刀使と紡ぐ物語   作:生き甲斐探す

30 / 31
消えそうな彼の背を

ここは……?

 

視界に入ったのは荒野だった。ただの荒野ではない、汚れた血で染まった、赤黒い大地だ。

 

「なに……?この臭い……?」

 

 

漂う悪臭、その根源は死体。

 

幾千幾万を超え、老若男女関係なく転がる死体の海、その中心に燕結芽は居た。

 

 

「あの人は……」

 

 

そして、屍の海を歩く自分とは別の、少年を見つけた。

 

少年は俯き、死体の海の流れに逆らい、ただ独り歩く。その足首に纏わりつく死者の手、それを払い除けることもせず、ただひたすらに歩き続けた。その成れの果て。

 

 

「まさか……」

 

少女はその少年を知っている。それは先程まで目の前にいた、その人の幼姿。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眼の前の彼に定まる道は、きっと希望などではない。

 

ただひたすら歩き続けるだけの道、辛く険しい道。

 

見るに堪えない景色、でも前に進み続ける少年の姿から、目を離すことができなかった。

 

 

 

 

そして数年の歩みを観て、彼の力の根源を見た。

 

幾重にも連なる墓場。

 

 

そこには、想像していたような幻はない。幻想郷のような救いも、時に柔らかな温もりを与える安らぎの花畑も、その場所にはない。

 

 

唯一、彼に残されたもの、それは粗末なものでしかない。

 

最後の瞬間を生き甲斐にするという、ある種の悲劇だけ。

 

 

 

そして結芽にはその少年のいずれ辿る未来まで……見えてしまった。

 

 

 

 

 

 

「……辛くないの?」

 

 

目の前の小さな彼に問う。

 

 

「あ?」

 

 

「このままじゃ、幸せになれないよ?認められないよ?」

 

 

だって、そんなの救われない。みんなの心を救ったのなら、その人は幸せになる権利がある。少なくとも結芽はそう信じている。

 

 

「仕方ねぇだろ?誰もここにゃ入って来れねぇんだからよ。」

 

 

「なら、次の担い手がたどり着くまで俺はっ……待つしかねぇだろ?」

 

 

違うよ、違う。お兄さんは独りじゃない。

 

 

「じゃぁさ……あの人たちは誰?」

 

 

振り返る先には………死体の山。だけど死体の海を抜ける事などないのだろう。自分独りじゃ終わらない地獄。

 

でも……この人は、'本当'を知っている。

 

自分以外に踏み入れてほしくないと、願っている。

 

 

「ここをまっすぐ抜けた先にいる人は誰?」

 

 

 

 

 

「!?……てめぇっ……」

 

 

この人は未来にだけ、希望を持っている。

 

 

 

 

 

 

────そっか。それがお兄さんの生き方なんだね。

 

 

 

 

 

燕結芽は今この瞬間、目覚めた。目の前には変わらずの彼がいる。相変わらず胸ぐらを掴みあげて、私は身動きを封じられている。でもよく見ればその手には大して力は入っていない。呼吸ができるようにギリギリの体制を支えてくれている。

 

 

 

「虚しい……人だね……」

 

 

 

だって……この人は優しい人、だけど今に何も期待していない。きっと出来ないのだ。

 

 

 

ドゴッ!!

 

 

胸ぐらを掴むその腕を思い切り蹴り上げる。

 

当然、天馬は避ける。だが、それでも構わない。避けるなら良ければいい、こちらは当たるまで何度でも仕掛け続ける。食らいついて食らいついて、ようやくこの人に届く術を探す。そうしないとこの人に追いつけない。

 

 

 

「行くよっ!!」

 

 

宝刀、にっかり青江を振るう。

 

体術と剣技の猛襲、少なく見積もって十回は天馬を斬り捨てたつもりだ。

 

 

だが、それでも天馬にはとどかない。

 

それでも、結芽は天馬に挑み続ける。もはや負ける気がしない。いくらでも突っ込める。身が砕けようと構うものか。

 

 

 

そうまでしても、結芽にはやらなければならない事があった。 

 

 

 

 

 

─────いつか消えそうな、彼の背を……私は……

 

 

 

 

 

 

 

猛攻が止み、静けさの戻る荒野で彼女は問う。結芽は彼の悲劇を知らない。だが彼の悲劇の本質を知っている、そしてそれでも……あえて問う。

 

 

「……ねぇ、お兄さん……」

 

 

「独り、って本当にカッコいいと思ってるの?」

 

 

「あ?……」

 

 

 

「バカみたいだね。」

 

    

 

「……イカれたか?……」

 

 

 

「いいえ、イカれてないよ。…それにさっきまでは準備運動みたいなものだから、ノーカンっ………これからが本番だよ。」

 

 

 

 

「ねぇ…あなたに追いつく人は……本当にいないのかな。本当に孤独なのかな。」

 

 

 

「最初はただただ強い人だと思ってたけど……違ったね、弱虫のお兄さん。」

 

 

そう、この人は強くない人だ。普通の感性を持つ、ごくごく普通のそこら中に居る、一般的な人だ。

 

だけど彼の心は荒んでいる。それは幾度となく傷ついた、心を無理やり繋げ止めた結果だ。

 

 

「あ?てめぇさっきから何を言ってやがる?」

 

そりゃ、自分の傷跡にも気づかない人には分からないよ。

 

「だってそうじゃない?失うのが怖いから、自分が守りきれる自信がないからって、みんなの頑張りを無碍にして、見つけた希望を突き放そうとしてる。」

 

 

「"大切"な者を見ようとしない。それは弱さだよ、お兄さん。人を信じて、人に任せるのも勇気。それが出来ない、そんな弱っちぃ人には私は負けない。」

 

だからこの人は私には勝てない。

 

 

きっと私は、この先もこの人の心に住み続ける。

 

 

「見せてあげる。」

   

 

 

「現符。」

 

結芽はなにもない所から一枚の札を取り出した。

 

そこには何も書かれていない。白紙。何にでもなれる強かなそれは夢を描く。

 

結芽はこのフレーズをどこかで知っていた、そしてそれが今なら折り合う。繋がる、紛いもない本物の力に。

そしてその札を起点に結芽の身体に強大な力が纏わりつく。

 

神をも砕けそうな、その力を結芽は明言する。

 

 

 

「…いつか……助けてあげるね。」

 

 

 

祭祀礼装(サイシレイソウ) 刀纏術式(マトワレガタナ) 」

 

 

力は少女に応えた。そして纏わりつく。

強大な力と一体になる感覚。女神にでも包容されているような心の底からの安堵。それと心地良さ。

 

「喼急如律令」

 

少女が体に纏うそれは、純白に輝いた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。