥だ……ここら一帯で泥があるとすれば、大量の水をばら撒いた奴の周辺しか無いからな」

 

その言葉にハッとしたように店内の床を見渡すと、僅かだが泥で出来た足跡を発見したのだった。

 

掃除が必要な事に多少の面倒臭さを感じながらも床に囚われていた視線を上に戻す。しかし、そこにVの姿は無く、ただただ開放された扉が軋む音を立てていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィズの店から幻のように消えた彼らは、傾く光に目を細めながら帰路についていた。なお、グリフォンはすぐに目を覚ました。彼曰く"天使を見た"だそうだ。

 

荷物が無くなったシャドウの力を借り、見通しの良い草原の地面を滑る。歩みを妨げるはずの悪路が元々無かったかのような速さで移動していた。しかし、ちょうど街と店の中間地点でとある人影によって彼らの動きは止まる。

 

華奢な体躯、光る銀髪、その二つを持つ者は彼らが知っている中で一人しかいない。

 

「アァ? クリスちゃんじゃねーか! ナンダ? お迎えでもしてくれるってのか?」

 

グリフォンの軽口に対して、クリスは反応を示さず、ただただ何とも言えない表情を浮かべている。しかし、彼女が息を大きく吐いた後に見せたそれは、敵意と殺意が混ざった物だった。

 

そして、彼女はゆっくりとナイフを抜いた。

 

「アー……そっちのお迎えね」

 

普段と変わらない様子で話すグリフォン。だが、その目は平常とは違う。シャドウも同様だ。

 

「待て、と言っても止まらない……か」

 

クリスの目に一切の迷いがない事を見て、Vは仕方なく杖の柄を持ち戦闘態勢に入る。軽い足踏みをし、僅かに湿った地面を踏み固める。

 

彼女の秘めている神秘に気づいた時から、こうなる可能性がある事は既に分かりきっていたはずだった。

 

だが、殺意、敵意しかないはずの目がどこか悲しそうに見えてしまった。

 

見覚えのあるその目に、彼の意思は大きく揺れ動いていた。

 

 

 




いつも感想、評価ありがとうございます。
ちゃんと全て読ませて頂いてます。
皆さんの反応を見てモチベを上げてます。今回もよろしくお願いします。
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