この素晴らしい世界に魔獣使いを!   作:黒チョコボ

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今回は携帯からの投稿です。読み辛かったらごめんなさい。


Misson9

mission9

 

巨大なカメとの戦いを終えたカズマ達は、砲撃音で気絶したアクアと魔力切れで文字通りお荷物と化しているめぐみんを街まで運ぶのに難儀していた。

 

二人を担いで運べるほどカズマに力は無い。さらに、彼自身も手負いの状態である。これでは、二人を担ぐどころか自らが街に帰る事すら怪しくなってくる。

 

そんな様子を見かねたグリフォンはVの善意を真似て声をかける。

 

「どうした? 早く帰らネェと暗くなっちまうぜ。もしかしてお困り?」

 

「めちゃくちゃお困りだわ! 流石に二人は一度に担げねえよ!」

 

煽るような口調に対し半ば吹っ切れたように返答するカズマ。しかし、帰ってきたのはただの低い笑い声であった。

 

「ヘッヘッヘ、悪ぃな。カズマとか言ったか? ひっでえ顔してるんで思わず笑っちまった! 手伝ってやるから怒んなよ? ナァ?」

 

腹の中で煮えくるものを押さえ込み、平常を装っていたつもりだったが、どうやら向こうにはお見通しだった様だ。

 

 

 

結局の所、怒らせた詫びという形でこの不思議な生き物達が手伝ってくれるとの事だった。黒猫と鳥、不思議な組み合わせだと無意識にも思ってしまう。

 

しかし、手伝うとは言っていたが、どうしてもアクアだけは担ぎたく無いようで、黒猫が全身を剣山の様に針立たせ、これでもかというぐらい否定の意を送られた時には苦笑いを浮かべざるを得なかった。

 

「なあネコチャン? それ分かっててやってんのか? それ、どっからどう見てもウニだぜ?」

 

「ウニだな」

 

「ウニってなんですか?」

 

そんなこんなで、アクアをカズマが、めぐみんを黒猫が背負う事になった。おまけにお喋りな鳥も一緒に途中までついて来てくれるようだ。

 

「なあ、本当にいいのか? そっちの飼い主はまだ穴の中なんだろ?」

 

「ん? まあ……そうだな。心配は要らネェとだけ言っとくぜ」

 

そう言いつつもチラチラと主人が居るはずの方へ視線を向ける様子が伺える。そんな様子に心苦しさを覚えながらも、心の中で礼を言うと、二人分の荷重がかかるその足をゆっくりと街の方へ進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ達は無事に街に着き、ギルドへの報告を終え、いつも以上に疲れた体を休めるため、いつもの馬小屋ではなくそこらの安い宿で腰を下ろしていた。

 

「痛って! めちゃくちゃ痛いなコレ。まさか骨折じゃないよな?」

 

「何バカなこと言ってるんですか。さっさと手当てして下さい。明るくて寝れません」

 

顔をしかめる彼の体には痛々しい大きな痣が一つ。特に必要な手当てなどは無いが、わざわざその部分を確認しているのは好奇心によるものかもしれない。

 

 

 

一通り自身の命の代わりに出来た痣を確認し終え、明かりを消そうとしたその時だった。

 

「ゴッドブロォォォー!!」

 

「ぐえっ!!?」

 

カズマの顔面に比喩では無いガチのグーパンが炸裂。これには流石のめぐみんもドン引きして飛び起きる。

 

「な、何してるんですか!?」

 

「あれ? 悪魔の気配がしたと思ったんだけど…? ってめぐみん!? なんでそんな悪魔の匂いをプンプンさせてる訳!?」

 

彼女の返答が返ってくるよりも先にアクアのアークプリーストのスキルが発動し、めぐみんは聖なる光に包まれる。

 

「こんの駄女神が…!」

 

「あれ、カズマ? って何でアンタもめぐみんと同じことになってるの!?」

 

再び魔法陣が浮かび上がり、同様の光がカズマにも注がれる。二人の様子をもう一度確認すると、アクアは満足そうに鼻を鳴らした。

 

しかし、不満しか残っていないカズマはアクアに一言拳で物申すべくその手を固く握りしめる。

 

しかし、脇腹に鈍痛が襲いかかる。今はほんの少しの無理も許されないと悟ったカズマはその場に座り込み、痛むを堪えるかのように小さく呻く。

 

「カズマ!? 今気付いたけどなんでそんなに怪我してんのよ!? ヒール!! ヒール!!」

 

カズマの本気の苦しみ具合を見たアクアは流石にふざけるようなことはせず、すぐさま回復魔法を連発する。

 

「ん? おお! 痛くねえ!」

 

「当たり前じゃない! この程度なら朝飯前に決まってるでしょ!」

 

だったらグーパンをする前にやれと突っ込みたくなるカズマだったが、アクアが丁寧にも痣まで消してくれた事もあり、その言葉を吐き出さずに飲み込んだ。

 

「そういや何でいきなり殴ってきたんだ? 気まぐれとか言うんだったら覚悟しとけよ」

 

「違うわよ! この女神アクア様が罪もない人をいきなり殴るわけ無いじゃない!」

 

「殴ったよな? 罪もない俺という人間を殴ったよな?」

 

「ゔ……! ほら! アレよ! カズマの煩悩がはち切れんばかりに膨れ上がってたから、先に叩いておいたのよ!」

 

「なるほど、アクアの言い分にも一理ありますね。言われてみれば最近視線を感じるような気がします」

 

「一理ねーよ! あと、めぐみん。見るとしてもお前は候補に入らないから安心しとけ」

 

めぐみんの視線が一気に痛い物となりチクチクとカズマに降り注ぐが、鋼の心でガン無視を決める。

 

「そういや、さっきなんて言ってたんだ? 匂いがなんとかって聞こえたんだが?」

 

殴られていた故にアクアの発言が聞こえておらず、再度聞き返すカズマ。この問いは、露骨にも話を逸らすために出てきた物だとは二人が知る由もないだろう。

 

「そうよ! 悪魔よ悪魔! 二人の体から悪魔の香りがプンプンしてたのよ!」

 

「悪魔ってお前……流石に女神アピールが過ぎるんじゃねえかそれ? 悪魔なんているわけ……」

 

「カズマ? 悪魔は存在してますよ? 百年前のおじいちゃん見たいな事言わないでください」

 

「あれ〜? まさかカズマは悪魔の存在を信じてなかったの?」

 

「ち、ちげーし! 俺が前住んでたところじゃ違う呼び方だったから分からなかっただけだし……!」

 

アクアから向けられる嘲りを含んだ笑みに自分とこの世界の常識の違いを嫌でも認識せざるを得なかった。

 

「それで問題はどこでその悪魔の匂いが付いたかってところよ!」

 

やたらと張り切りを見せるアクア。普段の怠惰はどこに行ってしまったのだろうかとカズマは疑問に思う。

 

しかし、横槍を入れ、せっかくのやる気が風船の様に萎んでしまったらどこか勿体無いような気がして、問いかけの言葉は頭の中に入れて蓋をした。

 

「今日会ったのはあのでっかいカメと猫……それと鳥……ぐらいですね」

 

「オイ待て、めぐみん 。お前はアレを猫と鳥にカウントするのか!? 片方は喋るし、もう片方は変形するんだぞ?」

 

「カズマ、それホント?」

 

「え? お、おう、マジだったぞ。だよな? めぐみん」

 

眼前まで詰め寄るアクアに謎の威圧感を覚え、思わずたじろぐ。そのせいか、無意識にめぐみんに話を振る。

 

「まあ、そうですね。確かに普通に喋ってました」

 

「完全にソイツじゃない! 普通に喋ってたとなるとマズいわね……!」

 

「喋ってたら何かやばい事でもあんのか?」

 

「悪魔は基本的に喋らないのよ! 片言でも喋れる時点で上位の悪魔確定なのよ! なのに普通に喋ってたとなると……!」

 

めぐみんが額に汗を浮かべて息を飲む。しかし、カズマは何かの違和感を感じたのか考え込む素振りを見せた。

 

「ん? ちょい待て。あの鳥普通にカメみたいな奴に苦戦してなかったか? そんな強いんだったらアレぐらい瞬殺じゃねえの?」

 

「確かにそうですね。あと、あんな状況になってまで私達を見放さなかったのは悪魔としては不自然な気がします」

 

「分かってないわね二人とも。悪魔ってのは相手を一旦上げてから落とすのよ! あと、それが真の姿かも怪しいわ!」

 

「え? 第二形態とかあんの?」

 

「あるに決まってるじゃない! RPGで言う終盤のボスみたいなものよ!」

 

「マジか……」

 

壁に掛けられた時計が小さく時の経過を知らせる。話すうちに日は既に変わっていた。

 

そのことを意識した途端に襲いかかってくる眠気。アクアの話も気になるが、この夜更かしでさらに体調を崩してしまうのは本末転倒だ。

 

「アクアの話も気になりますが……私はもう寝ます」

 

カズマの言いたいことを代弁するかの様にめぐみんが言う。

 

「俺も寝よ……悪魔の話はまた明日ってことで」

 

「え? ちょっと、ここからどうするか話し合うんじゃないの?」

 

アクアのその言葉に対しての返答は無く。ただただ安らかな寝息が聞こえるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、珍しく早起きしたカズマは起床一番乗りだったことに小さく喜びつつ、隣にいる奴を叩き起こそうとするが、そこに居たのははグチャグチャに畳まれた分厚い布であった。

 

不審に思いつつもめぐみんを起こし、支度を整える。目が覚めためぐみんにアクアの居場所を聞くが、良い答えは返ってこなかった。

 

彼らが再びその姿を見たのはギルドに着いてからだった。

 

「あれ、アクアですよね?」 

 

彼らが見たのは、ギルドの片隅にて人だかりを作るアクアの姿。いつもスルーされるはずの話に皆が釘付けになっている。

 

話をするべく人混みをかき分けて前に進む。今回の観客は子供だけでは無く、よく見る商店街のおじさんや、ギルドに良く集まる冒険者までもが話を興味深く聞いていた。

 

「おーい! アクア! 何してんだ?」

 

人混みに揉まれながらもやっと最前列にたどり着いたカズマ。しかし、帰ってきた答えは疲労した彼に追い打ちをかける。

 

「何って、昨日言ってた悪魔の事をみんなに伝えてるのよ?」

 

「……マジか」

 

カズマの顔が青ざめる。そして、再び演説を始めようとしていたアクアの手をゆっくりと取る。

 

「ちょっとこっち来てくれ」

 

「へっ?」

 

アクアの返答を待たずにギルドの外へと走り出す。人混みを避け、離れて一人ジュースを飲んでいためぐみんもついでに連れて行く。

 

外へと飛び出すとそのままの勢いで人気のない場所へと向かう。

そして、適当な路地裏へ駆け込むと、カズマはその足を止めたのだった。

 

「はぁ…はぁ……流石に息切れしすぎだろ俺。こんなんだったらウォーキングぐらいしとくんだった……!」

 

手を離しその場に座り込む。ほとんど息切れしていないアクアとめぐみんを見て僅かながらの悔しさが胸に渦巻いた。

 

「はぁ……ちょっとカズマ! 一体何なんの真似よ!?」

 

「落ち着いて下さいアクア、これには少し理由があるんです」

 

不満そうなアクアをめぐみんが押し留める。

 

「実はな…言うのを忘れてたんだが、昨日言った悪魔?ってのはなある男が従えてた奴なんだ」

 

「従えてた……? それ本当なの?」

 

「ええ、本当です。それで、アクアが警戒する程の奴を従えてて噂になっていない方がおかしいとカズマが……」

 

めぐみんが息を整え立ち上がったカズマを見やる。

 

「多分、隠してるじゃないのかって思ったんだ。そんで、わざわざ隠してるもんを言いふらしたらヤバいんじゃないかって」

 

アクアの表情が困惑したものに変わる。

 

「もうほとんど言いふらしちゃった……どうしよう」

 

その言葉にカズマとめぐみも頭を抱えざるを得なかった。

 

厄介な事になってしまったが、それでもこの街の事を思っての行動であったため、責め立てる様な真似など到底出来るわけなかった。

 

「大丈夫だアクア。幸いにもお前の信用度は非常に薄い!」

 

「ゔっ……その励まし方、すっごく癪に触るんだけど!」

 

アクアのギルドでの話がいつものホラ話だと思われる事を祈りつつ、狭っ苦しい路地裏から日が差す外へと向かう。しかし、華奢な体躯のシルエットがそれを妨げるように立っていた。

 

「クリス……? ま、まさか」

 

カズマの表情が固まる。ニヤニヤといかにも悪さを連想させる顔をしたクリスの口から出てきた言葉はカズマの嫌な予感そのものだった。

 

「面白そうな話をしてるね。もうちょっと詳しく教えてくれない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどね。キミらは彼が操っているのが悪魔だと考えているワケか」

 

結局クリスに根掘り葉掘り聞かれ、仕方なく情報を差し出してしまった。しかし、驚くというよりも興味深くその内容を咀嚼している事にカズマは一人静かに驚いていた。

 

「まあ、アクアの言った事ですから信憑性は無いですけどね」

 

「アレだけはホントよ! そうよね! カズマ!」

 

「逆にアレ以外は嘘なのかよ……」

 

アクアの衝撃の発言になんとも言えない表情になるカズマ。そんな様子を見て苦笑いしていたクリスだったが、何かを思いついたようにその口を開いた。

 

「確かめたいんだったら直接会ってみたら?」

 

予想外の提案に口をあんぐりと開け驚いた一同。もちろん断るつもりであったのだが、やけに積極的なクリスの押しに負け、半ば無理矢理、目を合わせる機会を作られてしまうのであった。

 




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