【完結】IS 亡国機業殲滅ルートRTA 男子チャート 作:sugar 9
私は、戦うためだけに生まれ、育てられ、鍛えられた。
戦場において必要となるあらゆるスキルを十全以上に学び、訓練では最高レベルを記録し続けた。
そこには、生きるか、死ぬか、使えるか、使えないか、それ以外の要素は全く介在しなかった。
他の生き方など、私は知らないし、興味もなかった。
Damage Level……D.
私は優秀であり続けた。
だからこそ、その価値が失われたとき、私には何もなかった。
ISの登場と、それに伴う適合率向上のために施された処置、『越界の瞳』の適合に失敗した私は、部隊トップの座から滑稽なまでに転げ落ちることとなった。
私は無力だった。
出来損ないの烙印を押された私に、生きる道などなかった。
Mind Condition……despair.
そんな私に、生きる道を与えてくれたのが教官だった。
太陽のように鮮烈で、眩しく、圧倒的な力に私は惹かれた。
教官の指導の賜物により私は再び部隊トップの座へと返り咲くこととなった。
しかし、その時にはあれだけ心に突き刺さっていた嘲笑の視線も、侮蔑の声も、もはやどうでもよくなっていた。
あるのはただ、教官への憧憬と、ああなりたいという渇望のみ。
Certification……clear.
だからこそ、私には許せなかった。
完全無欠であるはずの教官が時折浮かべる弱さが、太陽に陰りをもたらすその闇が。
いいや、違う、許せなかったのではない。そんなものは、体のいい言い訳に過ぎない。
怖かったのだ。太陽を否定されることが、それを信じ、焦がれていた私もまた、嘘だと否定されることが。
ああ、だから、頼む。
―・―・―・―
試合終了後に念のためにISの簡易的なメンテナンスを行っていた萌と簪がいるピット内に警報が鳴り響いた。今現在試合をしているのは、ラウラ、箒のペアと、一夏、シャルロットのペアだ。何か厄介事が起こったとしても不思議ではない。
トーナメントでは次にどちらかと当たることになるため、両ペアの内どちらかと戦うこととなる萌と簪は、敵情視察もかねてピット内に設置されていたモニターで試合の様子を眺めていた。
試合は序盤こそラウラ・箒ペアの有利で試合が進んでいたが、一夏、シャルロットペアが連携した攻めを見せ始めると状況は一転、ペアであるという事の強みを生かした差が如実に出始めた。最終的には、シュヴァルツェア・レーゲンのAICの弱点、発動中は対象者に常に意識を向けていなければならないという隙を突き、そのまま流れを持って行ったのだった。
異変が起きたのは、今まさに試合が終わろうとしていたその時だった。
突如として、ラウラが明らかに試合のそれではない苦しみ方をした後、シュヴァルツェア・レーゲンから紫電が放たれ、今まさにとどめを放とうとしていたシャルロットを吹き飛ばしたのだ。
反撃の文字が簪の脳裏をよぎったが、それを即座に否定した。あんな芸当ができるのならばとっくにやっているだろう。ならば、これはラウラが意図した反撃ではない。
そして次の瞬間、シュヴァルツェア・レーゲンが文字通り溶け始めた。原型を無くし、黒い粘体となったシュヴァルツェア・レーゲンだったものが、まるで意志を持つかのようにうねり、ラウラの身体を包み込み、何かを形作っていく。あまりにも突拍子、かつ非現実的すぎる光景に、観客も、一夏たちも、ただただ唖然とするばかりだった。
「これって……」
「ちょっと待ってて、様子見てくる」
簪には、心当たりがあった。萌の様子からして萌も心当たりがあるのだろう。アリーナのシャッターが閉まると同時に遮断された映像に見切りをつけ、メンテナンスをしていた打鉄・雷火を待機形態へと戻し、ピットの出口へ向かって駆け出した。
VTシステム。
正式名称はValkyrie Trace System。文字通り、過去のモンドグロッソ優勝者の戦闘方法などをそのままデータ化し、それを操縦者に実行させるというある種の自動操縦システムである。
一見すれば誰であっても最高クラスの性能を発揮することができるシステムのように思われるが、その実態は操縦者に半ば無理矢理世界最強クラスのIS操縦者の動きを再現させようとするシステムである。その為、操縦者の安全を一切考慮していない杜撰な設計であり、操縦者に莫大な負荷を、最悪の場合生命すら危ぶまれるほどのリスクを強いるシステムだ。
その性質上、間違いなく非人道的な運用をされることが想定されたため、現在ではあらゆる企業、国家での研究開発が禁止されている。
簪が制止する暇もなく、萌がピットの出口から様子を確認するためにIS用の出口からアリーナへと出た次の瞬間。
「――――!」
声にならない声を上げたVTシステムを纏ったラウラが目にも止まらぬスピードで萌へと突貫した。お世辞にもモンドグロッソ優勝者のそれとは思えないような直線的で感情的な動き。しかし、その速さは間違いなく瞬時加速のそれをはるかに上回っていた。
「萌!!!!」
簪の叫び声と、金属と金属がぶつかり合ったものとは思えないような轟音が鳴り響いたのはほぼ同時だった。
「ぐっ……ああああ!!」
コンマ1秒もないようなギリギリの差で、どうにか打鉄・雷火の展開に成功した萌が綴雷電でラウラの剣を受け止めていた。あと一瞬でも展開が遅れていれば、萌は間違いなく物言わぬ肉塊となっていただろう。その事を本人も自覚していたのか、まるで恐怖に震える自分を鼓舞するかのような雄叫びを上げ、ロケットエンジンを噴射させてラウラを押し返した。
「おおおおおおおあ!!!!」
そのままロケットエンジンを噴射させ続け、アリーナへと無理矢理押し戻した萌はその勢いのままラウラを壁へと叩きつけた。
そしてそこから、萌は綴雷電のロケットエンジンによる加速を用いて、ラウラから距離を取り続けた。そこに勝利するという意図はなく、明らかに、教員部隊が到着するまでの時間を稼ぐための物だった。
その意図は即ち、未だにISを身に纏えていない簪を守るためのものだったのだろう。
「っ……お願い、打鉄弐式!!」
悔しさに一瞬身が硬直するが、すぐさまその思いを振り払い、簪は既に展開されている打鉄弐式に乗り込み、アリーナへと飛び出した。
「シャルル! 一夏を避難させた後、援護お願い!」
「わかった! 一夏、行くよ!」
「お、おい!」
既に白式のシールドエネルギーをほとんど失ってしまっている一夏は、戦力として期待できないだろう。シャルロットもそこは同意なのか、何故かほんの僅かばかり抵抗した一夏を連れて既に逃げ終わっていた箒がいる方のピットへと避難した。
「箒、一夏とここにいて。僕は萌たちの援護に回るから!」
「わかった、無理はするなよ」
「当然!」
箒に一夏を引き渡したシャルロットが即座に戦場へと戻っていった。そしてその間、自分もとアリーナへ戻ろうとする一夏を片手のみで押さえつけていた。流石は剣道全国大会優勝者というべきか、一夏はその拘束を振りほどけないでいた。
「何すんだよ箒!」
「お前こそ何をする気だ。今、私達に出来ることは何もない」
あくまで落ち着いて諭そうとする箒に対し、未だに激情が落ち着く気配がない一夏は箒に食いつかんばかりの勢いでまくしたてた。
「何かできることはあるはずだ! こんなところでじっとしていられるか!」
「っ、何だというのだ一夏! あいつがお前の親の仇だとでも言う気か!」
箒は若干ではあるが戸惑っていた。確かに一夏は感情的な人間だ。昔、いじめられていた箒を後先考えずにお世辞にもあまり褒められたものではない方法で庇ったように、間違っていることを放ってはおけない人間だという事も知っている。
しかし、それにしてもこれは異常だった。今の一夏は、何かにとりつかれているようにすら思われた。
「あいつは……あいつは、千冬姉と同じ剣を使ってやがるんだ。命を奪う重さを持った剣を、あんなふうに杜撰に、命を奪う事を何とも思ってねぇみたいに……!」
「っ、落ち着け、一夏」
いったんは落ち着きを取り戻したと思われる一夏だが、言葉を紡いでいくごとに再び激情が沸々と沸きあがっていくのが分かった箒は一夏の両肩に手を置いた。
箒でもわかった。確かに、本家本元のそれと比べれば比べるべくもないのかもしれないが、VTシステムに囚われたラウラのあの太刀筋には確かに千冬のそれを想起させるものがあった。
一夏にとって、ある意味全ての始まりである千冬の剣の模造品などで躊躇のない暴れ方をされるのは、姉の剣を侮辱されるに等しい行為なのだという事も、一夏にとってそれが耐えがたい事であることも分かる。
「お前の言い分は分かった。だが、私達が何もしなくとも状況は収拾される。それ以前に、既にISを纏えない私達に出来ることは、何もないんだ。だから――」
「だから、無理に危ない所へ飛び込む必要はない、か?」
「そうだ」
しかし、それでも箒は引き下がらなかった。何となくだが、箒は察していた。今の一夏は危険だ。無人機が襲撃してきたあの日、箒を説得してあっさり自分の命を危険にさらした萌と同じ目をしていたのだ。自分の命など勘定に入れない。正しく捨て身の意志が宿った目を。
だからこそ、箒は必死に止めようとしたが、一夏は一向に止まる様子を見せなかった。
「違うぜ、箒。全然違う。これは、俺がやらなきゃいけないんじゃない。俺がやりたいからやるんだ。他の誰かがどうだとか、知ったことじゃない。ここで退いたら、俺は俺じゃ――」
しかし、次の瞬間、何かが切れる音と共に、頬を思いっきり叩く小気味のいい音がピットに鳴り響いた。箒の平手を思いっきり喰らった一夏は横向きに転ぶ形となった。
「ふざけるな」
次に箒の口から漏れ出た声は、箒本人でも驚くほどに冷たい声色をしていた。
「貴様の言い分は私にもわかる。剣を侮辱されたのだ、怒りも分かる……だが、貴様の意地に他人を巻き込むな」
「……箒?」
一夏も、箒がかつてないほどに怒っていることが分かるのか、少し困惑している様子で箒の方を見た。
「今の貴様は誰が見ようが足手まといだ。もはや一撃分の余力も残っていない白式で出たところで、一撃貰って命の危険に晒されるのが落ちだ。それにシャルル達を巻き込むなど、私が許さん」
「っ……けど……俺は」
「こうなった段階で自分の負けだと気づけ一夏!!」
ピット内に箒の叫び声がこだました。しかし、そんな声とは逆に、箒が浮かべる表情は苦痛に満ちた悲し気なものだった。
「無人機襲撃の折、私も同じようなことをしようとした。自分の無力を自覚し、それでもなお動かずにはいられなかった。お前が突然命のやり取りに巻き込まれ、せめて声援だけでもと届けようとした。その先は一夏も知っているだろう」
「……萌が来たのって、そういう」
思い起こされるのは、クラス代表トーナメントの折に起こった無人機襲撃事件の事だった。あの日、自身のわがままの為に萌を危険に晒してしまったこと。そしてそのことで抱いた後悔と恐怖を、箒は今でも覚えていた。
「いいか、一夏。ここはある種の戦場なのだ。己の我儘一つで、誰かが死ぬかもしれないんだ。貴様は、それを本当に理解しているのか? その意地を無理やり通そうとしたとき、誰かが死ぬかもしれないという事を、覚悟しているのか?」
「それ、は…………」
余りにも辛そうな箒の表情と口調に、一夏は言葉に詰まってしまった。そして、それは同時に、自分自身の思考と向き合う時間が生まれたという事と同義であった。
ISを、力を手にした時、セシリアとの決闘で勝利に手が届きかけた時、一夏の心には確かに高揚感と呼べるものが存在した。
これで、俺も誰かを守ることができる。
しかし、そんな時高まった心に水をかけたのは、この学園に入学したばかりの頃、自身と同じ境遇である男子、焔萌にかけられた言葉だった。
あの時一夏は、現状に対して不満を漏らしていた。突然訳の分からない社会の事情に巻き込まれ、自分の人生をめちゃくちゃにされてしまったことに対して、愚痴を漏らしていた。同じ境遇の萌なら、共感してくれると思ったから。
確かに、萌も苦笑いしながら共感してくれた。しかし、続けて彼はこう言った。
『けど、それでもやれることをやらないと。想像も出来ないような努力してまでここに来た人たちに失礼だし、それに――』
『それに?』
『俺、守ってみたいんだ。この力があれば、きっと誰かを守れる。俺みたいに、理不尽に巻き込まれる人も、きっと』
そういう萌の目は、優しくも、力強い、まるで、一夏が目指す所に既に至っているかのような輝きがあった。
その後、萌は並々ならぬ努力をしているという事は噂でも伝わってきた。それに負けじと、一夏も努力を続けてきたつもりだった。
確かに、萌たちの相手と、一夏たちの相手では戦力に差があったことは事実だ。
しかし、それでも、今のこの状況が結果だというのなら。
「あぁ、そっか」
先ほどまでの激情はどこへやら、一夏は平坦な口調で言葉を紡ぎだした。
「俺、まだ何も守れないんだな」
その言葉が口から出ると同時に、一夏の目から一筋の涙が零れ落ちた。
「……強くなろう、一夏。どんな時でも守れるくらい、どんな時でも意地を通せるくらい強く」
完全に独り言のつもりだったその言葉に、箒は応えた。甘えてはいけない。その言葉に甘えてしまったら、また弱くなってしまう。理性がいくらそう叫んでも、まるで零れ落ちるかのように一夏は言葉を紡ぎだした。
「なれるのかな、俺に」
「なれるさ、きっとな」
そういう箒の口調は、これまで一夏が聞いてきたどんな言葉よりも、優しかった。
―・―・―・―
「ぐっ……!」
「動きが……速すぎる……!」
萌、簪、シャルロットの3人は苦戦を強いられていた。ラウラはこちらからの呼びかけに応じる様子はなく、ただ一目散に萌を排除しようと襲い掛かる。その隙を簪とシャルロットが突こうにも、本来なら防衛用の調整がされているのか、VTシステムは自身への攻撃への反応速度においては凄まじく、却って状況を悪くしかねなかった。
「俺の事は気にしなくていいよ、逃げ回るのだけは、得意だからさ!」
唯一ダメージを与えられているのが萌の爆撃だった。しかし、元々射撃適性が高くない打鉄・雷火では決定打となるようなダメージを与えることが出来ずにいた。
「っのぉ!!」
焦りからか、若干無理のあるタイミングで簪が春雷を放った。荷電粒子砲は吸い込まれるようにラウラの方へと向かっていったが、何の策も弄していないそれにあたるはずもなく、逆にそれが隙となり、ラウラの対象が萌から簪へと一時的に移った。
「っ……!」
「簪さん! ぐっ!」
とっさの事だったため対応が遅れた簪とラウラの間に、萌が割って入り、何とか綴雷電で防御を試みた。しかし、防ぎきれたとは言いづらく、そのままラウラの連撃をもらう羽目となってしまった。シールドエネルギーが大幅に削られ、衝撃によって萌の顔が苦痛に歪んだ。
「萌!」
「気にしないで、来るよ!」
自分のせいで、萌に被害が及んでしまった。その事実に一瞬頭が真っ白になり、動けなくなった簪を庇うような立ち位置で、萌が綴雷電のロケットエンジンを噴射させ、若干無理矢理ではあるもののラウラとの距離を取った。
「萌! 離れて!」
「わかった」
それでもなお萌へ向けて突貫するラウラの隙を突き、シャルロットの射撃が初めて直撃した。ラウラの意識がシャルロットに向いた隙をつき、萌は簪を連れてさらにラウラと距離を置いた。
「萌、ごめん、私……」
「気にしないでって言ったでしょ。こんな事態だもん、何もミスしないなんて無理だよ」
嘘だ。
簪は内心でそう思った。現に、萌はここまで、簪を庇った際に受けた被弾以外ではダメージらしいダメージを負っていない。ラウラはただ只管に萌を狙っているにも関わらず。彼の操縦技術はこの状況下においても遺憾なく発揮されていた。シャルロットも同様に、適度にラウラの注意をそらすことで萌が間合いを取り直す隙を与えられていた。
(っ……だめだ、今はそんなこと考えてる場合じゃない!)
首を横に振り、どんどん後ろ向きに流れていく自身の気持ちを振り払った簪は再びけん制射撃を始めた。既に教員部隊がこちらへ向かってきている。それまで萌が逃げ回れるだけの余裕を作るために簪は思考を巡らせ始めた。
「萌、デュノアさん、山嵐で削れるだけ削る。それまで時間を稼いで!」
「わかった!」
「了解!」
現状、萌の火器や綴雷電、シャルロットのパイルバンカー「灰色の鱗殻」などを除けば現状最も火力が出て、なおかつラウラに命中しうる武装は簪の山嵐のみだ。だからこそ、勝ち筋は山嵐に絞りやすかった。
簪がいったん戦線から離脱しても、ラウラは未だに萌以外は眼中にないようだった。その事を確認した簪は即座に球状キーボードを展開し、入力を開始した。
「ぐっ!!」
「萌! 大丈夫!?」
「まだ、大丈夫!」
しかし、簪がいなくなったことによる影響はすぐさま現れ始めた。単純にラウラが萌から気をそらす時間が目減りしたことにより、ラウラがより積極的に萌を狙い始めたのだ。
じわじわと、しかし確実に萌のシールドエネルギーが減少していく。そんな中、はやる気持ちを抑え、簪は必死に手を動かしていた。
(絶対に躱せない、躱させない!)
そして、そこからさらに細工を施した。
「山嵐、発射!!」
そして、計48発の高性能誘導ミサイルが一斉に放たれた。それらはまるで抽象画でも描いているかのような複雑な軌道を描き、しかしそのどれもが決して衝突することなく、ラウラへと向かっていった。
当然、VTシステムは即座に防衛に移った。山嵐以上の速度で飛び回り、自身を追尾するミサイルのパターンを解析。飛行をやめ、反転すると同時に剣を構え、片っ端から切り捨て始めたのだ。その間も、ミサイルは絶えずラウラに襲い掛かるが、それらの殆どを時に切り捨て、時に躱し、時にいなすことでしのいでいた。
しかし、真っ先にパターン化してしまったからこそ、VTシステムには感知することができなかった。
飛んでくるミサイルの内4基ほどが、パターンに従っているように見せかけて実は従っていなかったという事に。
「――――!?」
簪がひそかに手動で操縦していた4基のミサイルが命中した。想定外の事態により、VTシステムが完全に動きを停止したその刹那。
「萌!!」
「おおおおおおおお!!」
簪の呼び声に対して勇ましい雄叫びで応じた萌は既に綴雷電によって爆発的な速度を得てラウラへ向けて突貫していた。萌が信じてくれていた。その事実だけで、役目を終えた簪の頬はほんの少し緩んだ。
初めて無防備なラウラの懐に潜り込むことに成功した萌による、綴雷電による連撃がさく裂した。連続で射出される杭は並のISどころか耐久に重きを置いたISであっても耐えきれるようなものではなく、いつしか形状を保ちきれなくなったVTシステムはまるで溶けるかのように形を崩し、元のISの姿へと戻っていった。
「――――う」
「おっと」
そして、まるで解放されるかのように、ラウラが萌の胸に倒れこんできた。
―・―・―・―
「はぁ……何とか、上手くいきましたね」
「……ああ」
管制室で一通りの通信を終え、とりあえずはいち段落した真耶が突っ伏す中、千冬は煮え切らない返事を返すだけだった。
VTシステムは全世界の企業、及び国家での開発が禁止されているシステムだ。そんなシステムをこんな場所で発動すれば、ドイツの立場は一気に悪いものとなるだろうし、それをわからない程愚かな国ではないはずだ。
早い話が、ドイツがわざわざこんな場所であんなものを使う理由がない。
であるならば、あのシステムは一体誰が発動させたのか?
千冬が嫌な予感を抱いている間も事態は進んでいっていた。
「……あなたは?」
「おっと失礼、申し遅れましたね」
その女性は、まるで作られたかのようによくできた笑みを浮かべながら告げた。
「IS開発企業「みつるぎ」の渉外担当を務めさせて頂いております。巻紙礼子と申します。以後、お見知りおきを」
「はぁ……それで、俺に何か?」
「はい」
礼子は、それまで浮かべていた作られたような笑顔をほんの少し崩し、言葉を紡ぎだした。
「本日は、貴方の身柄をISごと頂こうかと思いまして」
萌は眉一つ動かすことなく、ISを展開した。既にシールドエネルギーは10%を切っているにもかかわらず、その顔には恐怖の表情は無かった。
「……そうですか」
「ハッ、いいねぇ。物わかりの良いガキは嫌いじゃねぇぜ!!」
そして、再び戦いは始まった。既に起動させることがやっとの打鉄・雷火を身に纏う萌は少しの迷いも見せずにそれに応じた。
長い(確信)