この素晴らしい世界に魔獣使いを!   作:黒チョコボ

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Mission18

Mission18

 

「ねぇ、これってどういう事? 説明してもらえると助かるんだけど」

 

「同感です。私も説明が欲しいと思っていました」

 

自分の部屋に戻ったカズマを出迎えたのはチクチクとした鋭い二つの視線だった。しかし、その矛先はカズマではなくその肩に乗っている者へと向けられている。

 

「説明なんてしなくてもわかんだろ? 一時的にこのへっぽこパーティーに加わるコトになったのさ!」

 

「なるほど、ついに悪魔の手がカズマにまで忍び寄ってきたわけね! 今すぐ助けるわよカズマ!」

 

「ちげえよ! 勝手に操られた事にするんじゃねえ!」

 

カズマの渾身のデコピンがアクアの額へと突き刺さる。大きなパァンという音と共に彼女は額を抑えその場にうずくまった。

 

アクアから不気味な唸り声が聞こえるが、カズマは特に気にする事なく説明を始めた。要約すると、一時的に協力する代わりに飯よこせという事である。

 

「なるほど、まあこの小鳥が裏切ったとしても一匹だけなら簡単に対処できるでしょうし、一時的ならアリですね」

 

意外にも反発するかと思っためぐみんはこの状況に対し肯定的であった。どうやら、カズマだけではなくグリフォンも彼と同じ表情を浮かべ驚いているようだ。

 

グリフォンはカズマの肩からコソコソと耳打ちをし始めた。

 

「オイ、アイツあんな感じだったか? オレが前会った時はちんちくりんですぐキレる頭爆裂ヤロウだった気がするんだけどよ?」

 

「わかる。こんなまともな奴じゃなかったはずなんだけどな」

 

「前言撤回です。やはり焼き鳥にして腹を満たして貰いましょう」

 

グリフォンの声はどうやらコソコソ話には向いていないようだ。怒気を放つめぐみんの言葉がその証明だ。

 

二人で何とかしてめぐみんの怒りをなだめていると、アクアが額を赤く染めながらも復活を果たす。

 

「めぐみん!? アイツは悪魔なのよ! そんな奴と一緒でいいの!?」

 

「この間戦った時の修理費でお金がないんです。背に腹は代えられません」

 

「うぐ……でもダクネスからは許可貰ってないわよ!」

 

「いや、あいつは"気絶してしまった自分が情けない。意識があればもう一発分ぐらいもらえ……皆の盾となる事が出来たのに"って言ってたぐらいだから問題無いと思うぞ」

 

どうやらカズマによるとあの一撃はダクネスの何かに火をつけたようだ。おかげで鍛錬が捗っているらしい。

 

なお、グリフォンはこの話を聞いてもニヤけ顔は崩さなかったが、羽毛に隠れて冷や汗が噴き出していたようだ。意図せずして彼女はグリフォンの中のブラックリストに載ることになった。

 

「アー……そもそもだ、何でアクアちゃんはそこまで頑なにオレの参加を拒むんだ? 悪魔だからって理由はナシだぜ? 悪魔だろうと対処出来れば問題無いってソコのお嬢ちゃんが言ってたからな!」

 

「そ、そりゃあ、私達が危ない時に裏切ってくるかもしれないじゃない!」

 

アクアの答えに突然大爆笑するグリフォン。ひとしきり笑った後、彼はカズマの肩を離れ、わざわざアクアの目の前の椅子へと止まる。そして、まるで相手を馬鹿にするかのような声のトーンで話し始める。

 

「ヘッヘッヘ、裏切るダァ? それはオレ達がオマエらをブッ殺すためにやるんだろ? 何なら言っといてやるよ、もしその気ならアノ時、オマエらが意識を失った時点でもうヤってる」

 

後半に行くにつれ冗談さが抜けていく言葉。最後には薔薇よりも棘のある言い方だが、これは少々遠回しだが、こちらに対して殺意は無い事を言っているのだ。

 

どうやら流石のアクアもこの意図には気づいたようだった。

 

「マア、そういう事だ。信頼なんていらねえが、一時的にパーティーに入る事ぐらいは許してくれねえか? 女神さんヨォ? 神って言うのはどんなヤツにも一握りの慈悲ぐらいは与えるって言うだろ?」

 

「ま、まあ仕方ないわね! ほんとに特別よ! 神の慈悲なんだからね!」

 

グリフォンの威圧感はまるで嘘だったかのようにスッと消え、代わりにいつもの冗談混じりな口調が戻ってきた。そして、流れる様にアクアをおだてた。

 

どうやら女神と呼ばれたのが彼女にぶっ刺さった様で、先程の態度とは打って変わってどこか嬉しそうにグリフォンの参加を認めた。見事な手のひら返しである。

 

「じゃあ、ギルドに行くか」

 

カズマのその言葉で、ようやく彼らはギルドに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギルドに着くと、クエストを受けるのではなく、全員テーブルへと一直線に向かっていった。どうやら全員腹ペコのようだ。

 

「ナア……別に不満があるってワケじゃねぇんだけどよ。何でオレ以外チキンステーキなワケ?」

 

不思議な事に彼らが注文したメニューはグリフォンが頼んだピザ以外は全てチキンステーキだった。

 

「いや、なんか無性に……」

 

「あれ、カズマも?」

 

「私もです」

 

別に深い意味は無いのだろう。しかし、皿に乗る物と同一視されてる様な気がしてしまい、グリフォンはピザを貪りながら複雑な表情を浮かべていた。

 

しばらくすると、カズマがグリフォンの食事風景を見て口を開いた。

 

「それにしても、結構器用に食うよな。ピザ。切ってすら無いのにさ」

 

カズマが疑問に思ったのは、ピザ丸々一つを切らずにお腹に収めていくその食べ方の様だ。

 

「一回食った事あるしな! 前は腐ってやがったが……」

 

「腐ってた? おいちょっと待て、普段どんな食生活してんだ?」

 

「さあな、ただ言えるとしたら普段食うはずの物よりかは腐ったピザの方がマシだったってコトだ」

 

「え? それって……」

 

「おっと待ちな! こっから先はR指定、お前みたいな青二才にはシゲキが強すぎる話だ! 聞かない方が身のためだぜ?」

 

そう言われると聞きたくなるのが人の性。彼はせっかくの警告を"それでも教えて欲しい"の一言で無下にしてしまった。

 

グリフォンがどんな事を言ったのかは定かでは無い。ただ、その中身を耳打ちされたカズマはスーッとその顔色を青くし、そっと朝食の残りをグリフォンへ差し出したのは確かだった。

 

なお、耳打ちで話された内容のほとんどが嘘だということにカズマが気付くのはもう少し先のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員が一応満足した食事を取った後、カズマがあらかじめ取っておいたクエストに向かうためギルドを後にする。

しかし、現在現地へ向かっているのは2人と一匹。どうやら、カズマのみギルドに用事があるようで先に行ってくれとの事だった。

 

アクアとグリフォンというあまり相性の良くなさそうな組み合わせに挟まれためぐみんは面倒事が起きる予感がしていたが、意外にも大した衝突は起こっていないようだった。

 

「ねえ、クソ鳥。アンタって一体何歳よ?」

 

「アァン? なんでそんなコト聞くんだ?」

 

「そこらでぽっと出の奴があんなに強い訳ないでしょう! だから聞いてるのよ!」

 

「アー……なるほどな。じゃあちゃんと教えてやるよ……」

 

まるで、意味深長に不気味な間を開けるグリフォン。アクアもめぐみんも次の言葉を待ち侘びるかのように意識を耳へと向ける。

 

「実はな……0歳だ」

 

呆けた言い方で出てきた言葉は明らかに冗談だと思えるような物だった。何か探りの糸口にしようとしていたアクア。実は少し厨二的な期待を寄せていためぐみん。この二人の考えは見事に裏切られる事となった。

 

「嘘つくんじゃないわよ!」

 

アクアの怒りも当然のものであった。しかし、当の本人は当たり前かのように開き直って言った。

 

「ヘッ! わざわざご丁寧に教えるワケねーだろ? そもそもそっちも女神だって嘘ついてんじゃねぇか! そんなんだから駄女神って呼ばれてんダロ? そうだよなあ、ア〜……めぐみん?」

 

「まあ……そうですね。そんな感じな気がします」

 

「めぐみん!?」

 

めぐみんが面倒そうに出した答えは地味にアクアにダメージを与える。しかし、彼女がへこむのは一時的。次の瞬間には"これはアイツに言わされてただけよね、そうよね?"と真剣な顔つきで詰め寄っていた。

 

「マ、信じるワケねぇよな」

 

彼がボソッと溢した言葉は騒ぐ二人には聞こえず、ただただ空を漂って消えていった。

 

 

 

 

その後、しばらく歩き続けて着いた場所は池と思われる所だった。しかし、その水は酷く濁り、汚れており、飛び込もうものなら感染症の類に苦しめられると、常識ある者なら思うに違いないだろう。

 

「ナア、ここで泳げとか言わネェよな?」

 

「もしそうだとしたらカズマが一番手ですね」

 

笑えない冗談を言いつつ、グリフォンは池の縁に降り立つ。そして、器用に嘴で持った木の棒を池の中へ突っ込むと、正体不明のドロドロした何かが枝へと絡まる。そんな池の様子を見た彼らの気分はマイナスに振り切っただろう。

 

あたりの空気がどんよりとして来たところで、何かを載せた台車の様なものがこっちへ向かってきた。乗っていた物は大きな檻。それも怪物用と思わしき物だ。そして、それを引くカズマとダクネスの姿がそこにあった。

 

「あー……やっと着いた……」

 

「丁度いいトレーニングになったな」

 

到着するなり、カズマは汗だくのままその場に座り込む。一方ダクネスは汗一つかかず、涼しげな顔で池を見渡していた。

 

風で温まった体を冷やしながら、ダクネスはゆっくりと視線を右から左に動かした。そして、それは池の全貌を見る前にグリフォンの所で止まる。

 

「何かイヤな予感……」

 

グリフォンの危険察知は正しかった。

 

もはや人の出せるものか分からない速度で、彼女はグリフォンへとダイビングするかの様に掴みかかった。破裂音と共に彼女の両手がグリフォンへと迫る。

 

だが、本能で危険を察知していた彼にはそれは通じず。手の間をすり抜ける様にして池の上空へと逃げおおせた。

 

「アーッッッブネ!! ホントに人間か? どっかの赤トカゲ(フューリー)もビックリな速さだぜ……」

 

「くっ!」

 

「今、明らかにおかしい音したよな? パァンッて……」

 

「音速超えたわね……確実に」

 

「ちょっと何言ってるかよく分からないです」

 

ダクネスの人外じみた行動に、"何故これが普段から生かされてないのか"と三人が思っていると、当の本人から悔しそうな呟きが響く。

 

「電気責めはお預けだというのか……!」

 

この言葉を聞き、全く動じない者が三人。顔色が悪くなったのが一匹いたそうな。

 

一旦作戦を伝えたいカズマはいつまで経っても池の上で旋回しているグリフォンへ大声で声を掛ける。

 

「おーい、一旦こっちに来てくれ!」

 

快く来てくれるだろうと思っていたカズマだったが、それを裏切るかのような言葉がグリフォンから返される。

 

「行くわけネェだろ! そこの狂犬みてえなヤツが居るといつ襲われるか気が気じゃねえ!」

 

グリフォンの狂犬という言葉にカズマの目はダクネスへと向かう。いつも通りの様に見えるが、その異常にキラキラした目からは溢れんばかりの狂気を感じた。

 

流石に、彼もこれには同情せざるを得なかった。

 

「あー……わかった。じゃあそこで良いから話だけ聞いといてくれ」

 

「い、良いのかカズマ!? あの場所だとちゃんと聞こえないかも知れないぞ? やはり、一旦集まった方が……」

 

「聞こえてんダヨ!! 誰のせいでこうなってると思ってやがる!」

 

水面ギリギリで波打たせながら飛ぶグリフォンは、想像以上の大声で不満に満ちた返答を投げつけた。

 

流石に少し反省した様子を見せるダクネス。そんな様子を見てグリフォンの気持ちはこれ以上ないほど晴れ渡った事だろう。

 

「アー、スッキリしたぜ。ン? 何だコレ?」

 

不穏な水泡が真下からブクブクと音を立てている事にようやく気づくグリフォン。そして、自分の映る水面が大きく歪んだのはそのすぐ後だった。

 

「オ、オイ! マジかよ!?」

 

水面下から姿を見せたのは大きな顎。下から美味そうな鳥を口に収めようと勢いよく飛び出すと同時にバチンッと恐ろしいほどの力でその凶器を閉じる。

 

「アッブネ!!」

 

しかし、閉まり切る前にその軌道上からグリフォンは脱出する。彼の発した声はカズマ達にももちろん聞こえ、作戦会議中の彼らの視線は池へと向いた。

 

カズマ達の目に映ったのは、先ほどまでグリフォンが飛んでいた水面上をゆっくりと移動する青い何かだった。

 

「ヘッヘッヘ! そんなモンに易々と捕まるワケ……」

 

余裕綽々。そんな慢心たっぷりの彼の視界は、言葉を吐き終える前に悪臭と共に暗闇へと落ちる。

 

しかし、カズマ達の視界は暗闇に包まれる事なく、全てを収めていた。

 

「「「え?」」」

 

彼らの見たものは、大きく青い生物が池から勢いよく飛び出し、見事な放物線を描き、余裕ぶっこいているチキンを後ろから綺麗に口に収めた一部始終だった。

 

カズマがよく知っている見た目を持つその生物は、大きな水飛沫を上げながら着水し水面から顔を覗かせると、口をモゴモゴと動かし咀嚼し始めた。

 

「わ、ワニ……?」

 

「ブルーアリゲーターじゃないのか? 紙にも書いてあるぞ?」

 

ダクネスがクエスト内容の書かれた紙をカズマへと手渡す。動揺の滲み出る震える手で紙を開くと、そこにはしっかりとあのワニの名前と注意書きが小さく端っこに書かれていた。

 

「何かいるとは知ってたけど……こんな化けもんだなんて聞いてないんだけど!?」

 

「カズマあんた知ってて言わなかったのね!?」

 

作戦実行のために持ち込んだ巨大な檻に既に入ってしまったアクアは、嫌な予感を頭の片隅に浮かべながら、格子越しにカズマの肩を鷲掴みにする。

 

「ね、ねえ! まさかこのまま続行するとか言わない……よね?」

 

「……すまんアクア! これもクエストの為だ!」

 

「ねえカズマさん! 私が悪かったから!!これからいい子にするから!! お願いだからやめでよおおおおお!」

 

「いででで! やめろ掴むな! てか、力強くね!?」

 

命の危険を感じると人間は色々とリミッターが外れるらしい。いわゆる火事場の馬鹿力というやつだ。そして、その力はカズマの肩へと余す事なく注がれた。

 

アクアがカズマを逃さないよう掴み、カズマはアクアから逃れようと踠いている。そんな二人の様子を見ていためぐみんは意外にも無慈悲な行動を起こす。

 

「……作戦通りに池に放り込みますか」

 

「正確には放り込むというより、ただ浸すだけだと思うが……というか、カズマもあのままだと一緒に道連れだぞ?」

 

「まあ……問題ないでしょう」

 

隠し事をしたカズマへの報復と言わんばかりに、めぐみんは檻とそのセット商品を池へと押し込もうとする。ダクネスも少しだけ戸惑いを見せていたが、めぐみんの圧に負け、めぐみんと共に檻を押し始めた。

 

「やめでよおおおおおおおお!!」

 

「待て待て待て待て! アクアは檻があるとして、俺は何も防御手段無いんだけど!?」

 

アクアとカズマの靴へゆっくりと池の不浄な水が染み込んでくる。しかし、それだけでは終わらず、檻の軋む音と共に彼らはより沈み込んだ。もう膝より下は水面だ。

 

「俺はさっさと逃げるぞ! 後は頑張れ! 幸運を祈る!」

 

なんとかして彼女の拘束を解いたカズマは、陸地へ戻ろうと足を一歩進める。しかし、その靴底はあるはずの地面ではなく、何かゴツゴツとした物を踏んづけた。

 

「まさか……な?」

 

カズマの脳裏に、ゴツゴツした物の候補が浮かび上がる。

ただの石や岩。水底に沈んだ誰かの装備。先程見たアレ。

前者二つを期待していたが、足元のナニかがゆっくりと上下している事に気づいてしまう。期待は見事に裏切られた。

 

カズマの顔を真っ青にしたあからさまな動揺に、流石のアクアも何をやらかしたのか察したようだ。

 

「カズマ……短い間だったけど楽しかったわ。あっちでも元気でね……」

 

「あの……アクア様。蘇生はもちろん……してくれますよね?」

 

「斬られた傷とかだったら問題ないけど、食べられたりして体が無くなっちゃうと……」

 

「マジで……?」

 

せっかくの蘇生術も五体満足でないと意味がないらしい。カズマの顔が一層青ざめる。

 

さらに追い討ちをかける様に、足裏の何かがゆっくりと動き始めた。恐怖にパニックを起こしてしまい、足元の動くモノをより強く踏んづけるという危険な行動を起こす。

 

恐怖の原因を遠ざけようとしているのだろう。しかし、それは相手にとっては立派な攻撃だ。刺激を加えてしまう事に他ならない。

 

パニックに陥ったカズマを正気に戻したのは、冷たい池の水ではなく、全身に襲いかかった電流であった。

 

「「あばばばばばばばばっ!!」」

 

なお、その電流はついでと言わんばかりにアクアにも襲いかかった。

 

「ッシャア! やっと出られたぜ!」

 

水飛沫を上げ、一際大きなアリゲーターを吹き飛ばしながら水面から出てきたのは先程誰かのおやつになっていたグリフォンであった。

 

涎でベトベトの体で必死に羽ばたき、何とかして檻の上へと着地した。

 

「オイ、オマエら! このグリフォンさまのお戻りだ!……ってアレ?」

 

重く湿った翼を広げ、声高に帰還報告をしていたが、肝心の聴衆は半分が離れた陸地に、もう半分はグッタリした様子で彼の足元に転がっていた。

 

「し、死ぬかと思っ……うおおお!?」

 

カズマの小言と共に浮かんできた物に驚き、彼の言葉は遮られた。浮かんできたそれは、一メートルにも満たないあのアリゲーターの子どもであった。

恐らく、彼がずっと踏んづけていたものだろう。今は気絶しているのか、ピクリとも動かない。

 

「か、カズマ……そんなのにビビってたの……?」

 

その様子を見たアクアは、先程までカズマと同じ様な状態だったにもかかわらず、一瞬で調子を取り戻し、笑いを堪えながら彼を煽りに煽っていた。

 

「ち、ちげえし! 念のため警戒してただけだし! ほ、ほら、子どもとはいえ危険な生物だからな!」

 

「オイオイ! 強がってるヒマなんて無ぇぞ! さっきのでヤツらが完全にお目覚めだ」

 

苦しい言い訳をしていたカズマは、頭上から聞こえた警告に、まさかという表情を浮かべ、辺りを見渡す。

 

さっきまで数匹しか見えていなかったヤツらの背はいつの間にか十を超え、気泡がブクブクと至る所から発生していた。

 

しかし、まだ襲いかかっては来ていない。

 

「……一気にドカーンと襲いかかってくると思ってたけどヨォ、意外とそうでも無さそうダナ」

 

「もしかしてアイツら……まだこっちに気付いてないのか?」

 

「んなワケあるかよ、さっきそこそこなモンをぶち込んだんだぜ? それで気付かないってのは流石に鈍感過ぎやしねぇか?」

 

「あんたねえ……! こんな水だらけの場所でそこそこなモンをぶっ放してんじゃないわよ!」

 

「しょうがねえだろ! あのまま黙って喰われてろってか? だったら、是非ともお手本を見せてもらいたいモンだぜ」

 

グリフォンの鉤爪が不満そうに檻の縁を叩く。硬いもの同士が当たるカツンという音が何度も響く。

アクアはそんな音など気に留めず、周囲のアリゲーター共にビビりながらも、少しづつ水を浄化していた。

 

そんな中、カズマは一人考えを巡らせる。

 

先程ヤツらはどうやってグリフォンを捉えたのか?

何故、今ヤツらが大人しくしているのか?

 

格子に掴まりながら考えていると、足元に先程気絶した子供のアリゲーターが流れ着く。

 

「げっ、頼むから起きないでくれよ……」

 

尻尾を摘み、そっと遠くへ流す。刺激があったからなのか、カズマの手を離れるとすぐ目を覚まし、濁った水の中へ戻って行った。

 

「こんな濁った水じゃ踏んづけるなって方が難しいよなあ……足元すら見えないのに。あれ、待てよ? 見えない……? まさか!?」

 

全ての理由に気づいた時、等間隔で鳴り響く音に振り返る。しかし、彼の目に映ったのは強固な檻へと噛み付こうとするアリゲーターの大顎だった。

 

「ギャアアアアアアアアアア!! は、早くなんとかして! お願いだからああああ!!」

 

「しょーがねえ、ちょっと待ってろ!」

 

グリフォンは特大の電撃をお見舞いするため、大きく構える。しかし、カズマがそれに待ったをかけた。

 

「待て待て待て! また俺らが感電するだろ!」

 

「ヘッヘッヘ、まあ見てろって」

 

カズマの警告も虚しく、グリフォンの纏う電気は大きく弾ける。ドーム状に広がるバチバチと音を立てる紫電にカズマは思わず目を瞑り、これから来るであろう痛みに備えた。

 

しかし、そんな痛みは訪れず、ただただ水の音だけが彼の耳へと入るのだった。

 

「……あれ?」

 

「だから言ったろ? 見てろよってな!」

 

「アンタ意外とやるじゃない! 今のとこカズマより有能じゃない?」

 

「おい」

 

カズマとアクアの目に映ったのは池中に浮かぶ大量のアリゲーターの姿。ほとんどの個体が腹を上にして無力化されていた。

 

「というか、出来るなら初めからやれよ!」

 

「しょうがねえだろ! コイツはちょいと疲れるんだよ! 本来流れるモンを流れないように制御すんだ。集中が絶対! そのために動けねえ本体! 何ならオマエだけ省いて早めてもイイんだぜ?」

 

「あ、いや、すんません……」

 

その後、少しづつ襲ってくるアリゲーターをカズマが位置を知らせ、グリフォンが始末するというコンビネーションでアクアを防衛し、意外にもあっさりと浄化が終わったのだった。

 

なお、その間ダクネスは電撃を味わおうと池に飛び込もうとしていたが、池のあまりの濁り具合に躊躇しているうちに作業が全て終わり、少し後悔していた。

めぐみんはたびたび放たれるグリフォンの電撃に何かシンパシーを感じ、爆裂魔法ほどでは無いものの、彼女の美学なりのカッコ良さを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼らが少し歪んだ檻と共にアクセルの街へと帰還すると、いかにも勇者の様な身なりをした者とそのパーティーメンバーに道を阻まれる。

 

「お前がサトウカズマだな」

 

「そうだけど」

 

「お前の悪事は知っているぞ! いたいけな淑女から下着を盗んだり、女神様を魔物の囮にしているそうだな!」

 

「エッ!? オマエそんなコトしてんの? 常人っぽいツラして中身は狂人だったか……」

 

「おまっ! 囮にはしてねえよ!」

 

「盗みはヤったのか」

 

「……」

 

「この僕、ミツルギキョウヤはお前に決闘を申し込む! そして女神様をお前の様な悪党の手から取り戻させてもらおう!」

 

何やら話が面倒な方へと進んでいる様だ。"なんとか弁明してくれない?"とアクアの方へ視線を移すが、肝心の彼女は居なかった。

 

どうやら、彼女はギルド前に決闘用のリングを作っているようだ。人を上手くサークル状に並ばせてリングとしている。

 

一瞬だけ目が合ったが、特にこれといった事はなく。頑張れと目だけで応援していただけだった。

 

「オイ、どうすんだ? そこら辺から聞こえてきた話じゃあ、コイツは期待の勇者サマだそうだ。ガチバトルじゃ勝ち目はねえぞ?」

 

「マジか……」

 

「特にあの剣、面倒そうだぜ? もしやるとしたら、何とかして避けねえとウジ虫どものディナーになる事間違いナシだな」

 

グリフォンの言葉に自身の最悪な姿を想像し、背筋に悪寒が走るカズマ。しかし、お相手の勇者様はグダグダしているカズマにお怒りの様で、彼にそうこう言っている時間は無かった。

 

「ちょっと! あんたさっさと準備しなさいよ!」

 

勇者のパーティーである二人の女性の内の一人に急かされる。言わずもがな、どんどんカズマの内に怒りが込み上げる。

 

「わかったわかった。行けばいいんだろ」

 

表面上は冷静を装う。しかし、内側は噴火寸前の火山の様であった。

 

勝手に決闘場とされたギルド前に向かう途中。先ほどまでアクアと一緒にリング作りしていた仲間達がカズマの元へ集う。

 

「カズマ、あの自称勇者野郎かなりヤバいです。危うく爆裂魔法を撃ち込むところでした」

 

「流石の私もあれは……勘弁願いたいな」

 

「めぐみんはともかくダクネスが言うとは相当だな……」

 

皆、どこか疲れた顔を浮かべていた。どうやら、あの勇者にスカウトされた様だ。しかし、本人の意図とは逆の効果を発揮していることから、相当誘い方が下手な様だ。

 

噂をすれば、その問題人物がカズマの肩に止まるグリフォンへその矛先を向ける。

 

「そこの使い魔もどうだい? 僕のパーティーに入らないか? 餌も住居もちゃんとしたものを用意すると約束しよう」

 

「ホントか? ホントに用意してくれんのか?」

 

「ああ! もちろん! そこの盗人とは違う良いものを用意しよう!」

 

どうせ一言二言耳障りな言葉を並べるだろうというカズマの予想は見事に裏切られた。

だが、彼の動揺を察知したのかグリフォンは耳元で"まあ見とけ"と小さく呟くと、会話を聞いていた者全員が驚愕する様な言葉を放った。

 

「そうかそうか! じゃあ、新鮮なタマシイでも用意して貰おうじゃねえか? 特に、ヤル気たっぷりの勇者サマのモンが一番欲しいぜ! そこの盗人よりいいモンくれるんだろ? そうだよなあ?」

 

「た、魂だって!?」

 

「ああそうさ。コイツと同じ様にオレみたいな魔獣と契約したいんだろ? タマシイがイヤなら寿命でもアリだぜ? コイツは30年くれた。オマエは何年くれるんだ?」

 

事情を知っているカズマからしてみれば、この一連の流れはよく出来た芝居だと思っただろう。しかし、相手は真面目な勇者様。グリフォン自身の黒々しい見た目も相まって、コレが真っ赤な嘘だとは気が付かない。

 

「い、いや、さっきの話は無しで……」

 

故に、ミツルギは表情こそ変えなかったがその顔を青く染め、自らの言葉を撤回した。

 

「ヘッ、口約束も守れねえ勇者サマか。笑えるぜ、なぁ?」

 

適当な街灯に降り立ち、大袈裟なジェスチャーと共に放たれた言葉は、彼の自尊心を大きく傷付けた。

 

なお、この言葉は取り巻きの勇者信仰を冒涜した様で、その筆頭であるフィオとクレメアから矢と魔法のブーイングが大量に飛んできた。

しかし、相手が悪かった様でどちらも有効打を与えることなくあしらわれたのだった。

めぐみんとダクネスが彼の行動に珍しくグッドサインを浮かべて言うまでもない。

 

「ゴホンッ……始めようか!」

 

ショックで全ての機能が一瞬停止したミツルギだったが、咳払いで自分のペースを取り戻す。

 

既にリングは出来上がり、出場者も揃った。もう逃げられない。というより、勇者の囲いの方々からの目が痛い。ここで逃げれば根も葉もない噂をばら撒かれるだろう。故に逃げられない。

 

「じゃあ、行くぞ? よーい……スタート!」

 

先手を打ったのはカズマだ。直線的に突っ込んで右手を突き出す。それが彼の十八番であるスティールだと読んだミツルギは、当然ながらその軌道上から軸をずらして避ける。

 

しかし、辞書に正攻法という言葉がないカズマに対し、そんな素直な行動は悪手であった。

 

「おら、食らえ!」

 

握り込んだ右手は元よりフェイク。彼の真意はクリエイトアースで生み出した良質かつ細かな土をミツルギの瞳へばら撒く事だった。

 

「うわっ! くっ……! 卑怯な真似を!」

 

勇者でも人間の反射的行動には逆らえない。しかし、何も見えていない筈にもかかわらず、彼の剣は何故かカズマの方を向いていた。

 

「次は……クリエイトウォーター!」

 

不用意に近づいていたら、文字通り細切れ肉になっていただろう。幸運にも、念には念を入れるカズマの行動が運命をそれから遠ざけた。

 

「ただの水鉄砲で何ができる!」

 

カズマの魔法で全身びしょ濡れとなったミツルギだが、何のダメージも無いこの攻撃を挑発として受け取ったらしい。

水で洗い流された瞳と彼の持つ魔剣は彼を確実に死へと追いやるだろう。

 

「知ってるか? 水は凍るんだよ!」

 

真っ直ぐ剣を上段に構え、突っ込んでくるミツルギに最後の締めが炸裂する。彼の濡れていた部分は余すことなく氷と化し、即席の拘束具となり彼を止めたのだ。

唯一濡れていなかった顔を残し、他は見事な氷像となっていた。

 

「なっ!?」

 

「こいつで終わりだ! スティール!!」

 

彼の右手が光り輝きミツルギへと向かう。目標はあの魔剣だ。

 

しかし、彼は忘れていた。ここがギルドのすぐ前だという事に。決闘などに興味を持たない者達にとって、ここはただの出入り口であるという事に。

 

「よっしゃあ! ってあれ?」

 

右手が一層光り輝き、盗みが完了したことを知らせる。しかし、光が収まった時に目の前にいたのはあの魔剣の勇者ではなく、ギルドからただ出てきただけのVの姿だった。

いつも通りのサンダルに、どこで売っているのか分からない服、そして老人の様な()()()…。

 

「オ……オイ、V! 鏡見ろ! そしてカズマ! ゼッタイ手を開くな!」

 

グリフォンが焦る様な口調でVへ指示。カズマへ警告を放った。

Vはすぐさまギルドの窓ガラスに反射する自分の姿を確認し、カズマは今まで意識していなかった右手へと視線を移す。

 

「え……? これ……何だよ……!?」

 

見た目に何も異常は無い。彼を大きく動揺させているのは、その手の中の感触だった。

何かドロドロとした液体の様な物が、這い回る様な感触。

 

気持ち悪いと思っていた矢先、その何かはカズマの握り込まれた拳をゆっくりと、圧倒的な力で開け始める。

 

「ま、待て待て待て!」

 

先程の切羽詰まった警告を思い出し、空いていた左手で右手が開かない様に押さえつける。しかし、まるで車を持ち上げるジャッキの様に確実にゆっくりと押さえつけた手が開いていく。

 

「……やってくれたな。サトウカズマ」

 

無理矢理半分開かれた手。その間から紫の瞳を覗かせたのは、小さな小さな破壊の権化だった。

 




いつもコメントや誤字報告ありがとうございます!
今更になって始めの話の誤字報告があった時は驚きました。
未だに自分でも見つけられない部分が多いと思うので、これからも容赦なくお願いします。
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