この素晴らしい世界に魔獣使いを!   作:黒チョコボ

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Mission19

Mission19

 

ミツルギは怒っていた。決闘で歴然の差をあの盗人に見せつけ、女神を救う筈だった。

しかし、現実は搦手に次ぐ搦手で体を凍らされ惨めに敗北の時をただ待つだけ。そこで、潔く負ければまだ救いはあったかも知れない。

 

一度負け、再び這い上がり、悪を制す。そんな勇者もいるからだ。

 

それがどうだ。このいかにも悪っぽい謎の男にそのトドメすら庇われてしまった。彼にとってこれは屈辱以外の何物でも無かった。

 

凍った体はもうすでに解凍された。こうなったら何としてでもあのサトウカズマとかいう悪党を倒し、名誉挽回するしかない。

 

 

「サトウカズマ! これで終わりだ!」

 

 

周りの見えていない自称勇者はカズマを斬るべく、剣を振り上げた。二人の間にVがいるにも関わらず。

 

 

「おいバカ! それじゃVまで……!」

 

 

だが、その行動が彼の一番の失態だった。

 

限りなくゼロに近いほんの一瞬。カズマに握られた破壊神はその力を解放する。その見た目に似合わぬ精密さをもって、カズマの指の隙間から破壊の濃縮された光をあの忌々しい剣へとプレゼントした。

 

その結果、ちょっとした爆発(当社比)がミツルギを中心に巻き起こる。リングを作っていた人々は衝撃でドミノの様に倒された。彼らの視界は雲混じりの青い空へ吸い込まれた事だろう。

 

同じように倒れたカズマの右手に誰かの手が添えられる。すると、先ほどまで手の中にあった不快感はスッと霧のように消え去り、代わりに全身を激しい倦怠感が襲った。

 

 

「あ、あれ? う、動けねえ!」

 

 

地面に仰向けに倒れたまま動けなくなったカズマ。彼はこの現象に嫌と言うほど覚えがあった。

 

 

「ま、まさか……魔力切れ?」

 

 

あの爆裂狂信者のいつもの姿と瓜二つな今の状態に、焦りが生じる。今のままでは、あのぶっ飛んだメンバー達に何をされるか分からない。

そんな中、唯一頼れるのは一人しかいなかった。

 

 

「あの……Vさん。助けて……くれませんか?」

 

 

目の前に立つ男、Vへとその言葉は放たれた。風になびく黒髪の下に見えた瞳はまるでゴミを見るかのようだ。

 

 

「……どうした?」

 

「あの……多分、魔力切れで……動けません」

 

「……そうか、ならお前の仲間に頼る事だな」

 

「え……!?」

 

「ヘッヘッヘ、ザンネンだなカズマちゃん! 我らがVチャンはどうやら面倒ごと起こされてご立腹のようだ。世界は残酷! 運命は過酷ってな」

 

 

カズマの視界の上の方から生えてきたグリフォンの頭。彼の頭側から顔を覗き込むそのさまは、まるで死体を貪るハゲタカだ。

実際、生きたまま貪られる訳ではない。しかし、Vの判断はほぼそれと同等だろう。

 

 

「いや……気が変わった。助けてやろう」

 

 

ところが、Vが急に踵を返して戻ってきた。カズマの内に僅かな希望が生まれる。だが、彼の表情を見た瞬間、その希望は曇り始めた。

 

 

「魔力が必要なのだろう? これで補給すると良い」

 

 

口端を上げたVが懐から取り出したのは、小さい試験管。中に入っているのは緑色の液体。現代知識のあるカズマはその色からすぐさま危険な味だという事を察知する。

 

 

「安心しろ、少し苦いだけだ。問題無い」

 

 

サディスティックな笑みを浮かべたVは躊躇なくその中身をカズマの口へ突っ込んだ。

その効果は凄まじく、動けなかったはずのカズマが飛び起きる程であった。だが、その後カズマは先程とは逆に四つ這いの体勢で声にならない嗚咽を漏らしていた。

 

グリフォンはその様子を見てあの劇薬の味を思い出してしまい、同情の目をカズマへと向けていた。

 

カズマのスティール騒動で完全に忘れていたが、勢いでVをぶった斬ろうとした張本人がどうなったのか確認すべく、Vは今度こそ踵を返した。

 

 

「ア〜ア、完全にオネンネしてら。オマケにヤバそうな剣は根本から真っ二つ! アイツが仲間で良かったとつくづく思うぜ!」

 

「ほう……ただの剣では無かったか」

 

 

爆発で完全に意識が明後日の方向に飛んでいったミツルギ。そんな状態にも関わらず、未だに握られた剣をVは無慈悲にも奪う。

しかし、Vが剣を握ってもあの魔剣のような力は流れて来ない。それどころか、これっぽっちの力すら、その剣からは感じなかった。

 

 

「……ただの玩具か」

 

 

そうなってしまえば彼の行動はただ一つ。興味の無くなった玩具の剣をゴミのように捨てる。

そして、貸出期限の切れたグリフォンをカズマから返却してもらうと、これ以上の面倒事を避けるべく、早急にこの場を後にした。

 

なお、カズマは無事回復し魔力切れの所を仲間に弄ばれる事は無かった。しかし、肉体、魔力的な観点では完全回復だったが、精神だけはそうでは無かったようだ。

しばらくの間、カズマの顔は心なしかげっそりとしていたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し巻き戻る。Vがカズマにスティールをされる前、彼はクリスとギルドに居た。その理由は、以前持ちかけられた彼女に協力するかの件だった。

 

 

「それで、わざわざこの席に来たって事は多少なりとも協力してくれる気なったって事?」

 

「……話を聞いてからだな」

 

「話って言ってもねえ……前に洗いざらい吐いちゃったし」

 

 

クリスは苦笑いを浮かべながら机の上に置かれた飲み物をストローを通して飲む。そして、一息ついてから言葉を捻り出していく。

 

 

「そうだね、何か……こう、天界と地上を繋げる物……そんな物があればって思うんだけど……」

 

「あるな」

 

「そんな物ある訳……え?」

 

 

教えてくれと机に身を乗り出したクリスをVは手で制し、"こちらの要望も言わせてもらおう"と鋭い目を彼女へ向けた。

 

 

「……俺はとある理由で肉体がこの有様だ」

 

 

Vは左手のみ誤魔化しのない真実の姿へと戻し、クリスに見せつける。それを見た彼女は驚いた後にその顔を青ざめさせる。

 

 

「この肉体を元に……いや、回復させられる物。それが望みだ」

 

「それは……一体どうやったら……?」

 

「そうだな……ユリゼンと一悶着あった。そういう事にしておこう」

 

「はぁ……しておこう、ねぇ」

 

「それで、心当たりはあるのか?」

 

 

この協力関係を取り付けるためということもあり、クリスはあたかも候補があるような表情を浮かべていたが、内心では必死になって何か該当する物がないか自身の記憶を探し回っていた。

 

 

「そ、そうだね……まずその体はポーションとかの回復薬で治ったりはするのかな?」

 

「……一時的に改善はする。今の所、効果があるのはコイツだけだがな」

 

 

時間稼ぎとして苦し紛れに放った質問は、意外にも効果をもたらしたようだ。

Vは返答と共に試験管をクリスの前へ丁寧に置いた。もちろん中身は深い緑色だ。

 

 

「何これ……薄めて使うの? ってぐらい濃いけど……」

 

「いや……そのまま使っている」

 

「え……!? そ、そのまま!? な、何ともないの!?」

 

「……ああ」

 

 

クリスがここまで驚く理由が分からないVは、いつも通り感情の薄い返事をする。

 

 

「本来、傷を負ってない状態でポーションを飲むのは良くないんだよね。ほら、薬と毒はなんとやらってよく言うでしょ?」

 

「……中毒になる。そう言いたいのか?」

 

「そうそう。でも、それで何ともないという事はやっぱり傷を負ってる訳だし……」

 

 

クリスの脳裏で情報が整理される。

ポーションは効いている。しかし、時間経過で元のボロボロな状態へと逆戻り。ポーションが弱い訳では無く、むしろ強すぎる程。副作用ではない。何か裏があるんじゃ無いかと思う程に不可解であった。

 

クリスが頭を悩ませる中、Vのボソリとこぼした発言が、小さく響く。

 

 

「"呪いで意気込み、祝福で気が抜ける"……呪いが無ければ祝福も要らない。気を入れなければ、抜ける事はない……そういう事か」

 

 

いつの間にか開いていた詩集をパタンと閉じると、Vはそっと話し始めた。

 

 

「お前は……魂と言うものを信じるか?」

 

「信じるも何も、本業で取り扱ってるんだけど……」

 

「そうか……なら言うが、俺はこう考えた。"設計図が壊れている"とな」

 

「設計図? まさか……魂」

 

「ご名答だな……そう言う事だ。記録されたデータが欠陥なら、それによって出来た体も欠陥なのは自明の理だ」

 

「そんな……! そんな事できる訳……!?」

 

「悪いが出来る。俺には心当たりしか無いからな」

 

 

落ち着いているVとは逆にクリスは困惑を隠せなかった。彼よりもソレの事を熟知していると言う事もあるだろう。

彼女の中では、魂はブラックボックスと同義だ。彼女が天界で行っていた作業でも、決して中身を見たりはしていない。というより、中身を見た時点でその魂は壊れ、まともな生物の形をとる事が出来ないのだ。

 

彼女にとって常識とも言えるこの知識が混乱を増幅させていた。

 

 

「心当たりがあるって言ったけど、一体何があるの?」

 

「待て、先に答えてもらおう。俺のこの設計図の欠損をお前は直す術を知っているのか、いないのか」

 

「はっきり言って……出来ない。せめて、無くなった欠片がちゃんと残っていれば出来たかもしれないんだけど……」

 

 

クリスが残念そうにVに告げる。いくら女神といっても出来る事には限りがあるらしい。そして、これは交渉だ。その材料を失ったのならもう用はない。

 

 

「……そうか、なら交渉決裂だ」

 

「ま、待って! 根本的な回復では無いけれど、一応策はある」

 

 

椅子から立ち上がり、出て行こうとするVをクリスはなんとか押し留める。天界に戻る。ただそれだけが、彼女をここまでしぶとくさせているのだろう。

 

 

「その本やアクセサリーに、回復系の恩恵を付ければ、常に回復し続けられる……そうすれば、擬似的に元の状態に戻れると思う」

 

「……魔法でポーションを常に服用した状態にする訳か。中毒とかは無いのか?」

 

「今の所、聞いた事ないね。とにかく、これでどう?」

 

 

彼女の言いたい事は交渉がどうなるかという事だろう。

確かに、この内容は彼にとって魅力的ではある。だが、そのアクセサリーには女神の祝福がかかるだろう。つまり、グリフォン達にはかなりの迷惑だ。そう考えると、今のポーション漬けの方がよっぽど良い。

結局、Vの出した結論は"交渉決裂"の四文字であった。

 

 

 

 

 

 

「……交渉成立だ」

 

 

しかし、Vの口から出た四文字は結論で出した物とは異なっていた。

その理由は、Vが口を開く前のクリスにあった。

 

 

 

 

 

祈っていた。

 

 

 

 

 

いや、本当はただ手を組んだだけで祈っては無いのかもしれない。神が神に祈るなどおかしな事だ。きっと違うだろう。

だが、彼は知っている。全てを失い、誰の助けも得られなかった時、行き着く末路を。

 

故に、了承した。悲惨な末路を辿らせないためなのか、贖罪なのか、気まぐれか。その真意はVの中にのみ存在するだろう。

 

 

「ありがとう! いや〜断られたらどうしようかと思ったよ」

 

「……そうか、じゃあ教えてやろう。先ほど言っていた、異なる空間を繋げる……いや、次元に穴を開けられる物についてな」

 

「次元に……穴をあける……!? 神器でもそんな事できるかどうか……」

 

 

卓上にあるコップを見ながら、言葉を選ぶVをクリスは眺めていた。そして、彼が顔を上げた時、彼女は全神経を耳へと集中させた。

 

 

「閻魔刀……それが、次元に穴を確実に開けられる唯一の刀だ」

 

 

一言の逃さぬ様に、耳を傾けているクリスに"聞いた事はあるか?"と続けて尋ねる。クリスはゆっくりと首を横に振った。

 

 

「そして……俺の身体をこんな有様にした原因もそいつだ」

 

 

Vの発したその言葉に大きく反応するクリスを彼は手で制すると、続けて言い放つ。

 

 

「だが……恐らく閻魔刀はこの世界には無いだろう」

 

 

その一言で、クリスの表情が何とも言えない物へと変わる。無いなら候補にあげるな、とでも言いたげである。

 

 

「……何か言いたそうだな?」

 

「そりゃそうだよ。希望見せといて、最後の一言でどん底に突き落としたんだよ?」

 

「話は最後まで聞け……」

 

 

Vは軽く溜息をつく。そして、コップに入った水を大きく呷ると、再びゆっくりと話し始める。

 

 

「お前を倒したあの巨人は覚えているか?」

 

「あー……うん……覚えてるよ」

 

 

クリスの脳裏にあの悪夢が蘇る。最高火力を叩き込んでもびくともせず。何事も無かったかのように淡々と自らを吹き飛ばしたあの瞬間を。

 

正直、思い出したくは無い記憶ではあった。

 

 

「ソイツの能力の一つに瞬間移動に似た物がある。お前も経験があるだろう? 背後に突然あの巨人が現れたりした事がな……」

 

「や、やめて! アレ半分トラウマなの!!」

 

 

Vの恐怖を煽る語りで、あの時の記憶がだんだんと鮮明に蘇ってくる。ついに耐えられなくなった彼女は両手で耳を塞ぎ、目を閉じる。そして、流入する情報を完全にシャットアウトする防御体制へ移行した。

 

彼女があたかもアルマジロのように丸まっているのにも構わず、Vは話を続ける。

 

 

「……あの技を遠距離に応用する」

 

「出来る確証は?」

 

「無い」

 

「……そもそも、上の世界に行けるの? 多分、同じ世界でワープするのと世界を跨いでワープするのは違う気がするんだけど」

 

「ヤツなら行けるだろう」

 

「答えになってない……」

 

「当たり前だ。誰も試していない……いや、試せなかった方法だ。答えなど出る訳が無いだろう」

 

 

そう言われてしまうと何も言いようが無い。正規の方法では無いのだから多少賭けになる部分も出てくるのは必然と言えるだろう。

 

仕方なく口籠もるクリスにVが出したのはもう一つの方法だった。

 

 

「……もう一つの策としては、ヤツの最高火力で次元を無理矢理こじ開ける」

 

「うーん……うん? 待って、今なんて言った?」

 

「火力で次元をこじ開ける」

 

「ちょっと何言ってるかよく分からないなぁ」

 

「先にお前の耳に穴を開けてやろう。その方が良く聞こえるだろう?」

 

 

クリスの目の前にそっとフォークが置かれる。こいつを耳に突っ込もうものなら瞬く間に穴が4つに増えるだろう。

冷や汗を垂らしながら、Vを見る。いかにも悪そうな笑みを浮かべている彼を見て、これがジョークだと気づき安堵した。

 

 

「冗談に聞こえないんだけど……」

 

「当たり前だ。ジョークとして言っているわけではない」

 

「えっ?」

 

「次元をこじ開ける話はな」

 

 

わざととしか思えない悪質な倒置法のおかげか、クリスは何か重いものを含んだ溜息をついた。

Vはその様子を見て鼻で笑った。

 

 

「道具を使うならまだしも……力技でしょ? 本当にこじ開けられるの?」

 

「さあな……ただ、一つ言える事は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺も……お前も、あの悪夢を見くびっている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見くびっているって……私はそうだとしても何でそっちも……?」

 

「……アイツの原動力は俺自身のちっぽけな魔力だ。だからこそ俺の全力と、アイツの全力は同じでは無い」

 

「あーはいはい。燃料が少ないからフルパワーを今まで出せてないって言いたいってことね。それで?」

 

「……アイツがその気になれば魔界を滅ぼせる」

 

「……え?」

 

 

Vの言葉の中身が飲み込めず、ただただ瞬きを繰り返す。数秒間、唖然とした様子で先程の言葉を頭へ読み込み、それが終わった時にはクリスの顔は真っ青に染まっていた。

 

 

「こ、これは本当に冗談だよね? 本当なら納得できる理由が欲しいなー……なんて」

 

 

あまりに常識はずれな内容を信じたく無かったのだろう。彼女は必死にいつもの態度を装いながらも、否定するための材料を探った。

 

理由を尋ねたのもそのためだろう。明確な根拠が無ければ容易に否定できるのだから。だが、その問いは逆にクリスを追い詰めた。

 

 

「……創造主が地上侵攻のため創り、そしてその大きすぎる力に恐れ、自らの手で拘束具を付け、暴走しないよう封じ込めた」

 

 

クリスの表情がさらに青ざめる。両手で頭を抱えまるで怯えているかのようだ。

Vはお構いなしに話を続けた。

 

 

「……魔帝ムンドゥス。それが創造主の名だ」

 

 

聞き覚えがあるのか、驚愕の表情を浮かべるクリス。そして、また一層顔を青ざめさせた。ここまで来ると何かの果実のような色合いだ。

 

 

「そして今、奴が施した拘束は解かれている」

 

「な……! な……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんて恐ろしいものを連れ歩いてるんですか!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もはや、クリスを装う事を忘れ、素の口調で叫んだ。幸運にも、ギルド内の人間は出払っており、受付の嬢を驚かせただけで済んだ。

 

 

「はあ、はあ、はあ……君! もし暴走なんてしたらどうするのさ! この世界は終わりだよ?」

 

「愚かだな……貴様は先程まで何を聞いていた? ヤツの原動力は俺の魔力だ。仮に暴走したとしても、数秒で終わりだ」

 

「その数秒でどれだけの範囲が吹き飛ばされると思ってるのかな?」

 

 

青ざめてたかと思いきや、今度は顔を真っ赤にして色々と小言を連ねているクリス。Vは脳裏にこの世界の通貨の名を思い浮かべると、彼女が暴走をここまで恐れている理由を察した。

 

 

「……そう言う事か、お前が執拗に気にするのも分からん事はない」

 

 

胸ポケットからおもむろに硬貨を一枚取り出すと、表と裏のデザインを見る。案の定、女神らしき姿が描かれていた。一部分だけ現実とは差異があるが、Vは黙する事にした。

 

 

「今更言っても信じないだろうが、アイツは多少の言う事は聞く」

 

「だから暴走しないって言いたいの?」

 

「端的に言えばそうだ」

 

「魔帝が制御出来なかったものを制御できるとは思えないんだけど……」

 

「……ヤツは大きな間違いを犯した。アイツを意思なき機械だと思い込んでいた。故に失敗した」

 

 

Vはコインを指で弾く。それは放物線を描きながら、クリスの前に置かれた空っぽのグラスに綺麗に収まった。

 

 

「アイツには……意思があった。そうでなければ、俺に協力などするはずが無い」

 

「それが言うことを聞く理由ってこと?」

 

「そうだ。少なくともアイツは自分の意思で俺と共にいる。今はまだな……」

 

「不穏極まりないんだけど」

 

「嫌なら他の方法を探す事だな」

 

 

そう言うなりVは立ち上がる。そして、ただ一言"俺の分の金ならそこに入っている"とグラスを指さすと、やけに人の少ないギルドから出て行ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり何考えてるか全然分からないな……」

 

 

クリスは彼が出て行ったことを確認してからボソッと呟いた。

 

 

「というか、雰囲気が怪しすぎるんだよねえ……何か色々知ってるし」

 

 

Vの話した内容には悪魔に関しての事もあった。ただ、彼女は元々ガチの悪魔アンチだ。奴らについてはどの様な形であれ、既に調べ尽くしている。

だが、彼の語った内容は彼女ですら知らぬ事ばかりであった。

 

 

「特にアレ! 魔帝だよ! 魔帝! 何であんな内情まで知ってんの!? ……素直に信じちゃった私も私だけど」

 

 

あれ?とクリス中で疑問が生じる。そもそも、魔帝の内情を知っているという時点で気付くべきだったのかも知れない。

 

天界でも魔帝との戦いはあった。ただ、戦況は魔帝側が圧倒的優勢であった。相手の本拠地であるあの島に足跡一つ残す事すら叶わないほどだ。

 

そんな状況下であの島はおろか魔帝の元に侵入する?そんなのは不可能だ。

なら、どうやってあの情報を入手したのだろうか?

 

導き出される候補はいくつかある。しかし、有力な候補の一つはクリスにとって信じがたい事だった。

 

 

「え? Vが悪魔? いやいや……! 彼本体からは何も……あれ?」

 

 

ふと脳裏に浮かんだのはVでは無い。Vのすぐ側にいるお喋りなアイツ。そして勝手に都合よく解釈し、確信した。

 

 

「そうだよ! グリフォンが全部知ってたんだ! だからVも知ってた……そういう事かあ」

 

 

こうして、クリスのメモにグリフォンは元魔帝サイドという注釈が加わった。さらに、Vに関しても追加で"怪しいところ多"とコメントを残した。

そして、自慢のメモを懐にしまい、コップの氷に突き刺さる硬貨を回収する。

 

そこで、やっと彼女は気づく。渡された硬貨はVだけで無く、クリスの分まで余裕を持って払える金額の物だった。

クリスはメモを取り出し、ただ一言付け加えると代金を支払いに向かった。

 

机の上に一時的に放置されたメモ。そこに書かれた"気前よし!"の一言はやけにご機嫌な文字で書かれていたのだった。

 

 




いつも感想や誤字報告ありがとうございます。
どちらもかなりのモチベになります!
遅筆なりに頑張ります!
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