刀使と紡ぐ物語   作:生き甲斐探す

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どうぞ、お読み下さい。


無粋な悪女

可奈美と姫和を除く面々は一度フリードマンの待つ隠し逃走経路を目指していた。

当然、移動手段は徒歩。幸い刀使の四人は迅移を使える為移動にはそれほど苦労しない。車ほどの速度で移動可能。音も出ない。それは並の人が出来ていい芸当ではない。それを10代中半の少女がいとも容易く熟す現実。

 

 

目にも留まらぬ凄まじい速度で木々を掻き分け走り抜く。

 

のだが────?

 

 

「天馬……アイツ、ホントに人か?」

 

そう。刀使でも何でもないはずの常人がとてつもなく速い。見るに足の回転速度だとか、足運びとか、そう言う話じゃない。確かに洗礼された走りなのは間違いないのだが。

 

「……ジャンプ。」

 

「天馬。飛んでる……?」

 

結論から言えば天馬は刀使よりも速い。

気になるとすれば脚に描かれた光り輝く呪印。

一見異様に見える身体。その正体はまさにその呪印にある。肉体の上に別の膜を貼る事で肉体を保護する刀使に対し、陰陽師は肉体を硬くすることで身を守る。正確には直接肉体に掛ける訳ではなく、衣服に呪装するのだが。

そして今、天馬の使用した物は脚の脚力を底上げするもの。

とある事情で人の数十倍の呪力を持つ天馬の全力は、刀使の迅移をも上回る。

 

「エグいな……」

 

「凄っ……」

 

だが、天馬の心情はまた別の所にあった。

 

────はぁ。遅え……

 

こんな事言っちゃ悪いが、かなり手を抜いてる。と言うかそもそも走っちゃいねぇよ。ただ飛んでるだけだ。こいつ等も刀使どもの中じゃまだマシなほうなのかもしれないが、想像以上に雑魚い。

 

燕結芽(さっきのやつ)は感覚が良かったが、太刀筋がお粗末だ。それとは別の理由でここにいる奴らも駄目だ。とてもじゃねぇが遠方から感じた(さっき感じた)膨大な呪力にはかなうはずがない。

 

「可奈美ちゃん……それに十条さんも、大丈夫かな…。」

 

「大丈夫だろ。ひよよんはクソ真面目で努力家で…」

 

「だけど頑固。」

 

「………可奈美は馬鹿だけど剣術は正直俺たちよりできる。」

 

「でも、剣術だけ。」

 

 

「それに、天馬はここにいる。」

 

「アイツらは無理だ。」

 

「ちょっ、諦めないでくださいよ!」

 

 

 

 

「チッ」

 

イライラすんだよ。雑魚の癖に人の心配はいっちょ前にしやがる。人の心配してる余裕がない事に気づいてんのか……!?踏み入れた先が闇しかない場所|(血みどろの舞台)だって事を分かってんのか……!?

 

────ここにいる四人(刀使)には致命的に覚悟が足りない。

 

「グダグダ言ってんじゃねぇ。」

 

そんな陳腐な志にどうこう言われる(心配される)ほど弱くはねぇんだよ。

 

 

 

 

 

 

─────あん?隠り世についていくことができるか?

 

─────そ、姫和ちゃん、頑固でしょ?だから一度決めたら絶対曲げない。でもそれは私も同じ。

 

 

 

 

 

 

 

「…知らねぇけどよ。ここでおっ死ぬ程度なら端から要らん。」

 

 

「天馬、姫和と可奈美は本当にあっち……?あってる?」

 

 

「間違いねぇ、お前らは戻ってろ。」

 

 

「天馬は……?」

 

 

「バカ二人を連れ戻してくる。」

 

「一人で大丈夫なのか?」

 

「心配。」

 

「それなら私も───」

 

「要らねぇ、足手まといを連れて歩く趣味はねぇからな。」

 

 

「……そんな言い方。」

 

 

「効率化だ。十条姫和(ぺたん娘)衛藤可奈美(クルクルモンブラン)は必ず連れ戻す。だから爺さん(メカサンタ)のところで待ってろ。」

 

────ここから先に少なからずお前らは必要だ。 

 

「紛いなりにも仕事しろよ………んん!?」

 

 

必要なことを伝え終えるとすぐに駆け出した。

 

 

バッ!

懐かしい感覚、緊張感、爽快感。

それらに身を任せ全力で飛ばす。

 

 

「まって───!!」

 

 

「ッ速っ!!」

 

 

運命とやらは予め決められている。そこに何を足した所で変わりやしない。誰もが溺れ誰も彼も役に立ちやしない。所詮その程度なものだ。誰がどうあがいても何も変えられない。だが……その理屈からすれば折神紫に衛藤可奈美は殺せない。当然十条姫和も。

 

それなのに……なんだ………ものすごく遠い………気が重い。嫌な予感がする。ねちっこくて鬱陶しい、聴き慣れたあの感覚。

 

以前も耳にした。あの悲劇の日々。

 

 

─────始まったか。

 

─────先に天馬をみんなで……

 

─────だってそうじゃない……私たちが血を吐くほど鍛えてもアイツの才能には及ばない。そんなの不公平だと思わない?

 

─────だからね……儀式が始まったらすぐ……みんなで殺すのよ。アイツを………ね?

 

─────当代の貴人の候補生は五人。憐れなものだな。

─────可愛いかわいい……弟ちゃ〜〜〜ん!!人殺しはッ地獄に落ちるのよ……誰にも理解されない………貴方は一生孤独。ふふっ──滑稽よねぇ〜〜〜!!?!

 

─────シンドかったぁ〜、やっと開放させる〜〜

 

─────最強の称号を得た君には、自身の最後を知る義務がある。

 

 

 

それだけじゃない。俺は昔の景色だけを見てる。これからを見れていない。

そんなくだらねえ過去(しがらみ)は要らない。探せ、ここで新たに得たものだ。アイツらならできる、そう保証できるなにか。

 

 

 

 

─────私は……自分の因縁には自分で決着をつけたい。

 

─────私も手伝う。私、こう見えても根性あるよ。もしかしたら天馬さんの重荷も手伝えるかも、なんてね?

 

 

あった。

 

フンッ。くだらねぇよ。

またこうなるのか……

 

おいおい、しっかりしてくれよ。

 

ま、思考の練習だ。間違えんなよ。

 

 

 

 

 

 

折神紫との交戦。それは予想の遥か外。全く想定していない段階での交戦。

 

「おいおい」

 

これで何撃目か分からない。私達はひたすら打ち込んだ。だが、折神紫は私達の攻撃を避けるだけ、一撃も当てれない。届かない。

 

 

「腰を抜かすなよ……?フンッ─────」

 

 

シャッ!

 

ようやく御刀を抜いた。そう思った時には既に遅かった。初めは何が起こったかが分からなかった。でも、自然と気づきはじめて気づいた時は足元の大地が切り裂かれていた。

 

 

「……!?さっ」

 

裂けた!?大地が裂けた!?今の一太刀で!?そんな事っ

 

────いやっこの断面……このえぐれ具合。

 

────間違いない……こんなもの刀使のできる芸当じゃない。

 

 

「まだ一振りだぞ……?」

 

それに……近づくにせよ…例のスタンを避ける方法が分からない……平面的な攻撃は無理でも……

こちらもただ無策で挑んだ訳ではない。戦況を有利に運ぶ術。

 

「可奈美っ!」

 

「うん!!」

 

「姫和ちゃんッあわせて!!」

 

 

可奈美は意図を読み取り前に出る。そして身をかがめる。舞草の練習は激しかった。だが、そこから得られた事も多かった。その一つが連携だ。

 

バッ

 

可奈美の背を借りより高く飛翔する。空なら防ぐにせよ体制を変える必要がある。そこに付け入るスキを探す。

 

そして可奈美は先より更に低く剣を振るう。

 

地と天。対方向からの斬撃。

 

「「ハァァァっ!!!」」

 

ガキンッ!!!

 

だが、その程度の工夫では宿敵には届かない。当然だ。姫和の奥義を容易く防ぐ強さは容易に崩せるものでは無い。そんな事ははじめから分かっていた。

 

 

「ッ」

 

御刀!!どこからっ────隠り世。

やはり隠り世を自在に……!!

 

ならっ

 

「「ハァァァ!!!」」

 

立て直し可奈美と合わせて左右から同時に詰める。

が、ヤツの肌には届かない。派手な金属音だけが虚しく続く。

 

ガキんっ!!

 

「いい連携だ……が、遠く及ばん。」

 

「姫和ちゃん!!距離とって!!!」

 

左右からも通らない!!ならッ─────!?

 

 

「ッ!?」

 

 

しまっ─────

 

 

シャ─────!!!!

 

 

ドサドサっ!!

 

 

「ガハッ」

 

────速っ

 

 

何!?今の!!斬撃が円状に広がって……!?

周りの樹木が断ち切られた!!!危なかった。飛んでなきゃ斬られてた。

これが……天馬さんの言う大荒魂の本来の力………

 

 

え……?姫和ちゃんは!?

 

 

「姫和ちゃん!!」

 

────そんなっ

 

「ハァハァ……コホッ……かなみ……気にするな。」

 

 

───────吹き飛ばされた!?

 

いや、波状に靡く斬撃……!?

 

まただ、意識が飛びそうな感覚。間合いを無作為に詰めすぎた。斬りつけられた。写シを引き剥がされただけじゃない。あの攻撃は響く。体を痛めつける。

 

 

この戦いで確信した。可奈美は確実に強くなっている。いや、自力の差と言うものか。

さっきの攻防で折神紫の攻撃が私には見えなかった。

だけど可奈美は避けれたみたいだ。あの一瞬で可奈美は攻撃に反応し、さらに対応した。

 

私は反応できなかった。写シが無ければ私の身体は真っ二つに裂かれていた。つまり────ここが引き際。

 

ここで使うしか無い。

 

幸い一本道が示してくれてる。ここからならほぼノータイムで隠り世につき落とせる。

元より覚悟は決まっていた。出来ればもう少し……

最後は笑いかける。

その表情を見て可奈美は確信した。

 

 

「待って!!」

 

「────一つのt」

 

「フッ」

 

 

だが、技を撃つ瞬間、吐き気がする程の違和感を覚えた。

 

奴が笑ったのだ。それが恐ろしい程に引っかかった。

 

「───!?」

 

 

笑った……?おかしい。何故だ……?

 

────────?まてよ……何故だ……そもそも前提が違う。奴がここにいるのは何故だ……?

 

そうだ。天馬の話では折神紫に憑依したヤツの目的は力の回復。十年前の戦いで受けた傷を癒やす為行動しているはず。それなのに何故?私達の排除が目的ならば、親衛隊に命じて置けばいい。安全な場所で穏便に済ませようとするのが普通だ。

 

答えは簡単。

 

─────ここにいる奴は折神紫の革を被った別のなにか(ニセモノ)。折神紫は何処か別の安全な場所にいる。

 

目的は……一の太刀、継承者の私の排除。あるいは自爆。それの誘導。一度隠り世に入れば私は戻る事ができない。それが狙い。

 

それにわかる。風から伝わる感覚、この空気の震え具合。冷たさ。それに圧。なんとなくだが分かる。

 

 

「……遅いぞ。」

 

 

ならば私はそれに身を任せるだけで良い。勝負はついた。後はきっと彼が何とかしてくれる。

 

「ヒトツノタチ」

 

技の名を告げた。告げた瞬間から私は闇の中に足を踏み入れる。唯一見えるものが光となる世界。そして自然と身体は意識とは関係なく動く。目標まで一直線。そして折神紫の目の前につく。

 

「……かかったな。」

 

暗がりの中、確かに聞いた。

 

───予想通り

 

だから私は足を引き後へ飛んだ。出来るだけ遠くへ、目一杯。

 

 

「ニセモノ。」

 

本当はもっと言ってやりたいことがたくさんあった。けど、極小の時間では一言が精一杯だった。

 

けど、ほら。私の止まった時間は動き出す。

私の身体は幽体感とともに流される。風に運ばれるように身体が舞う。視界の闇は光射し、目の前にいた折神紫の姿はない。

 

そして私の身体は、優しい腕に支えられていた。

見上げた先、整った顔立ち、左右別色の綺麗な瞳。生意気に笑うその姿。

 

鸕宮天馬。

 

 

─────引っかかってんじゃねぇよ、十条姫和(ぺたん娘)

 

─────遅すぎるぞ、バカ者

 

 

私はそのまま天馬の腕に収まった。そして闇の景色は一変した。

 

そして景色が戻った。

 

 

 

 

 

 

「ズバァーーン!!!!」

 

 

シャ─────!!!!

 

 

「!?」

 

 

姫和ちゃんが三段階目の迅移を披露した瞬間、折神紫の体が真っ二つに切り裂かれる様を見た。

こんな事をできる人を私は一人しか知らない。

 

 

「天馬さん!!それに、姫和ちゃん!?」

 

助かった…、最初にそう思った。姫和ちゃんは天馬さんの腕に抱えられてる。

あの一瞬で何が起こったのかは分からない。見えたのは姫和ちゃんを助ける天馬さんの姿、それと笑みを浮かべる紫様。けど、次の一瞬には紫様は真っ二つになって───

 

「紫様は!?」

 

「天馬さん。紫様は……?殺しちゃったの…?」

 

「は?折神紫がこんな骨のねぇ雑魚だと思ってんのか?」

 

「ザコ…?」

 

 

「単純な話だ。式神くらいは知ってるだろ?アレは折神紫でも何でもねぇ。見ろっ」

 

だが、そこで理由がわかった。

 

「!?」

 

斬れた折神紫の胴がくっついて行く。

細胞と細胞が断ち切られた部位を補い、まるで何も無かったかのように立ち上がった。

それは例えるなら動画の逆再生。

 

 

「ヤツは折神紫が生み出した分身。正確にはケガレ。大荒魂と呼ばれるバケモンの正体は所詮、そんな所だ。」

 

 

「ケガレ?」

 

 

「簡単に言うと荒魂とは違う種類のバケモン。陰陽師の管轄だ。そして十条姫和(ぺたん娘)の悲願、そいつの実力は陰陽連発足以来の最強枠、危険度(リスク)SS(Sふたつ)以上。ケガレの最終形態────元三位、婆娑羅。」

 

 

「現在確認されている婆娑羅は十二体。だが、ヤツはそこに属していない。死んだモンとして扱われていた。要は陰陽連が尻尾掴みそこねた敵。」

 

「今相手したのは、それの究極に雑魚いやつだ。」

 

「!?」

 

「……」

 

─────私たち、ボロボロにされたのに

 

その事実に私は驚いた。正直、尋常じゃないくらいに。なのに姫和ちゃんの顔にはその様子がない。

 

 

「何だ……来ているじゃないか……貴人。」

 

「起きんのがオセぇぞ。」

 

シゅ───

 

そのやり取りの最中、一瞬布の掠れる音が聞こえ、瞬く間に天馬の姿が消えた。そして次に目が捉えたのは折神紫の顔を殴るインパクトの瞬間だった。

 

 

────死ねっ!!

 

バコッ!!!

 

 

天馬の周りの大地がクレーター状に凹む。土煙をかき分け見分ける。

だが、折神紫の姿はない。

 

「チッ、()()が相手ではな……少し骨が折れる。」

 

 

「「!?」」

 

 

「あん?バカ言うなよ。テメェは終わりだ、ゴミ野郎。」

 

 

そう言い天馬は地面に己の右腕を打ちつける。

 

 

シュバ!!

 

 

すると、突然、折神紫の体に呪印が浮かんだ。星型のセーマン文字。以前、天馬が払った荒魂からも同じ文様を見た。

 

「消えろ。」

 

「な!?にッッッ!?をst」

 

身体が膨張し、そして次の瞬間には折神紫の形状を失いチリとなり消えていた。

その様子は以前にも見ていた。だが、それでも何が起こったかがまるで見えなかった。

 

十秒にも満たない戦闘。ごく短時間の戦闘を前に、刀使の少女二人は呆けて見ているしかなかった。

 

その様子を見て、姫和はある言葉を思い出した。

それはあの夜、陰陽頭'土御門有馬'が言い残した言葉だ。

 

────天馬は強い。ここだけの話、数多くいる陰陽師の中でも彼の実力は特筆している。だが、それ故に、誰も知り得ない孤独を抱えている。君が天馬の何を知ったかは、知らないけど。もし君が良ければ、天馬の心の拠り所になってあげてくれないかな?

 

 

「すごい……凄いっ。」

 

「あぁ……すごい……」

 

本当に凄いんだ。瞬殺、それが一番似合う。

次元が違う。初めは可奈美を含め宛にしていなかった。自分の手で決着をつける。だが、今の私は見ず知らずだったこの男をなんの躊躇もなく信用していた。そしてこれからも信じていきたいと思っている。

 

────それなのに、何故

 

あの一瞬。天馬の顔の裏に闇を見た、気がした。悲しい景色、暗い底。姫和は彼の過去を知ってしまった。でも、それが総てではない。私が知る物は彼の見た景色のほんの一握り。それでも、知っているからこそ、不敵な笑みを浮かべる顔が悲しく見える。

血塗られた歴史、それを体現した様な暗い過去。

 

────何故、信じることが怖いんだ……!?

 

 

 

 

その時、土御門有馬の言う、()()が分かった気がした。

 

 

 





ありがとうございました。
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