刀使と紡ぐ物語   作:生き甲斐探す

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バトル回終了です。むず痒いところが多いと思いますが最後まで読んでいただけたらなと思います。


終戦

「おかーさん!お稽古しよ!」

 

 

「ホント好きだね、」

 

 

「うん!だ~いすき!いつかおかーさんみたいになる!」

 

 

 

 

「ッ!?……そっか。なら、頑張らないと。」

 

 

「うん!」

 

 

「でも、今日はやめときな。」

 

 

 

「?なんでぇー」

 

 

 

「やりすぎは良くないの。身体痛めちゃう。」

 

 

 

「本日の剣術講座はここまで。」

 

 

 

 

パーンッ

 

手を叩く音が耳の中から聞こえた。

 

途端、先程まで体を支配していた浮遊感がなくなる。背中の羽が断ち切れたような感覚に襲われた。

 

 

 

   ───────え?──────────

 

 

カクン

 

急に体の力が抜けていく。

 

 

 

 

 

可奈美は邪悪を取り込んだ夜見の首追い詰めた。そしてあと一歩の所まで追い詰めたのだ。

それなのに可奈美は立ち止まってしまう。

 

動かそうにも動かない。もし可奈美の停滞が一秒遅ければ、その刃は夜見の中の荒魂に届いていただろうに。

 

 

 

 

(う、そ…まだッ…)

 

 

 

 

カクカク─────ドクンッ

 

鼓動がうるさい。筋肉が強張って、全身がもつれるように痛い。体が熱い。血流が逆流してるようだ。足も震える。

 

 

 

あしがうごかない。力が入らない。きっとこのまま終わるのだろう。そう思うと無性に悔しくなる。

 

 

 

 

(だめ…だ…死ぬ…あと…ちょっと…だったのに)

 

 

 

 

そして可奈美の足が地面についた。虚ろな瞳でそのまま崩れ落ちる。

 

 

それもそのはず、可奈美の体は極度の集中と幾度目となる写シにより限界を超えて闘っていた。

 

だがそれも、もう終わり。極限まで伸ばしたバネの反発が激しいように、限界を有に超えた反動が一気に可奈美を襲う。

 

 

写シの効力ももう直きれる。目の前には角に鬼の仮面のように張り付いたノロ、極限までノロを溜め込んだ化け物がいる。

 

 

可奈美は詰んだのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごっ…おいっ!!ゴボッ……か、かなみぃ!」

 

薫は叫ぶ。頭部を強打僕、さらに骨に響くような蹴りを受け脳が揺れている、そんな状況でも薫は叫んだ。

 

そんな懸命な努力は徒労に終わる。化物は聞き入れるものを持ち合わせてはいない。薫は見た。

 

 

 

 

「や、やめ、ろ!!」

 

 

夜見の殺意が可奈美に向けられるところを。

 

 

 

その時思った。

現実は残酷だったと。懸命に戦った少女たちを慰めてはくれないのだと。

 

 

 

「ガゥ?─────がぎゃぁがァァァ───くだ────さ…げぇ…い?」

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

夜見が可奈美に刃を振り下ろす。目を瞑る。次に聞こえるのは血の残響音だろうか。

 

 

 

 

 

「ズバァーーン!!」

 

 

 

 

 

 

 

ヒーローはいつも遅れて登場するもの。

 

 

 

 

 

 

そこには寝癖ボサボサ特殊ヘアーかつ女顔の陰陽師がいた。姫和という女の子を抱きかかえて。

 

 

 

 

 

 

天馬の華奢な腕からはとても想像のできない斬撃が生み出させる。

 

それを受け夜見は攻撃の手を止めた。

 

 

「グギャァハハハハァァア──────あ?ヒャハっ!」

 

 

もはや彼女に理性はない。意識はすでに途切れた。そこにあるのは悪害を吐き出すだけのもの。

 

 

それは天馬の斬撃を受けてもなお、笑っている。

 

 

 

(やっぱりな。壁は超えてる。)

 

 

「 姫和(ぺたん娘)。少し離れてろ。」

 

 

「…どうする気…だ?」

 

心配気に見つめる姫和。彼女も相当の重傷者なはずなのだが。その優しさに天馬は目を細めた

そして告げる。

 

 

「…あのバカ野郎を救う。」

 

 

 

 

瞬間であたりに毒性のノロの塊を吐き出す。

 

それは中に浮かび、毒々しい紫色を放つ。悪意の塊、それを辺り一帯に撒き散らす。

 

標的は全体。周りのありとあらゆる邪魔者をかき消すために振われる。

 

そして力なく倒れ込む可奈美にも無差別攻撃の矛先が届く。薄らな瞳で見届ける姫和は毒に侵される可奈美の姿をみた。

だがそうなることは無い。

 

 

彼は守りきる。毒が届く前に彼女を連れ出す。鸕宮天馬の華奢な腕は毒の到達より速く可奈美を掴み上げた。

 

 

そして、力が抜けきった可奈美を抱え姫和のところへ届ける。

 

 

「天馬さん……。わた…」

 

 

「喋んな。傷が痛むぞ……」

 

 

 

 

助け出したその時から、可奈美はすでに朦朧としていた。目に冴えがない。生気も感じられない。きっと不可思議なあの力を、エレンたちを瞬殺したあの虚ろな力を酷使しすぎたのだろう。

今にも潰れそうだと思った。この少女にこの現実はつらすぎる。

 

 

 

 

「あいにく可奈美(コイツ)は必要らしいからな。姫和(ぺたん娘)にはな…」

 

 

 

 

 

「ヒャハッ─────!!」

 

 

 

 

 

天馬は後を見る。

 

状況は最悪。皆、舞草の二人は出血がひどい。薫はなんとか意識を保っているがそれでもいつ落ちるかわからない。エレンは現在進行系で血を吐きむせ返している。

 

 

 

 

 

つまり戦える者は、天馬と夜見しかいないということ。

 

 

だがこのとき既に天馬は予想していた。彼女にダメージを与えることができないという事を。

 

 

恐らくは天馬の攻撃は彼女に通じない。先程もそうだ。自身が最強と誇る斬撃をかんたんに凌ぐ。

 

それが彼女の能力だろう。

 

 

 

 

「ドガッッッン!!」

 

だがそれが何だ。攻撃が効かないからといって逃げてもいい理由にはならない。有馬から命じられた任務の条件に刀使を殺すことは許さない、そう言われている。彼女もそう長くは持たない。いずれ体力が切れ、取り込んだノロに完全に侵食される。それは見殺しと同義。

 

 

「ハァッゴーン!!」

 

 

 

天馬は右拳に呪力を籠め殴りかかる。

一般に、呪力の量が技の威力に比例すると言われる。

 

そして当の彼は、凡人の三十倍以上の呪力を滞納していると言われている。

 

 

夜見はそのとんでもない威力の拳をもろに食らう。威力にして薫の大剣の倍以上だ。

 

 

 

 

 

しかし、天馬の予想は最悪な形で的中していた。天馬の二撃は一切夜見にダメージを与えることなく終わる。

夜見にはやはり天馬の攻撃は通じない。すべて相殺されてしまう。

 

 

「チッ」

 

 

(有効打はやはり……刀使の御刀だけか。)

 

 

これが天馬の言う壁だ。陰陽師の攻撃がほとんど届かない、陰陽師()とその先に巣食う神々との差。人が本来なり得てはならぬ領域。

 

夜見は本来の方法とは違えど、ノロを取り込むという形でその片鱗に触れた。

 

 

 

このままでは誰も救えない。

 

 

天馬には刀使を意地でも守るという任が課せられている。

そして彼女たちと過ごしたここ数日の中で天馬には姫和を死なせたくない理由ができた。

 

 

天馬の中で義務から願望へと変わったということ。そしてそれは単純な私情を挟む。姫和には一切関係がなかった未来図。それをこれから強要するのだ。

 

 

 

「……俺がでしゃばらないで、どうすんだよ!んん〜〜!」

 

 

 

天馬は一つの誓いを立てる。今ここで例えこの身が滅びようとも、暴れ狂う彼女を救うと。

 

 

 

「フンッ───。」

 

 

彼は自身の身のうちに滞納する全呪力を拳に集中させる。それは命を伴う行為。元々、呪力とは肉体を構成するエネルギーを具現化させたものだ。それは命の具現化そのもの。

当然、尽きれば当人の肉体から生命エネルギーが消え失せ、瀕死の重態となる。

 

 

 

(ここで祓いきれば俺たちの勝ち。だが…ミスりゃここで終了。)

 

 

 

「いつもの事だ。そんな役回りなぁ!」

 

 

「おいっ…天馬!!おま…なにを!!」

 

 

 

後ろを見た。怪我でもう本当なら歩けるはずもない彼女はエレンの背をさすり、可奈美を介抱している。

 

そんな健気な様子に彼はまた目を細める。

 

 

普段のツンツンした彼女は本当の自分(本性)ではないのだろう。今の彼女が本当なのかもしれない。

 

 

 

 

本来、優しさとはこういうことを指し示すのかもしれない。

 

 

 

だから彼女がやってのけたように、もう言葉も発さない蠢く抜け殻にすべてを吐きだす。 

 

 

 

天馬は呪力を込めた拳を開き、歩みだす。

 

走るわけでも、フェイントを入れるわけでもなく、ただゆっくりと夜見に近づく。

 

 

夜見も簡単に接近を許すつもりはない。叫びとともに天馬めがけ、ノロを指し飛ばす。

 

 

 

天馬は避けない。避ける余裕がないと言ったほうがいい。

 

ソレは天馬の皮膚を切り裂き、ひび割れを作る。それでも、身体に傷を作っても天馬は歩みをやめなかった。

 

 

そして夜見と向かい合う。

 

 

 

 

 

「…開放してやるよ。」

 

 

「……がぅ?」

 

 

 

 

 

 

呟きとともに天馬は夜見の右胸あたりの膨らみに手をかける。殴るではなく添える。夜見の体を内側から温めるかのように優しく添える。

 

 

 

 

 

 

───────ケガレよ。

 

「消えろっ」

 

 

 

天馬は触れた手の先から彼女の内面に呪を送り込む。それは温かい呪いだ。夜見の体をまばゆい光で包み込み内包する闇を浄化する。

 

そして一瞬彼女の中に巣食っていた物が姿を現す。

それは意思を持つ悪意だった。

 

 

 

 

「────ギャァァァ────き じん──貴様ぁっ!我が媒体ヲ───」

 

 

「てめぇは、約束(ルール)を破った。だからケリをつけてやる。」

 

 

「深淵の地でッ!待ってろ!!」

 

 

 

ゴォォォ

 

彼女に纏わりついた光が消えた。闇ともにどこかへ溶けてゆく。

 

苦痛から開放された彼女重力に従い倒れていく。彼女は最後にこう告げた。

 

ありがとう、と

 

「……」

 

 

「ありが…と…か。」

 

 

「これで…しまいだ……な」

 

 

ドサッ

 

そして呪力を使い果たした彼はそのまま目を閉じた。

 

 

 

 

 

その一部始終を見届けた姫和は倒れた天馬元へ駆け寄った。正確には駆け這っただが。そして彼の心臓部に耳を当てる。心臓が機能していた事に安堵した。そして彼の胸板に顔をうずくめる。

 

 

 

 

 

「死んだ……かと…」

 

 

途端、聞き覚えのない声が頭上から聞こえた。

 

 

 

「よくやった…四人の勇敢な刀使…それとついでに天馬。」

 

 

「!?…だれ?」

 

 

 

「やあやあ、はじめまして…君が……篝くんの娘さんかな?」

 

 

「!?」

 

 

「あぁ、そうそう。天馬は無事だよ。気を失っているだけ。呪力()を使いすぎたんだよ。」

 

 

 

 

 

可奈美(あちらの娘)も。後ろの二人もね。そして君もだ。その様子じゃ這いずるのが精一杯なはず。」

 

 

気づけば、吐血の音、苦痛に耐える息遣い。先程まで聞こえていた苦の音が聞こえない。

後ろを振り返ると顔色の良くなった二人が見える。

 

 

「!?いったい…!」

 

「大丈夫。彼女たちはもう治した。」

 

 

そしていきなり現れたロン毛の彼は、札を取り出した。

 

「な…にを?」

 

 

 

「あぁ気にしないで。少し眠るといい。導きは僕がする。」

 

すると姫和と天馬の周りをまばゆい光が包み込んだ。

彼女が最後に見た景色は温かい緑色だった。

 

 

 

 

 






ありがとうございました。

今回はとにかく日本語が難しかったです。

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