【完結】IS 亡国機業殲滅ルートRTA 男子チャート   作:sugar 9

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希望を与えられ、それを奪われる。その時人間は最も美しい顔をするので初投稿です。ここまで視点が散らばるのは今回だけだと思いたいです。


裏語 11

 

「オータム、少し良いかしら?」

「……何だ?」

 

 不機嫌さを隠そうともせずに現在の潜伏場所である施設に戻ってきたオータムを待っていたのは、いつもの不敵な笑みを潜めたスコールだった。スコールの恋人であるオータムは知っていた。この表情をしている時のスコールは決して遊びを混ぜないという事を。

 今にも何か物に当たりたくなるような衝動を抑え、オータムはスコールと向き合った。

 

「例の子、どうだった?」

「……ああ、焔萌か」

 

 スコールが指しているのは、先程までのオータムの標的であった焔萌の事だった。高いIS適性値とISを操縦し始めてから半年も経っていないとはとても考えられない操縦技術を持ち、現時点ではある意味1人目の男性操縦者である織斑一夏よりも注目されているとすら言われている男子。

 

「あなたから見て、あの子はどんな子だった?」

「んー……何があったかは知らねえが、アタシらが何もしなくても壊れる一歩手前だぜ、あいつ」

「というと?」

「自分の死は普通に怖がってやがる癖に、行動にそれが従ってない。死にたくないって思ってるはずなのに取る行動はどれも特攻一歩手前のもんばかりだ。これが壊れてないってんなら何だってんだ」

 

 お手上げだとでも言わんばかりに、オータムは肩をすくめた。

 

「ま、ありゃ駄目だな。仲間に出来たらそりゃ理想的だ。死ぬつもりのない特攻兵とか矛盾してるが厄介にも程がある。だが、こっちに引き込める頃には死体になってるだろうな」

「……そう」

 

 スコールは思考を巡らせた。オータムのいう事が事実ならば、今回の一件が亡国機業のものだと判明したところで、萌が亡国機業に見せたあの謎の行動に隠された意志が消えることは無いだろう。もしそれが敵意だった場合、例え四肢が砕けたとしてもこちらの喉元に食らいつこうとしてくるだろう。恐らくは、多数の仲間を引き連れて。

 負けるつもりは毛ほどもない。しかし、それで滅びてしまっては愚か者以外の何物でもないだろう。

 

「なら、搦手で壊れてもらいましょうか」

「ま、それが妥当だな」

 

 故に、彼女達はまだ出かけていただけの不安の種を潰す選択肢を取った。言ってみれば、それだけの事だった。

 

 

―・―・―・―

 

「おかえり、かんちゃん」

「ん…………」

 

 萌の病室で楯無と会った日、簪のルームメイトである本音はできるだけいつもと変わらない声でふらふらとした足取りで部屋に入ってきた簪を迎え入れた。簪は今にも消え入りそうな声で返事をした後、制服姿のままベッドに倒れこんだ。

 

「……ねぇ、本音」

「なぁに?」

「お姉ちゃんみたいになったら、萌の事を支えられるようになるのかな」

「んー……」

 

 それは、きっと返答なんて期待していない問いだったのだろう。いうなればぬいぐるみに問いかけるようなものだったのかもしれない。

 けれど、そんな簪を支えることこそが本音の役目なのだ。本音は落ち着いた口調で言葉を紡ぎだした。

 

「楯無様みたいなのって、どんなの?」

「……え?」

 

 問いかけが返ってくるとは思っていなかったのか簪はほんの少しの間呆然とした後に本音の方を向いた。本音の顔には、いつも通りの優しい笑みが浮かんでいた。

 

「別に、楯無様はヒーローじゃないよね?」

「え、と」

 

 簪は上手く答えることができなかった。確かに、簪と楯無が誰かから比較されたことは無い。そんなことになる前に、楯無が手を回していたからだ。

 比べていたのはいつも簪自身だ。何でもできる姉に対して、自分は何て駄目なのだろうと、そしてそんな状況から抜け出そうとしてもいつまでたっても姉に守られている自分が、まるで姉に無能なままでいろと言われているような気がして、嫌になって。

 

(あ、れ……?)

 

 自分は何のために、ここまで頑張って、今泣いているのか。それは、全て萌の為だ。楯無は関係ない。むしろ、その思いを、自分がここまで頑張ってきた理由であるはずの思いを煩わしく感じていたことすらあった。

 簪は自身の思考が、簪の思い描いていた更識楯無という呪縛からあっけなく解き放たれていくのを感じた。

 そんな簪を見て、本当にうれしそうな笑顔を浮かべながら本音はしゃべり続けた。

 

「かんちゃん、大丈夫そう?」

「……うん」

 

 簪は涙を拭った。現状を嘆いていてもしょうがない。萌が立ち直って、明日に向かっているというのに、泣いている暇なんてなかった。もう完全無欠の何かと比べる必要なんてない。そう思えば、やりたいことも、やらなければならないことも、自然と見つかった。

 

「また、お姉ちゃんと話せるようになれるかな」

「きっと大丈夫だよ。楯無様は完璧じゃないんだもん。お姉ちゃんだって偶に楯無様の愚痴言うときあるし」

「例えば?」

「最近だとよくほむほむに料理作ってもらってるって自慢されてるとかー」

 

 

 

「……………………え?」

「……………………あ」

 

 

 

―・―・―・―

 学年別タッグトーナメントにおけるラウラのISの暴走、そしてその後立て続けに起こった所属不明機の襲撃により、IS学園は慌ただしい日々を送っていた。IS学園におけるVTシステムの暴走は国家間の問題であり、所属不明機の襲撃は未だにはっきりとした首謀者がつかめていないためか公になることは無かった。

 しかし、それでもあの場所に企業や政府関係者がおり、あの一部始終を目撃したことは確かであるため、あれだけの修羅場を潜り抜けて見せた焔萌という存在は、もはや性別など関係なく注目を集める存在となっていた。

 

 そして、それに応じてIS学園の職員たちもまたそれに対する問い合わせで殺人的な忙しさを味わっており、1年の事務を少なからず請け負っている真耶もまた、職員室の自分の机に飲み終えた栄養ドリンクを転がしていた。

 

「あ、織斑先生、どうでしたか?」

「ああ、とりあえずは問題なさそうだ。全く、殺されかけたというのに大したメンタルだよあいつは」

 

 そんな中、千冬は仕事の合間を縫って、入院中の萌の見舞いに行っていた。亡国機業のものと思われる所属不明機の襲撃により、重傷を負った萌は現在、IS学園外部の病院に入院していた。流石の日本政府も貴重な男子操縦者を世界各国の企業や政府関係者の前で危険に晒してしまったという事もあってか、今現在の萌は文字通り蟻一匹通れないような警備の下で入院生活を送っていた。

 

 しかし、肝心の萌がどうかと言えば、少なくとも千冬から見た限りではいっそ不気味なほどに変わっていなかった。病院に搬送された時こそ出血が激しく、それこそ命すら危ぶまれた状態だったが、一度そこから回復したら、これまでと何も変わらない萌になっていた。いささか不自然ではあったが、精神科医の検査でも、PTSDなどの兆候は見られないとのことだったため、とりあえずは危機は脱したと言ってもいいのだろう。

 

 そんな萌が入院生活を送っている裏で、シャルル・デュノア改めシャルロット・デュノアがかなり強引ではあるもののVT戦とアラクネ戦での功績を盾にすることで、『デュノア社が独自に亡国機業の情報を掴んだため、男性操縦者二名に護衛という形で送り込んだ』という声明をデュノア社に発表させ、シャルロット・デュノアとして再入学したり、ドイツがVTシステムを同日に襲撃した亡国機業のせいにしたりと、色々と世界を揺るがしかねない発表が起こっていた。

 

「焔君、これからどうなるんでしょうか……実際、もう話は来ているそうですし」

 

 しかし、真耶の口調は暗かった。それも無理のない事だろうと千冬は考える。

 男性操縦者というのはそれだけで価値があることは言うまでもないだろう。もし萌や一夏だけが男性であるにも関わらずISを操縦できるメカニズムを解明することができれば、それは間違いなく現在の社会を根底から覆す大発見となるからだ。だからこそ、男子操縦者の周りでトラブルが絶えない今でもなお、一夏や萌のデータを求める声が止まないのだから。

 

 しかし、萌は男子云々以前に操縦者としても優秀になりすぎたのだ。今現在は全世界で開発が禁止されているものの、その有用性自体は認めざるを得ないVTシステムを撃破し、その後エネルギー補給のないまま所属不明機の攻撃を救援部隊が到着するまでの間ほぼ被弾することなく耐え忍ぶ。これができる代表候補生が、果たして何人いるだろうか。

 ただでさえ男子操縦者であるという希少性に加え、高いIS適性と代表候補生すらもしのぐほどの操縦技術。これほど手に入れたい人材は中々ないだろう。

 

「まぁ、本人が望んだとしても、そう簡単にはなれないだろう。女子が代表候補生になるのとはわけが違うからな」

 

 しかし、その点は、千冬はそこまで重く見てはいなかった。理由として挙げられるのは、例え萌が日本の代表候補生になろうとしても、日本側がそれを許しはしないだろうからだ。

 今現在の段階で、もし萌が日本の代表候補生になったとしたら、それは日本が男子操縦者の情報を独占しようとしていると取られかねない。ただでさえ篠ノ之束という爆弾を抱えている以上、これ以上厄介事を呼び込むのは日本政府としても本意ではないだろう。

 

「むしろ、気を払うべきは……」

「? ……織斑先生?」

「いや、何でもない」

 

 千冬が眉を顰める。確かに、そこ自体は問題ではないかもしれない。しかし、そもそも萌が活躍していることそのものが気に食わないという連中もいるだろう。もともと男尊女卑と言われながらも事実上は女尊男卑だった社会がISの台頭と共に一気に女尊男卑の風潮が広まってしまったという歪な社会だ。

 それこそ、萌のような存在が活躍してしまうだけで覆されかねない世界で、その世界にすがって生きてきた者もいるのだから。

 

 

 

―・―・―・―

 

「萌、お前を私の嫁にする」

 

 萌が退院し、IS学園に登校して来た日の朝。その事件は起こった。HR開始前に突如として4組にやってきたラウラが堂々とした足取りで萌の席までやってきたかと思えば、呆然としていた萌と突然口づけを交わし、そんな爆弾発言が放られた。

 

 クラス内が一瞬の静寂に包まれた後、各所から悲鳴が鳴り響いた。

 

「ええええ!!?」

「どういうこと!? いや本気でどういう事!?」

「ちょっと待って、この子息してない!!」

「衛生兵!! 衛生へーい!!」

 

 クラス内は正しく蜂の巣をつついたような大騒ぎとなった。ある者は泡を吹いて倒れ、ある者は右へ左へと意味もなく駆け回り、この状況を収拾できるのは織斑千冬ぐらいではないのだろうかとすら思われた。しかし、次第にクラス内の喧騒は収束していき、クラス内の大部分の視線が萌の隣の席であり、萌と特に仲がいい簪へと向けられた。

 

「…………へ?」

 

 当の簪は、現実を認識できていなかった。というより、思考が完全に止まっていた。

 

「えっと、ラウラさん。どういうことか説明してもらっていい?」

「む、日本では気に入った相手の事を「俺の嫁」と呼ぶのだろう?」

「うん、それ多分違う意味だから」

 

 呆然とする簪をよそに、萌は驚きこそしたもののほかの女子生徒よりは落ち着いた様子でラウラに対してそれが本来どういった意味でつかわれるのかを説明していた。

 いやどんなメンタルだよと思う女子生徒をよそに、萌がそれの説明を終えるとラウラは納得したように1つ頷いた。

 

「なるほど、つまり俺の嫁にするとは本来結婚どころか交際すらできない創作物内の登場人物に対して使うのが一般的な言葉なのだな」

「まぁ、大雑把に言えばそうなるね」

「ふむ、それでは萌。改めて言わせてもらおう」

 

 そういってラウラが思考を巡らせるために目を閉じた。周りの生徒がそれを聞き逃すまいと呼吸すらも潜める中、ラウラと萌が見つめ合ってから永遠とすら思える重苦しい数秒が流れた。

 その数秒の間に、萌に伝えるべき言葉を脳内で編み上げていたラウラの顔は加速度的に赤くなっていき、

 

「す、少し考えさせてくれ!!」

 

 かなりの大声でそういったのち、凄まじい速度で駆け出したかと思えば4組の教室を出て行ってしまった。

 あとに残されたのは、呆然とする萌と、4組の生徒達だけだった。

 

 それは、告白された側のセリフではないのだろうか。

 

 誰もがそう思った。

 

 

 

「…………へ?」

 

 なお、この間簪の思考は止まったままだった。

 

 

 

―・―・―・―

 

「萌くん、簪ちゃんに買い物に誘われたそうじゃない」

「……だから何ですか」

 

 その日の夜、例の如く夕飯をたかりにやってきた楯無と一緒に夕食を取っている最中に、そんなことが話題に上がった。明らかにげんなりとした様子の萌に対し、楯無はしゃべり続けた。

 

「とりあえず、日時と行く場所教えてもらえないかしら。真面目に今の萌くんって何されるか分かったもんじゃないから警備をつけときたいのよ」

 

 しかし、一転して真面目な表情になった楯無に対しても、萌は特に表情を変えることはなかった。一時は死にかけて、若干ではあるが精神が不安定にもなったというのに今となってはその欠片すらも見せない萌に対して楯無は何も思わないわけではなかったが、そんな楯無の思考など知る由もない萌はしゃべり始めた。

 

「分かりました。っていう事は先輩も来るんですか?」

「あーっと…………」

 

 質問を変えたとたんに楯無は言葉に詰まってしまった。確かに、今現在の萌に必要なのは精神的な休養だ。それがこれだというのならば楯無としてもやってほしくはある。

しかし、今の萌は非常に危険な状況にある。本当の事を言うならば、こんな時に買い物など行くべきではない。よしんば行くとしても、楯無のような即座に対応できる護衛が必要だろう。楯無がついていくのはある種当然のはずだ。

 

「……ひょっとして、まだ簪さんと仲直りしてないんですか?」

「…………まぁね」

 

 軽くジト目で楯無を見つめる萌だったが、楯無は気まずそうに顔を背けるばかりだった。萌はため息をついた後に楯無の肩を掴んでむりやり萌の方を向かせた。

 

「じゃあ、いい機会ですし、一緒に行きましょう」

「……え?」

 

 楯無は久しぶりに、完全に素の声を上げた。

 

 

―・―・―・―

 

「お、おはよう、簪ちゃん……」

「…………はい」

 

 その日、IS学園のターミナル前に待ち合わせ時間よりも1時間早くやってきた楯無がベンチに座ってどこかそわそわしながら待っていると、待ち合わせ時間よりも30分早くやってきた簪と鉢合わせてしまった。楯無は妹の前で少しでもいい恰好をしようと(事前に萌に簪が委縮するから気合を入れすぎないようにと言われたにもかかわらず)水色を基調としたそれなりに気合の入った私服で、簪は対照的に赤を基調とした、こちらもまたかなり気合の入った私服で来ていた。

 事前に楯無が来ることは知らされていた簪は、こうなることは分かっていたのか、それ以上端に座るのは不可能というレベルでベンチの端に座った。そしてあらかじめかぶっていたかなりサイズの大きめなキャスケットをさらに目深にかぶり、徐にポケットから取り出した携帯端末に視線を落としこんでしまった。

 

(……ここまで拒絶されると、いっそやりやすいかも)

 

 予想通り、いや、それ以上に警戒心むき出しの簪の様子はハリネズミを彷彿とさせるような可愛げのあるものであったためか、楯無の緊張は幾分か和らいだ。

 

「……お姉ちゃん」

「なにかしら?」

 

 簪が何の躊躇もなくお姉ちゃんと呼んでくれていることももちろんだが、自分がしっかり妹と会話できているというその事実に楯無が内心でガッツポーズをしていると、

 

「……毎晩萌の部屋に入り浸ってご飯作ってもらってるって本当?」

「んごふ」

 

 簪の口から突然飛び出した爆弾発言により、楯無の口から生徒会長とか姉とか以前に女として終わっている奇声が飛び出した。

 

「だ、誰が言ってたのかしら……?」

「虚さんに事あるごとにさりげなく自慢してるって、本音が言ってた」

「あー…………」

 

 他人にした行いとは自分に返ってくるとはよく言ったものだ。楯無は今現在その言葉を最初に言った者に2秒くらい敬意を払った後に持ち前の優秀な頭脳でどうすればこの場を上手い事切り抜けられるか思考を巡らせた。

 

「え、えっとね、違うのよ簪ちゃん。別にそんな深い事情があったわけじゃなくて、私が萌くんにISの事色々教える代わりにその授業料代わりに私が忙しい時に代わりに夕飯作ってもらってるってだけでね、それで私が最近ちょっと毎日忙しかったってだけで」

「……重要なのそこじゃないんだけど」

「…………」

 

 しかし、楯無は、こと簪の事となれば、良かれと思ってとった行動の悉くが地雷を踏み当て、裏目に出る女だった。

 

「え、えっと、その、ね、うん、違くて、あの、本当にそういう気があるんじゃなくて……えっと」

「……もういいよ」

 

 ああ、終わった。楯無が自分の身体の体温が急激に下がっていくのを感じていると、

 

 

 楯無の肩に、何か温かい感触があった。何事かと思い楯無がそちらへ視線を向けると、簪が楯無の肩に頭を置いていた。その顔に穏やかな笑みを浮かべながら、楯無を見つめる簪が言葉を紡ぎだす。

 

「お姉ちゃんと萌の病室で居合わせた日の夜、本音に言われて気付いたの。私、自分をお姉ちゃんじゃない誰かと比べてたんだと思う。何でもできて、欠点なんて1つもない、そんなヒーローみたいな誰かを」

「何、を」

「けど、萌と一緒にいて、早く萌を支えられるようにって頑張ってて、思ったの。きっと、それはお姉ちゃんを超えようとしてるんじゃなくて、お姉ちゃんの前で胸を張れる自分でありたかっただけなんだって」

「それは……」

「お姉ちゃんのせいじゃないよ。きっと、私が弱い私を認められなかったのが。始まりだと思うから」

 

 簪は、1つ深呼吸をした後に言葉を紡ぎだした。

 

「ごめんね、お姉ちゃん。こんな、妹で。お姉ちゃんは、いつだって私の事を大切に思っていてくれていたのに」

「……そんな、こと」

 

 気が付けば、楯無の瞳からは涙がこぼれていた。そして、堰を切ったかのように口から言葉が放たれていった。

 

「私、ずっと簪ちゃんの事、危険から遠ざけようって、そればっかりで。簪ちゃんが嫌がっているのに、それでもやめられなくて」

「うん、知ってる」

「簪ちゃんの前では、かっこいいお姉ちゃんでいようって頑張って、けど、それが簪ちゃんを苦しめているって知っても、がっかりされるのが怖くてやめられなくて」

「うん、知ってる」

 

 それは簡単な気づきの話だったのかもしれない。大切に思うからこそ、愛おしく思うからこそ、互いがそう思っているからこそ生まれてしまった心のすれ違いが、そうなった張本人の知らない場所で、静かに起こっていた。

 

「簪ちゃんと仲良くしてくれてる萌くんに、苦労かけてるってわかってて、甘えちゃうような、駄目なお姉ちゃんで、ごめんなさい……! 本当に、ごめんなさい……!」

 

「……待ってそれは聞いてない」

「えっ」

 

 とはいえ、2人が離れてきた間の時間というのは1日や2日で埋まるものではないのだろう。

 

 

 

 

 

「ごめん、ご飯食べてたら遅くなっちゃった……どうしたの簪さん、先輩も」

「……何でもないわ」

「……行こ、萌」

 

 そして、開始前に体力の8割を持っていかれた更識姉妹と共に、萌の休日は始まった。

 

 

―・―・―・―

 

 その日、ラウラは萌の入院中にルームメイトとなったシャルロットと共にIS学園のターミナルにあるショッピングモールに買い物に来ていた。任務の関係上もともと男用の私服しか持って来ていなかったシャルロットと、そもそも私服を持っていなかったラウラがせっかくだからと一緒に買い物に行くことになったのだ。

 因みにラウラは学生服で行くつもりだったが、毎晩の定例となったクラリッサとの会議『どうすれば臆することなく好意を伝えられるか会』にて私服どころかコスメもほとんど持っていないラウラに対してクラリッサが(少なくともラウラは初めて見る)マジギレを見せたため、既に購買で適当にシャルロットに見繕ってもらった服を着ていた。

 

 しかし、当初の目的は何処へやら、今現在の二人の顔つきは完全に標的を狙う暗殺者のそれになっていた。

 2人が柱に身を隠しながら観察しているのは、臨海学校の一日目で海遊びがあるものの、萌の胴体には先日の無人機襲撃の際に負った痛々しい傷跡が残っているため、それを隠すための上着を見繕う何故か萌と一緒の楯無と簪の姿だった。萌と一緒に、見繕っていた。萌と、一緒に、見繕っていた。

 

「…………」

「…………」

「……何やってんのよあんた達」

 

 そんなラウラとシャルロットに呆れた表情で声をかけたのは、一夏に買い物に付き合ってくれと頼まれたからとウキウキでやってきたら案の定箒とセシリアも一緒でそれに対してぐちぐち言っていたら横から現れた千冬に一夏をかっさらわれた鈴だった。

 

「む、鈴か。見ればわかるだろう。尾行だ」

「尾行? ……ああ、萌たちね」

 

 鈴が何事かと思い、ラウラたちの視線の先へと視線を向け、納得したような表情を浮かべた。

 

「……いや、気になるんだったら話しかければいいじゃない」

「できるわけがないだろう。現在の私の装備は万全ではない。装備に不備がある状態で戦場に向かうなど愚か者のすることだ」

「それに、相手方の戦力の調査も行き届いていない。むやみに手を出して手痛い反撃を喰らったら笑い話にもならないよ」

「あー……うん」

 

 本気で言っているのかふざけて言っているのか絶妙に判断しづらい2人の様子を見て、鈴は再び呆れた表情を浮かべた。若干面倒くさくなってきたのか適当な返事を返したが、即座に何かを思いついた彼女は2人に問いかけた。

 

「それで、その万全の装備を買い揃えることはできたの?」

「それは、まだだが……」

「だったら先にそっち買いに行きましょうよ。アタシがあんたに似合う水着やらなんやら選んであげるわ。その戦力分析は、帰ってからでも十分できるでしょう? っていうか勢いで箒とかセシリアと離れたはいいけどここまで来てボッチで買い物ってなんか負けた気がするから付き合いなさい!」

「後半部分が本音だよね?」

 

 そうしている間に、萌たちは別のコーナーへと行ってしまったのか、既にそこにはいなかったため、ラウラとシャルロットはそのまま鈴に引きずられるままに近くの水着売り場へと突入した。

 

 その日のショッピングモールは各国の代表候補生やあの元世界最強、さらには世界に2人しかいない男性操縦者などがいるという事もあってか普段よりも騒がしかったものの、いつも通りの様相を呈していた。

 

 

 

 一発の銃声が、モール内に響き渡るまでは。

 

 

 




あれだけ読者待たせておいて上げて落とすという部分の上げてだけで9000字書く作者がいるらしい。
感想は少しずつではありますが全部返すつもりです。
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