まぁ岩倉早苗さんを活躍させたかった、ただそれだけのお話です。
双星の陰陽師を知っている方はすぐ分かると思いますが、あるキャラクターのポジションに早苗さんを無理やり押し込んでます。
そのため初っ端からのキャラ崩壊、オリジナル設定、様々なお巫山戯要素があります。
家族構成などは双星の陰陽師からの抜粋です。
あ、早苗目線です。
本編とも絡ませる予定なので、最後まで読んでいただけると幸いです。
幼馴染
見知った天井。それでいて懐かしい。
我が家の天井。
気づけば自身のベットで寝かされていた。
あれ?昨晩遅くに実家に帰って来た私は………玄関に倒れ込んだはず…。
だめだ。よく思い出せない。
それにパジャマにも着替えられていて……お風呂に入った記憶もない。
「はぁ───」
長いため息。寝起き早々のアクション。考えることが多すぎてしんどい。まだ体も重い。
「はぁ………あ、今日はろくろに会う約束だった。」
ろくろは私の幼馴染。複雑な事情で刀使になるまではよく一緒に遊んだ。
そうだ。昨日、帰宅中に電話したんだ。
折神紫暗殺騒動に巻き込まれた私の久々の日常。
この時の私はまだ知らない。この日が人生の分岐点になるなんて。
この日を堺に私の日常は一変した。
寝ぼけ眼でリビングに降りる。久々の実家帰りなのに家には私一人。昨晩帰ったときには確か、お母さんが迎えてくれたはずなのに。
出かけたのかな、なんて考えながらリビングの中央に構えるテーブルに座る。
そこには書き置きが置かれていた。
沖縄にお友達と旅行に行ってきます♥ゆっくりね!しばらく帰らないので家事がんばって!お母さん、さなえがちゃんとできるか心配だわ。楽しんできます♥
ビシッ、額に青筋が浮かぶのがわかる。
「……知ってた。知ってたよ……」
知ってたよ。知ってたよ。……家のお母さんがのんびりしていておっとりでマイペースなのは。
けどさ、疲れ果てた愛娘の久々の休日にこれはひどい。
ひどすぎるよ。
「はぁ……」
朝ごはんを自分で作らなければならない。
朝一番からこの仕打ち。一体私が何をしたのか。
いささか風当たりの強い今日このごろである。
もともと私の家庭は少々複雑だ。お父さんとお母さんの関係は良好なのだが、なぜか離婚している。
まぁなんとなく事情は察しているのだが。
それにしても、もうすぐ四十代なのにラブラブってどんな夫婦だよ。
内心苛立ちながら、諦め半分に調理を始めた。
「おぉ、着よったか。長勤め、おつかれ。まぁ立ち話もなんだ。上がりなさいな。」
「ありがと。」
丸眼鏡をかけた老人が戸を開け、もてなしてくれる。
懐かしい匂いのする場所。星火寮。ここは孤児院。
そして私を迎えてくれた優しそうなご老人は、この孤児院のオーナー。そして私のおじいちゃん。
「久しぶりだね。おじいちゃん。」
「そうじゃのぉ…して、刀使のお役目は順調か?」
「まぁ……順調かな……」
本当は順調とは言い難い。同じ学院から指名手配犯が出没したなんて。それも、知り合いから。
ここで話の腰を折ると逆に不自然だ。おじいちゃんにはできるだけ心配はかけたくない。
誤魔化すように笑う。
「それにしても立派になったの。」
「もぅ、やめてよ……そういえばろくろは?」
「ろくろは……まさか!?お主、ろくろにこ───」
「ち が う よ !」
「ならそうじゃ、わしに飽きたのじゃな。そうだわな。年老いたじじいより若い男のほうがタイプじゃわな。」
「それもちがうよ!大丈夫だからね!?おじいちゃん大好きだよ!
はぁ… そうじゃなくてね、ろくろに私のお父さんの話、聞こうと思って。」
「あぁ、清玄の…ろくろなら河川敷に行ったぞ。」
「ありがと。すぐ戻るから!もどったらお話しよ!」
「行ってらっしゃい。それにしても………フォフォフォ……良い子じゃなぁ。」
「清玄。お主の娘は立派にやっとるみたいじゃぞ。」
愛しい孫を見送り老人はつぶやいた。
「へ?」
歩道橋で幼馴染の後ろ姿を見かけてみれば第一声がこのとぼけ声。ほんと、調子が狂う。十条さんといる時はこうもならないのに。
私の周りにはしっかりした人が少ないと思う。マイペースなお母さん、愛情表現の下手くそなお父さん。
そしてこの寝癖爆発天然パーマ幼馴染こと焔魔堂ろくろ。
「さなえ?ひっさしぶり!元気してた?」
「はぁ…いろいろ大変だったよ……そっちは。」
「聞いてくれよ。亮子がさ、陰陽師やれってしつこいんだよ。ちょーーとテストが悪いくらいで。」
「あのね…ろくろ。テストが悪いって言葉は今まで赤点しかとってこなかった人の使っていい言葉じゃないの。」
「一回くらい百点取ってから言ってご覧なさいな。」
「ヴゲぇ。ひどくね……うん。でも…まぁそうだな。とりあえず勉強がんばって亮子見直させてやる。」
「うん。その息だよ。」
ろくろはいい意味でも悪い意味でも真っ直ぐだ。
決して躓かない訳じゃないのに、それでもどこまでも真っ直ぐで憧れる。
それでも私は知ってる。彼の辛い過去を。
「それでね、ここから先は話しちゃだめなんだけど…とにかく大変だったよ。」
「へぇ。刀使も大変なんだな。」
「俺も大変だったんだぜ。」
「え?」
また何か辛いことが!?
四年まえのろくろはひどく落ち込んでいた。それに似た再来なら……
かなり深刻な内容でも受け止める覚悟を決めた。
「………この前…」
「このまえ?」
「この前クラスメートに思いきって告白してみたら」
「へ?」
「ろくろ君微妙だからって……ひどくね!?それでさ、どうすればいいか聞いたら……逆にろくろ君のいいところどこ?って」
「ぷっ、フフフッ、あははは」
「ちょ、おい!笑うなよっ、こっちは真剣に」
「ふふふ、ごめん、久しぶりに普通に戻った感じだから」
「……しばらく休みなんだろ?来いよ!昔みたいに遊ぼうぜ!」
「えっ、ちょちょ、待って!はやいよ!」
ろくろに手を引かれ昔みたいに遊んだ。ろくろの背中は昔見たく幼さが残るのに昔みたいな消え入りそうで寂しい面影はなくなっていた。
古傷を癒やすのに精一杯だったあの頃とは違う。きっといい人たちに出会えたのだろう。それが幻想でない事を切に祈る。
「……よかったね……」
「え?何かい……───────あっ!?」
「今の見た!?」
「うそ!?」
目の前で起こった非現実的なことに行儀の悪い奇声を上げる。愕然とすると言う方が正しい。
驚くのも無理はない。なんせ、いきなり空から女の子が落ちてきたのだ。真っ逆さまで。
そしてその子は目の前の先の河に落ちて行く。
「「えええ!?───────」」
レールの切り替わる音がした。
これは私とろくろ、現在入水中の女の子、そして数多の陰陽師達と紡ぐ物語。
いつか姫和と早苗を共闘させてみたい。
焔魔堂ろくろは双星の陰陽師の主人公です。
ツンツン天然パーマ頭の残念かっこいい、タイプ?