刀使と紡ぐ物語   作:生き甲斐探す

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今回は天馬視点です。年頃かつ思春期の男子が美少女と祭りに行く話です。

どうぞお読みください


本心語り

この世には一生残る傷を抱える人が大勢だ。目に見えた傷から心の傷まで。ましてや黒歴史だの。

でも、そんな痛みのシミだけが残るわけではない。

 

 

仮にその逆があるとすれば、それを感じた瞬間はこの日だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャンシャンシャンッ

 

ドンドッドッンッ………よいよいよいッ!

 

 

不規則な鐘の音が耳を揺らす。若干耳障りな音が募る。

 

 

 

「ったく……うるせぇな……本土の祭りってのは」

 

 

とある神社の一角。その石垣に腰を落とし鎮座する少年。

 

耳障りな音と共に、その顔は不機嫌さを際立てる。

 

 

記憶は昼頃に遡る。

可奈美から今日の説明を受けたときのことだ。

 

 

「刀使のきゅうか?は?んな事する前に強くなれよ。」

 

「まぁまぁ。私たちも鍛えてばっかじゃ疲れるし。それに今日は訓練もできなし〜。」

 

「はっ……いつも剣術の事考えてるヤツのセリフじゃないな。」

 

「女の子にとってお祭りは特別なのっ!!ね、姫和ちゃんっ!」

 

「いや……私は別に……」

 

「も〜、二人共。絶対楽しいって!!」

 

「絶対行こうね!!」

 

正直うぜぇと思った。そしてしつこい。

でも、絶対行こうね。なんて言われたら断るにも断りにくい。

 

 

「はぁ……わあったよ。」

 

 

 

 

結局その後、熱烈な可奈美の誘いに姫和と天馬は渋々承諾した。のだが、

 

 

 

「チッ……待ち合わせってのは時間厳守じゃなかったのか?」

 

 

 

そう。奴らが来ない。あれだけ祭りを楽しみにしていたやつが来ない。何かあったか?

 

 

 

 

 

 

その日は衣服をクリーニングに出す為、刀使たちは一日休業らしい。日々の疲れを癒やすという名目で開かれるそうだ。そこまでは可奈美からすでに聞いていた。

 

 

そして、浴衣に着付けることも。恐らくはそのためなのだが、その祭りで浮かれてやがる刀使共は指定した時間にまだ来ていない。

 

先に行ってやろうかとも考えたがそれはそれでつまらない。

 

 

 

 

「おせぇぞっ!」

 

 

 

「遅れました〜。って、もうっ!姫和ちゃん。」

 

 

「なぜ……わたしも……」

 

 

「おいっ離せっ!」

 

 

 

「いいからいいからっ!天馬さん!ジャジャ〜ンっ!」

 

 

顔を上げるとその先には浴衣姿の女が二人。

 

恥ずかしそうにしているのに姫和と、堂々としている可奈美。こうして見ると対象的な二人だと思う。長い黒髪と少し短めな茶髪。真面目と溌剌。

 

で、この二人は何を説いているのか?

 

 

 

「?」

  

 

 

「も〜、感想だよっ。美少女二人の浴衣姿になにか一言ありませんか?」

 

 

あ〜、感想か。浴衣の感想………

 

 

 

「………」

 

 

 

隠れるようにしていた姫和を引きずり笑顔を見せる。

 

 

「!?」

 

 

この上目遣いにブワッと顔が熱くなった。何故……なんか色っぽい。

 

何だよこれ。たかが女の浴衣だろうがっ……

先程見たときには何も感じなかったのに。

 

似合っていた気もするが……それ以上に不思議な感覚だ。どちらかというと襲いたくなるような感覚。

 

必死に体の内から込み上げてくる衝動を抑えるしかない。ここで盛れば獣認定を受ける事となる。それにこいつらとは恋人でもなんでもない。

 

所詮、島で女の浴衣ぐらい多量に見てきた。大丈夫だ。

 

きっと祭りに浮かれてときめき易くなってるのだ。

そうに違いない。

 

大したことないはずなのに。

 

 

「………」

 

 

 

可奈美は普段の溌剌な印象を際立てた明るい模様の浴衣。それを引き立てる出るところは少し出て締まるところはしまる、ボディーライン。

 

 

姫和は普段おろしている髪を纏め、落ち着きのある綺麗な浴衣を着ている。あまり着飾っている訳ではないが、かなり似合っている。浴衣は貧乳が似合うと聞いたがあながち間違いではないのかもしれない。

 

 

どちらにせよ、こいつ等にこんな色があるとは……少し驚く。

 

「あの〜、天馬さん?」

 

「……何かないのか……?」

 

 

「……」

 

問われ、ふと我に帰ると姫和が上目遣いで見上げていた。

彼女の顔の良さからか、その視線にドキッとする。若干赤い顔に綺麗な浴衣。

あ、駄目だ。普通に認めるわ。似合ってるよ。それがムカつく。

 

 

「ほらほらっ、浴衣なんて滅多に着れないから新鮮っ」

 

 

くるくると回って見せるな。恥ずかしい。やめなさい、みっともない。ただでさえ整った顔立ちなのだ、危険な大人が来ます。

 

 

 

「ねぇよ、んなモン。それよか祭り楽しもうぜ。」

 

 

 

「え〜〜それだけですか?」

 

 

素直に褒めれたらどれだけ楽だろう。いつもそうだ。強がって本心を伝えられた試しがない。

 

 

「うるせぇ、行くぞっ!!」

 

逃げるように走る。俺だって恥ずかしいんだよ。

 

後ろを見ると、プクーと頬を膨らました可奈美と不服そうに歩く姫和がいた。普段見ない意外な一面に少し驚き、その様子に心をかき乱されそうになる。

 

 

そんな二人を連れ回る祭りはきっと楽しいだろう。

 

 

「………まぁ、悪くねぇよ。」

 

 

 

ボソリと呟いたそれは誰にも聞かれることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいっ、てめぇッ!俺の菓子飴に食らいつくなっ!!」

 

 

「おいっ……静かにっ…流石に恥ずかしい……」

 

またもや顔を赤くしている姫和。おや、と思い辺りを見回すとあちこちからヒソヒソとこちらを見て話している。複雑な人間関係を疑われているのだろう。

 

あ〜恥ずかし。

 

「おいひー、やっぱり祭りはこうじゃなきゃ!次ッいこ〜!!」

 

 

 

「んだと……てめぇっそのりんご飴よこせっ!!」

 

 

 

「ぎゃあああ、それだべかけっ!」

 

 

「いまさら気にしねぇよっ!!」

 

 

「だめっ、私が気にするの!!」

 

 

 

「あ……。」

 

 

「ふ?ほうひた?」

 

可奈美のりんご飴を無理やり奪い取ってやる。自分ばかり食われては癪に障る。

 

だが、その様子を怪訝そうに見つめている姫和が目に入る。何がそんなに不思議なんだ。

 

「いや……人の食べ跡をよく普通に食べれるなと思ってな。」

 

 

 

 

 

「ははーん、姫和ちゃんどーぞ。」

 

 

 

「ん…………。」

 

姫和の表情を見ると若干羨ましそうにも見える。その表情の先が自分に向けられている事を密かに祈っていた。

 

 

 

「……おいしい。」

 

姫和の小さい口には少し見合わない齧りかけの林檎。それを一生懸命に含む姫和の姿に気づけば目を奪われていた。姫和の癖に癪に障る。小さな口で咀嚼する様子は妙に艶かしい。

 

 

 

「ああっ!しまったあーー!!花火っ!!」

 

 

 

「…?何を焦る必要がある。」

 

 

 

「席なくなっちゃうよ!!姫和ちゃんのどんかん!!」

 

 

 

「な……どんかん……」

 

 

 

 

「?別に席なんてどうでもいいだろっ?」

 

大事な事は他にある。席なんてくだらない。

 

 

 

「天馬さんまでっ!!いい席で見た方がいい思い出になるでしょ!!」

 

 

 

だが、可奈美は姫和の手を取り走り出してしまう。本当にしまらない。気が緩む。意思が揺らぐ。ぬるくなる。

 

 

「おいっ、引っ張るな!!転けるぞ!!」

 

  

「天馬さんっ!はやく!!」

 

 

 

 

「……「ぐへっ!?」」

 

 

やっぱり転げやがった。それにしても飽きないやつだ。

 

 

「大丈夫か!?」

 

 

 

「チッ、言わんこっちゃねぇんだよ。ほらっ行くぞっ!!」

 

 

仕方がないから起こしてやる。姫和は無事のようで途中可奈美の事を心配していたが、ごねる可奈美を見て珍しく笑っていた。仕方ないから笑ってやった。

 

 

 

「あ、花火!」

 

 

 

「間に合わなかったな。まぁいいじゃないか。」

 

 

急いだが、結局花火は目的地につくまでに上がってしまった。

 

間に合わなかった、かなり落ち込んでいる可奈美の様子からよほど楽しみにしていたイベントだと思われる。

 

 

可奈美は間に合わなかったと言ったが、間に合わなかったという実感は湧いてこない。

 

 

花火は、ここからでも見える。それにここでしか見れない景色もいい。島にいた頃は高貴な身分をふんだんに使い何もかもが特等席だった。いい席でいい飯を食って。

 

 

でも……いつも一人だった。

 

 

 

 

 

 

でもここは違う。

 

 

 

 

惜しかったな、ぶっきら棒になだめる姫和の言葉からは心温まる優しさを感じた。

 

 

 

心底思う。今日の祭りは魅惑だ。

 

 

 

「まぁ、そう気落ちするな。花火ならここからでも見えるだろ?」

 

 

 

「姫和の言うとおりじゃねぇか、別にここでも構わねーだろぉが。」

 

 

 

 

「うぅ、転んじゃったし間に合わなかったし、サイアクーー。」

  

 

 

「ズッコケたのはテメェのせいだがな。」

 

 

「なら、祭壇に行かないか?もしかしたらここよりよく見えるかもしれない。」

 

 

たくっ……心底嫌気がさす。ぬるま湯につかる気分だ。今は足を湯につけた程度だが、このまま居ればいずれ全身浸かり弱くなるような気がする。それが少し怖い。

 

 

でもこのままでいたいと思う俺がいる。このまま全部忘れちまって楽になりたいと思う弱さがある。そもそも刀使(コイツら)を巻き込んで自分勝手な理由に使おうとしているのは俺自身だ。

 

 

でも祭壇から三人でみた花火はきれいだったと思う。

 

 

優しさはいずれ弱さへかわる。それでもこの一瞬だけはその微睡みに浸っていたいと思うのだ。

 

   

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