学生を中心に活動する刀使は、その特性ゆえに、安全確保のための索敵技術を基礎課程の内に習う。
当然取得している私たちは敵の奇襲時、ある程度の状況把握は出来ていた。舞草の危機は同時に作戦の決行を合図する。エレンの祖父、リチャードフリードマンから万が一の時の為に予め緊急時のマニュアルを渡された。そのため、このような非常事態の時の理想的なシナリオは頭に叩き込んである。私達の役割はあくまで折神紫の中の化け物の討伐。何も知らず命令に従っている人には申し訳ないが、こちらも気にしている余裕はない。敵陣営は殺さない程度に斬り捨てた。全ては折神紫の中の大荒魂討伐の為に。
そう信じて今まで辛い鍛錬にも耐えてきた。舞草の人たちも
だが、眼の前でその全てはぶち壊された。
「何故?……あなたがここにいるっ!?」
「何故?……そうだな………少しばかり気がかりなことがあってな……………貴人はどこだ?」
「きじん?何の話だ!……そんな物知らんっ!……それより質問に答えろ!!!」
「ふむ……貴人では伝わらないか……そうだな、おまえ達を助けた陰陽師と言えばわかるか?」
その問いに思わず顔を見合わせる。思いつく顔をただ一人。貴人というワードが指し示す人物を思い浮かべる。
「姫和ちゃん、天馬さんのことじゃ……」
「あぁ……わかっている……気になるなら天馬に直接聞けばいい………だが、それよりも今は、何故ここにいる!!折神紫!!!」
「紫様……」
「違う……奴は折神紫を依代にした化け物だ。」
「十条姫和、衛藤可奈美。あの二人の血筋だからまだマシかと期待してはみたものの……わざわざ足を運ぶほどでもなかった………」
ニヤリと折神紫は笑った。
「何だと……」
「期待外れと言っている……まぁ、多少は仕方のない分もあるが……御前試合を見るにお前達の剣術は、藤原美奈都は愚か……柊篝にも遠く及ばん…」
「……なら…ならっ!!試してみろっ!!」
愚弄に耐えきれなくなった姫和は気づけば地を蹴っていた。それは可奈美も同じであり、超高速の剣舞が折神紫を襲う。
ゾワッ
ビリ……びり……ビキンっ!!
ゾクッゾクッゾクゾク!!
迅移を加速させ折神紫の間合いに斬り込む瞬間、背筋の凍るような嫌悪感に襲われた。
「ガハッ!?」
「クッ─────なに……がァ!?」
稲妻が体中を駆け巡るような衝撃、体中の筋繊維が硬直して動きが止まる。
気づけば姫和たちは折神紫の眼の前で跪いていた。
そして圧に飲まれ次の瞬間には後ろに大きく飛び退いていた。
「今のは!?殺気……?」
「……斬られた?ちがう………からだが、怖気づいた……?」
そこまで口にし可奈美は自分の体が踏み込んだ領域の深さに気づいた。今のはただの威嚇だ。だけど緊張しきった今の私たちには効果覿面だ。細く尖りきった刃が横から折られるのと同じく、折神紫に集中しきっているからこそ、予想外の攻撃、猫騙しのように不意打ちに弱い。
そして使い所が上手い。つまり折神紫、その中の大荒魂は戦い慣れているということ。
「おいおい…ただの牽制でいちいち動きを止めていたら私を倒すことは愚か、奥義すら使えないぞ?」
当初の作戦では折神紫の対処に天馬を含め最低でも十人、いやそれ以上の戦力で挑む予定だった。だが、その人数を集める事はほぼ不可能。仮に集められたとしても誰でもいいという訳じゃない。一秒でも長く奴の注意を引く事ができる精鋭。現状では実質不可能。
それに……援護が駆けつけようが、その時には私たちは奴に殺られている。
「ッ─────────………」
実力差があり過ぎる。終わった。案外呆気なかった。なら…せめて、可奈美だけでも………
「私が……時間を稼ぐ……かなみ…おまえだけでも」
「姫和ちゃん、前を向いて。姫和ちゃんの敵は目の前にいるよ。」
「だが………」
「姫和ちゃんは死なない。天馬さんが言ってた。」
「それはあくまでも……現実を見ろっ、今ッ眼の前にいるのはっ」
「そう。目の前にいるのは姫和ちゃんの目標でしょ。なら頑張らなきゃ。きっとみんなが来てくれる。もし私がさ、姫和ちゃんの為に、囮になるって言ったら姫和ちゃん、絶対止めるよね?」
「一緒なんだよ。私も同じ。だから頑張ろ。」
「それに、私こう見えて姫和ちゃんより強いよ?」
そうだ。きっと何とかなる。それにここで奴を隠り世の最奥に幽閉できればここから先、犠牲になる人たちが明らかに少なくなる。
「ッ───………いや…可奈美、丁度いい機会だ。私達の連携がどこまで通じるか」
「うんっ、試したくなって来ちゃった。」
「行くよっ!!」
そうだ。ここで折神紫の内部から奴を追い出せればみんなの負担も罪も格段に軽くなる。なら、今どう凌ぐ、では無い。ここで払えばいい。
「あぁ!」
「ほぅ……いい目だ……始めようか」
───────バキンっ!!キンッ!ガキンッ!
「んん〜っ!ズバ────ンッ!!!!」
ギシャ────ンッ
「グフッ─────ハァッ!!!」
何っ!?さっきから何なのっ!?腕を振るった先から斬撃が………それも超広範囲!!!
それが連続で追っかけてくる…………斬撃が邪魔……かするだけで写シを剥がされそうになる……当たったらお終い………そのせいでお兄さんに全然近づけない……それに………お兄さんに近づきすぎるのもヤバい…近距離戦も間違いなく私より上手…………さっきもそうだけど……触れられると終わる……分が悪すぎる…………
これじゃ……真希お姉さんたちがやられてもしょうがない……
「シャキ─────ッン!!!」
「………ふふっ」
「あ?」
「キャハハッ………」
!?あのアマ……笑いやがった……何を考えてやがる……見るに
「チッ……狂ったか!?」
「そうじゃないよ!!ただ、可笑しっ………くっ────てさッ!!」
はっ、可笑しい!?笑わせんなよ……テメェの無様な避けっぷりの方が余程おもしれぇだろ!?………それに………接近戦に持ち込むきか……馬鹿が……
ガキの発想だな……愚かしい……目障り……邪魔……
その無邪気さが……命取りなんだよっ!!
「考え事!!そんな余裕──────ないから!!」
シャッ─────!!
「!?」
弾かれた!?このアマ……反応速度が上がった……が……
苛立つ天馬の斬撃は結芽に弾かれた。そしてその余波もうまく身を回し受け流す。その事実に素直に驚いた。
結芽はここで初めて初めて避ける以外の方法で天馬の斬撃を回避したのだ。
後ろに周りこみ、刀を突く。
そして結芽の鋒がようやく天馬の首筋を掠める。
はずだった。
え……?
「鬱陶しいっ!!!!バコ────ンッ!!!!」
「キャッ!?」
吹き飛ばされた!?それとも蹴られたの?右脇腹が痛い。
それとも風圧の爆弾!?意味分かんない……どういう原理!?それに………うわっ……斬りかかった私の努力……斬撃をひらりと避けッ…て…………もう詰めた間合いが……せっかく……近づいたのに………引き離されてる………
ッ────────
……はぁ………………次元が違う………
「──────ふふっ」
何でだろう…頭では実力差を目の当たりにされて落胆してるのに、心はそうじゃない。
私は今、昂ぶってる!!
「ふふっ……おに〜さんっ!!さいっこうだよ!!!何でそんなに強いの!?ふふふっ、わたしはっ!!!」
?土地狂ったか?正面から突っ込んで来やがる……なら、お望み通り砕いてやるよ!!
「お兄さんをっ!待ってたんだっ!!」
「いい加減消えろ!
ザシュッ
「ヘヘッもうっ!その技は避けれる!!」
シャッシャッシャン!!
!!斬撃が異様に伸びた!?速い……そして……低いッ……三連撃か………俺の斬撃が……かわされた…………おもしれえ…
「…だが、所詮俺にゃ当たらねぇ……で?…まだ続けんのか?」
「いいえ………フゥ……おに〜さん!今日はここまで……たぶん今の私じゃ勝てないし……お兄さんも忙しそうだから見逃してあげる。」
「あ?見逃す?見逃してくださいの間違いじゃねぇの?…んん?」
「ふふっ何でもいいよ。またね、お兄さん?」
またね、じゃねぇよ。ガキが。
…
───────な!?
馬ッ鹿が!?この……馬鹿デカイ呪力は!?そうか……あのガキは俺の意識を背けるために。が、そんなことはどうでもいい。
「チッ!」
今はっ………間に合えよっ!!
なお、歩く警報機四名はひたすら走っています。