【完結】IS 亡国機業殲滅ルートRTA 男子チャート   作:sugar 9

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「自分が物語書く意味どこ……ここ……?」となりましたが感想が励みになったので初投稿です。いつも本当にありがとうございます。



裏語 6

「すこし、よろしくて?」

「セシリアさん? 俺に何か用?」

 

 クラス代表トーナメントにおける所属不明ISの襲撃事件の数日後。セシリアは萌に話しかけていた。クラスメートの話では彼は放課後すぐにアリーナに向かうとのことだったため、萌を待つ形で出会う事となった。そんな形で出会ったため、萌もどこか驚いた様子だった。

 

「1つ、聞きたいことがありますの」

「? ……別にいいけど」

 

 萌は不思議そうな表情を浮かべながらもうなずいた。当然だろう。何せ今日このときに至るまで二人の間に接点らしきものは何一つなかったのだから、いきなりこんな形で言われれば困惑するのも無理はない。

 

「先の所属不明機との一戦。何故、あのような戦い方を?」

「……何故って言われてもなぁ」

「私はそちらのISに通じているという訳ではありませんけれど、一夏さんのように遠距離武装が無かったという訳ではありませんわよね?」

 

 セシリアが萌に問いただしたかったのは、萌が無人機との戦闘の際に取った戦法についてだった。

 

『なぁ、セシリア。やっぱりブルーティアーズみたいな機体だと近距離戦に持ち込まれればほぼ詰みなのか?』

『……まぁ、私のブルーティアーズの場合は極端ですけれど、詰みとまではいかなくとも、圧倒的に不利になるのは確かですわね』

 

 思い起こされるのは昨日の訓練での一夏との会話。

 

『うーん、やっぱ俺も一撃離脱じゃなくて、萌みたいな感じのスタイルのほうがいいのかなぁ』

『と、言いますと?』

『俺、さ。無人機と戦った時、ずっと動けなかったんだ。萌と無人機の殴り合いの間に入ったら、吹っ飛ばされるだけだって思って。けど、今思い返してみれば、何度か切り込むタイミングはあったはずなんだ』

 

 それは、一夏自身の無力への叱責だった。そして同時に、その声には萌への憧憬も含まれていた。セシリア自身、萌と無人機の戦闘を見ていたが、あれほどまでに迫力のある戦闘はモンド・グロッソであっても中々見られるものではないだろうと思ったほどだ。既存の兵器を大きく凌駕するIS同士が、遠距離武装どころか刀などの得物にすら頼ることなく繰り広げるインファイト。事実、あれにより無人機は主武装であるビーム兵器を封じられていたため、パニックが幾分か沈静化し、避難がスムーズに行われたというのは後に判明した話だ。

 なるほど、確かに誰かを守りたいという事を念頭に置いている一夏が憧憬を抱くのも無理はない。だが、

 

『……一夏さんには零落白夜があるのですから、やはり一撃離脱戦法が一番だと思いますわよ?』

『そっかぁ……』

 

 あの戦法はあまりにも危険すぎる。特に、あの無人機との戦法では、結果的にビーム兵器にそれ相応のチャージ時間が必要だったため封じることに成功したが、もしチャージ時間を不要とした場合、最悪萌の身体に風穴があいていたことも考えられる。

 

「……わからない、かな。必死だったし」

 

 しかし、返ってきた答えはある種予測できていたものだった。

 

「でしたら、一応忠告を。あのような戦法はもう取らない方が良いですわ」

「……うん」

 

 今一つ煮え切らない萌の返事に、セシリアはほんの少し眉を顰め、重ねて問いかけた。

 

「保証はできない、と?」

「うん……ほら、俺ってどうなるかわからない立場にいるわけだし。手段は選んでられないっていうか……」

 

 そういう萌の表情は表面上こそ苦笑いになっているが、不安が隠せずにいた。彼の身の上をセシリアは詳しく知っているわけではないが、それでも彼の立場が非常に弱いことはわかる。

 

(なるほど、それで……)

 

 セシリアは大まかにではあるが察することができた。

 彼は、焔萌は事態や状況が悪くなるかもしれないという要因を排除せずにはいられないのだ。そしてその過程にはどのような危機があっても、関係はない。一見すればどこまでも利己的に見えるにもかかわらず、結果としては利他的な行動しかとれない価値観。セシリアは彼の根底にある価値観を理解することができた。

 

「……まぁ、そういうことで納得しておきますわ。けど、貴方は1人ではありませんのよ? 焔さんの良い噂は、こちらのクラスにも届いておりますわ。少しは他人にも頼るという事を覚えてくださいな。きっと、皆さん協力してくれますわよ?」

「……そうだといいんだけどね」

 

 そういって、萌はセシリアから背を向け、急ぎ足でアリーナへと歩き始めた。

 

 

―・―・―・―

 

「よろしくね、シャルル」

「うん、こちらこそよろしく、萌」

 

 その日、3人目のIS男子操縦者、シャルル・デュノアという名義でIS学園に入った女子、シャルロット・デュノアは、1組でのHRを終えた後、自室でもう一人の男性操縦者。焔萌と出会っていた。

 男装をしているシャルロットが言えたことではないのかもしれないが、萌は非常に中性的な容姿をしていた。正直、女装をさせて入学させれば100人中100人が女子だと言えるほどには。

 

「とりあえず、今日一日何か困ったことは無かった? わからないことがあったら何でも聞いてね」

「ううん、大丈夫。基本的な事は一夏が教えてくれたから」

「そっか、よかった」

 

 萌がシャルロットを警戒している様子はない。そして、自室での生活にも特に不自然な所は存在しない。資料では、誰かと比較されることをひどく恐れるが故に常軌を逸した努力をしているとのことだったのだが……

 

(まぁ、そんなに気にすることじゃないか)

 

 いずれにせよ、シャルロットの目的は、現状非公開とされている男性操縦者の操縦データや身体データを盗み、本国へと送ることだ。下手に踏み入る必要はない。そう判断したシャルロットが自分の荷物を整理していると。

 

「私が来たぁ!!」

「……今日はもう晩御飯は済ませたんですけど」

 

 半ばドアを吹き飛ばす勢いで楯無が入ってきた。萌は若干うんざりしてはいるものの、特に動じた様子はなく楯無に歩み寄った。

 

(ろ、ロシアの国家代表!? 何で!?)

 

 内心で大いに動揺していたのは、シャルロットの方だった。シャルロットが事前に受けた説明は、あくまでIS学園に入学するまでの焔萌の情報のみだ。それ以外の情報は基本的に秘匿されているため、知りようがないのだが。そして、その中には何をどう間違えてもロシアの国家代表である更識楯無との交友などなかった。しかもこんな時間にノックもなしに入ってくるあたりかなり親密な関係であることがうかがえる。

 

「ほら、今日はもうご飯ありませんから帰ってください」

「ふっふっふ……そんなこと言っていいのかな?」

「……何がですか」

「20分後に仕事を終えて大変お疲れな織斑先生がビール片手にやってくるわ」

「……はぁ」

 

 そして続けざまに放たれる爆弾発言に、ここまで辛うじて表情には出していなかったシャルロットの頬がひきつった。

 この学園において最強の称号でもある生徒会長であると同時に学生であるにも関わらず国家代表を務める更識楯無。第一線を退いた今現在の段階であっても世界最強であるとの声も多い織斑千冬。

 

 この状況下でスパイ活動ができる奴がいるとすれば、そいつはもはや人間ではないだろう。

 

「あなたがシャルルくんね? 私は更識楯無、この学園の生徒会長よ。よろしくね?」

「よ、よろしくお願いします……」

 

 何で後輩の、それも異性の部屋に入り浸っているんだ。というか後輩にご飯をたかる先輩ってどうなんだ。そんな疑問の声を一切まとめて飲み込み、辛うじて浮かべることができた笑顔でシャルロットは握手に応じた。

 

「まぁ、わからないことがあったら何でも聞いて? こう見えても私はIS学園の生き字引って言われてたり言われてなかったりするから」

「どっちですか……」

 

 思わずほとんど素の反応を返してしまうが、システムキッチンで萌が料理をする音が聞こえ始めたため、視線がそちらへ向いた。楯無もそちらへ視線を向けたため、これ幸いとシャルロットは話題を切り替えた。

 

「その、更識先輩は結構こうやって萌の部屋に来てるんですか?」

「あーー……忙しくてご飯が食べられないときに、ちょっと、ね」

「ほぼ毎日ですよー」

「毎日は言いすぎでしょう!?」

 

 茶化す萌に対して食って掛かる楯無だったが、そんな様子を苦笑いしながら眺めるシャルロットは内心で頭を抱えていた。

 これが、毎日。

 それではさりげなくデータや個人情報を聞き出す機会などほぼ無に等しいではないか。

 

「来たぞ、焔……っと、今日からデュノアもいるんだったな」

 

 そうして適当に(シャルロットとしては薄氷の上を歩く思いで)雑談を交わしていると、千冬もノックせずに部屋に入ってきた。事前に知らされていたためシャルロットは驚きこそしなかったが、緊張感は数倍に増したと言える。

 

「は、はい……明日からよろしくお願いします」

「ん、せいぜい気張ることだな。今年の1年は色々と厄介事が多くてかなわん」

 

 萌の部屋にやってきた千冬は、シャルロットが想像していたよりは雰囲気が柔らかかった。職務外だからだろうか。緊張でだいぶ混乱している思考の中でシャルロットがそんなことを考えていると、千冬からシャルロットへ何かが放り投げられた。慌てて受け取ってみると、それは缶コーラだった。

 

「……えっと、これは?」

「口止め料よ。とりあえず飲みましょう」

 

 同じく缶コーラを受け取った……いや、よく見ればコーラチューハイを受け取った楯無が慣れた様子でプルタブを引き起こし、一口飲んだ。シャルロットもとりあえず言われるがままに一口飲んだ。

 

「よし、飲んだな。さて、と……」

 

 楯無とシャルロットが飲んだことを確認した千冬は萌の方のベッドに腰かけ、おもむろに袋から銀色に煌めく缶ビールを取り出し、プルトップを開けたかと思えばさも当然のように飲み始めた。

 それは、何をどう間違えてもシャルロットがイメージしていた千冬に当てはまるものではなかった。

 

「…………え?」

「あー、うん。まぁそうなるわよね」

「全く、お前らの世代がどれだけイレギュラーに塗れていると思っている。飲まなきゃやってられるか」

 

 今度こそ絶句したシャルロットに対して楯無は同情の意を示すが、千冬はそんなことは気にも留めずに早くも一缶を空け、握りつぶすと同時に二缶目を開けていた。

 

「はい、織斑先生。揚げ物作ってる間とりあえずどうぞ。シャルルも食べていいからね」

「う、うん……うん?」

 

 今一つ状況が飲み込めないシャルロットの前にらっきょうのホイル焼きが現れた。徐々に暑くなってきたのを意識してか、七味がふりかけてあるピリ辛仕様だった。

 

「ん、美味い」

「本当、おいしい」

 

 しかし、そんなシャルロットを気にも留めずに千冬と楯無はポリポリらっきょうをかじり始めた。

 

「え、ええっと、織斑先生。1ついいですか?」

「何だ?」

「何でいるんですか?」

「ほう、これから世話になる教師に対して随分な物言いだな?」

「いっいえ! 決してそういう訳では!!」

「ふむ、まぁこれから同室になるわけだから知っておいた方がいいか」

 

 千冬はビールを一口飲んだ後にゆっくりとしゃべり始めた。

 

「デュノア、お前は萌の事についてどの程度知っている?」

「……一夏に続いてISに適合した男子。としか」

 

 急に変わった雰囲気にシャルロットの頬を一筋の汗が流れた。心臓の鼓動がうるさく感じるのを無理やり抑え込み、1つずつ言葉を選びながらしゃべった。千冬はそれに1つ頷いた後にしゃべり始めた。

 

「そうだ。一夏には私という存在。お前の場合はデュノア社という存在。規模の大小はあれど、お前と一夏には何らかの後ろ盾が存在する。しかし、萌にはそういったものが何もない。生まれも育ちも現状から考えれば若干気味が悪いほどに普通だからな。ここで問題がある。現在進行形でIS学園にふっかけられ続けている男子操縦者の身柄引き渡しの要求に対して、最も引き渡され得るのは誰だと思う?」

「あ……」

「そう、萌だ。萌が何か失態を犯せば、それを口実に萌は企業所属の操縦者という名目で実験動物にされかねない。だからこそ、萌は一刻も早く信頼できる企業の専属になる必要があった」

「それで、在澤重工に……」

「そうだ。あそこなら私も社長とは古い仲だし、信用できるからな。かといって表立って贔屓するわけにもいかん。だからこうして夜な夜な酒片手に簡単な質問会を開いているんだ」

 

 酒を片手に語っているためか今一つ緊張感に欠けるが、それでもシャルロットは納得した。

 

「っていう名目で萌くんに毎晩おつまみたかりにきてるんですよね。萌くん優秀だから質問なんてあんまりないですし」

「ほぅ? お前がそんなに死にたがりだとは思わなかったぞ更識」

 

 茶々を入れた楯無のせいでいろいろと台無しになったが。

 

「やめてくださいよ人の部屋で。から揚げできましたよ」

「うむ、やはりビールには揚げ物だな」

「先輩、お米が欲しくなったら炊いて凍らせたやつ冷凍庫に置いてあるんでチンしてくださいね」

「あら、気が利いてるのは結構だけどこんな夜中に乙女に炭水化物勧めるとは中々やるわね」

「夜中にご飯たかりに来てる人に言われたくないです」

 

 そんな会話をしているうちに、から揚げが盛られた皿を持って萌がやってきた。

 

「あ、シャルルも食べる?」

「う、うん……」

 

 薄氷の上を歩くような生活を送っているはずなのに、こうして普通に笑ったり冗談を言ったりすることができる萌が、シャルロットは少し、怖くなった。

 

 

 

 

 

―・―・―・―

 

「くっ……」

「こっのぉ……!」

 

 第三アリーナで突如始まった代表候補生同士による決闘は、当初周囲にいた生徒たちの予想に反して一方的な展開となっていた。ラウラに対し、セシリアと鈴は2人がかりで戦っているにもかかわらず、劣勢となっているのはセシリアたちの方だった。

 理由は単純だった。ラウラのIS、シュヴァルツェア・レーゲンが1対多数を得意とするISであったこと。近~中距離を得意とする鈴の戦い方と1対多数において真価を発揮するセシリアのBT兵器が足を引っ張り合ってしまったこと。そしてセシリアと鈴の連携の練度が低かったこと。これらの要素が重なり、セシリアと鈴はワイヤーブレードによって拘束され、いいように嬲られていた。

 近くにいた生徒達の中に専用機持ちはおらず、明らかに危険な状況であるにも関わらず、止めようにも止められない状況が続く中、

 

「おおおおおおおお!!」

 

 勇ましい雄叫びと共に、打鉄・雷火を身に纏った萌が綴雷電のロケットエンジンを噴射させ、ラウラとセシリア、鈴の間に突っ込んできた。突然の事だったためかラウラもとっさに対応することができず、セシリアと鈴を手放した。その結果、ワイヤーブレードは綴雷電の一撃によりワイヤー部分を千切り飛ばされることとなった。

 

「何のつもりだ、貴様」

「何のつもりも何もないよ。そっちこそ、どういうつもり?」

 

 第三アリーナにて、ラウラと萌がにらみ合う。主武装の内の1つであるワイヤーブレードを破壊されたにもかかわらず、ラウラの顔に焦りはない。むしろ苛立ちのほうが大きかった。

 

「質問に質問を返すな。何のつもりだと聞いているんだ私は」

「明らかに模擬戦の域を超えていたから邪魔をした。って言えば納得する?」

「なるほど、一応は納得してやろう。それで、貴様が代わりに相手をすると?」

 

 周りの女子生徒達がセシリアと鈴を連れていく中、両者の視線は交差し続けた。互いに一歩も譲らないその雰囲気は火花が散るのを幻視しかねない程だった。

 

「嫌だよ、君と戦う理由がない」

「あまり私を苛つかせるな。ただでさえ外れを引いて苛立っているんだ。予行演習くらいは勤めてもらうぞ!」

 

 ラウラのIS、シュヴァルツェア・レーゲンの脚部に搭載されたアイゼンが展開し、非固定武装である大型レールカノンが火を噴いた。とっさに綴雷電のロケットエンジンを暴発も辞さないというレベルで噴射させ、躱し、その加速の勢いのまま萌はアリーナ内を飛び回り始めた。

 

「随分と古典的な加速方法だな。ISのそれとは思えん」

「そんな馬鹿でかいの担いでる人に言われたくないけど、ね!」

 

 萌は矢継ぎ早にしゃべりながら自身も赤城ほどではないものの巨大なグレネードキャノン、『秋保』を両肩に1門ずつ展開し、若干の時間差を置いて放った。

 

「フン、無駄なことを……」

 

 躱すことも出来たし、迎撃することも出来た。しかし、ラウラはそこで、あえてAICを発動し、ミサイルを止めようとした。力の差、装備の差を誇示するために。

 しかしそれが仇となった。

 ラウラのイメージ通りに弾頭が止まることは無く、まるで最初からAICが発動していることを知っていたかのように、ラウラのAICの範囲内に入る直前で弾頭が爆発したのだ。

 

「何っ!?」

 

 そしてラウラが驚いたのもつかの間、AICによって衝撃こそ来ないものの、爆風によってハイパーセンサーに揺らぎが走った。その中でラウラの真横から文字通り飛んできた萌の綴雷電の一撃がラウラの腹部に突き刺さった。

 

「かはっ……!」

 

 それと同時にロケットエンジンの爆発力を利用し杭が射出され、ラウラを大きく吹き飛ばした。綴雷電の一撃が直撃したことにより、ラウラのシールドエネルギーは大きく削られた。

 

「っ……貴っ様ぁ……!!」

 

 今の一撃でプライドが傷ついたラウラはその目に剣呑な光を宿し、続けざまにレールカノンを放った。しかし、それらのどれもが当たらず、ただアリーナのシールドにぶつかって爆発を起こすだけだった。

 

 

 ワイヤーブレードさえあれば。

 

 ふと、ラウラの脳内をよぎった思考はラウラをさらに怒らせるには十分すぎるものだった。

 

 何故たらればを考える?

 相手は半年前までISに関してはずぶの素人だったんだぞ?

 そんな奴相手の戦闘でたらればを考えているようで、本当にあの強さに追いつけるのか?

 

「ふざけるなぁ!!」

 

 怒りの叫びと共にラウラの両手にプラズマ手刀が展開される。瞬時加速を用いて絶大な速度を得たラウラは空を飛び回ってレールカノンを躱していた萌に肉薄する。

 

「貴様などに、私が敗けると思うな!!」

「被害妄想もいい所なんだけどっな!!」

 

 プラズマ手刀に対し、萌は若干無理な姿勢から綴雷電の一撃を合わせる形で放った。

 

「ぐっ!」

「っ……!」

 

 結果としては、両者が一度吹き飛ばされ、地上に戻る結果となった。しかし、萌のそれが想定内であるのに対し、自分が相手と互角であるという事を認めたがらないラウラの表情には今にもISをかなぐり捨てて殴り掛からんばかりの怒りが浮かんでいた。

 

「貴様ぁ……どこまで私をコケにする気だ!!」

 

 そして再びプラズマ手刀を展開し、萌へと斬りかかるが。

 

 

 

 

「全く、ガキの世話はこれだから疲れる……」

「きょ、教官……!?」

 

 そこで割って入ったのは千冬だった。ISを身に纏っていないにもかかわらず、IS用の物理ブレードを携え、ラウラのプラズマ手刀を受け止めていた。ラウラは信じられないものでも見るような目で千冬を見つめていた。

 

「何故止めるのですか教官!!」

「ただの模擬戦で殺し合いを始める馬鹿があるか。わかったらさっさとISをしまえ」

「っ……了解しました」

「焔も異存はないな?」

「はい」

 

 千冬に言われてはラウラも反対できないのか、沈痛な表情を浮かべながらISを解除し、アリーナを後にした。萌も千冬に言われるがままにISを解除し、萌がラウラと戦っている間にセシリアと鈴を避難させていた一夏とシャルロットの元へと歩み寄った。

 

「一夏、2人は大丈夫だった?」

「っ……ああ、大事はなさそうだ」

「そ、よかった」

 

 そう言うと萌は特に何かを言うわけでもなく、一夏に背を向けて歩き始めた。

 

「な、なぁ、萌」

「……何?」

 

 思わず、と言った様子で声をかけた一夏に対し、萌は酷くどうでもよさそうにゆっくりと振り返った。

 

「お前……何であんなに迷わず突っ込めるんだ?」

「……何で?」

「何でって……少しは自分もああなるかもしれないとか考えないのかよ」

 

 一夏自身、自分の言葉には少なからず棘が混じっていることは否定できなかった。それは、嫉妬なのかもしれない。しかし、嫉妬と呼ぶには可愛げがあった。なぜならそれは、守りたいという願いの元にあるのだから。

 

「……考えたことないなぁ」

「は……?」

 

 しかし、その返答は流石に予想外だった。萌の言ったことが事実なら、萌にとって自分とは損得勘定に一切入らないという事だからだ。

 

「問題が早く解決するなら。それに越したことはないと思うよ? それじゃ」

「あ、おい……」

 

 それだけ言うと、萌は足早にアリーナを去って行ってしまった。

 

 一夏は根本的に会話として成立していなかった先ほどの萌との会話を反芻した。一夏が萌に憧憬を抱いたことは事実だ。誰かを守れるだけの力を持ち、決して恐れも抱かずに、勇敢に戦える。それは正に、一夏が理想とするところにあった。

 

 しかし、本当に萌はそこにいるのだろうか? 彼にとって誰かを守るという事は当たり前の事であり、そこに自分が入ることは決してない。

 

 それは、果たして本当に自分の理想なのだろうか?

 

 一夏はただ、アリーナから出て行く萌の背を見ることしかできなかった。

 

 




これだけ書いてもRTAパート1パート分の半分しか終わらないとかちょっとガバガバ過ぎませんかね……

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