どうしよ…
「間違いない。パーカーを羽織っていて確認しづらいが美濃関の制服だ。」
「こちらも確認取れました。平常女学院の制服です。」
「フッ、案外簡単に尻尾を掴ませたわね。
今日中に場所を特定なさい。手配は私が行う。」
鎌府女学院学長、高津雪那は不敵な笑みを浮かべる。
自身の行動も顧みないで。
「わぁ、すごく美味しそうな香り。家も綺麗になって、これ全部3人で?」
「はい!料理は姫和ちゃんがしてくれましたー。ちなみに掃除は私です。」
「ありがとう。へーどれどれ、うん 美味しい!姫和ちゃん、女子力高い!」
「…べ、別にそんなこと…」
「なにいっちょ前には恥ずかしがってんだよ、んん?」
「……天馬、貴様今日一日 何をしていた?」
「…ん、」
「ん、じゃないよ!ずっとテレビ見てただけじゃないですか」
「まぁまぁいいじゃない、冷めちゃう前に頂いちゃいましょ?」
「くぅー、仕事後のビールは格別だわー、それにしてもこの煮物、いい味出してるわね、」
「すごいよ、姫和ちゃん!どこで覚えたの?」
「…昔、自炊していた時期がある。寮生になってほとんど機会はなくなったがな。」
「うんうん、姫和ちゃんはいいお嫁さんになる気がする〜。」
「ッそんなことは…」
「ま〜た、姫和ちゃん赤くなっちゃって、可愛いなぁ」
ウリウリと姫和をつ突き回す可奈美。
こんな逃亡生活になるなんて、誰も想像もしていなかった。お風呂や寝床にも、なんの不自由もない。昨日までの生活と比べると至福のひと時に感じれる。
だがその和やかな空間でただ一人静かに食につく天馬の姿を見て何か違和感を感じ取った。普段の横暴さを知らなければ女性と見間違えてしまうほどの美貌。
その口元が少し緩んでいて、それでも笑っているわけではない、儚さも感じられるその姿に疑問を覚えたのだ。
何故、そんな顔をするのかと。
コソコソ「ねぇ、天馬さん、どうしたんだろう?」
コソコソ「?いつもより静かだが、それ以外妙には感じんぞ。」
「天馬くん?あっ、もしかして姫和ちゃんの料理に感動しちゃった?」
「んん~、別に普通だろ。まぁ中の上くらいだな。」
「…天馬くん、そこはお世辞でも美味しいって言わなきゃ、将来結婚できないぞ〜。」
「ッ………」
んなこと、どうでもいい…
そう紡ごうとした先、それは繋がらない。
目を見開き何かを思い出し言葉を失う。まるで思い出したくなかった嫌なことに触れられたときのように、それは心を蝕んで先に進ませない。
「あら、もしかして天馬くん、好きな人でもいるの?」
流石に場を和ますのが上手い。異変に気がつくと話題を転換する。恥をかかせぬよう、更に場を沈めないよう、空気を変えようとする。
天馬の先程からの様子は少し違和感を感じる。出会ったばかりの累にもわかるほどのものだ。
累の目には天馬が"結婚できないぞ"の部分ではなく"将来"に反応したように見えた。
累は彼から感情のざわつき、闇のような渦を見た気がした。
「…いや、なんでもない。それよりも…」
その効果か彼は話題を変えることに成功する。ただ、口調からも分かるように今の天馬は、普段の天馬ではない。
変な道筋を辿ってしまったが、それは今日の本題だった。本来は累から持ちかけるべき話題。
「…なぁアンタ、食後に話があるんだろ?」
「…えぇ、3人に見てもらいたいものがあるの。」
今度は累が少し驚いたような目をし、続ける。それは秘密裏に計画されていた、とある計画の一端を担う作戦の開始を合図するものだったからだ。
物事とはどうやらイレギュラーなしには成り立たないようにできているらしい。
それも悪い意味のイレギュラーで…
食後、仕事部屋と思われるパソコン室風の場所に通される3名。
彼らの前のパソコンには無題のメッセージが届いていた。
「…これは?」
「君達の協力者になるかもしれない人からのメール。」
「まぁいいからパソコンを「ガシャンッ」!?」
突如、窓こさの砕けた音が響き、あたりに窓ガラスが飛び散る。
夜の闇と重なり影としか認識できないが、そこには確かに人の気配がした。
「な、ナニ!?」
それが追手の奇襲とわかるのにはそう時間を要さない。
「累さん逃げて!!」
「ッ、追手の奇襲だ!!可奈美は御刀を取ってこい!」
こういう時、普段の備えが幸を呼ぶ。
予め御刀を装備していた姫和はふと冷静になり指示を出す。
「…時間は稼ぐ。」
部屋から累と可奈美の両名が出ていったことを確認し自身の座っていたパソコン椅子から跳ね跳ぶ。室内でいきなりの加速、割れた窓ガラスの方向に迅速を利用した突きを繰り出す。窓から外へ追い出すし建物の被害を抑える、というのが彼女の作戦なのだが、そうも上手くはいかない。
あたりを無造作に切り裂いて、足場を奪い、姫和の妨害に徹する侵入者。
振りかざした剣先を上手く抑え込まれ弾き飛ばされてしまう。
「………」
妨害に防御、一連の攻防の末、先程の冷静さは次第に薄れていく。
被害も顧みないず攻撃を受け流し反撃を繰り出さす反逆者。その意思を宿さない瞳に奇妙な感覚を植え付けられる。
「クッ、コイツなにを考えている!?」
「……」
(攻撃が速すぎるッ)
更に状況は刻一刻と変化し、次第には防戦一方へと引きずり込まれる。
それをいいことに、そのまま剣撃を続けてる襲撃者に追い込まれビルから突き落とされてしまった。
「ッ、姫和ちゃん!?」
御刀をとり戦場にすぐさま舞い戻ってきた可奈美だが、視界に捉えたものは、落下していく姫和の影とそれを追撃する襲撃者の姿だった。
「沙耶香ちゃん!?」
御前試合の対戦で顔を合わせている可奈美。
その追手の正体は、鎌府女学院の刺客、糸見沙耶香だった。
「知り合いか?」
そんな中、呑気にパソコン台に座る天馬の姿がそこにあった。まるで無関係を装う彼に憤りを覚える。
「何してるんですか!姫和ちゃん落ちましたよ!!」
「ひゃ!」
見てたでしょと訴えかける。
御前試合で沙耶香と対戦した可奈美はここにいる誰よりも沙耶香の驚異を知っていた。あまりにも速い迅速。それは初見で対応できるものではない。更に不意打ちの効果もある。
状況が絶望的過ぎた。
だが、その訴えは不発に終わる。可奈美は襟首を掴まれ半ば無理やりにランダ越しから下を見下ろす。
顎で地面を指し示す。見ろ、と
その先には沙耶香の速すぎる剣撃を必死に避け続ける姫和の姿があった。
「…あれくらいじゃ死なねぇよ。逆に死なれるくらいならここから先は無理だ。」
降りるぞ。そう短く呟き、彼は飛び降りた。
まるでピザの宅配便のように、デリバーの品の可奈美を抱えて。
「ハッ、ハッ、何だ この太刀筋は!? 」
「…」
先程から沙耶香の剣術に翻弄されながらもいなし続ける姫和。いきなりの戦闘、更に迅速の乱用に身体がついていかず方で息をしている。
その様を無表情で見つめる沙耶香。その瞳には意思が宿っていない
姫和の動きは決して悪くなかった。自負もある。だが姫和はどんどん追い込まれていった。これ程、防戦一方が似合う戦闘はなかなか珍しい。
理由は彼女の能力にある。
姫和が知る由もないが、彼女の剣の特性は無念無想。
何も考えない、ゆえの無心。それを維持することで神経を研ぎ澄ます技。
本来刀使は迅速の最高速に達するまで時間がかかる。
一段回目から徐々に加速し、二段階、そして最後に三段階目の最高速に達する。
だが極稀に例外もあり、姫和の一の太刀がまさにそれである。姫和の場合、いきなり最高速 即ち三段階目へと加速することができ、瞬間的な爆発力は最高峰だ。
姫和を火力と呼ぶならば、眼の前に構える沙耶香は安定だろう。
彼女は無心になることで通常一段回目からから加速する迅速を、二段階目から用いることができる。
つまり、姫和の倍以上の速度での連撃をなんの所作もなく繰り出すことができる。
今、なお持ちこたえれているのは姫和の技量と反射神経あってこそだった。
(ッ、来る!!)
そう感じた矢先。
「ッ姫和ちゃん、避けてね!!」
上から降り落ちる二つの影が見えた。
声も聞こえた。
ビルの上から天馬に引っ張られ落下してくる可奈美の声だった。
落下直前の衝撃のため写しを貼っていた可奈美を地面に触れるか触れないかのタイミングで放り投げる。衝撃は天馬が全て引き受ける。だが、可奈美に伸し掛かる衝撃はまだ生きている。それを天馬の支えにより味方につける可奈美。可奈美には、追い風の様な凄まじい力が加わる。
その勢いを利用し、沙耶香向けて突っ込む。摩擦を無視しまるでアイススケートのように突っ走る。
その速度は一段回目の迅速を二段階目以上に底上げするほどである。
「ハイッヤァ!!」
落下の衝撃を味方につけた可奈美の、一撃は勢いのままに沙耶香を斬りつける。斬撃は姫和の影に隠れ不可避の一撃となる。
写しを剥がされ、若干の痛みのともに地にひれ伏す沙耶香。
「…こっからだな。」
その様子を外野から見つめる天馬。
まるで先を知ってるかのように短く告げるのだった。
天馬がイキリに見えてしまうのは許してほしいです。
時期に変わるようにかいていく予定です。