刀使と紡ぐ物語   作:生き甲斐探す

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随分と間が空いてしまいました。

すごく設定がややこしく難しかったです。



序盤は意味不明すぎるはずですが、後々明かそうと思うので……

では。


2つの儀式

それはとにかくおぼろげな景色だ。まるで夢のような、それなのに妙にリアルな光景。

 

 

 

まるで誰かの記憶を見せられているような感覚。

 

 

 

 

 

 

「なぜっ!貴様は何時も遅刻してくるっ!?高みを目指すものとしての自覚はないのか!?」

 

 

最初に写ったのは怒鳴る男の子。眼鏡の似合う良いところのお坊ちゃんのような、そんなイメージの子。

 

 

 

「貴様!馬鹿にしてぇ!!」

 

こちらが何かを話せば必死の形相で殴りかかってきた。

 

 

 

「ちょっとっ、やめなさい!二人とも!!」

 

 

次は優しそうな眼鏡の女の子。見た感じ小学校高学年。

 

優しいお姉さんのような雰囲気を醸し出す少女は宥めるように喧嘩を止めてくれる。

 

 

 

「殴り合ってもなんの解決にもならないじゃない。」

 

 

 

 

「…すいません…」

 

やはり聞き分けのいい素直な良い子だった。

 

 

 

「いいのよ、いつもあの子にかまってくれてありがとうね。……あの子は…」

 

 

…だれの記憶だろう、一体いつの思い出だろう。

 

 

 

 

 

 

「来ちまったか……ついに。」

 

 

呟く声。独り言?

目線は自分の手の痣にある。こんなもの初めからはなかった。急に出たのだろうか。

 

その痣は百足のような形をしていた。

 

何故だかその痣からは、禍々しい恐怖を覚えた。

 

 

 

 

 

 

景色は移る。今度は山の中。雨に打たれた出来事。

 

それはただの殺し合いだった。

 

 

「嫌だぁッ!!死にたくない!死にたくないよぉ!」

 

 

先程の少年に親しい年齢の女の子。泣き叫びながら地に伏せた。

 

 

 

「ごめんなさいっ!!やっ、やめ、やめてっ!にいさぁ………」

 

 

また別のところで助けを求めながら朽ちていく少年。

 

幼い少年。それなのに何故だろう。悲痛で目も当てられない。

 

 

 

 

「ぐ…うぐ、ガァ…ここまでか……無念っ……」

 

 

次は両腕を失い睨みつける体格に恵まれた少年。

 

だが次の瞬間、少年の胴と頭が2つに割れた。

 

 

 

 

まるで惨劇だ。

 

 

 

「光、僕も直ぐ、君の所に。さぁっ、殺れ!!」

 

 

凛々しい青年もやはり同じだ。敗れ死にゆく。

小学校高学年、それくらいの年齢層のただの子供。

 

だが潔く死を認めた立派な少年。その者も次には死んでいた。

 

 

 

 

 

 

そして最後は喧嘩を止めてくれた優しそうなお姉さん。

 

殺し合ったのだろうか。剣は彼女の腹部にのみ突き刺さっている。

 

少女の持つ剣がスルスルと手から滑り落ちた。

 

 

 

「…アナタの……勝ちねぇ……」

 

 

その震えた声を聞き、記憶の主であろう少年は恐る恐る問う。

 

 

「千里ねぇ……なんで……」

 

 

愚直なほどの問に、崩れ落ちた少女は答える。

 

 

「……あなたが生まれてきたからよ。」

 

 

   

「ッ………な……」

 

 

 

「っ…ふふふっ……あなたの孤独を……理解してくれる人は……だ〜〜れもいない……ハハハッ…痛ァァ………かわいい……かわいいっ……弟ちゃ〜〜ん……人殺しは地獄に落ちるのよっ!!」

 

 

 

 

 

 

「………滑稽よねぇ〜〜!!」

 

 

最後にはケタケタと笑い不気味にこちらを睨み、事切れていった。

 

人殺しと罵り、恨み言を叫び尽きる。

 

 

 

 

これはまるで地獄だ。全ての恨みは私に向けられた。

 

 

 

これは誰の記憶だろう。一体いつまで続くのだろうか。

 

 

もう……知りたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……りちゃん……」

 

 

 

「姫和ちゃんっ!!」

 

 

 

 

 

 

「!?……はっ…ここは…」

 

どこだ、と浮かんだ疑問符はかき消される。

 

 

恐らくここは土御門有馬の過去を知れる術の中だろう。

その証拠に先程までいた部屋とはまるで違う景色が広がっている。

 

それはマジックや手品の芸当とはとても思えない程のクオリティだ。

 

 

  

 

「そうだ…なら……先程見たものは……何だ……」

 

 

 

そう、ここが有馬の言う選択なら先程見た絶叫は一体何だったのだろう。

 

正直、情報量が多すぎて頭の整理が追いつきそうにない。

 

 

 

 

摩訶不思議な体験を経験し、これまでの過程、まるで上の空だった。

 

 

それを見かねた天馬は舌打ちと共に姫和のうつろな目を呼び覚ます。

  

 

 

「寝ぼけてんじゃねぇよ…見ろ…メガネだ。」

 

 

指し示した先には二十年分若返った姿の土御門有馬が知らぬ女性と深刻そうな顔で話し合っている。

 

 

 

「!有馬さん!?なんで…」

 

 

 

「チッ…てめぇ本気でなんにも聞いていなかったのかよ。」

 

 

 

  

 

 

「おそらく二十年前で間違いない。追体験レベルだが俺たちは擬似的にタイムスリップしている。」

 

「その昔の話にメガネが出てきても何にもおかしくねぇだろうが。」

 

 

 

 

「…という事は…大荒魂がここにっ」

 

 

ここに大荒魂がいる。ならば今ここで、そう思ったが、

 

 

 

 

「言ったろ、あくまで追体験レベルの話だって、変えれやしねぇよ…不幸な歴史は…」

 

 

「ッ……」

 

 

どうやら天馬の話の通りなら干渉ができないらしい。

 

つまり触れることもかなわない。

 

 

「大変だよ!!私達、透明人間になっちゃったみたい!!」

 

 

 

 

「だろうな…理解力皆無(バカ)。」

 

 

 

「誰も気づかない、どういう仕組みかな……」

 

 

 

「舞衣、あの人。」

  

そこで沙耶香が気づいた。

指差す先の人物、その人物に瓜二つの人を舞衣はよく知っている。

 

 

「高津学長にそっくり…すごい偶然……なの…」

 

そしてある事実に舞衣は気づく。

 

ここは二十年前ならば。

 

 

 

 

 

「いや、必然だ。アレは恐らく二十年前の見た目だ。ちょうどアンタくらいのな。」

 

 

「やっぱり……」

 

 

 

「まぁ、時期にわかる。そんな事よりも、はじまるぜ。」

 

 

 

 

 

 

天馬が指し示す場所。そこは物語の中心部だった。

 

 

「紫様!!!」

 

 

見慣れない顔の少女が血相を変えて駆け寄る。その先は有馬が不幸と語った折神紫の二十年前の姿。

 

 

正確には大して見た目は変わっていないのだが。

 

「どうした?」

 

 

 

 

「ご報告いたします。大荒魂、タギツヒメの居場所を特定。……しかし…同じくしてこちらの本陣を嗅ぎつけられ指令塔を襲われ現在後退を余儀なすぎるされています。」

 

 

 

 

「くッ……大荒魂めっ。」

 

横にいた別の刀使が冷静を欠く。だがそれを制し紫は訪ねた。

 

 

 

「落ち着け、それで、陰陽頭はどうお考えになる?」

 

 

 

 

「そうだね…大荒魂を封じる術は最早、アレしかなさそうだ。」

 

 

 

「……そうですか……」

 

 

 

 

「すまない。篝。わたしは…」

 

大荒魂、その異形な存在をこの世から消し去るために生み出された奥義。鎮めの儀。それを扱える唯一の家系、柊家。

 

鎮めの儀には術者の驚異的な迅移が必要となってくる。

 

速すぎる迅移により対象ごと別次元、隠り世に連れ去る技だ。隠り世に入れば二度と現に戻る事はできない。

 

つまり術者は隠り世に置き去りにされるという事。

 

まさに捨て身。

 

「いいえ、覚悟はできています。元々捨て身の太刀しか持たない私を、側付にまでして頂いて……」

 

 

 

「篝。……ありがとう。」

 

 

 

「朱音。指示を出す。私たちは大荒魂の元へ向かう。残りの者は負傷者を保護しこの島から脱出しろ。」

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

「まぁそう言うな。戦いは終わる。」

 

必ずな、そう紫は笑った。

 

それを見守っていた有馬は思う。なんて巫山戯た現実だと。その家に産まれなければ、或いは刀使にならなければ違った未来があったかも知れないのに。だから、無茶でもやるべきことがあった。

 

 

「紫さん、篝さん。貴方方は気高く麗しい、素晴らしい刀使だ。」

 

 

「きっと君たちの苦はいつか報われるだろう。だから目先のことにとらわれないで。」

 

 

 

「先程、封じる術は無いといったが、打ち払う術が全く無いとは言っていないんだ。」

 

 

 

「まさか……総力戦…」

 

 

 

「とまぁ、刀使の総力だけでは無理な話だろうね。だから、其の役目は陰陽師が引き受けよう。」

 

 

 

「だが、万が一には備えておいてくれ。我々の力がどこまで通じるか…あるいは一切通じないのか…」

 

 

 

 

「なぜ、そこまでのことを……してくださるのですか……?」

 

 

 

 

 

「……僕はね。君たちには死んでほしくないんだ。……優しく、健気で、それでいて厳しい現実に立ち向かう勇気もある。」

 

 

「………」

    

 

 

 

「ともに戦えばこんなにも頼もしい。」

 

 

 

 

 

「それにね、篝さん。君には将来を誓うご予定の想い人がいるのだからね?」

 

 

 

 

 

 

「!?篝!?それって」

 

 

するとあからさまに赤面する。

 

 

「〜〜〜ッ!?有馬様!そんな、彼とは……」

 

 

 

 

 

「彼?そもそも男だなんて指定はして無いのだけれども、誰のことかな?」

 

 

 

「はっ、はめましたね!!」

 

 

 

赤面して訴えかける篝。それはまさに恋する乙女と言わず何と例える。もしかしたら篝を突き動かした思いは乙女心だったのかもしれない。

 

 

 

けど、そのピンク色の空気は、普段から仕事で忙しくて色恋ができない可愛そうな、折神紫にはとても耐えれるものではない。

 

 

彼女だっていつもどこかで遊びたいと思っているのだ。

 

 

紫は卑怯だ、と思った。

 

 

「かがりぃ……彼ってだぁれぇだぁ!!」

 

 

「ヒィッ」

 

 

 

「いつから〜〜〜だァァァーーー!!」

 

 

「お、幼い頃からの仲で…」

 

 

「何でも幼い頃からの中で、一緒に湯船を共にしたこともあるとか。ないとか。」

 

 

「ほぅ〜なるほどねぇ〜〜」

 

 

 

「ッ〜〜、いくつの時の話をしているんですかっ!!」

 

 

 

 

「そんな彼も今、体を張って前線で戦っている。君は自らを投げ売っていい立場にはないんなだよ。」

 

 

年配からの助言。それはしっかりと篝の耳に入ったようだ。

 

 

「…そうですね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なぁ、アレ、お前の母親か?」

 

やはりどうして、その名字も違う少女は隣で見守る黒髪の少女に似ている。

 

 

 

「…間違いない。母さんだ。」

 

 

 

 

「なら、ちゃんと見とけよ。」

 

 

 

仮にこの場であの篝とかいう少女が死にゆこうとも目をそらせばもうこれっきりなのだ。

 

それを理解している姫和は深々と頷いた。

 

「あぁ。」

 

 

ただ一つ天馬が感じたことは、予想と違いすぎる〜〜わ

、であった。

 

 

 

 

 

 

「おいっ!美奈都っ!!撤退しろと」

 

 

 

「なんでさ…戦力は使う……あんたのモットーでしょうが……らしくないよ。何も言わないで撤退なんてさ。」

 

 

「それは……」

 

 

「それに分かってる。あんた達が特別な役割だってことくらい。」

 

 

「なら、何故……いくら美奈都先輩でも、ここから先は何もできない。」

 

 

「それなら尚更だよ。役立たずかもしれないけど…道案内くらいにはなるでしょ。」

 

ニカッと歯を出し笑う。その姿は別の少女に被った。

 

 

 

 

 

 

「…あっ、お母さん?」

 

天馬の予想はやはり的中してしまう。

 

元気ハツラツな過去の少女は可奈美の母親だった。

 

 

「…チッ……なるほどな。よ〜やく繋がった。メガネの言ってる選択に。」

 

 

目に見えるほど苛立つ天馬に深く関わらぬ四名は理解できない。頭に疑問符を抱き問いた。

 

 

「…………?」

 

 

 

「あの〜〜、私たち完全においてけぼりナンデスけど……」

 

 

「説明してもらってもいいですかね!!」

 

 

聞き流されて終わると思っていたが、意外に天馬は親切に教えてくれた。

 

 

「あん?そういやそうだったな。」

 

 

 

 

「簡単に言えば、ここは二十年前の大荒魂討伐作戦の現場だ。今ここでその大戦をおっ始めようとしてる。」

 

 

 

「そしてその結末を飾るのは渋られた選択だったってことだよ。おそらくな。」

 

 

神妙な顔で告げる。まるで自らがそうだと言わんばかりの表情。。

その気迫に舞衣を含め四人は押し黙ってしまう。

 

 

「まぁ、そんな緊張するものだもねぇよ。どうせ変わらないモンだ。」

 

 

 

 

状況はすぐに悪化した。戦力の要、土御門有馬の戦線離脱が主な原因だ。

 

どうやら彼の攻撃では大荒魂に致命傷を与えることは叶わなかったらしい。

 

 

 

「有馬さんは!?どうなったっ!!何が!?」

 

 

「有馬様は……ヤツに……」  

 

 

有馬が対処不能な場合、刀使のみで大荒魂を鎮めなければならない。それも二人きりで。

 

篝は終わりを理解した。少なかった青春。それでも好いた人間に生きてもらう為に死ぬと決めていた。

 

紫には申し訳ないと思うが、苦しい決断を強いる。

 

 

 

「ッ……そうか……篝。すまない……」

 

 

ありがとうございます。

 

 

そう告げると再度、紫の顔を見た。そしてふわりと笑った。

 

 

「………いいえ、辛い決断を強いてしまい申し訳ありません。」

 

 

この瞬間、一人の少女が大荒魂を祓った。

 

自身もろともこの世から隠り世に消え失せて。

 

 

 

 

それを見守っていた一行は驚愕を受けた。

 

 

「これが、決断……?」

 

 

「……そんな…………」

 

声を震えさせ膝をつく姫和。目の前で起きた真実はあまりにも残酷。見せられたものは実母の自殺まがいの行為だった。

 

 

もう凛とした刀使の面影はなく、ただのか弱い少女そのものだ。

 

 

「……姫和ちゃん。」

 

そんな様子の姫和を支えながら可奈美は頼みの綱の天馬を見上げる。

 

そして少年は期待に答える。

 

「……まだだ………まだ…折神紫が大荒魂に乗っ取られていない。」

 

姫和に勇気を与えるため天馬は告げた。

 

 

 

 

 

 

 

「え……紫。大荒魂相手になにボーとしてんの?」

 

 

声の主は可奈美の母、の二十年前の姿。

 

雑魚の荒魂を大方片付けたどり着いた先、紫たちの援護に駆けつけた。だがそこには同伴していた有馬と篝は居らず、力なく座り込む折神紫の姿だけがあった。

 

更に、原型をとどめたまま大荒魂が目と鼻の先で鎮座している。その大荒魂の腹部にも見える部分に黒くうごめく空洞がポッカリと空いていた。

 

 

という事は、先程話していた鎮めの儀を発動したという事。

 

なのだが。

 

 

 

 

「妙だな…」

 

その光景を観測者として見守る六人と天馬。

 

数日の緊張と残酷な現実に心を打ちのめされた姫和を舞衣が優しくなだめている。

 

 

その横での思案だ。

 

「鎮めの儀とやらは発動してんだろ?なら、まだ大荒魂が現に残ってる?」

 

 

「?」

 

 

確かにそうだ。柊家の血筋のみが執り行える技、鎮めの儀は発動した時点で対象を自分諸共隠り世に引き込む技だ。ならばなぜ大荒魂は原型を留めてその場に残り続けている?

 

「もしかして………抗ってる……」

 

 

それは今も尚柊篝と大荒魂がいがみ合っているということ。

 

 

 

「……母さん……」

 

 

ぼやいた声は柊篝には届かないが、意味のないことではなかったと信じるしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてストーリーはまた進んだ。

 

 

 

「みなどぉ……わたしは……」

 

折神紫の説明を受け自体をおおよそ把握した美奈都は篝を救えるかもしれないと訴えた。

 

方法は単純明白。中に引きずられた篝を引っ張り上げる。

 

だがそれは危険な賭け事。転び方次第では美奈都さえも帰還が不可となる。

 

当然、紫は拒否した。

 

 

 

「情けない。アンタが行かないなら私が行く。」

 

 

 

 

「おいっ!やめろ!!……頼むからやめてくれ……」

 

 

 

 

 

ここまで疲弊しきった紫を見たことはない。当然だ、自分の命令で親友を突き落とす。これをして平気なものなどそういるものではない。折神紫だってただの少女なのだ。

 

だからこそ覚悟を決めた。それ以外に折神紫を救う方法がない、

 

 

「紫。私には……これくらいしか出来ないから。」

 

 

 

「ごめんね。」

 

 

 

 

「みなと!!!」

 

 

「必ず連れて帰る、あとでね。」

 

 

そう言い残し少女は飛び込んだ。柊篝が進んだであろう風穴に。

 

 

  

 

 

 

 

「……そんな……お母さん。」

 

 

「可奈美ちゃん、大丈夫?」

 

 

「う、うん。」

 

 

同じ思いだろう、自分と同じ思いの少女。

 

この先を見るなら自分と同じように打ちのめされるだろう。

だったら、この少女が立ち直れるように包み込むだけだ。 

 

 

「可奈美、辛いだろうがしっかりと見ておこう。それが…何もできない私たちに、唯一できることだ。」

 

 

「…そうだね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そんな………わ……たしは…」

 

 

 

同時に二人も失ってしまう。

 

 

親友を二人も。それはこの場で死にゆくよりも辛い。

 

 

そう思うと紫の決断は早かった。

 

 

 

「大荒魂。……わたしと取引しないか?」

 

 

最後の決断、それが選択だった。人生を捨てる代わりに命を救う。

 

 

 

 

唖然とした表情で六人の刀使は全て見届けた。

 

 

 

 

 

そして次第に景色が揺らいだ。

 

気づけば元の場所にいた。まるで今までの体験が嘘だったかのように思えるほど、何も変わらずにあった。

 

 

 

 

「お疲れ様、どうだったかな?考えは変わったかな?」

 

 

そこには当たり前のように土御門有馬が待っていた。

 

優しい目で穏やかに笑い、試練を乗り越えた者達を向かい入れる。それがこの男の役目だから。

 

 

 

「フンッ、役立たずだったな…クソメガネ。」

 

 

そう言い皮肉に笑うと、有馬は辞めてくれよと笑った。

 

それにつられて少女たちも笑った。緊張の糸が切れたように力が抜け落ちる。

 

    

「僕は彼女たちを救えなかった。そして、紫さんに今でも苦を強いている。だから僕らは彼女を救わなくてはならない。」

 

 

「私は…あの場にいることすら許されませんでした。」

 

 

 

「姫和さん、可奈美さん。お二人を救えなくてごめんなさい。」

 

 

「私は貴方にも申し訳ないと思っています。天馬さん。もし、私たちにお力添え下さるならば、どうぞご随意に。」

  

折神紫の妹。彼女もあの戦いで傷ついた被害者だろうに、責任を取る為に足掻いているのだろう。

 

それなのにまぁ、大人ってのは不器用な生き物だとつくづく思う。

 

「あぁ…俺はテキト〜にやる。風呂に入ってくる。」

 

気を使うつもりでその場を後にした。

 

 

 

そして刀使たちは泣いた。衝撃のあまり唖然と立ち尽くす者もいた。

 

当然かもしれない。彼女たちが見たものは人世代前の悲劇だ。それはもしかしたら自分たちに訪れたかもしれない未来。或いはいつか経験するかもしれない苦痛だ。

 

 

 

「少し休んで下さい。休養は心を癒やす。その後は、きっと頑張れるから。」

 

自分以上の苦に苦しむ少女たちをなだめるつもりで折神朱音は告げた。

 

 

 

その夜、他は皆寝静まった静かな夜。空は満天の星。

土御門有馬はその星空を見上げただ立ち尽くしていた。

 

夜風に揺られ思うのは後悔と切望。

 

紫を陥れた罪悪感と紫ではない誰かを救えるかもしれない期待。

 

そして今その自分勝手な贖罪をうら若き少女に預けようとすらしている。

 

 

「最低だなぁ。僕ってさ。ねぇまな、僕は救えるかなぁ」

 

そして今は無き別者に語りかける。

 

 

不意に後ろから近づく音がした。

 

 

 

おや?と思い振り向く。

 

そこには寝間着姿の十条姫和がいた。

 

その姿を見て、天馬が見たらそれだけで見惚れてしまうだろうと見立てを建てる。

 

なんせ既婚者の自分ですら思わず目を奪われてしまったのだから。

 

 

「……もう疲れは取れたのかな?」

 

 

「はい。」

 

 

 

 

 

そのうら若き真面目な黒髪少女は真剣そのものな目で語りかけてきた。

 

 

「有馬さん。お聞きしたいことがあります。」

 

 

その瞬間、物語は天馬の知らぬところで加速した。

 

 

「…天馬の事かな?」

 

 

「はい。」

 

 

 

 

「天馬の命を救う術を教えて下さい。」

 

 

その言葉を聞いた途端、有馬から笑みが生まれる。

 

物語は次に進んだ。

 

これは天馬が刀使を救う物語、ではない。

 

 

この物語は刀使が天馬を救う物語である。

 

 

 

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