刀使と紡ぐ物語   作:生き甲斐探す

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次回はがんばります。


試験官

そこは湿った雲の浮かぶ錆びれた街。

人世代前の商店街の様な雰囲気を放つ地に大の字に寝かされている天馬。

その様は宛ら歪だ。

 

服は散り散りに焼けただれ、あたりは血の海だ。

片腕はもがれたのか、或いは消し飛んだのか…左腕の方の下から千切れている。右目からもただならぬ出血をしていた。

 

力なく横たわる、身動きの取れない天馬を上から何者かが見下す。

 

それは不気味に笑いかけ天馬の右目を覆い隠す。

 

 

 

地面から、上から、ありとあらゆる所に出現し消える。

 

まるでそれは、ゆらゆらと揺れる幽霊のような存在。一定の形を持たぬそれは死者の怨念に相当するだろう。

 

やがてそれは人の形になる。十代前半、年齢にして12歳といったところか。

 

それは口を三日月形に変え、不気味に笑いかける。

 

「あらあら?あなた、今人助け?してるんだって?」

ふふっ、人殺しのアタナが?と、上品に笑う。

 

「ッ……!」

 

「ウソッ、あなたが?正気?」

 

「ククッ、アハハハッ、ええ、そうねぇ。まさか貴方が。」

 

「ッう…さい」

喜怒哀楽、それらすべてを混ぜ合わせたような声高な声が響く。眼の前の影は今回、自分に何を語り枯れてくるのか。

 

「ふぅん。貴方…本気なのね。」

 

「わかってるの?いくら守ったって、貴方の行いはきっと感謝されないわ。」

 

「誰も理解してくれない。ねぇ、人殺し。」

 

「ッ…」

 

言葉が詰まる。反論できない。負傷の影響で吐血が続く。

そんな様子に歓喜余る影は、笑みを浮かべた。

天馬を見下すその人の影が、徐々に人の姿に、少女の姿に成り代わる。戻っているという方が正しいなも知らない。

 

ゾゾッ

ゾマゾマとした感覚と共に体に痛みが流れ込んでくる。

 

「何なら貴方がしてきた事、全部彼女たちに教えてあげましょうか?」

 

 

「…や…やめろ!」

 

 

少女の形をした影はやがて天馬の片眼に、血で覆い隠されたその瞳に取り込まれていく。

 

「ねぇ、天馬くん?人を守るってどんな気持ち?」

 

 

ウフフッ、踊るように影は笑う。

 

「ねぇねぇ、人殺しが人を守るってどんな感じ?」

 

「ッだまれ!!」

 

「アハッ、人殺しは地獄に落ちるのよ。貴方は誰にも理解してもらえないわ。」

 

その影は霧となり天馬の中へ入り込む。消え入る寸前、天馬の耳に鳴り響いたのはケタケタと笑う少女の声だった。

 

「貴方は一生孤独よ。」

 

 

 

 

「……ッッッアーーー」

ガバっと見を勢いよく起こした天馬。

 

「ハッッッハッ」

額には汗が滲み出ていた。シャツにもベッタリと汗が染み込んでいる。

 

 

「…気持ち悪いな。……またあの夢か…」

   

「…どうした?随分うなされていたようだが。」

 

振り向くと、心配そうな目で様子をうかがう二人の刀使の姿があった。

 

沙耶香を累に任せた3名は累の知り合いの中年男性のトラックの荷台にお邪魔させてもらっていた。

 

どうやらその男は運送業者に務めているようだ。

 

「…なんでもねぇよ。夢見の悪さは今に始まったことじゃねぇ。」

 

(それに今回は大した程じゃなかった…)

 

 

 

「…天馬。本当に大丈夫なんだな?」

 

 

「んん~、平気ってんだろ?」

 

「ならいいが…」

 

「ねぇ姫和ちゃん。ここから先、検問があるかもって、運転手さんが。」

 

 

「…そうだな。ならここから東に見える山に潜みながら山道を降るのが得策だろう。」

 

 

 

 

 

姫和たち三人がトラックを降り山道を歩き始めた頃。

 

「沙耶香!任務を途中放棄とはどういうつもりだ!」

 

「…」

 

「自分の失態の重さがわかってないようね。そうね。…任務達成率100率、それがあなたの価値だったの。」

 

「…そうね。少し過保護に育てすぎたかしら。」

 

鬼の形相で沙耶香を怒鳴りつけた高津。だが、説教まがいの末、怒りが半回転して逆に冷静さを取り戻した。

 

だが、冷静になればなる程溢れ出す怒り。怒りは破壊衝動を呼び覚ます。

 

 

強引に沙耶香の御刀を引き抜き、睨みつける。

沙耶香の汚れを知らない澄んだ瞳に御刀、妙法村正を突き立てる。

 

バシュッ 

 

 

「!?」

 

景気のいい音が狭い個室内に響き渡る。

 

その音が振るわれた御刀の先はベットリと禍々しい赤色に染まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「…可奈美、お前はこの山を降りたら美濃関に戻れ。」

ここで別れよう。まるで  

 

「…え、どうして?」

 

心底意味がわからない。驚きのあまり声がくぐもっていた。

 

「ッ、なんで!?」

 

「…お前は人、或いは荒魂化した人を斬り捨てたことはあるか?」

 

「ひ、人?生きた?ないけど…」

 

「やはりな。だが私にはある。…最近に事例が無いだけで、昔は人が荒魂化する事は珍しい事じゃなかった。…荒魂化した人を救うすべは斬って祓う他ない。」

 

「ッそんな…でも」

 

「これから私のする事は荒魂の駆除だが、限りなく人斬りに近い。それに…」

 

 

 

「…昨日の戦闘で確信した。可奈美、お前の太刀は守るためのものだ。ここから先、私は仕様で折神紫を葬る。その行為にお前の剣はいらない。お前ではヤツは斬れないからだ。」

 

「お前にはお前の役割がある。…お前はこれまで道理多くの刀使を守ってくれ。」

 

 

「少しの間だが、世話になった。」

 

彼女にしては律儀に礼儀を揃え可奈美に頭を下げる。

その表情は下を向いていて可奈美たちには見えない。

その時の彼女は優しい顔をしていた。

 

言い残す言葉をなくした姫和は可奈美を一度だけ見ると目的の道へ進みだす。

 

 

「アイツの言ってることは一応間違いじゃねぇ。だから理由がねぇならこれ以上構うな。」

 

きつくがめつい言葉が可奈美に突き刺さる。姫和と天馬、二人の言い分に反論すら思いつかない可奈美に返せる言葉はなかった。

 

 

 

「ッ…待って!」

 

ガキィン

 

「ッ何するの!?」

 

「ぬるいな。」

 

呼び止めた矢先、斬りかかられた可奈美は思わず剣を受け流してしまう。

 

それは先程姫和の話した人斬りとはまるで正反対の行為だった。

 

「やはりお前は戻れ。」

 

 

 

トボトボと真逆の道へ進む可奈美。

 

「…結局何も出来なかった…」

 

数分前まで一緒だった天馬と姫和は既にそこにはいない。暗い気分だ。まるで何か楽しみがなくなったような、そんな感覚。

 

その虚しさは十三歳の少女には重たい。

 

だが強気の少女は諦めない。

 

(ッでも、ここで諦めたら私じゃない。私が決めたことならちゃんとやらなきゃ!)

 

(そっか私。)

 

 

既にその場にいないはずの者たちへ聞こえるわけもない声で思いを叫ぶ。

 

その行動が、降り積もる雪のような思考が、少女の成長の糧となった。

 

「姫和ちゃんの力になりたい。」

 

 

 

 

 

 

 

岩陰に潜む2つの影に気づかずに。

 

 

 

 

 

 

 

「…見つけました。ミッション開始デース」

 

 

 

 

ドドドッ!!

 

「何だ!?」

 

 

隕石の衝突かと思われるほどの衝撃、それに続く音が山中に響き渡る。

山の山頂に何かが着地したようだ。

 

「不味いッ、人が来るかもしれない。一旦身を隠す。」

 

その音と土煙は人だかりをつくれる規模だ。

 

となれば、姫和の危惧した事が起こりかねない。

 

だが…

 

「…そうも行かねぇみたいだぜ。」

 

 

 

「?」

 

「俺たちは問題ねぇが、衛藤可奈美(クルクルモンブラン)はやべぇかもな。」

 

その時の彼の表情には曇りが見えた。彼のそんな姿を始めてみた姫和は顔を強張らせる。

 

その直後だった。地面を引き裂くような轟音が、金属の衝突音が再び耳に入るのは。

 

 

 

「ハッハッ、」

 

(…金剛身と体術の応用。)

 

金剛身。御刀を媒介として肉体の耐久度を上げる技。写シとは異なり、物理的な硬度を発揮するが、短時間しか持続しないというデメリットもある。

 

(実戦向きの技じゃないのに!)

 

「ワォ、フシギそうデスね。」

 

「刀使の得意技は写しだけじゃないデスよ!」

 

先程から一方的にタコ殴りにされる可奈美。2体1という不利な状況にも関わらず持ち堪える技量は流石だが、一方的な戦況は徐々に悪化していく。

 

 

長船女学園の制服を着こなす少女、エレンからの斬撃を後ろに大きく飛ぶことにより回避する。

 

だが回避した先、そこには既に別の影が迫っていた。

 

2メートルを超える巨大な御刀、祢々切丸を振り回す怪力の刀使、薫の巨大な斬撃にコンクリート固めの道路がひび割れる。

 

可奈美は、既のところで回避するが尻もちをついてしまっていた。

 

「ッッッ」

 

「あー、避けてくれなきゃ今ので勝負ありだったのになー。どうする。このままやるか?」

 

気の抜けた声で薫は告げる。その目は寝起きのようだがそれでも可奈美に語りかける。諦めろと。

 

 

(ッッ強い。どうすれば?どうすれば?)

 

追い込まれる事は今までよくあった。彼女のスタンスは相手の太刀筋に合わせて反撃するカウンタータイプ。本人に自覚があるかどうかはともかくギリギリの戦闘に強いタイプなのだ。

だが、今回は明らかに別だ。逃げ場がない。絶体絶命の状況に少女の頭は真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

可奈美の身に危険が迫っていると聞いた瞬間。体が、勝手に動いていた。

 

可奈美を救うため姫和は迅移の速度をさらに上げる。その速度は横に並ぶ天馬を引き離す程の速度。恐らく二段階目は超えたであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「見えた。可奈美に横にいる奴らは。追手か!」

 

「…だろうな。だが…それだけか?」

 

「わからない。だが…まずは、可奈美の救出だ。」

 

 

目的は可奈美の救出。敵を斬るではなく、敵を速さで凌駕し可奈美を連れ戻る。そのつもりだった。

 

 

「!?」

 

突如、天馬の視界に入ってきたものは想像とは全く別の光景だった。

 

 

高速の最中、天馬より一足先に着いた姫和は見た。可奈美の目から光が失われるのを。

 

ゆらりと起き上がりエレンと薫の写しを無理やり引き剥がす姿を。

 

 

 

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