【完結】IS 亡国機業殲滅ルートRTA 男子チャート   作:sugar 9

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こういう感じで進みますよっていうチュートリアル的な。


裏語 1

 自殺志願者に会ったことはないが、目の前の存在こそがそれなのだろう。

 

 織斑千冬が焔萌という少年と会って初めて思ったことはそれだった。千冬の弟、織斑一夏がISに適合するのを待っていたかのように続け様に現れた男性のIS適合者。焔萌。生まれも育ちも極々普通の織斑一夏と同い年の少年。体格は一夏よりも一回り小さく、その顔立ちは女子だと言われても普通に信じてしまうほどに中性的で整っている。

 

 そんな彼は今、軽度の軟禁状態にあった。

 

 世界初のIS男性操縦者である織斑一夏に対して、世間の反応は様々だった。何しろ、いくら既存の軍事兵器の性能を遥かに凌駕しているとはいえ、数も汎用性も既存の軍事兵器とは比べ物にならない程低いはずのISを足掛かりに女尊男卑の風潮が広まってしまった世界だ。一部の軍事関連の有識者は歓迎の意を示しているものの、この10年間で大きく顔ぶれが変わった企業の上役からの圧力によりメディアはあの手この手を尽くして否定的な論調を呈していた。特にこの女尊男卑社会の立役者となっていた女性たちの反応は無様を通り越して滑稽とすら言えた。

 

 例外など何の参考にもならない。

 操縦技術も何もない男子がたまたまISに乗れただけで一体何だというのか。

 海外から何を言われるかわからないから個人情報を全て公開しろ。

 

 そんな世論の中で普通に生きてきた萌にとって、自分がISに適合したというのは恐怖以外の何物でもないだろう。今までメディアが男性操縦者へと向けていた矛先が、こちらにも向かってくるかもしれないという事だからだ。

 そうでなくても、連日の多方面からの検査によるストレスに加え、先程言い渡されたIS学園への入学。それによって彼は非常に難しい受験を経ていこうとしていた高校への道まで閉ざされてしまったのだ。

 

「す、すみません。せっかく織斑先生が無理言って休憩をとってくれたのに」

「お前は何も悪くないさ。相手がただの15歳だという事を忘れている馬鹿共には私からきつく言っておいてやる」

 

 資料にあった小学校や中学校での評価では明るく優しい絵にかいたような優等生という評判だった萌だが、千冬と会った時には既にこれになっていた。

 本来ならば快活な笑顔が似合うであろうその整った顔立ちには少なくとも千冬が覚えている限りでは笑顔が浮かんだことはなく憔悴しており、地毛なのか染めているのか判断しづらい暗い茶髪は何とはなしに写真で見た時よりも状態が悪くなっているように感じる。

 

 早い話が冒頭に言った自殺志願者のそれだ。

 

 というのも、本来なら一夏と異なり二人目の男性操縦者が現れたという事は入念な準備の後に世間に発表する予定だったのが何らかの要因で焔萌の個人情報と共にリークされてしまったのだ。恐らくはIS委員会内の女尊男卑の風潮を肯定する派閥によるものだろうが、そのせいで萌は家族とは連絡すら取れない状態になった。確たる証拠も残されていなかったため千冬が頭を抱えたのは記憶に新しい。

 

「……俺、これからどうなるんですかね」

「どうもさせん。が、高校に関してはすまない、諦めてくれ。IS学園ならば法的にも物理的にも隔離されているから容易いが、本土でお前を守り切ることは難しいだろう」

 

 千冬が言ったことは本当の事と嘘が半々だった。既に一部の学者は焔萌のDNAや体細胞のサンプルをひっきりなしにIS委員会に要求している。名目上では男性のIS搭乗の為の研究などと言っているが、一度許してしまえばこの手の要求はどんどんエスカレートしていくのは目に見えている。あくまで一般人でしかない萌が学園内で何らかの失態を犯した場合、それを口実に彼を企業所属の操縦者にするという名目で実験動物にしようとする者もあらわれるだろう。

 こういった災難が一夏に降りかからなかったのは、織斑千冬という強力な後ろ盾があったからだ。ISの世界大会、モンド・グロッソの初代優勝者であり、ISの開発者、篠ノ之束とも親しい仲である彼女のIS業界における発言力は非常に大きく、そんな彼女の逆鱗に触れるような愚か者はこの世界にはいなかった。

 

 しかし、焔萌はあくまでついこの間までは優れた容姿以外は特に特筆すべきところもない普通の人間だったのだ。ISに対する知識など一般人程度しか持たず、家庭も何の変哲もない普通のそれだった萌が頼れる盾は何もない。そのことを本人も、ISに適合してからこれまでの間に嫌というほどに理解させられたのだろう。

 

「悪いが時間だ。行くぞ焔」

「はい……」

 

 ゆったりと立ち上がる焔。その足取りは非常に重いものだった。

 

―・―・―・―

 

「今日もやっているのか……」

「はい……」

 

 千冬が焔の監視を担当している職員に尋ねると、職員はどこか悲し気な表情で萌の様子を映しているパソコンの画面へと視線を戻した。

 そこに映っていたのは、萌が保護の名目で隔離されている施設の中庭でランニングをしている萌の姿だった。お世辞にもそれほど広いとは言えない中庭を、先程から何十周もだ。しかも、明らかに恣意的にペースを乱高下させることにより、体への負担を増やしている。

 隔離施設とはいっても、萌が何かを強いられるという事はない。強いて言うならばメディカルチェックを定期的に受けることくらいだ。しかし、IS委員会側としては本人が望むものは可能な限り取り寄せ、できる限りの待遇を用意したにもかかわらず、萌がそれらに興味を向けることは殆ど無かった。

 そしてその代わりに、萌はひたすらに己を苛め抜いていた。トレーニングとしてはあの世界最強から見てもやりすぎだと分かるトレーニング。施設に隔離されてからというもの、萌はそんな訓練に文字通り一歩も動けなくなるまで没頭し続け、職員の手助けを借りながら自室に戻ってからはベッドに横たわりながら、IS学園の参考書に没頭する。すでに、新品の状態で渡したはずの参考書はIS学園の受験生が使い込んだものだと言われても納得できるほどにボロボロになっていた。

 

 当然、千冬とて最初は咎めた。過度なトレーニングは身体にとって害でしかない。最悪命の危険にすら関わる。

 しかし、止められなかった。止められるわけがなかった。

 

「すみません……なんていうか、死ぬほど備えないと、不安で死にそうなんですよ」

 

 言い方は悪いが、咎めた千冬に対してそう答えた萌の眼は人間のそれではなかった。まるでどこまで続いているのかわからない穴を覗き込んだかのような感覚を味わった千冬は、今の萌を止めようものなら自殺すらいとわないだろうという確信に近い何かを抱いた。

 

 幸いというべきか。彼のトレーニングは不気味なほどに上手く進んでいた。メディカルチェックを担当していた医者も不思議そうに首を傾げるばかりだった。曰く、「機械でもなければここまで正確に超再生を問題なく行えるギリギリのレベルまで身体を追い詰めることなんてできない」とのことだった。そのことに何の疑問も抱かなかったわけではない。しかし、それでも止められない程にその時の萌は危うかった。

 

 凄まじかったのはトレーニングだけではなかった。勉学の方も凄まじく、試しにIS学園で1年が受験するISの知識面に関するテストを受けさせてみたところ、全問正解だったのだ。IS学園は世界中からIS操縦者を志す女子たちが何しろ何千倍という世界トップの倍率を潜り抜けてやってくる学園だ。当然、そこで行われるテストも相当なレベルのものとなる。確かに、座学の面でも優秀な生徒ならば満点を取るのは決して難しくはない。

 しかし、何をどう間違えても数週間前まではISに関しては素人同然だった少年が参考書片手に勉強したところで満点をとれるような難易度ではないはずだった。

 

「……人間って死ぬ気になれば割と何でもできるんですね」

「本当の意味で死ぬ気になればな」

 

 千冬はその場を後にした。彼女には彼女にしかできないことがある。例え短い付き合いだったとしても、自分がどんな危険な状態にいるかを知り、それでも生きようと必死に努力している者を見捨てられるほど千冬は冷徹ではなかった。

 

 そして、そんな綺麗事を貫き通せるだけの強さを彼女は併せ持っていた。

 

―・―・―・―

 

 少女は、必死という言葉が似合う様子で訓練に打ち込む萌の映像を興味深そうに眺めていた。既に職員の殆どが仕事を終わらせここにはいないからか、いくらか照明も落とされている薄暗い室内においても、彼女の明るい水色の髪は、彼女の好奇心を示すかのように照り返していた。

 そしてそんな彼女のそばには不機嫌を隠そうともしていない千冬の姿もあった。

 

「へー、彼が……」

「お前が知らんわけがないだろう。つまらん茶番に付き合う気はないぞ」

「じょ、冗談ですって……」

 

 若干苛ついた素振りを見せる千冬に対して、水色の髪と整った容姿が印象に残る少女。更識楯無は苦笑いを浮かべながら千冬をなだめた。

 楯無はこのIS学園の生徒会長だ。この学園において生徒会長とはそれ即ち学園最強の意であり、それだけでも彼女の将来は確約されていると言っても過言ではなかった。

 しかし、彼女が持つ肩書はそれだけではなかった。現ロシア国家代表、そして世間で表立っては言えないことを行う暗部の為に作られた対暗部用暗部「更識家」の十七代目当主である彼女は、ある意味では千冬よりもこの問題を打開することができる人材であると言えた。

 

「で、私にどうしろっていうんですか? 一応私はロシアの国家代表なんですよ?」

「悪いが私が頼りにしているのは「更識」のお前だ。ロシアの国家代表更識楯無ではない」

「……なるほど」

 

 実のところを言うならば、楯無は目の前の女性が苦手だった。人間としては嫌いではない。むしろ千冬のような腹芸ができないタイプの女性は更識楯無個人としては好感を持てる人物だった。

 しかし、更識の人間としては織斑千冬は苦手だった。

 彼女、織斑千冬は強かった。何の脚色もなく、比喩でもなく、世界で最も強かった。そしてその強さと、世界で唯一ISの開発者の篠ノ之束と親密な関係にあるという細くも強力すぎる人脈は、道理を無理でこじ開けるだけの力を彼女に与えてしまった。

 確かに楯無にも似たようなことはできないわけではない。しかし彼女が幾重にも伏線を張り巡らせたうえでそれを成すのに対して、千冬はそれら総てを力尽くで成し遂げる。

 

 だから彼女は織斑千冬が苦手だった。こちらが何をしたとしても真っ正面から踏破していく彼女のやり方が苦手だった。

 

「言いたいことは分かりましたけど、事実どうするんですか? 私には彼を織斑一夏君みたいに守るなんて無理ですよ?」

「そこまでしなくていい。焔の周囲を企業が嗅ぎまわっていたら私に知らせてくれ」

「……まぁ、それくらいならやりますけど」

 

 これを千冬に対する貸しにするという選択肢が一瞬浮かんだがすぐに霧散した。目の前の女性に対して腹事の類を仕掛けて反感を持たれたらそれこそ終わりだからだ。

 

 用は済んだのかIS学園の職員室を後にした千冬を見送ってから、楯無は集めさせていた焔萌に関する資料に目を通し始めた。

 

「焔萌くん、か……」

 

 楯無のその呟きを聞いている者は誰一人としていなかった。

 

 

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