この素晴らしい世界に魔獣使いを!   作:黒チョコボ

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Mission3

Mission3

 

視界が完全に光に覆われて、真っ白に染まる。だが、それに不釣り合いなほどに真っ黒な身体は、光に溶けて消えてしまうことは無さそうだ。

 

そんなくだらないことを考えているうちに身を包む光は弱まり始める。やっと着いたかとため息を吐きつつも内心はこれからどうなるのか少し楽しみだった。光が晴れると、一面緑の平原にある、塀に囲まれた大きな街の入り口に立っていた。

 

(ここが……奴が言っていた異世界とやらか)

 

外観から推定すると、技術面は元々居た世界の方が上だろう。なんせ、向こうには頭のおかしい機械仕掛けの大剣や悪魔も葬れる義手があるほどなのだ。もはや何でもありだろう。逆に向こうの技術が負ける所を見てみたいものだ。

 

だが、この世界には向こうにはない何かがある。それを含めると、こっちも負けていないのかもしれないな。

 

早速、街を探索……と行きたいところだが、その前にやることがある。俺は一旦街の入り口から少し離れた場所へ移動する。

 

「さて、久々に呼ぶか」

 

かつて、そうしたように体の魔力を集中させる。魔力は足りているな。では、お披露目と行こう。

 

「来い、グリフォン!」

 

体の黒い刺青の一部が水を得た魚の様に身体から剥がれ、そして小さな虫の様に群をなして、左腕に集まってゆく。そして、周囲の黒い群衆を吹き飛ばしつつ大きな翼を広げたのは、かつての良き相棒だった。

 

……翼が俺の顔面に当たったのは不問にしておいてやろう。

 

「よぉ! Vチャン! 久しぶりダナ! 寂しかったか?」

 

「Huh……まあな。話し相手が居なくて困ってた」

 

「イヤ~マジで助かったぜ! あの時Vチャンに拾われてなかったら俺ら完全にOUTだったぜ……!」

 

「……? 何があった?」

 

「ちょいとばかし復讐に勤しんでたのサ! まあ、負けちまったけどナ……」

 

復讐か……仮に俺がいたとしても、アイツとは力の差がありすぎる。そんな事、俺が言わなくても分かっているはずだ。まあ、その理由は聞かないでおいてやろう。

 

「なるほどな、だからあれ程までに弱ってた……という事か」

 

「そーゆーこと! だから、また拾ってくれてありがとヨ!」

 

「だったら、その分働いて貰うとするか」

 

「結局、いつも通りってことネ~」

 

俺は労いの気持ちも込め、左腕に止まっている相棒に右手を差し出す。

 

「お、Vチャンも少しはノリがよくなったか?」

 

わざとらしい皮肉込みだが、どこか嬉しそうに右足を出すグリフォン。二人は軽いハイタッチを決めた。

 

「少し聞きたいんだが……シャドウ達はどうした?」

 

少し前からシャドウも出そうと試みているのだが、いくら魔力を流しても向こうの応答がない。切り札の方も同様だ。

 

「ア~……まあ、アレだな。アイツらは簡単に言うと重症ってことだ。多分、しばらくは出て来れないんじゃないか?」

 

「そうか……分かった」

 

恐らく先ほど言っていた復讐とやらで死にかけだったのだろう。しばらくは出さずにそっとしておいてやるか。

 

「チョット俺からも言いたいことあるんだけどイイ?」

 

「構わない」

 

「今のVチャンの身体はもう魔力で無理やり維持してるって訳でもネエ。むしろ、自分で少しづつ魔力を作ってやがる。だからよお、これからは無理して節約しなくても良いんだゼ!」

 

言われてから初めて気づいた。体の維持に魔力は必要無くなったことは分かっていた。だが、魔力を自分で補充しているというのは自分では分からない。今までの朽ちかけの身であれば分かったかもしれない。

 

「そうか……そいつは助かるな」

 

「よし! そしたらとっとと観光しに行こうぜ!」

 

話を終えた俺は街に入るべく入り口へと向かう。しかし、肩に乗った奴のせいで非常に歩きづらい。

 

「……おい。いつまでそこに乗るつもりだ……? さっさと戻れ」

 

「え…!? もう色々とケチる必要無えんだからさ、少しぐらいイイじゃねえか。俺にも街を一目見させてくれよ!」

 

今までは自分自身を現世に押しとどめるために魔力を使っていた故に、魔力が切れるという事はすなわち死を意味していた。だからこそ、グリフォンなどの魔獣達には、戦いにおいて必要最低限の魔力しか分け与えなかった。魔獣の力を借りない時は自分の身体に戻し、顕現し続けるのに要する魔力を削減していた。

 

だが、今はもうそのような配慮は必要ない。しかし、別の問題がある故に俺はコイツを下ろす必要があった。

 

「無理だ……! 自分がどれだけ目立つのか考えてから言え」

 

ただでさえ珍しい格好をしているのに、そこにお喋りインコが一緒にくっついて居たら、目立たないわけがない。

 

「じゃ、じゃあサ。オレは空高く飛んでるからよ。その間にそっちが街を探索するってのはどうだ?」

 

「……空を見てみろ。お前みたいな大型の鳥は何匹いる?」

 

呆れながら上を指差すV。恐る恐る頭を上げたグリフォンの目に映ったものは、雲が少し浮いている美しい空。そして、小鳥の小規模の群れが空を飛ぶ様子だった。

 

「あ~……将来性がありそうなのはいくつか……」

 

「じゃあ無理だな。諦めろ」

 

グリフォンの返答を待つことなく首根っこを掴むと、半ば無理やりだが自分の身体に刻まれた刺青へと戻す。

 

(やれやれ、少し時間を食った)

 

「ねえ、君。何してるの?」

 

グリフォンとのやり取りを終え、大きく息を吐いたVの背後から突如呼びかける何者かの声が響く。ゆっくりと振り向いた先には、一人の銀髪の女性。

 

「……ああ、少し街を見ていた。初めて来た街だったものでな。」

 

嘘だ。壁に囲まれているこの街を、外から見ることなど出来るだろうか?壁を見ていたと言えば問題なさそうだが、それはそれで変人と間違えられるだろうな。

 

「ふ、ふ~ん、そうだったんだ。という事は……もしかして冒険者希望?」

 

ありがたいことにグリフォンとのやり取りは気づかれていなかったようだ。そして、今この女が言った“冒険者”というのも知っておかねばなるまい。ちょうどいい、この女に色々と聞いてみるとしよう。

 

「まあ、そんなところだ。そのためにはどうすれば良い?」

 

「だったらギルドに行けば冒険者の登録が出来るよ! 案内してあげる。ついてきて!」

 

「すまないな。あ~……何と呼べばいい?」

 

「おっと、自己紹介がまだだったね。アタシはクリス。よろしく!」

 

「俺は……Vだ。Vと呼んでくれ」

 

お互いに自己紹介を終えた後、俺はクリスに街を軽く案内してもらうと同時に、ギルドという所へと向かっていた。

 

「着いた! ここがギルドだよ!」

 

クリスの指さす方向には一般の民家よりも少しばかり背の高い建物が建っている。やはり、冒険者のたまり場なのか、比較的人が密集している。中に入ると、珍しいからか至る所から痛いほどの視線を感じる。その中の誰とも目を合わせることなく、俺は受付へと一直線に歩いて行った。

 

「駆け出し冒険者の街、アクセルにようこそ! 本日はどのようなご用件ですか?」

 

「……冒険者になりに来た」

 

「冒険者登録ですね? それでは、お一人様のようですので千エリス頂きます」

 

千エリス……まさかと思うが、この世界の通貨か?かなり面倒な事になった。残念なことに、俺には持ち合わせが無い。女神に聞いておくべきだったな。

 

「もしかして……Vってお金持ってないの?」

 

「……ああ」

 

「しょうがないなぁ~! じゃあ、先輩冒険者として代わりに払ってあげよう!」

 

クリスはドヤ顔を決めながら、受付にちょうどピッタリ千エリスを支払った。調子づいたその様子に、Vはほんの僅かだが面倒臭く感じていた。

 

「えーっと、千エリスちょうどですね。頂きました。では、初めに冒険者の説明をさせて頂きますね」

 

この後、少しの間だけだが、冒険者という職業について説明を受けていた。依頼を受け、完遂すると報酬が出る。簡単に言えば、何でも屋だ。流石に、合言葉は必要としないらしいがな。

 

「では、こちらの冒険者カードに触れて下さい」

 

言われるがままに、俺は目の前に置かれたカードへと触れる。すると、カードがほんのりと淡い光を放つ。

 

「これでいいのか?」

 

「はい、大丈夫です。えーっと……あれ?ちょ、ちょっとお待ち下さい……!」

 

カードを受け取った受付の女性はそう言うなり、ダッシュで裏の方へと行ってしまった。

 

「……クリス。こういう事は良くあるのか?」

 

「い、いやいや。アタシも初めてなんだけど……」

 

しばらく待っていると、少し困った様子で受付へと先ほどの女性が戻ってくる。

 

「すみませんお客様。もう一度カードに触れてもらってよろしいですか?」

 

「……ああ」

 

先ほどと同じようにカードに触れる。今度はまばゆい光がカードより放たれ、思わずカードを地面に落としてしまう。

 

「すまない……これでいいか?」

 

「はい。確認させていただきますね。えーっと、魔力が少し平均より高いですね。その他の値も普通なんですが……」

 

何か言いづらいことでもあるのか、受付の女性はまたまた困った表情を浮かべていた。

 

「……どうした?」

 

「あ、はい! えーっとですね、何故かここに黒いシミの様な物が出来てしまっていて……交換いたしますか?」

 

目の前に出されたカードには隅の方に黒いシミの様な物が確かに付いていた。しかし、そのシミは子供のいたずらの様な、遊び心を感じさせる物だった。

 

(なるほど、鳥のマークか……まさか、ここまで出しゃばりとは思っていなかったな)

 

口うるさい相棒の出しゃばり具合に思わず苦笑いを浮かべるⅤ。何の事情も知らない二人はそれを不思議そうに見ていた。

 

「このままでいい。特に害があるわけでもないだろう」

 

「はい。了解しました。では、次は職業を選んでいただくのですが……あれ?魔獣使い?」

 

「……魔獣使い?」

 

「ええ、どうやらこの職業しか選べないようです……本来表示されるのは獣使いのはずなんですが……」

 

不思議と縁のある言葉ばかり出てくる。これも、アイツの出しゃばりの延長線上にある物なのかは分からないが、ここまで自分に合った職業も中々無いだろう。

 

「ならそれでいい」

 

「わ、分かりました! では、こちらが貴方の冒険者カードです」

 

冒険者カードを受け取った後、そのまま流れで依頼について説明を受ける。どうやら、すぐ横にあるボードに貼られているのが依頼だそうで、基本的に早い物勝ちだそうだ。

 

「V、アタシはこれから用事あるから。じゃあね!」

 

「ああ……世話になった」

 

説明を聞き終えた頃、クリスは私用があると言い何処かへ行ってしまった。まあいい、むしろこちらの方が俺としては都合がいい。

 

この中で難易度が一番低いクエストを依頼したⅤは、誰ともパーティーを組むことなく、一人でアクセルの外へと出向いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「カエルか……いい思い出は無いな」

 

今回の討伐対象である“ジャイアントトード”。その見た目は元居た世界のカエルをただデカくしただけのモンスター。しかし、大きさ的には余裕で人ひとり丸呑みできるほどの体格だ。侮ったら一瞬で腹の中だろう。

 

「さあ、お前の出番だ。グリフォン」

 

「やっと出番か! 待ちくたびれちまったゼ!」

 

先ほどと同じように黒い粉塵を纏いながら、再び姿を現すグリフォン。ずっとVの身体に押しとどめられていたからか、周囲を勢いよく飛び回り自由を堪能しているようだ。

 

「お前の相手はアイツだ」

 

「カエル? 流石に氷は撃ってこないよナ?」

 

Vは杖でグリフォンが攻撃すべき相手を指す。杖の示す先にずっしりと座っているジャイアントトードを見て、グリフォンは何かを勘違いしたのか、訳の分からないことを口走っていた。

 

「安心しろ、そんな能力は無いはずだ。まずは手始めに最高火力で攻撃しろ」

 

「へへッ! 任せな!」

 

グリフォンはその場で力を溜め始める。そして、周囲に軽くスパークを起こすほどの紫電を纏う。

 

Vはこの時、密かな期待を抱いていた。かつての彼と違い、今は魔力などいくらでも与えられる。そのおかげか、グリフォンの纏う雷は既に今までの限界値を超えていた。膨大な魔力と共に放たれる一撃はどれほどの物か期待を抱かないわけが無かった。

 

 

 

 

しかし、放たれた雷撃はその期待を裏切るかのようにたった一発だけだった。

 

「アレ? マジかよ!」

 

オロオロと慌てるグリフォン。そんな態度とは裏腹に、カエルの焼き加減はしっかりとウェルダンになっており、香ばしい香りを乗せた煙が空へと昇っていた。

 

「……やはり、無傷ではなかったか」

 

シャドウ達が顕現することすら出来ないほどのダメージを負っているのに、グリフォンが無傷のはずが無い。恐らく、そのダメージが回復しきってない故に、今の攻撃は今までと比べ、弱弱しい物だったのだろう。

 

「ア~……やっぱり?」

 

「しばらくは休養が必要かもな。だが、あと4匹分だけは今ここで仕留めてもらうぞ」

 

「オッケー! 任せとけって! ちょっと時間は掛かるけどナ……」

 

その後、一人と一匹はジャイアントトードに対し遠距離から雷を落とし丸焦げにするという、かなり一方的な戦いを4回繰り返し、しっかりとクエストを達成した後、ギルドへと戻ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジャイアントトードの討伐、ありがとうございました。こちらが報酬の五万エリスになります。死体の買い取りの分はまた後日お渡ししますね。」

 

受付の女性から報酬を受け取った後、俺はここら一帯の情報を得るべく、ギルドの酒場にて話しやすそうな奴を探していた。さっきのクリスとかいう女と同じぐらい話しやすい奴が良いだろう。

 

しかし、こんな面倒な奴に絡まれたくない時ほど、運命というのはささやかないたずらをするものだと、俺はこの時実感した。

 

 

 

「ねえ、ちょっとそこの黒い人! 私はアクシズ教団の崇める女神アクア! あなたがアクシズ教徒だったら千エリスほど恵んで下さらない?」

 

第一声がこれだ。この言葉を聞いた瞬間、コイツはまともじゃないと俺の中の警報装置がけたたましく鳴り響いた。いきなり自分を女神だと自称する奴など、俺は今まで聞いたことが無かった。

 

「悪いが、他の奴を当たれ。金に困ってるのはこっちも同じだ」

 

「他の人? 一人もいないけど?」

 

キョトンとした顔でとぼける自称女神を横目に辺りを見回すと、先ほどまでいたはずの冒険者達は、煙のように消えていた。恐らく、コイツの次の矛先になることを恐れたのだろう。

 

「ねえ! ちょっと! 行かないで! 見捨てないでよぉ!」

 

俺自身もこの状況から逃げ出したい衝動に駆られ、急いで出口へと向かうが、泣きじゃくる自称女神に足に抱き着かれ、逃げようにも逃げられない。

 

「おい、この駄女神! 何やってんだ!」

 

必死にこの女へ湧き上がる殺意を抑え込んでいると、コイツの同伴者らしき青年が、脳みそが詰まっているのか怪しい頭に拳骨を振り下ろす。

 

その痛みなのかは知らないが、足を掴む力が緩んだのを好機と見た俺は、自称女神を振り払い、呼び止める声を背中で跳ね返し、逃げるように外へと飛び出す。

 

奴に対してナイトメアを呼び出さなかったことを褒めてやりたいほどだ。

 

「グリフォン! さっさと逃げるぞ……!」

 

「え……!? まあ、ヤバイ奴だってのは聞いてて分かってるけど、ホントにいいのか?」

 

「俺とは壊滅的に合わん奴だ……! 早く行くぞ……!」

 

「ア~……オレはどうなっても知らねえからな!」

 

Vは街のど真ん中でグリフォンを呼び出す。予想通り、周りの人々は何事かと注目するが、さっきの女性にアレルギー反応を起こしたVはそんなことなど顧みず、グリフォンの足に捕まっていち早くギルドから離れるのであった。

 




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