かけました。
「ふふっ、幼い雛鳥が飛び方を覚える頃合いだな。」
「……どう致しましょう?」
─────少し時間をくれ。
折神紫はそう言うと席を立った。そして、彼女はある祭壇へ向かった。
……で?
「どうすんだ?」
作戦決行前日。海沿いの道。そこから見える海面。その先、地平線の其先めがけ語りかける。語りかけるというと正確ではない。近しいもの、携帯電話に近い。だが、天馬の手には携帯電話はおろか、それに近い物すら見当たらない。
それよりも気になるのは耳に障る悲痛の声。正確には鈍痛だが……
「ぁ!?グゥぅっ……あぁ……天馬か。」
声の主はお馴染みの人。陰陽頭、土御門有馬。
だが、声が聴こえるだけでそこに彼はいない。そもそも天馬以外にその声を聴くものはいない。
コレはテレパシーに近い。正確には彼の脳に無理やりリンクしているだけ。だから相手の都合なんてお構いなし。そして受け取りては耳に無理やり声という名の虫を詰め込まれた気分だ。
「ねぇ〜、この繋ぎ方いい加減やめてよ、頭痛いんだから。」
「知るかっ、テメェがコソコソ嗅ぎまわんねぇようにしてやってんだ……感謝しろっ。」
「ヘイヘイ、それでぇ〜…どうしたんどぇすかぁ?」
「喋り方うぜぇ。…」
「やり返しですぅ〜」
「チッ……話題かえんぜ。明日、攻め入る事になったから………一応伝えといてやる。
そう。ついに決行日。舞草を脱出した面々は多くの犠牲の元隠れ蓑を見つけそこに流れ込んだ。そして一週間、機をうかがった。
「!…そろそろだとは思っていたけどね。…ついに、だね。勝てそうかい?それとも…」
「勝つわ。誰だと思ってんだ。んん!?」
「そうだね、で?どうするの?十条さんの言う通りにするの?」
だが、大まかな作戦も決め、決意を固める中。彼の中には未だ残る迷いがあった。
十条姫和。
「…」
「もしも〜し?」
「……」
「もしかしてぇ、まだ迷ってるの?」
「………」
「……え……?マジ?…まじで言ってる!?」
「まだ何も言ってねぇだろが……」
「はぁ……天馬……君ってさ、その…なんと言いますか…女々しいよね。」
「あぁ!?」
「うん。すごく面倒くさい。正直、失望レベル。」
「テメっ、やんのか……あ?」
「やりませ〜ん。…あのさ、いい加減、気づきなよ。君、普段どうしてる?」
「……」
「今まで判断に迷ったことある?他人の人生に…?」
「………」
「迷ってる時点でそれが答えだよ。」
「…うるせぇ。斬るぞ、じゃあな。」
「ちょ!変換ちが─────」
────分かんねぇんだよ。こっちも。
なんで迷う?何に揺さぶられる?何を躊躇ってやがる?
所詮は、他人だろ。
「ハァ……わっかんね。」
────何やってんだ?
そうして思い出す。何にこだわるかを知るには、何を理由にしているかを知れば良い。
最速思い出したのは、存外珍しくもない景色だ。
それは舞草で過ごしたある日の夜だった。皆が寝静まった夜中のこと。
天馬も夢の中だった訳だが、天馬の睡眠は非常に浅い。正確にはとある事情で熟睡できない。だから、物音や軋みには比較的敏感であり、夜中、よく目覚める。
そしていつもの通り目覚めた天馬は夜風に身を任す事にした。自身いわく、本土じゃ珍しい空気の澄んだ場所。
「ふぁぁ〜、んん?」
そうして出歩く先、幼き頃から聞き慣れた木刀の音が聞こえた。
「あ?誰だぁ、こんな夜中にぃ〜?」
草木に隠れた池の畔。のどかで穏やかな場所。だが時々混見える人の手が加わった綺麗な箱庭。その奥、その先見えたものは型を確かめ合う健気な二人の少女だった。
「あ、天馬さん。起こしちゃいました?」
「あぁ、天馬か、済まない。音を立てすぎたか?気をつけていたつもりなんだが…」
その様子を見て驚いた。時刻は深夜一時、確か朝七時から刀使共は鍛錬を始めている。そうすれば…
───こいつ等、一体……何時間剣と向き合ってやがる…?
クダラナイと。一掃してやっても良かった。普段の自分なら
───雑魚がいくら鍛えたところで変わんねぇよ───などと言ってやるのだが。
だが…何故だが無駄に思えなかった。
「………そんなんじゃねぇよ。ただ眠れなかっただけだ。」
「……寝ないのか?あまり見られるのは恥ずかしいんだが…」
「言ったろ、眠れねぇんだって。」
「じゃあ、天馬さんも一緒に!!」
「誰がやるか、馬鹿モンブラン。」
「え〜、ひど〜い。」
「うるせえ!うるせえ!黙ってやれや。」
そんな事もあったな。理由として薄いかも知れないが……多分
そうだ。素直な人間と健気な人間。それと、人殺しのカス。
軟弱な力と真っ直ぐな覚悟。
強大な力と剥がれない血の汚れ。
いくら天秤にかけても分からない。
だが、まぁ……何だ…
せいぜい正しい基準。その差だろうな。
クドクド悩むなんて柄じゃねぇ。
ただ分かったことは、あいつはただのクルクルじゃねぇってことだ。
─────始めようか。
舞台は変わる、既に作戦は実行された。現在は山を下り折神紫の眼前を目指す一環。
だが、そうも簡単には行かない。
「ハハッ!!お兄さん見っけぇ!!」
「突っ!!」
「!!!」
ジャキっ!!
────ザザザッ
「!」
突き!?どこからっ!
一瞬の出来事だった。あまりにも速い突き技。それが天馬を襲う。
肌を剣がかするスレスレで何とか避けるが……
「チッ……」
「天馬!!」
「天馬さん!!」
避けても避けても連撃は続く。
「キャハッ、4日ぶりだねっお兄さん。」
「燕結芽ちゃん!?なんで」
「作戦は漏れてないはずっ…」
シュッシュッ
予定外すぎる。そして規格外すぎる。燕結芽がもともと高いポテンシャルを持っていることは分かっていた。だが、それを差し引いても今の現状はやばい。
────作戦が漏れてやがった……っ!!
そしてコイツの写シ。最悪だ。速いだけじゃない。こいつ……
写シ───それも極度までに練りあげられたもの。それは簡単に人の反応速度を超える。目では追えないほどに速い。
チッ───いきなりかよ……
「捕まえ────たぁ!!」
─────ガキんっ!
だが、背を取らかけた天馬の間に姫和が割って入る。
「ありゃ?」
「天馬っ!下がれ!!」
「え〜、ちょっと空気読めなさすぎじゃない…?お姉さんたち!!」
「これは私とお兄さんの
────シャ!!!
風を切るような音と共に結芽の姿は見えなくなった。写シ使用時の刀使の動体視力は圧倒的なはずだ。だがそれでも追いきれない。
「!!」
「ププっお〜そいんだ〜遅いんだぁ〜」
消えた……いや、見えないっ。
「ッ」
結芽の迅移は更に加速する。姫和の最大速…とまでは行かないが、周りを囲う様に襲いかかる器用な動き。
そして囲む、という行為は単純に正解だ。人間の視野は限られている。それを補う為に周囲、360°全てを捉えようとする。それがスキに繋がる。
───速すぎる迅移っ…残像まで……やつはッどこだ……一か八かっ
姫和はテキトウな場所を斬りつけた。最早それしかなかったのだ。だが、その一撃は次への伏線だ。
「───ッそこ!!」
「は〜ずれ!!」
「ねぇ…どこ見てるの?」
「おわり〜だね!!」
姫和を貫く一瞬、その一瞬だけヤツは動きを止める。
──シャッ!
だが、姫和の胴を貫くことはなかった。その直前で可奈美が仕掛けた。嫌な筋だ。剣をふるとどうしても生まれるスキ。そこを文字通り突く、奇っ怪な太刀筋。
─────このッタイミングで…!嫌なお姉さん。
「!」
────斬っ!!
可奈美に注意を向けた結芽にはまさに刺客。
刹那の斬撃。目の前に出現した巨剣。間一髪のバッグスピン、それを逃れるも、写シが身を守っていなければ恐らくは死。
……顔面スレスレッ……あっぶな
「終わらねぇんだよ。」
「終わらせないよっ!!」
「あはっ!!」
このままじゃ、まず作戦はうまくいかない。そもそもこいつ等にアドリブなんてもの出来やしない。
─────時間稼ぐか。
「………恐らく、何処かから監視されてる。視線を感じる。作戦がバレていたのも、開始早々邪魔が入ったのも全てそいつの仕業だ。」
「そして……嫌な気配もする。恐らくヤツは何か嫌なものを隠してやがる。」
「へぇ…大体あたり。それにしても〜危ないなぁ。」
「まぁな。
「あはっ!…お兄さんったらァ!!」
今度は
キンッ!キンッ!ガキんっ!!
「───
「天馬さんは!?」
「コイツと遊ぶ。…すぐ追っかける。」
「……
「!うん!!行こうっ姫和ちゃん!みんな!!」
「鸕宮さん。ご武運を!!」
─────私、今、天馬さんに任された。
「俺が相手した野郎はただの人形だ。そしてソイツを操っていた奴がいる場所が分かる。そして恐らく奴にもココは筒抜けだ。俺と同じ理屈でな。」
「つまり─────ってことだ。」
「
「それ、私に任せてくれるの?……出来るかなぁ…」
「できる。お前の力は信用してねぇが、まぁ…な」
「へ…」
────しっかりやれよ、かぁ……
そうだ、せっかく天馬さんが頼ってくれた。期待に応えたい。そして助けたい。姫和ちゃんと同じ時間をもう少し長く生きたい。その為に、私が何とかする。姫和ちゃんをみすみす死なせない。
紫様はここから一直線、始まりの場所の地下にいる。
「行くよっみんなっ!!」
「行かせないよ!!お姉さんたちの所には!!」
コイツ一人なら割とすぐ追いかけれそうだが……振り切ったら、あとあと面倒だ。
「……」
片付けるか…
「悪ぃが、退いてもらうぜぇ〜。」
「まぁ、お兄さんも急ぎだもんね。ププッ。」
「まぁ、そう言うこった。おとなし────!」
「止めるよ。」
────シュッ
いきなり頭上に現れた刺客。
「そういう事だ。鸕宮天馬。ここで終わりだ。」
───うしろっ
「!」
シャッ!!
シャンシャン───斬っ!!
「首をはねそこねた。」
こいつ……
へぇ……気配をほとんど感じなかった。遠くから飛んできたってわけじゃなさそうだな……まぁ、こいつ等が気づいてんのかはわからねぇが……写シ使ってるときのこいつ等の気配は濃すぎる。となれば……もともと此処に潜伏していたのか…?
「はっ、隠れてやがったのかっ…んん〜?」
それに…こいつの太刀筋、
「……まぁそんな所だ。」
「囲んで集ってそんで?俺とやり合うってのか……おぉ?」
「あまり親衛隊を舐めないほうがいい。と言うか……そもそも僕たちの目的はすでに遂行された。」
となると……目的は俺をここに留まらせること。
「……おいおいっ、知らねぇぞ〜?テメェらの頭がもぎ取られても。それともテメェらが首取られるか?」
「紫様は君一人を明確な脅威と見ていた。逆に言えば君が欠けると残された彼女らに勝ち目はない。」
「くくっ……へぇ……俺を脅威にねぇ…」
「そして君を倒せるだけの準備はしてきた。」
はんっ、そもそも、俺を脅威に見立ててる時点で終わりなんだよ。
写シの展開……それにあの気配……
来るっ
「覚悟し───ろっ!!」
「フンッ」
────ガキんっ!!
速いな、それに以前より確実に重い…
シュッシュッシャキッ!!
────それに、確実に手が増えてる……
「
ビシュっ!!
へぇ、あの
「────どうしたッ?」
「そんなものですかっ?!!」
「!」
───斬っ!
────さらに新手……それに……こいつも余裕で
俺も避けるだけなら別になんともねぇが……
ビュッ…ザザッ!!
こいつ等……ちゃんと連携して来やがる……それも随分と奇っ怪な太刀筋で仕掛けてきて…
単に型が増えただけじゃねぇな。気掛かりなのは未だ姿を見せない蟲女もとい
それに
ビュッ!!
「────寿々花ッ行くよ!!」
ザザザッ!!
「真希さんっ!あわせて!!」
そして左右、同時に踏み込む。天馬の攻撃は遠目から見れば脅威だが、近づけば大したことはない……そう踏んでいた。
「─────取った!!」
バシッ
だが……
振り下ろした斬撃は片手で受け止められた。二人の剣技はかるくあしらわれた。
「な!きさ……素手で!」
「そんな!」
まぁ…多少の成長は見られたが……
「小賢しいっ!!!」
要は俺の
「「!」」
天馬は今までに見た事もないほど大きく生成した。
そしてそれを横に振るう。イメージは野球のバットの軌道。先程までの
異例な攻撃に二人の刀使は対応できない。
「テメェらはそれなりに考え、俺の攻撃を除けやすく立ち回っていたようだが…それじゃ甘ぇ。」
バコッ!!!
打たれた打球の様にへしゃげ吹き飛ばされる。その先には大木。
「ガハッ!」
「ツッッ!」
写シがあるために二人の肉体は無事だ。だが、衝撃は写シでは緩和されない。
脳震盪の為、しばらくは満足に動けないだろう。二人の戦線離脱。
「そもそも、
「さてと、テメェは残ったか…
「付きやってやるよ、テメェのでぇーととやらに。」
残り一人。