【完結】IS 亡国機業殲滅ルートRTA 男子チャート 作:sugar 9
戦時中に結成された小規模な組織に端を発するその組織は、裏の世界で暗躍する秘密結社である。その目的や行動理由は謎に包まれており、世界各国の悩みの種の1つとなっている。
特筆すべきはその隠密性の高さであり、世界各国の様々な組織に影響力を持っているにもかかわらず、対暗部用暗部である更識家であっても尻尾すら掴めない程の隠密性の高さを誇っている。
そんな亡国機業は、大きく分けて2つの組織によって構成されている。1つが運営方針を決める幹部会。そしてもう一つがそれらを実際に行動に移す実働部隊だ。
そして、幹部会では現在、ここ数年類を見ない程に物々しい雰囲気が漂っていた。亡国機業は天災である篠ノ之束に察知されることを恐れ、会合をネット経由のものから直接顔を合わせる形で行われるようになり早10年。その範囲内で言えば、この騒々しさは類を見ないものだった。
亡国機業とて資金源と呼べるものがあり、戦時中に設立して以来の長い歴史があるため、様々な業界や企業とのコネクションを持っている。そして、そのために深層ウェブに窓口と呼べるものも幾つか設けられている。
しかし、つい先日、そんな亡国機業の窓口の1つに、招かれざる客が現れた。
悪戯半分や腕試しでアクセスを仕掛けるハッカーなどにしては拙く、にも拘らず内部の者の手引きがなければたどり着くはずもないIDやパスワードを知っているような振る舞い。そして何をするわけでもなく去ってしまう不気味さ。
そしてIS学園内に在籍している亡国機業の者に調べさせた結果浮かび上がってきた名前。
焔萌。
世界で二人目の男性操縦者であり、その実力や知識量は1人目の男性操縦者であり、あの織斑千冬の弟でもある織斑一夏を遥かにしのぎ、それらの力は既に代表候補生に迫る勢いであるとすら言われている。
しかし、それらがこれまで何の接点も持たなかった亡国機業のサイトにいきなりアクセスしてくるなどという突飛な行動をとる理由にはならない。そもそも、どのような手段でこちらの存在を掴んだのかもわかっていない。
ISによって世界情勢が丸々塗り替えられた時以来の騒動だった。
亡国機業が調べた限りでの焔萌の経歴に、そんな不自然な所は見られなかった。彼が世界で2人目の男性操縦者であるというのも考えるならば、不自然なほどに不自然な所が何も見つからなかったというべきか。
だからこそ、亡国機業の幹部の面々からしてみれば焔萌は不気味以外の何物でもなかった。
彼の目的はなんだ?
どこかの組織の者なのか?
もしそうだとしたら、彼の背後にいる存在はどれほどのものなのか?
疑問は尽きず、それらに対する解答は何一つとして出ることは無い。
彼の意図を察することができるものはここにはいない。
(堕ちたものね、ここも……)
そんな中、一向に進展を見せない会議を冷めた目で見るのは、この亡国機業の幹部にして、実働部隊「モノクローム・アバター」の隊長も務める女性、スコール・ミューゼルだった。
スコールは内心眉を顰めながら、会議の進捗を見守っていた。亡国機業設立当時からの数少ない幹部であるスコールにとって、この亡国機業の現状は嘆くべきものであった。
(まるで、あの時みたい)
思い起こされるのは、10年前、ISの兵器としての圧倒的な性能が証明された時の事だ。
白騎士事件。
10年前、何者かの手によって日本を射程圏内とする全ての軍事施設のコンピューターがハッキングされ、日本へ向けて2341発以上のミサイルが発射された。普通、極東の島国へ向けてそれだけのミサイルが放たれたなどという事になればそのまま第三次世界大戦にでも突入しそうなものだが、実際にはそうはならなかった。
それらのミサイルの半数をたった一機で撃墜し、さらにはそれの鹵獲、もしくは撃破を試みた各国の大量の兵器を全てたった一機で無力化してしまった世界最初のIS、白騎士。それにより、現状の戦力図がまるであてにならなくなった結果、戦争は回避されたのだ。
当時の亡国機業は、まさしく1人の天災にいいように操られる滑稽なピエロだった。
そして、現在の亡国機業もまた、スコールからすれば同じように見えたのだ。
会議は進捗のないまま、解散となった。外に出てしばらく歩いていると、わざわざ待っていたのか、モノクローム・アバターの一員であり、スコールの恋人でもある女性、オータムが廊下の壁にもたれかかっていた。
わざわざ待っていた彼女の可愛げに先ほどまで募っていた苛立ちも幾分かは晴れ、妖しげな魅力のある笑みを浮かべながら言葉を紡ぎだした。
「ねぇオータム、1つやってもらいたいことがあるのだけど、いいかしら? ああそれと、Mにも伝えておかないとね」
この日、たった1人の少年の為に、亡国機業が動き出した。
―・―・―・―
「……はぁ」
基本的ににぎやかなはずの整備室も、施錠時間が近づいてくれば人は自然と減ってくる。今現在では簪のほかには、締め切りに追われているのか特別に夜間の使用を許可され、そこら中にエナジードリンクの缶を転がしてIS装備の動作テストを行っている先輩が数名いるだけだった。
そもそもこの整備室は、本来ならば2年次以降に選択できる整備科の生徒の為の場所である。そのため、むしろ浮いているのは簪の方と言えるのだが、授業と休む時間以外はほぼ全て整備室に入り浸っていた簪は今や完全に整備科の一員として扱われていた。
簪の行動パターンはここ最近、学校で授業を受けるか、萌と談笑するか、こうして整備室や教室で打鉄弐式のデータや機体とにらめっこするかの3つに限定されていた。これまでは何か嫌なことがあるたびに気晴らしで見ていた特撮やアニメも、最近は見る頻度がかなり減った。
「簪さんっ」
「っ……萌?」
背後から突然声をかけられた。よく通り、男子にも女子にも聞こえる中性的な声に、ほんの少しではあるが身体を蝕んでいた不安や緊張が解けていくのを感じた。そちらの方を向けば、タオルを首にかけ、髪が若干濡れている、如何にも訓練帰りですと言った風体の萌の姿があった。その体には軽度の疲労は見られるものの、4月頃のような一歩も動けない程の疲労困憊といった様子はなかった。
「もうすぐ閉まるよ。帰ろ」
「ん……片づけるから、待ってて」
そういって機器をシャットダウンしていった簪は萌の元へと駆け寄った。
「専用機の開発、上手くいってる?」
「……あんまり」
嫌なことを訪ねてくる萌に、簪はほんの少し顔をしかめたが、自業自得であるため特に何も言う事は無かった。
萌と親しくなってからというもの、簪の専用機開発のスピードはかなり早まっていた。というのも、クラス代表トーナメントなどで萌の危うさを見た簪は周囲が引くほどの時間をIS開発に費やし、かなりの速度で開発を進めていたのだ。
一刻も早く、萌1人に無理をさせないために。萌を支えるために。
しかし、そんな意志とは逆に開発の方は滞っていた。
推進ユニットなどを初めとした飛行機能のコントロールシステムの開発と、打鉄弐式の最大の武装である高性能ロックオンミサイル、『山嵐』のマルチロックオンシステムがどうしてもうまくいかなかったのだ。もともとこういったソフトウェア面は簪の得意とするところだったのだが、それでもやはり実際に開発するとなると勝手が違いすぎたのだ。
「うーん、やっぱり、先輩とかに頼った方が良いんじゃない?」
「……うん」
苦笑いを浮かべながら言う萌に対し、簪は暗い表情で頷いた。
簪も分かっていた。ISを1人で作成するという事がどれだけの夢物語であるかという事は。彼女の姉である楯無であったとしても、整備科のエースである布仏虚などの意見を取り入れ、既にある機体データを元に自分に扱いやすいようにアレンジを加えて完成させたに過ぎない。
萌を守れる力を手に入れる為ならば、このこだわりはどう考えても不要のはずなのだ。
しかし、さっさと捨てるべきのはずの思いを、簪は未だに捨てられずにいた。
それも無理のない事ではあった。簪にとって、出来すぎた姉である楯無とはあらゆる面で自分を縛る鎖であり続けたのだ。楯無本人に言えば全力で首を横に振るかもしれないが、彼女の過保護は結果として簪に強烈なコンプレックスを植え付けていたのだ。
何をしても楯無には追い付けないのだから、姉を超えられないのだから何もやらなければいい。守られるだけの無能な存在であればいい。
いつしか勝手にそう思うようになってしまった簪の思考回路は簪自身を縛る鎖となっていたのだ。
「あの、さ……俺も素人なりに手伝うから、明日から先輩とかに相談してみない?」
「……何で?」
簪は若干ではあるが驚いた表情で萌の方を見た。萌が誰かのしたいことの手助けをすることはあっても、萌の方から何かをしたいという事はめったになかったからだ。思わず問い返してしまった簪に対して、萌は少し躊躇した後にしゃべり始めた。
「その、今度の学年別タッグトーナメント、一緒に出たいからさ」
その言葉を聞いた瞬間、簪の中で悩みと呼べるものが一気に消えた。
「やろう、明日から」
―・―・―・―
「かんちゃーん、ほむほむー、先輩たち連れてきたよー」
「ん……ありがとう、本音」
次の日、打鉄弐式の周りは珍しく賑やかだった。もともと整備科志望だったため早いうちから簪と同じく整備室に通っていた本音が、姉であり整備科の中でも随一の成績を誇る布仏虚を頼りに人材を集めたのだ。
「正直布仏先輩が来るなら全部あの人一人で良いとは思うけど、追加で京子とフィー呼んどいたから、約束通り取材3回ね、焔君」
「はいはいわかりましたから」
そんなことを萌に言うのは黛薫子。2年生の整備科のエースであると同時に新聞部の副部長も務めているため、特ダネの宝庫である男子生徒である萌とはそれなりに関係があった。
「簪様、本日はよろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします……えと、お姉ちゃんは」
「ご安心を、今頃書類の山に埋もれています」
「……はい」
そして、簪様の頼みとあらばと生徒会の仕事を珍しく生徒会長に押し付けてやってきた3年整備科の首席、布仏虚。それはそれでどうなのだろうと思わないこともなかった簪だが、「普段散々こちらにやらせているのだからこれくらい大丈夫だ」とでも言いたげな虚の笑みを見て口をつぐんだ。
「それにしても、こんなに集まってくれるなんてね」
「……うん、修理とかならここにいる面子で出来ないことは無いかも」
そうして、学年別タッグトーナメントまでに打鉄弐式の完成を目標に、IS学園の中でも特に技術に秀でた者達による共同作業が始まった。
打鉄弐式開発中の萌の仕事は、概ね雑用だった。確かに、萌のISに関する知識は既に相当なものとなっているが、整備に関しては未だにそこまでの域には達していなかったからだ。
「焔君、レーザーアーム取ってきてー」
「はい」
「データスキャナーもおねがーい!」
「はい」
「超音波検査装置もお願いしますぅ」
「はい」
その雑用の内容と言えば、打鉄弐式の研究開発の為に必要な大量の機材や資材を運ぶことなどが主だった。現在、打鉄弐式の周りでは専用機開発というIS企業に入っても中々できることではない一大事業につられ、比較的暇な2年生の整備科ほぼ全員が、そして、虚をはじめとした課題や成績などに追われていない成績上位の3年生の整備科の生徒が打鉄弐式の研究開発に協力していた。
それら全員の要望を聞き、整備室と機材室を往復する萌の運動量は常軌を逸したものになっていたが、全員が全員忙しかったためかそれにつっこむ人物は当分現れなかった。
「焔君、髪留め付け直してー」
「はい」
「焔ージュース飲ませろー」
「はい」
「ほむほむ~、お菓子ちょうだーい」
「はい」
しかし、あまりにも萌が矢継ぎ早に命令をこなすものだからだんだん楽しくなってきた女子たちにより、萌に出される雑用は萌が拒まないのをいいことにどんどん妙な方向へと飛んでいき、
「あ、そういえばシャンプー切れてた。購買で買っといてくれる? ハーブの匂いのやつ」
「はい」
「この本図書館に返しといてー」
「はい」
「あ、今日の夕飯の日替わり定食調べといてくださいー」
「はい」
この悪ノリは簪が割って入るまで続いた。拒むことを知らない萌の方に問題があるのだが、どうにも萌としてはこれが夜まで続いたらそれらをやる暇もないのだろうという判断の元言われるがままに実行したそうだ。
(…………)
簪は人員が増えすぎたことにより、自分で直接ISの各部分を製作する必要がなくなったため、常時打鉄弐式を身に纏い、出来上がったものからすぐさまテストに持っていけるような体制を築き上げていた。
忙しなく両手両足、そして頭を働かせながらも、簪は何とも言えない複雑な感情を抱いていた。
専用機開発は、先輩たちに協力してもらい始めてからというものの、これまでのペースが信じられない程順調に進んでいた。これまでが一歩一歩歩いて専用機の開発を進めていたと例えるならば、今の自分の現状はさながらジェット機にでも乗って一足飛びなどという言葉すら生ぬるい進度で開発を進めているようなものだった。
自分の専用機が見る見るうちに出来上がっていく高揚感と同時に、今までの自分の努力を否定されているかのような気分を味わっていた。
「複雑、といった表情ですね。簪様」
「……虚さん」
そんな思いが顔に出ていたのか、ふと、作業の合間に簪は虚に声をかけられた。
「問題に真っ正面から挑もうとするのは簪様の美徳ではありますが、過ぎればそれも毒になりますよ?」
「……わかってますけど」
簪は言葉を濁らせた。
簪も分かっていた。楯無は何から何まで1人で専用機を作り上げたわけではない。虚などの手を借りて、既に完成された第三世代型ISであったグストーイ・ドゥエン・モスクワの機体データを元に組み上げたのだ。むしろソフトウェア面などに関しては、半分も完成されていない状態で、何のデータもなしに取り組んでいる簪のほうが難易度が高いとすら言えた。
だからこそ簪はそんな無理難題に挑んでいるとも言えるのだが。
「まぁ、いらない心配でしたね。簪様もようやっと女の子らしい感性を手に入れられたようですし」
「……そういうのじゃないです」
珍しく面白がるような笑みを浮かべる虚に対し、簪は若干顔を赤くしながら頬を膨らませる。
簪が萌の事を気にかけるのはこういった年代の男女にありがちな恋慕のそれではないというのが簪が自分自身を客観的に見つめた結果だった。
「萌は……ほっとけないんです。自分がどんなに危うい立場にいるのか、わかっているはずなのに、自分の事なんて二の次三の次で。そんな事で、この学校で初めて出来た友達を無くしたくないから、早く萌を支えられるようになりたいんです」
「……そうですか」
虚はそれ以上は何も言わないことにした。ついでに、それを世間一般では恋というのでは? と指摘することも、その男子の部屋に夜な夜な件の姉が入り浸っているという事を教えるのもやめておいた。
「よーし、形にはなったわね」
日によって製作メンバーが変わったり、それによってトラブルが発生したりとそれなりの紆余曲折は経たものの、打鉄弐式の完成は学年別タッグトーナメント1週間前にこぎ着ける形となった。因みに今日は生徒会から割と本気のSOSが飛んできたため虚はここにはいなかった。
「あの……皆さん、本当にありがとうございました」
「何々、いいってことよ」
「学生の内に専用機を作るなんて中々できることじゃないしね」
「かんちゃんの頼みとあらばえんやこらだよ~」
未だに内気なその性格こそ直っておらず、技術面に関しても先輩に比べれば劣るものの、簪は確かにそのグループのリーダーとして、1週間ほどの間活動することができた。そのことは、簪の中で確かな自信となっていた。
ちなみにタッグトーナメント申込書はあらかじめ申し込んであったため、いくら期限まで余裕があるとはいっても、簪は不安で夜も眠れない日々を送っていたため、安堵もひとしおだった。
「後は、打鉄弐式の操縦にこの1週間でどれだけ慣れられるかだね」
「うん……でもきっと大丈夫」
自分1人なら、絶対に言わなかったであろうそんな台詞を言いながら、簪は整備室の照明を照り返して輝いている打鉄弐式を眺めるのだった。
―・―・―・―
「大丈夫? 簪さん」
「……大丈夫」
そしてやってきた学年別タッグトーナメント当日。ピットでISを展開させた萌と簪は緊張を紛らわせるために雑談を交わしていた。
正直、専用機同士でタッグを組んでいる以上、同じく専用機持ち同士のタッグでなければ機体性能の差のみで勝てるというのが正直な所ではあった。
しかし、簪と打鉄弐式にとって初の実戦となるため、何が起きるかわからない。それに加え、この試合は各国の企業の要人や政府関係者も見に来ている。つまり、簪はともかく、難癖をつけられかねない萌にとっては絶対に負けられない、否、苦戦すらも許されない試合なのだ。
そんな中でも、簪への気遣いばかりをする萌に簪はほんの少し頬を膨らませるのだった。
「よし、それじゃあ行こうか、簪さん」
「ん……」
萌に言われるがままに、簪は萌と一緒にピットから出た。
「っ」
次の瞬間、観客席から自分に突き刺さる大量の視線に若干のめまいを覚えた簪だったが、
(弱音なんて……吐いてる暇はない!)
両腕の装甲をいったん解除し、両頬を強く叩いた。頬にじんわりと残る痛みが、簪の心から雑念を拭い去ってくれた。
そして、アリーナに打鉄弐式と打鉄・雷火。そして対戦相手である打鉄とラファール・リヴァイヴが位置取り、第一試合の開始を告げるブザーが鳴り響いた。
「はぁっ!!」
「くっ!」
開幕と同時に、萌が奇襲を仕掛けた。綴雷電のロケットエンジンを噴射させたその一撃は相手としても事前の下調べで十分にわかっていたことであったため、その攻撃は打鉄の近接ブレード「葵」によって流されてしまった。
「まだまだぁ!」
しかし、当然そこで止まることは無く、流された際にそれたエネルギーを利用してそのまま独楽のように回転して打鉄に綴雷電の連撃を放った。連撃の為杭が射出されることは無かったが、打鉄に対してインファイトに持ち込んだ萌は打鉄のシールドエネルギーを確実に削り始めた。それにどうにかついていけている打鉄側の技量もなかなかのものであったが、IS同士による超近距離戦は立ち位置が目まぐるしく変わるため、簪もラファール側も援護に参加することができず、結果として1対1が2つ生まれる結果となった。
「萌!」
「了解!」
しばらく続いたその構図を打ち破ったのは、普段の様子からは想像も出来ないような簪の凛とした掛け声だった。その声に応えた萌は打鉄を突き飛ばすような形で距離を取り、今度は打鉄とラファールを2人同時に相手取り、簪が後方から打鉄弐式に搭載された二門の連射型荷電粒子砲「春雷」で援護するようなフォーメーションを取った。
明らかに何かを狙っているフォーメーションではあるものの、だからと言って萌の攻撃をかいくぐって再び先程の状況へもっていくだけの技量は、代表候補生でもない1年生には無かった。
その間、簪は萌の援護を行いながらも、両手の装甲を解除し、空中に投影された球状キーボードを指5本につき2つ展開し、目にも止まらぬ速度である作業を行っていた。
(大気の状態、クリア、対象の機動性、クリア、タイムラグ、クリア)
あらかじめ用意していたチェックリストを埋めていく、時と場合によって180度変わるそれらは実際にその場で入力しなければならない項目だけに絞ってもその数は膨大であった。
彼女が今行っているのは、打鉄弐式最大の武装である高性能誘導ミサイル『山嵐』のマルチロックオンシステム、並びに自動追尾システムの発動に必要なデータの入力だった。
先輩や萌の協力により、当初の簪が想定していた以上の性能となったマルチロックオンシステム。それは、簪自らの制御を不要としたうえでの複雑な自動追尾、それを48発の小型ミサイル全て同時に行う事を可能としていた。
簪は考えていた。この大会で、如何にすれば萌に変なやっかみが飛ばないようにすることができるのか、そのために自分に何ができるのかを。
(全システム、チェック終了、ロックオン、完了!)
彼女がたどり着いた結論は、ごく単純なものだった。
(萌の責任は……私が背負う!!)
彼女の何よりも固い一念と共に、山嵐の発射命令が下された。打鉄弐式のウィングスラスター、そこに取り付けられた板がスライドし、内部で展開を終えた48発の小型ミサイルが轟音と共に射出された。
48発のミサイルは、それぞれが非常に複雑な、それこそ国家代表レベルの操縦者でもなければ見切れないような軌道を描き、24発ずつ、ミサイルの爆風から逃れるために若干後退した萌を避けるかのようにして打鉄とラファールに命中した。在澤重工の技術を流用したことにより破壊力をより効率的に相手に伝えることを可能としたそれらのミサイルは防御力の高い打鉄であってもシールドエネルギーを削り切るほどの破壊力を発揮した。
簪が萌と相談して出した結論。それは、試合の決め手をあえて非常に難易度の高いマルチロックオンシステムを利用した山嵐に絞るという事だった。そうすれば、萌は相手が誰であったとしても、攪乱を目的として、自身が得意とする超近距離戦で戦うことができる上に、もし仮に山嵐による決め手が失敗しても、萌の役割は攪乱である以上萌の非にはならない、というものだった。
無論、萌も最初は反対したが、簪が珍しく譲らなかったためその案を採用することとなったのだ。
「や、やった……!」
「やったね、簪さん!」
「うん……!」
試合終了を告げるブザーによってようやく集中状態から脱した簪は、自分の中に湧き出てくる初めての達成感に対応しきれなかったものの、顔は自然と笑顔を浮かべていた。そして、駆け寄ってきた萌とIS越しにハイタッチをするのだった。
長かった……
作品の評価に作者の力量が追い付かなくなってまいりました。