刀使と紡ぐ物語   作:生き甲斐探す

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スタートは姫和ちゃんの見た不思議な景色の解説からです。



どうぞ。


ほんの小さな光

刻降り(ときおり)の儀。

 

時間を遡り過去の出来事を見る事ができる術。

 

鑑賞するわけではなく、ある座標点に起こった出来事を映像化し傍観できる代物。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

様々な景色を見せられた。その中に知った顔は一つもなかった。最後に見た者以外。

 

 

 

「所詮………俺には……変えが……きくっ……」

 

 

 

「それに……メガネ(有馬)から…特異点(とくいてん)の……話は……聞いたろ」

 

 

「ここで……てめぇが死んだら……すべて……水の泡……なんだよ……」

 

 

 

地獄の様な黄色い空。血塗られた視界。切れた片腕。火傷のように広がる出血痕。

すべてが死を物語っていた。

 

 

そして看取るものは一人だけ。ギザギザ歯の寝癖爆発の少年唯一人。

 

その少年は体中至るところに泥や傷が付いていた。だが、無事だった。きっと誰かが守ったのだろう。

 

 

 

「わかった。代わるよ、その役割………だからアンタは少し休んでいてくれ。」

 

 

その寝癖少年は目の前で伏せる記憶の主に苦しみから開放するように、優しく掛けた。

 

 

それを聞き、何故だか救われた気がする。

 

 

 

 

「俺たちは結ばれなかった。だが、てめぇがそうとは……かぎらねぇ……てめぇらは二人じゃなきゃ……うまく行かねぇように……出来てんだ……よ……」

 

 

 

 

「生きろよ……太陰(たいいん)と…共に。」

 

 

 

そして視界は一度閉じた。

 

ここでわかった事は記憶の主が、誰かの身代わりになり朽ちたと言うことだけ。

 

 

 

 

だがまだ終わらない。

 

 

 

 

 

だが次の瞬間、再び視界に誰かが映る。まだ終わっていなかった。

 

視界に浮び上ったのは女性の顔だった。

涙を流し、抱き寄せる女性。何やら叫んでいる。

 

 

他にも周りには沢山の人がいる。あたりには見知った顔もいた。可奈美、紗耶香、舞衣、エレン、薫。

 

その他の人も皆、涙を流し見下ろしている。

 

そして気づく。

 

泣き叫ぶ女性の正体に。

 

 

 

 

 

「死なないでくれっ!!天馬!!」

 

 

 

最後に聞いた声、それは間違いなく姫和自身の声だ。そして視界に浮かぶ顔も間違いなく。

 

 

それは不吉な予感として姫和の中に残った。それが最後の夢だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

有馬に問いかけた理由は正にそれだ。

 

 

 

「へぇ、そんな事がねぇ。未来の記憶の主(持ち主)は天馬で間違いないのかな?」

 

 

落ち着いた様子で答える有馬だが、内心はそうでも無い。あの術式には間違いなくそんな人の未来を知れる効果はない。

 

 

あるとすれば、天馬の意思。無意識に頼りたいと思う願望が、術式を通し編み出した軌跡の芸当。恐らくそれには天馬の意志は含まれてはいない。無意識の領。

 

だがそれを可能にするには対象となった姫和への依存と、姫和の受け入れ体制が一致したという事。要するにある程度の。

 

 

 

「はい。間違いないかと。」

 

 

 

「そこまで知られては仕方がないね。話すよ。」

 

仕方ないから、そうボヤく有馬の表情は闇に隠れ見えない。ただ有馬にとって一つの決断だったことは確かだ。

 

 

「………知っての通り、天馬は君たち、刀使とは似ても似つかぬ陰陽師。だけど…彼の場合、陰陽師の中でも特異………他の陰陽師とは違う運命を背負っている。」

 

 

 

 

「彼は寵愛を受け持ちすぎている。」

 

 

寵愛。思う節はある。姫和は陰陽師の実力を未だ知らぬため何も分からないのだが、それでも天馬の存在は異質なものだと思っている。

 

 

親衛隊二人を他に食わぬ顔で足らい、ノロを用い大暴走を引き起こした夜見を封じる実力者。

 

 

それほどの者が身代わりになる訳は何処にあるのだろう?傲慢で譲り合いのかけらも見せない彼が他人に道を明け渡すなど想像もつかない。

 

恐る恐る問いてみる。知らぬ言葉だらけだ。

 

姫和は見てきたことをそのまま問う。

 

 

 

「それは…特異点?太陰?……とやらには勝らないのですか?」

 

 

 

「それらは……また別枠さ。」

 

 

 

「君にはある程度の事を話そう。だが、その前に確認しておきたい。」

 

 

 

「君は、天馬を救ってあげられるかい?」

 

 

その答えを渋る必要はどこにも無かった。救うなんて烏滸がましい。そんな大層な事はきっと姫和には出来ないだろう。だが、寄り添う事はできる。

 

 

二つの記憶、それが姫和を突き動かす理由になる。

 

 

「私の目的は、折神紫の中に潜む大荒魂の討伐です。」

 

 

 

「ですが、この数日を共にするなかで天馬には大きなカリができました。」

 

 

 

 

「やるべき事が終わって…その後に……私にできる事ならぜひ。」

 

 

 

 

 

「ふふっ、よろしい。流石は篝さんと彼の子だ。」

 

 

どうやら満足したらしい。有馬は真剣に語りだした。

 

 

「話すからには、仕事はしてもらうよ。」

 

 

 

 

「陰陽師はね、命に順番がある。……そして君の口から出た:太陰:は何を差し置いても守らなくてはならない存在。」

 

 

「……つまり…天馬は命の順番に従ったということですか?」

 

 

「あぁ…彼が死んだとしたらきっとそうだ。」

 

 

 

「そんな巫山戯た話……」

 

ぎりぎりと歯が鳴る。不条理にも程がある話だ。

 

だが有馬はそれを根幹から否定する。

 

 

「あるんだよ。理不尽の交錯するこの世界ではね。」

 

 

 

 

「何を根拠に……」

 

 

「今までもそうだったからさ。刀使の様な守られる存在とは違い僕らはいつも命懸けだからね。」

 

 

 

「そんな僕らだから知っている事もある。」

 

 

彼は知っているのだ。この世界の理不尽を。だから彼の話す言葉には説得力がある。

 

 

「その理不尽に打ち勝つ唯一の術は欲望だ。」

 

 

 

「?」

 

それを聞き最初は疑問を抱いた。

 

 

 

「己の私利私欲、根拠とかはない。けどそれが一番実戦で生きてくる……そしてそれを叶える為にやるべき事なんだ。」

 

 

 

 

「けど、今の天馬は私欲の部分のみで戦っている。私利が存在していない。」

 

 

 

「君には天馬の欲になってほしい。その為に今がある。」

 

 

頭の中が白くなった。有馬の言葉が意味するのは即ち天馬の死を肯定するものだった。

そして同時に抑えきれない憤りを感じた。それがどこから湧き上がったものかは今はどうでもいい。

 

 

「つまり……私に彼の死ぬ理由になれと?……巫山戯るな……それのどこに……救うすべがある……」

 

 

 

 

「まぁそう怒らないで聞いてくれ。別に彼を死なせる為にお願いしている訳じゃないんだ、ただね………心は人の原動力になる。」

 

しかし予想に反し有馬は笑顔を絶やさなかった。

 

それにいくつかの疑問を持つがそれはすぐに解決する事になる。

 

 

「……」

 

 

「彼の心を動かせるほどの……存在ならば……きっと運命に打ち勝つほどの力になるだろう。」

 

 

 

「要は根性論だよ。」

 

 

その説明に苛立ちは自然に消え失せ、頷くしかなかった。

 

きっとこれは願掛けのようなもの。記憶に見た特異点と呼ばれる戦いはおぞましい程のものだった。理不尽に歯を迎える人々。

 

きっと誰が関与しても未来を変えることは難しいのだろう。

 

 

だから、願掛けなのだ。

 

 

そんな姫和に別の質問を投げかける。

 

 

 

「君は天馬の右目をどう考える?」

 

 

 

それはオッドアイの天馬にのみ意味を成す質問だろう。

 

彼の右目。薄緑の美しい目。左目の情熱的な赤と比べると落ち着いた色。

 

 

普通はそう考えるまでだ。だが、彼の生き様を部分的に辿ってきた姫和にはわかる。

 

 

 

「…綺麗な……それでいて寂しそうな目をしている……辛い過去が詰った。そう感じています。」

 

 

 

「!?」

 

 

寂しそうな。その表現は正に正解を弾き出していた。あの右目には悲痛な過去が詰まっている。それをこの少女は容易く見抜く。

 

 

 

欲しかった答えにたどり着いてくれたことが何よりの収穫。

 

 

(良かったね。天馬。君は報われるよ。)

 

 

 

 

 

 

「そうだね……でも天馬の未来を間近で見てきた君ならもしかすれば…」

 

 

「思い留まっていることはあります…でもすいません。まだ言葉に表せるほどまとまってなくて……」

 

 

 

「ありがとう。天馬のこと、考えてくれて。」

 

 

「いえ。………」

 

 

必死だったのだ。天馬は生き残る為に。

 

そんな彼の人生を言葉で表せるほど人の言葉は有能では無い。

 

それを理解している有馬もそれ以上のことを問うことはしない。

 

 

 

「話は変わるけど、天馬のお嫁さんになってはくれないかな?」

 

 

「…は……」

 

一瞬、何を言われたのか分からなくなった。そしてすぐに理解し、恥ずかしさに打ち悶える。

 

 

 

「なっ…ななな……なにを!?」

 

 

 

「いや〜〜、きっと君みたいな可憐で淑やかな女性なら天馬もWelcome何じゃないかな?」

 

 

 

「あぅ………」

 

感情の制御が効かない分野。そこを付かれると途端にゆでダコの様に赤くなる。頬は紅に染まってしまう。

 

こんな顔誰にも見せたくない。

 

だが、そんなことも知らずに有馬はにこやかに見つめてくる。

 

 

「ふふっ、冗談だよ。」

 

 

 

 

「キミに話せてよかった。……最後にね…僕は思うんだ…きっと君は天馬を救ってくれるって…天馬を頼んだよ…」

 

 

 

その目は親が子を見守るような温かい眼差しだった。

 

 

 

 

 

「ねみぃー……メガネ…何してやがる?」

 

 

 

「やぁ天馬。よく眠れたかな?」

 

 

姫和たち(アマたち)は?」

 

 

 

舞草の刀使(ここの先輩)にお稽古されてる。」

 

 

 

 

「へぇ。朝早くからご苦労なコッタ。」

 

 

 

「はぁ。あのねぇ。君今何時だと思ってる?」

 

 

 

「六時半。すぎだな。」

 

 

 

「午後のね!!!たく…遠征させるとすぐコレだよ。もっと健康的に生きたまえ。」

 

 

 

「うるせぇよ。何時まで寝ようが俺の自由だろ。」

 

 

「いや。任務だから。ちゃんと起きなさい。」

 

 

 

「チッ……それで。何の用だ?んん〜?」

 

 

 

「…そろそろ頃合いだ。……君も…双星(ソウセイ)の事…詳しく知りたいと思って。」

 

 

「!!」

 

 

「この前はちゃんと話せなかったからね。」

 

 

 

 

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