この素晴らしい世界に魔獣使いを!   作:黒チョコボ

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Mission7

Mission7

 

グリフォンを偵察代わりに向かわせてしばらく経つ。手頃な木に寄りかかり耳を澄ますが、羽ばたく音さえ聞こえない。吹き抜ける風がパラパラと詩のページをめくっていく。

 

不意に耳へ響く風を切る音。音を頼りに横に手を伸ばし、つかみ取ったのはアイツの羽根。

 

「……“自らの羽で飛ぶのであれば、鳥はどこまで飛んでも大丈夫”」

 

風の気まぐれで開かれた詩を紡ぐ。

 

「Huh……手のかかる奴だ」

 

シャドウを呼び、羽根を渡す。本来の豹に近いサイズより一回り小さいが問題無いだろう。

 

「これ以上飛ばれても困る」

 

軽く呟いたその言葉に同意するかの様にシャドウが小さく吠える。

 

「……消えない内に行くとしよう」

 

僅かな魔力の残滓を辿っていくシャドウと共にグリフォンの元へ歩みを進めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

放たれる弾丸を間一髪で避ける。しかし、大質量のソレは地面に当たるだけでも周囲を揺らす。

 

「オイオイ……この物騒なカメ野郎は何だ?」

 

「コイツです! コイツが私たちを襲って来た奴です!」

 

全身に纏った鉄の様な装甲をガシャガシャと鳴らしつつ、再びグリフォンへと砲塔を向ける。

 

「へッ! そんなトロイの当たるかよ!」

 

挑発代わりに砲塔の周りをグルグルと飛び回る。しかし、相手はそんな事お構いなしに狙っては撃つを繰り返す。

 

壁の亀裂が次々と生み出されていく中、ひっそりと端の方に移動していためぐみんは突如背後から肩を叩かれた。

 

「めぐみん! 俺だ! カズマだ!」

 

ちょうど数人が入れそうな小さな横穴からひょっこりとカズマが姿を現した。

 

「あれ? カズマじゃないですか。無事だったんですね」

 

「オイ、こちとら危うく死ぬところだったのに肝心の返しが“あ、お帰り”みたいな軽いノリってのはどういう事だ?」

 

「そんなこと言ってる場合ですか! あれ、アクアは何処へ?」

 

「ここよここ!」

 

カズマが出てきた隙間から手だけがヒラヒラと飛び出し、居場所をアピールする。

 

「何やってんだお前?」

 

「見れば分かるでしょ! 挟まったのよ!」

 

カズマの呆れを含んだ大声が周囲に響く。仕方なくめぐみんへ目配せをして息を合わせると、二人は全力でその手を引っ張った。

 

「ちょ、ちょっと強く引っ張りすぎじゃない? ものすごく痛いんだけど! これ以上やったら胸が取れちゃうってば!」

 

アクアの豊満な胸が不運にも突っかかっており、二人の力をもってしても引き抜くことは叶わなかった。

 

「くっそ! まじか、もういっそのこと取れるなら取っちまえ!」

 

「そうですよ! 一旦取った方が楽になりますよ!」

 

「待って待って! そんな取って外せるプラモデルじゃないんだから! これ以上やられたら取れるどころかちぎれちゃ「「せーの!」」ギャアアアアアアアアアアアア!!」

 

アクアの断末魔が鼓膜を貫く。一体どうやって出しているのか気になるほどの大音量に戦闘中のグリフォンも思わず気が逸れる。

 

「オイ! 耳吹っ飛ぶかと思ったじゃねぇか! 逃げるんじゃねーの? サッサと支度しやがれってんだ!」

 

相手を上手いこと翻弄し、こちらの姿を見失っている間に文句と共にめぐみんたちの元へ駆けつけるグリフォン。

 

「うおっ! 何だこの鳥! 喋ったぞ!?」

 

「そいつの話は後です! そんな事よりさっさとアクアを引っ張り出して下さいよ!」

 

「出来るならもうやってるわ!」

 

再びアクアの手を乱雑に掴むが、すぐ真横の壁に大きな振動と共に鉄の弾がめり込む。同時に後ろから放たれる圧に全員の手が止まる。

 

恐る恐る後ろを振り向くと、そこには威圧感を辺りにばら撒く大きな影。甲羅の頂点に一つ、両側面に一つずつ付いた砲塔がカズマ達へ冷たく唸りを上げる。

 

「こうなったら……やられる前にやるしかねぇよナア!」

 

その瞬間、二つの光が同時に放たれた。片方は赤色に発光する金属の弾丸。もう一方は、今までスパークさせつつ溜め込んできたエネルギーを全て込めた激しい雷。

 

幸いにも威力の天秤はどちらにも傾くことは無く、二つの攻撃は激しくぶつかり合いながら相殺された。

 

「おお! 鳥ナイス!」

 

「ふっふっふ! 流石は我が使い魔! その調子で眼前に立ちふさがる敵をその裁きの雷で焼くのです!」

 

「え? お前爆裂魔法以外にもこういうの使えたの?」

 

「何ですかそのバリバリ疑ってますって感じの目は! 紅魔族たるもの魔物の一匹や二匹使役することなど造作もないことです!」

 

「アーなるほどナ。だったらその主人さんはもちろん隣に立って戦ってくれるんだよナァ? あの時もそうしてたもんナァ! ダロ?」

 

あからさまに異を唱えるかの様な態度でめぐみんへと詰め寄るグリフォン。

 

「え!? それは……」

 

「あー……その反応からとりあえずお前の使い魔ではない事は分かったわ」

 

「大正解! 賞金は無ぇが、ビリビリするサービスならあるぜ? どうする? 代わりに貰っとくか?」

 

「ご遠慮願います!」

 

対峙している二つの勢力を遮るように漂っていた土埃は消え、再び二匹の魔物は相見える。

 

「良かったなデカブツ! そこの奴からの奢りだってよ! 受け取りナ!」

 

余らせていたサービス分を上乗せした電撃が相手を襲う。激しいスパークが起こり、あまりの眩しさにカズマ達は目を覆わざるを得なくなる。

 

光が収まっても焦げたような匂いと共に白い煙が辺りを漂い、お互いの姿を綺麗に隠してしまった。

 

「やりましたか」

 

「おいバカ! それだけは言うな!」

 

「アー……細かいことは分かんねぇけど、あんまり言わない方が良い言葉だってことはなんとなく分かっちまった……」

 

めぐみんの一言に一人と一匹が焦りを見せる中、僅かな希望を打ち砕くかのように一発の砲撃が煙を吹き飛ばし、グリフォンとカズマの間を掠めていく。

 

「全然効いてねえじゃねえか!」

 

「オイオイマジかよ!? 今ので大体の奴はウェルダンに焼きあがるぜ!」

 

「ウェルダンどころかレアじゃねえか!」

 

相手の纏った装甲はかなり焼き焦げており白い煙を未だ漂わせている。しかし、カズマの言う通り表面上だけしか焼けておらず、内部は全くの無傷のようだ。

 

「ダメだ! あの装甲のせいで雷が全部地面に流れちまう! 何とかして剥がせねえか?」

 

「今こそ爆裂魔法の出番だ! よし、めぐみん! やっちまえ!」

 

「アー……ココを自分の墓場にしてぇならやれば良いんじゃね? 今なら自動埋葬サービスがタダで付いてくるしナ」

 

「めぐみん! やっぱり撃つな!」

 

「でもアレを剥がさねぇと最終的にアイツに嬲り殺されることになるぜ?」

 

「やっぱり撃て!」

 

「でも撃つとココが墓場に……」

 

「撃つな!」

 

「結局どっちなんですか!」

 

可笑しなやり取りに横槍を入れるめぐみん。残念ながら相手は待ってはくれない。機械的な音を立てつつ死への直行便をカズマ達の元へ届けようとしている。

 

「一か八かだ! 俺が窃盗(スティール)であの装甲を取れるか試すしかねえ!」

 

「なるほど! その手がありましたか!」

 

「というわけだめぐみん。囮頼んだ!」

 

返答が来る前に持ち前のスキルで身を隠す。案の定、現時点でお荷物の魔法使いは文句を並べているが、そんな事お構いなしに謎の巨大カメの側面に回る。

 

(頼むぞ……! どこでもいいからヒットしてくれ!)

 

この装甲に僅かな穴を空けるだけ。その後はあの鳥が何とかしてくれる。壁に埋まっていない方のまともな神に祈りながら、カズマはその右手を光らせた。

 

 

「スティィィィィィール!!」

 

 

カズマの手にずっしりとした板状の感触が現れる。ダンベルの様な重さを持つそれを片手では保持できず、思わずその場にドスンと落とす。

 

「何処のやつか分からないけど取ったぞ!」

 

再度両手でしっかりと金属の様なプレートを持ち、合図代わりに大声と共に掲げた。

 

しかし、返ってきたのは称賛の声ではなく焦りを含んだ警告の言葉だった。

 

「カズマ! 前! 前!」

 

「オイ! そこの坊主! 逃げろ!」

 

必死な言葉に前方へすぐ視線を向ける。しかし、状況を認識し終える前に熱風が襲う。吹き飛ばされるカズマの目に映ったのは全ての装甲を熱と共に赤く光らせる巨大ガメの姿だった。

 

勢い付いた体の良く先は壁から生えたクリスタル。走馬灯の様にゆっくりと過ぎていく時間の中でその結末を想像し、彼の表情は恐怖に歪む。

 

終わりを知らせるかの様に時間が加速する。そして、瞬く間に彼の背に天然の刃が添えられる。

 

今まさに串刺しの刑が執行されるその瞬間、彼の体は突然大きな衝撃と共に横に逸れる。肩に強い痛みを感じながら、クリスタルの真横の壁へ叩きつけられた。

 

「痛ってえ……あれ、まだ生きてる?」

 

「……少々手荒だが、死ぬよりかはマシだろう」

 

空洞の入り口辺りから足音が響く。痛む身体を駆使して動かした視線の先に居たのは、歪な頭をしている四足歩行の獣と魔獣達の主人であるVであった。

 

「ヨォVチャン! まさかわざわざ来てくれるとは思わなかったぜ! もしかして寂しかった?」

 

「……減らず口を叩けるようなら心配する必要は無いな」

 

グリフォンのからかいを軽く鼻で笑う。それと同時に今回の騒動の原因を杖で指し、爆音と共に飛来する弾丸をシャドウに叩き落とさせる。

 

そのままシャドウに警戒するよう指示した後、今回のクエスト対象へと話を持ち掛けた。

 

「……おい、そこの小娘。爆裂魔法が使えるのだろう? 俺が合図したらあそこに撃て。それまではその男の世話でもするといい」

 

そう言ってVが指したのは真上の天井。そんな事をしたらここが崩れるのはこの男も承知のはずなのに何故? そんなめぐみんの不安を知るはずの無いこの男は、ただそれだけを伝えるとあの獣の元へ戻って行った。

 

「天井……? なるほど、そうか! めぐみん! 迷わず撃て! というかフルパワーで撃て!」

 

「カズマまで同じことを言うのですか!?」

 

先程とは打って変わって自信満々のカズマ。何故そうなったのか分からず、頭にはてなマークを浮かべているめぐみんに対し仕方なく自らの考えを耳打ちする。

 

「……なるほど! そういう事でしたか! なら今こそ爆裂魔法の真の力を見せる時!」

 

勢いよく杖を振り上げ宣言する。めぐみんの気合の表れであるそれは、何故かVに力を信じてやまないかつての自分を連想させる。

 

「真の力……か」

 

しかし、脳裏に浮かんだ叶うことのない幻想は彼自身の相棒の声掛けによって霧散する。

 

「オイ、V! 何よそ見してんだヨ! さっさとコイツをぶっ飛ばしちまおうゼ!」

 

想像の世界に浸かっていた意識が現実へと引き戻される。

 

「……ああ、そうだな」

 

相変わらずの調子の良さに不思議と暗かった表情に笑みが戻る。

 

「ン? Vチャン? 何で笑ってるんだ?」

 

「……自分の目が思っていたよりも節穴という事に笑っただけだ。気にするな」

 

「オイオイ、もう老眼鏡の時期? ちょっとばかし早すぎんじゃねーの?」

 

「……近すぎる物は想像よりも見えにくい。それが自分の頭の上に居るとなると尚更な」

 

「だったらちゃんと顔を上に向けねえとナ。ちゃんと顔洗ったか? 汚ネェと空に嫌われちまうぜ?」

 

「“鷲を見て天才を知る。上を見よ”……か、生憎だが見えるのがただの鶏だけでは上を向いても意味が無いな」

 

「Vチャン、今サラッとオレの事ニワトリって言ったよナ?」 

 

目的から脱線するような雑談を終えると、シャドウが間に入り込み小さくひと吠えする。現在自分一人だけが敵と戦っている事に不服なのだろう。グリフォンに尻尾を乱雑に巻き付け、半ば無理やり戦いの場へと連行する。

 

「オイオイ、どうした猫チャン? もしかしてやきもち? それともVチャンに構ってもらえなくて拗ねてんのか? イテッ! アレ……マジでご機嫌ナナメ?」

 

軽々しいその言葉はシャドウの琴線に触れてしまったのか、ペチペチと地面に執拗に当てられる尻尾。その先に括りつけられた哀れな奴の悲鳴を聞きながら、Vもシャドウの尻尾を追いかける。

 

「今はまだいい……今はな」

 

敵を前にしてもなお、振り子の様に揺れる思考を自ら押し留める。

 

こめかみを抑えていた手がゆっくりと離れる。開かれた目に映るのは今倒すべき敵のみ。

 

「……手早く片付けるとしよう」

 

「賛成ダ。排除は速攻! それが最高!」

 

その言葉を本当にすべく、Vは静かに引鉄を引いた。グリフォンの体から紫色の魔力が溢れ出す。驚いたような表情を浮かべるグリフォンにVは軽い笑みと共に言い放つ。

 

「“速攻”……なのだろう?」

 

「やけに太っ腹じゃねえか、Vチャン。猫チャンの方はどうすんだ?」

 

「……アイツはまだ本調子じゃないからな。負荷をかけるべきじゃない」

 

「その分の負荷が俺にのしかかるってか? めんどくせえ連帯責任ダナ」

 

「……その割にはだいぶ調子がいいな」

 

「さぁ? 何のことだかさっぱりだぜ?」

 

その言葉を最後にグリフォンは飛び立つ。その禍々しいオーラを見せつけるように相手の目の前に躍り出ると、体中に紫電を滾らせる。

 

「ヘッヘッヘ! バーベキューだ! おっと、マシュマロは焼かない方が良いぜ? なんたって火力が強すぎて不味くなっちまうからな!!」

 

そんなふざけた啖呵と共に放たれたのは、歴代最大級の紫を帯びた雷であった。

 




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