刀使と紡ぐ物語   作:生き甲斐探す

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予め、結芽ちゃんをそろそろ登場させる予定。

アニメより初登場はあえて遅くしました。

(今回はでません。)



虚空の刃

「真希さん。見つけました。目標は直ぐ側の路上にて進行中。」

 

「助かるよ。なら、作戦道理に行くよ。」

 

 

 

 

 

 

 

事は突然起きた。

 

突然、進行中の路上の先に人影が現れた。

 

その影は唐突に現れたわけではない。恐らく予め待機していたのだろう。

 

 

だが、気づかなかった。いや気づけなかった。五人全員が。 

 

 

 

当然それには理由はあった。

 

 

雨の為か、山の麓ゆえにか、山中をかなり濃い霧が立ち込めていた。それが原因で視界がかなり悪かった。

 

故に真っ直ぐの一本道ですら先が見えない状態になっていた。

 

それともう一つ。ただ単純に警戒していなかった事も要因だ。

 

 

しかし相手がどうしてようと関係ない。出現した影は動き出す。

 

逃亡者から見れば突如出現した危険も、追手からすればそれはただの計画の内。

 

 

「!?獅童真希!?」

 

「やばいぞ、逃げろ!!第一席だ!」

 

迫りくる二つの影の正体が親衛隊の面々と気づいた頃には既に時遅し。

 

 

いきなり迫られ写シをはる間さえ与えられない。

 

「まっずいデスね…」

 

少女はあくまで写シをはってから刀使となる。

 

臨戦態勢をとれていないただの少女には抵抗の余地もない。

 

 

 

「下がってろ…」

 

「パキーン!───」

 

だが天馬は違った。以前天馬は刀使と陰陽師は起源が同じだと語ったが、本質はまるで違う。

 

写シをはるというテンポロスを必要としない。

 

呪力を右腕に集中させ、そのまま地面を殴り土煙を巻き起こす。

 

 

「──ズラがるぞ!」

 

 

「予想道理ですわね。」

 

「そちらは危ないですわよ。」

 

親衛隊第二席、此花寿々花が誰に話すでもなく呟く。

 

 

 

土煙で視界を晦ませ、そのすきに後方へ下がり森に飛び込もうと試みる。

 

 

草むらに足を踏み入れた瞬間、辺りの木がざわめき始める。

 

 

…ザァーザァー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(部分的にすきを作り、誘導された!?)

 

 

 

蟲の群れが五人に降り注ぐ。それを回避するため薫、エレン、可奈美は左へ、姫和と天馬は右へ分断される。

 

 

 

「そちらの二名はお任せします。」

 

「こちらは衛藤可奈美と舞草の二名を。」

 

 

 

「では私たちも行きますわよ。」

 

 

「夜見!紫様も仰っていたが…無理はするなよ。」

 

 

各々の役割は端から決まっていたようで、それに付き従い動く。

 

別れ際の真希が放つ言葉からは、微かだが夜見に対する身の配慮を感じとれた。

 

 

 

 


 

 

 

「はぁ────はぁッ」

 

 

「フン…この程度か?十条姫和。紫様に襲い掛かった…あの威勢は何処へいった?」

 

心底呆れた表情の折神親衛隊第一席獅童真希。

 

それは冷たく御刀を向ける。

 

挑発を受け再び写シを貼り直すが、もう既に三回写シを剥がされてしまっている。

 

達人でも一日に三回が限界と呼ばれていいる写シ。

すでに限界値にまで達している姫和の写シは今にも消えそうなほどだ。

 

「クッ──」

 

「もういい…実力差が分かっただろう。」

 

それでも正面から突っ込む姫和。呆れた表情の真希。

 

この戦いは意思を歪めた者が負ける。

 

 

 

 

 

戦況が傾く中、天馬は親衛隊第2席此花寿々花との戦闘を繰り広げていた。

 

戦闘自体は両者互角。更に二人共どこか余裕を感じる。

 

 

 

「宅───面倒くせぇスピードだな…」

 

 

「そちらも…中々やりますわね。」

 

「んん~?」

 

「けれど、後ろのお友達は既に限界みたいですわよ。」

 

「は?知るかよ…それよりてめぇの事心配しろ。」

 

「あらあら、お冷たい…それにもう時期あちらも決着がつくでしょうね。」

 

まるで見透かすように告げる此花寿々花に多少の苛立ちを、いやそれ以上のムカつきを覚えていた天馬。

 

「…だろうな。」

 

「随分な余裕ですわね…それにしても貴方、何故夜見さんが一人で三名を相手してると思います?」

 

「?」

 

 

「それは、私達が確実に賊を仕留める為ですわ。」

 

 

「へっ…なら人選ミスだな…逆に皐月夜見(蟲使いの女)がくたばれば、戦況が一変するって事だろ?」

 

天馬は苛立ちのままに睨みつける。先程はうまく分断されてしまったが、それを負い目にするような人間ではない。分断されたならされたで他の方法でやり合えばいい話。

 

簡単にはやられてやれないと目で威嚇する。

 

 

その直後、木の薙ぎ払われる音、土砂の雪崩落ちる音が辺りを包み込んだ。 

 

別の場所で戦闘を繰り広げていた薫が親衛隊第三席、皐月夜見を仕留めたのだ。その余波がここまで届く。

 

「ヘッ…やりゃあできんじゃねぇかよ。」

 

それ見たことかと天馬の口元が緩む。 

 

それに応えたかのように蟲の知らせが鳴り止む。

木の倒れた様な音ともに森に静寂が戻った。

 

 

 

「な?言ったろ。決着がつくって。んん〜?」

 

 

 

「あの夜見(蟲女)、全然大したことないからな。」

 

 

 

 

 

戦闘終了の余波を巻き起こした場所。

 

他より先に決着をつけた三者。

 

夜見の攻撃を可奈美が引きつけ、すきを付く。

 

薫の巨大な祢々切丸の一撃は辺りの木々を薙ぎ払い写シを無理やり剥がし夜見の本体に大ダメージを繰り出した。

 

 

「ハァハァ…何とかなったね。」

 

「すげー面倒くさかった…」

 

蟲状に変形した荒魂を操る親衛隊第三席、皐月夜見との死闘の末、勝利する。

 

辺りは戦闘の余波で完破されていた。

 

彼女の戦闘スタイルは従える荒魂を使役し逃げ場を奪い手数で倒す。そういうスタンスだ。

 

だから三対一でも互角に渡り合えていたのだが…

 

「ナイス!デスね、薫!」

 

「ね〜ねねね!!」

 

「うるさい…まぁま ぁだな…」

 

 

そんな中、肩で息をする三者が見つめる方向には写シを破られ力なく横たわる皐月夜見の姿があった。

 

 


 

 

 

 

「夜見さんの勝ちですわね。」

 

 

「ハァ?馬鹿にs───」

 

 

ゾクッ

 

「!?」

 

何をバカげたことを、そう思った。だが天馬は感じてしまう。とてつもない気配を、禍々しい呪力を。

 

 

(なんだ…これは…急激に呪力が上がりやがった。)

 

 

「始まりましたわね。夜見さんの本気。」

 

 

「…そうかよ、そういう事かよ!」

 

「さぁ。ここからが本当の山狩りですわ!」

 

再び戦闘が行われる。今回ばかりは止まらない。

 

 

 

 

「くゥ───らぁあ」

 

「グッ──」

 

姫和の

姫和の限界を測り間違えたか、真希は若干だが押され始める。

 

 

上から振り落とされる剣を受け止めるが姫和の持ち味である圧倒的なスピードは止まらない。

 

身を沈め低い体制から斬りかかる。

 

だが、余力を残していたのは姫和だけではなかった。

 

「ふんっ…親衛隊をあまり舐めるな。」

 

通常では考えられない力で無理やり姫和を抑え込む。

 

普段より低い体制で攻めたのが仇になり、簡単に力負けしてしまう。

 

「紫様に仇なす賊風情が…あまり調子に乗るなよ!!」

 

上から圧力が消えた、そう思った…だが…

次の瞬間、叫び声とともに姫和の脇腹に猛烈な蹴りが入る。

 

「グフッ…がはっ」

 

 

獅童真希は荒魂を体内に宿し肉体強化を行っている。

 

その威力は絶大で、尋常ではない破壊力を誇る。

 

その一撃を脇腹に喰らいまるでゴルフボールの様にバウンドを繰り返し、石板に勢いよく衝突する。

 

それほどの衝撃だ、通常クッションでもない限り姫和の体は無事では済まない。

 

 

だが、姫和の体がひしゃげる事はなかった。

 

 

 

「チッ…なんだ貴様か…」

 

 

砂煙の中から現れる天馬。その腕には姫和が抱えられていた。  

 

「余計なことを…」

 

 

そもそもな話、真希は衝突の瞬間を確認できていない。

 

それでも状況から何となくの推測はつく。恐らくだが、石板との衝突の直前、天馬が抱き止めたのだろう。

 

 

天馬が衝撃を吸収したとして、それでもとても生身では耐えきれない衝撃だった。

 

つまり…

 

(写シを剥がしきれていなかったのか…)

 

 

「ヘッ…悪かったな、野郎で…」

 

 

「寿々花を振り切ってよく間に合ったな。」

 

「まぁ完全にのしたわけじゃねぇが」

 

「それにしても一つ聞きてぇんだが────全然大したことねぇてめぇが…なんで威張ってやがる?んん〜?」

 

 

「寿々花はどうした?」

 

「寝てんじゃねぇか?今頃木の上でぶら下がってるぜ…」

 

「………君は人を怒らすのが得意なのか?」

 

「それはお互い様だな…姫和(ぺたん娘)立てるか?」

 

 

 

会話に皮肉を混ぜ、挑発を繰り返す。天馬は普段道理の態度で真希に応ずる。

 

他より天馬と過ごす時間が長い姫和には天馬の苛立ちを感じた。

 

それと同時に虚しくさえ思った。相手への情けではないが。それでもあまりにも辛い。

 

 

 

「…てんま?おまえ…」

 

 

「あぁ…派手にやられてんな…」

 

 

「…ッ…すまない…」

 

天馬の腕の中でうずくまる刀使の体は細く柔らかな感じがした。

 

 

 

「いや、いい。…立てるか?…なら少し離れてろ。」

 

天馬にしては珍しい物言いで問いかける。

 

 

天馬の問にコクリと首を縦に振る姫和、打ちのめされ今の彼女にはそれが精一杯だった。

 

それを肯定と見て地面にゆっくりと降ろす。

 

フラフラとおぼつかない足取りだが、なんとか先程打ち付けられそうになった石板まで後退し始める。

 

 

 

力なくもたれ掛かる姫和を確認した天馬は再び真希と向き合った。

 

 

「悪いが、あっちもやばいようだから。」

 

 

「とばすぜ!!」

 

すると天馬は一枚の紙切れを取り出した。そこに呪力をためる。

 

その途端、その紙切れに力強さが生じる。ただの紙切れに幾重にも重なった圧力が出現する。

 

(なにがくる…)

 

真希が異様な気配を感じとり、御刀を構えた。途端、周囲を豪風が唸る。風が吹き荒れる。

 

その時真希は、以前と同じ感覚に襲われた。折神紫襲撃時に受けた不可視の攻撃、それと似た感覚を再び植え付けられる。

 

貴爀人機(きかくじんき)!!」

 

叫び声だけで、天馬は一歩たりとも動かなかった。

 

 

 

分かったことは巨大な剣に薙ぎ払われたという事実。

 

「な!?」

 

体の胴の辺りを何かが通過した気がした。

 

 

 

次の瞬間

 

パリンッ

 

 

 

 

ガラスが砕ける様な音が脳裏に響き渡る。

 

気づけば写シが剥がされている。

 

剣を振るう時間さえ、なかった。

 

 

 

 

 

その時真希は呪った。己の力不足を。

 

そして魅せられた。圧倒的な力に。反撃さえ許さないその未知なる領域に。

 

 

 

負けたのか…私が…紫様に…

 

…せめて なにをされたのかを …

 

 

 

 

身体の力が抜け落ちる。そこで獅童真希の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

獅童真希を斬り裂いた天馬の一撃はまさに虚空の斬撃だった。

 

 




そろそろ岩倉早苗ちゃんの物語を書き始めてもいい頃かも

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