【完結】IS 亡国機業殲滅ルートRTA 男子チャート   作:sugar 9

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裏語 14

「……萌、大丈夫?」

「うん、心配してくれてありがとね、簪さん」

 

 すでに装備の調整は終えているのか、ISを装着して指示を待っている萌に対し、装備の最終確認をしている簪が心配そうな表情で問いかけた。真剣な表情で打鉄・雷火の状態を確認していた萌は笑みを浮かべながらそういった。その笑みは、良くも悪くもいつも通りの笑みだ。

 

「今回は私も、他の皆もいる。だから」

「わかってるよ。俺だって死にたいわけじゃないからね」

 

 口ではそう言っているが、簪はあまりその言葉を信じることはできなかった。勿論萌も自分から危険へと向かっていくつもりがないことは分かっている。しかし、それでも萌は目の前で誰かが危険に陥っていたならば、そうはならないだろう。

 

『もう、そんなに入れ込んでたらできることも出来なくなっちゃうわよ?』

「お姉ちゃん……?」

 

 胸の中で渦巻く不安をどうにかしようと簪が四苦八苦していると、突然楯無からの通信が入ってきた。簪は唐突な事に対して困惑の表情を浮かべるが、楯無は構うことなくしゃべり始めた。

 

『萌くんが作戦に参加するんでしょう? 私も護衛の名目で手を貸すわ』

「……いいの?」

『簪ちゃん、良い事を教えてあげる。世の中のルールはね、頭良い人が都合のいいように捻じ曲げられるように作られてるのよ』

 

 あまり誇って言うべきではないような気がするそれを、ニヒルな笑みと共に言ってのける楯無が面白かったのか、簪はついほんの少しだけ笑った。それを見た楯無は、安心したかのように優し気な笑顔を浮かべた。

 

『安心なさい。簪ちゃんは、とても強いわ』

「っ……うん」

 

 楯無のその言葉に、簪はゆっくりと、しかし力強くうなずいた。

 

 

 

―・―・―・―

 

『箒ちゃーん、調子はどうかな?』

「……良好です」

『もー、もっと砕けた感じで話そうよ、姉妹だよ?』

「……全部終わった後でゆっくり話しましょう」

『わーいりょうかーい』

 

 箒は、銀の福音襲撃作戦の作戦開始時間までのわずかな時間ではあったが、宿泊施設周辺の海岸を飛び回りながら、紅椿の高すぎる性能に慣れようと努力していた。

 その間、ちょくちょく入ってくる姉からのやたら神経を逆なでする通信に眉を顰めながらも、箒は一つ一つの動作を確認するかのように紅椿に全神経を注いでいた。

 

『それで、本当に大丈夫ー? 流石の束さんでも、いや、束さんだからこそ他人の気持ちなんて理解できるわけないから箒ちゃんの感想って本当に重要なんだよねー』

「……本当に大丈夫ですから」

『そっか、ならいいんだ』

 

 束によって与えられた専用機、紅椿。現在、世界各国でどうにか試験機を稼働させる段階にたどり着いている第3世代機のさらに先を行く、現時点では世界唯一の第4世代型IS。拡張領域などと言ったこれまでのISに必須だった要素を排除し、展開されている装備のみで全ての状況に対応することを目的とした、真の意味での汎用機。

 

 紅椿のスペックはそのどれもがその項目に特化させた機体を凌駕するほどの性能であり、ISの操縦に長けているとは言い難い箒では動かすことだけで精いっぱいのはずだった。

 しかし、箒はその高すぎる性能のISを、まるで手足のように動かせていた。原因は考えるまでもない。紅椿は、その全てを篠ノ之束が、真の意味で篠ノ之箒の為に作ったISだからだ。その操作性は、極限にまで篠ノ之箒が操作しやすいように洗練されており、箒が直感的に指示を飛ばすだけで、紅椿は正しく思うがままに動かすことができた。

 

 

 そしてそれが、今回の作戦において経験値が少しも足りていないはずの箒が同じく他の操縦者と比べると経験値という面では大きく劣る一夏と共に作戦の主軸に選ばれた要因でもあった。

 

 

 暴走状態にあるシルヴァリオ・ゴスペルは現在も超音速で飛行を続けており、しかもその性能はアメリカとイスラエルが共同開発している虎の子と言う事もあってか、非常に高いスペックを誇っており、それに加えて広範囲殲滅に適した武装も搭載されているとのことだった。

 

 そこで、IS学園側が出した作戦は、シルヴァリオ・ゴスペルがやってくる海域で待ち構え、超音速下での戦闘に最も適している紅椿と、一撃必殺の威力を誇る零落白夜を持つ白式による奇襲攻撃だった。

 

 もちろん、箒と一夏が迷わなかったかといえば嘘になる。一夏にしろ、箒にしろ、いくら適任であるとはいえ経験が不足しすぎている。一度失敗すればそこまでな作戦に即座に応じるというのは酷な話だろう。

 

『箒、大丈夫か?』

「っ……一夏か、何の用だ」

 

 再び通信が入り、また束かと一瞬身構えた箒だが、相手を確認したとたんに安心すると同時に何故か恥ずかしくなった箒はややぶっきらぼうに答えた。

 一夏はそんな箒の心の機微に気づくはずもなく、しゃべり始めた。

 

『いや、千冬姉に様子見て来いって言われてさ』

 

 その言葉に、箒は当然であると納得すると同時に僅かながらではあるがショックも受けていた。自分は、あくまで紅椿があるからこの作戦に参加しているにすぎないのだと、自分の実力は一夏や他の者達にはまだまだ及んでいないのだという事実を突きつけられたのだから。

 

「……だったら、私の所に来なくては意味がないのではないか?」

『あ』

 

 完全に想定外とでも言わんばかりの一夏の口調に、ほんの少しではあるが笑みを漏らした箒は一夏に問いかけた。

 

「……緊張、しているな」

『ああ……みたいだな』

 

 今回の作戦において、全てが上手くいった場合、行動するのは箒と一夏のみとなり、その他の専用機持ちはシルヴァリオゴスペルの探知範囲からギリギリ外れたところでもし失敗した場合に備えて待機するということになっている。

 

 そして、その中にはまるで当然のように萌もいた。シャルロットとラウラが千冬に問いただしたところ、IS委員会からの指示により、戦闘に参加しなくても作戦エリアにはいなければならないそうだ。

 

 その時、箒も一夏も同じことを思った。きっと、自分が失敗したときにいの一番にやってくるのは萌なのだろうと。例え誰が止めたとしても、誰かが危機に陥っていれば、萌は迷うことなくやってくる。

 

『まぁ、俺たちに出来るのは失敗しない事だけだ。考えすぎずに行こうぜ』

「……そうだな」

 

 

 一夏も、箒も、これ以上萌を自分のせいで危険に巻き込むのは御免だった。

 

 

 

―・―・―・―

 

 

「どういうつもりだ、束」

「んー?」

 

 作戦開始までのほんのわずかの間、旅館から少し歩いた海岸沿いの崖に、彼女は佇んでいた。束はいつも通りの笑みを、何を考えているのかわからないにも関わらず天真爛漫という言葉がふさわしい不気味な笑みを浮かべながら振り向いた。

 

「何がー?」

「とぼけるな。萌に会ったのだろう」

「んー、会ったと言えば会ったしー、会ってないって言えば会ってないかなー」

 

 次の瞬間、束の眼前を千冬の拳が突き抜けた。束の深い紫色の髪が拳によって発生した風圧でほんの少し乱れるものの、束本人は特に動じるような様子を見せなかった。

 

「次は打ち抜く。いくら貴様であっても躱せん一撃でな」

「わーこわーい。顔はやめてねー」

 

 いつもよりも低い声で、それこそ怒りを必死にこらえている時にしか出さないような声で言う千冬に対して、束はあくまでいつも通りだった。当然だ、彼女にとってこの程度、危機でもなんでもないのだから。

 

 束はため息をついた後に再び笑みを浮かべ、謡うように言葉を紡ぎだした。

 

「まーでも会ったにしても会ってないにしても束さんからは何もしてないよ。そこは本当」

「……そうか」

 

 ほんの少し、普通の人ならば気づかないような口調の変化だが、今の束は珍しく真剣だ。それが分かっただけでも十分だと言わんばかりに千冬はその場を後にした。

 

 

 

―・―・―・―

 

「行かせるかよぉ!!」

「ちっ、箒!!」

「わかってる!!」

 

 一夏と箒による銀の福音への奇襲攻撃は、作戦エリア外から突貫してきたオータムによって阻止された。そして、シルヴァリオ・ゴスペルが高速移動をやめ、その無機質な印象を与えるバイザーでじっと一夏と箒を見据えた。

 

 しかし、一夏と箒は表情を歪めることはあっても決してそれ以上の事はしなかった。箒は一夏を乗せたまますぐさまUターンし、千冬との通信を繋いだ。

 

「織斑先生、亡国機業です! 首謀者は彼らで間違いありません!」

『わかった、すぐに専用機持ちを向かわせる。持ちこたえてくれ』

「了解しました。一夏、飛ばすぞ!」

「お、おう!!」

 

 通信を切断すると、箒は一夏を乗せたままさらに加速した。その速度は流石は現行唯一の第四世代型ISというべきか、白式というハンデがあるにもかかわらずオータムとの距離を見る見るうちに離していく。

 

「チッ!! 待てコラァ!!」

 

 シルヴァリオ・ゴスペルは逃がすまいとすぐさまオータムを追い抜き、箒たちを追いかける。オータムは苛立ちを隠そうともせずに舌打ちをし、追いながらも装甲脚から砲口を覗かせ、雑に狙いを付けながらシルヴァリオ・ゴスペル諸共乱射し始めた。

 箒と一夏の逃げ場を潰す意味合いの強いその銃撃が箒と一夏がいる場所一帯へと襲い掛かるが、

 

「まだまだぁ!!」

「はぁっ!?」

 

 そこから箒は、さらに加速してみせた。これはシルヴァリオ・ゴスペルも想定外だったのか、一瞬動きが静止し、何かを考えているかのようにバイザー越しに見える光が揺らめいた。

 

 ISだとしてもあまりに速すぎるその速度の中でも、箒の操縦精度はそれほど落ちることなく、オータムの銃弾が届くころには箒と一夏はその銃弾から遠く離れた場所を飛び回っていた。これではいくら銃撃を続けたところで何の意味もないだろう。

 

「くっ! どいつもこいつもちょこまかとぉ!!」

「一夏、絶対に私を離すなよ!」

「わかってる!」

 

 オータムが苛立ちながらも射撃の手を緩めることなく、視線で殺すのかと言わんばかりの勢いで箒と一夏を睨みつけながら、箒の速度に目を慣らし、自身も高速で移動をしながらその状況での射撃に順応していった。確かに、箒の紅椿は速い。現行のISの中では間違いなく最速と言っていいだろう。近接特化のアラクネとの相性は悪いのかもしれない。

 だが、それはこの状況が続けばの話である。

 

『La----』

「くっ!! こんな時に!」

「任せろ!」

 

 先程まで馬鹿正直に箒と一夏の後を追っていたシルヴァリオ・ゴスペルが、箒がオータムの射撃を躱すために複雑な軌道を描く飛行をしたために追いついてしまったのだ。

 シルヴァリオ・ゴスペルは歌声のような不気味な音を鳴らしながら箒と一夏へ向けて無数のエネルギー弾を放った。

 

 それらを切り払ってみせたのは、今なお箒の背に乗って飛行を続けている一夏だった。訓練により無駄を削り落としてきたその剣技は、箒と一夏に降りかかるエネルギー弾のみを切り払ってみせた。

 

 箒が若干ではあるが表情を歪める中、一夏は紅椿から飛びだし、ハイパーセンサーが無くてもはっきりと視認できる位置までやってきたシルヴァリオ・ゴスペルに向かっていった。

 

「行かせるかよ!!」

「私を忘れるなぁ!!」

 

 シルヴァリオ・ゴスペルへ向かう一夏を阻もうとしたオータムは、横から殴りこんできた紅椿によってその目論見を阻止されてしまい、結果的にアラクネ対紅椿と、シルヴァリオ・ゴスペル対白式という構図となり、戦況は膠着状態となった。

 

 

 

 

「一夏ぁ!!」

「一夏さん!!」

 

 その均衡を破ったのは、シルヴァリオ・ゴスペルの推定探知範囲外で待機していたセシリアや鈴をはじめとした救援部隊だった。いくら実戦をほとんど経験していない代表候補生といえども、その数はエリア外で待機している萌を含めて実に7機、彼女達の実力ならば、国一つ落とすことすら可能な戦力だ。

 

 とはいえ、戦況がすぐに変わることは無かった。既にシルヴァリオ・ゴスペルの探知範囲内に入っていたためか奇襲として放たれたセシリアの狙撃と鈴の衝撃砲は、どちらもあっさりと躱されてしまう。

 

「情報通り、すばしっこい奴ね!」

「情報通りならば何も問題ありませんわ!」

 

 しかし、それらはすべて想定通りの為か、セシリア達はここに来るまでに決めた分担で戦闘を開始した。

 

 いくらシルヴァリオ・ゴスペルが非常に高いスペックを誇り、オータムが並ではない経験を有しているとしても、その戦力差は決して埋められるようなものではなく、戦況は徐々に一夏達の方へと傾いていった。

 

 

「ちっ、まずいな……まだかよ」

 

 初めて、オータムの表情に焦りが浮かび始めた。オータム側には暴走状態の福音があるが、それでもオータム側の戦力の不足は否めない。このまま戦闘を続ければ、いずれオータムたちの全滅は避けられないだろう。

 

 このままいけば、まず問題なくオータムは倒すことができるだろう。緊張を緩めることこそないものの、そんなことを楯無が考えた刹那。突如真耶からの通信が楯無達に入った。

 

『皆さん! 焔君の方に、もう一機ISが!!』

「何ですって!?」

 

 楯無達の間に動揺が走った。

 

『戦闘しながらそちらへ向かいます! こちらへの救援部隊は不要です!!』

『馬鹿を言うな!! 楯無、簪、救援に向かえ!!』

「「了解!!」」

 

 しかし、それ以上の事は起こらなかった。すぐに表情から動揺が消え去った楯無と簪は、戦線から離脱し、一目散に萌がいる方角へと飛び去って行った。そして、残された者達もまた、それ以上何か言う事もなく、戦闘へと戻った。

 

「ふぅ、ならこっちもずらかるとするかねぇ!!」

「貴様、何を!?」

 

 オータムも安堵からかため息を1つついた後に、シルヴァリオ・ゴスペルへと接近すると、その背中に手のひらサイズの円形の機器を叩きつけるかのように接続した。その機器がシルヴァリオ・ゴスペルに接触すると同時に、機器から複数のコードが伸び、まるでシルヴァリオ・ゴスペルを侵食しようとするかのようにその四肢に絡みついた。

 

『――――』

「何、だ……これ!?」

 

 シルヴァリオ・ゴスペルがまるで苦しんでいるかのような挙動を取った後、シルヴァリオゴスペルのバイザーがそれまでの白い光とは異なる赤い光を放ち、一目散に一夏へ向けて襲い掛かった。新たに背中から展開されたエネルギーによって構成された翼を一夏へと叩きつけようとするが、一夏は雪片弐型をとっさに構えたことでどうにか防いでみせた。

 

「貴様、行かせるとでも――」

「ラウラ! 危ない!」

「ぐっ、この……!」

 

 その隙をついて撤退しようとするオータムをラウラは見逃さなかったが、オータムを追いかけようとした瞬間に、シルヴァリオ・ゴスペルの標的がラウラへと移り変わった。無数のエネルギー弾がラウラへと襲い掛かるが、ラウラはそれをAICで受け止め、カウンターでレールカノンを放つが、それはあっさりと躱されてしまった。

 

 再び標的が一夏へと移り、戦闘が激化していく中、一夏がシャルロットとラウラに通信を繋いだ。

 

「シャルロット、ラウラ! 萌を助けに行ってくれ!」

「一夏!?」

「何を言っているんだ貴様!」

 

 一夏からの提案に、シャルロットとラウラは驚愕した。当然それは、箒や鈴、セシリアも例外ではなく、半ば罵声と化した各員からの通信に若干顔をしかめた一夏は気を取り直してしゃべり始めた。

 

「この襲撃の目的は間違いなく萌だ。だったらもっと萌の方に戦力を割くべきだろ」

「けど……!」

「わかってる。俺の言う事なんて、萌と比べたら薄っぺらいってことはわかってる。けど、お前達に萌を守ってほしいんだ」

 

 一夏に続いて、箒がしゃべり始めた。

 

「私もその意見に賛成だ。今の福音は確かに出力こそ馬鹿げているが、暴走の影響で動きは輪をかけて単調になっている。時間を稼ぐのは容易だ。ならばむしろより早く解決するべきは萌の方だ。違うか?」

「それは……」

 

 シャルロットが言いよどむ中、畳みかけるかのように鈴とセシリアが衝撃砲とBT兵器でシルヴァリオ・ゴスペルを牽制しながらしゃべり始めた。

 

「いいから行きなさいって言ってんのよ! 惚れた男のピンチに指くわえて見てるような奴と友達になった覚えはないわよ!」

「恋愛と戦争では手段は選ばないもの、ですわ!」

 

 戦闘を続行しながらも、半ば唖然としているシャルロットに、ラウラが話しかけた。

 

「……行くぞ、シャルロット」

「ラウラ……けど」

「あいつらなら勝たんまでも死にはしないさ。萌に比べれば余程な」

「……そう、だね」

 

 結論を出したシャルロットとラウラは楯無と簪が向かった方向へと飛び去って行った。

 

 

 

―・―・―・―

 

 

「貴様が、焔萌か」

「……だったら何ですか」

 

 作戦エリア内ギリギリの場所で、両者は向かい合っていた。互いにその表情に覇気や激情といったようなものはうかがえず、悪い言い方をしてしまえばどちらもこの戦闘をどうでもいいと思っているようにすら思われた。

 

「どうにも、雇い主が貴様に随分とご執心のようでな。死んでもらえると助かるんだが、どうだ?」

「申し訳ありませんが、あなた方みたいな人の為に死にたくありません」

 

 言葉を少しだけ交わした後に、両者は同時に動き始めた。マドカのIS、サイレント・ゼフィルスのBT兵器によるレーザーが萌へと襲い掛かるが、それらをとっさに展開した赤城を放った反動で躱してみせた。

 

「なるほど、どうやらオータムの話もあながち言い訳の為の嘘という訳ではなさそうだ、なっ!!」

「っ……」

 

 その後のBT兵器による雨を彷彿とさせるようなレーザー射撃の連続も、綴雷電のロケットエンジンを噴射させたことで得た速度で回避してみせた萌を見たマドカは、ほんの少し笑みを浮かべながら、レーザー射撃の密度をさらに上げてみせた。

 

 こうなってしまうと萌はろくな反撃ができない。何とか火器を展開して反撃に転じようとしても、放った砲弾は端からBT兵器によって落とされてしまうため、八方塞がりという表現がどうしようもないほどに当てはまっていた。

 

「チッ、本当にしぶといな……そろそろ」

「萌から、離れて!!」

「まぁ、来るだろうなと思っていたところだ」

 

 しかし、萌が逃げに徹していたことが実を結んでか、スラスターを噴射させながらやってきた簪と楯無が援護射撃を開始した。マドカは一瞬煩わしげな表情を浮かべたものの、すぐさま元に戻り、BT兵器による射撃の対象を萌から簪へと移そうとした。

 

「萌、大丈夫!?」

「うん、俺は大丈夫。それよりも、」

「ああ、わかっている」

「まずはこの作戦を終わらせないと、だね!!」

 

 その間に萌の元へと近づいたラウラとシャルロットが、萌と短い会話を交わした後に、再び戦闘が始まった。

 5対1という圧倒的不利であるにも関わらず、マドカの表情から余裕が崩れることは無かった。むしろ、その表情には呆れのそれも多分に含まれ始めていた。

 

「どいつもこいつも、よくもまああんなものの為に必死になれるものだな」

「あいにくだが、貴様のようなテロリストが萌の事を理解する必要などない」

 

 多方向から5人がかりでの攻撃に対し、マドカはBT兵器で牽制しながら応戦していた。というのも、一見すればマドカには勝ち目などは無いように見える戦力差だが、萌たちもまた、こういった多対一の状況下で自分たちの側が多数側に回る状況下における戦闘の練度はほぼ無いと言ってもいい。

 だからこそ、マドカへとやってくる攻撃の量も、本来想定されるそれよりもはるかに少ない量であり、一対多数の戦闘が日常であるマドカからしてみれば、これほど容易い戦闘もないとすら言えた。

 

「そら、今度はこちらから行くぞ!」

「っ、皆回避に集中して!」

「遅い」

 

 そして、それまでの様子から一転してマドカが攻撃に転じた瞬間、萌たちの攻勢はあっけなく覆された。味方が多い以上回避する場所を広くとるためには必然的にマドカと必要以上に距離を取らなければならず、BT兵器を操縦している間も問題なく高速戦闘が可能なマドカからしてみれば、もはや萌たちは動く的でしかなかった。

 

「萌!!」

「シャルロットさん! 大丈夫!?」

「僕の事なら心配しないで!」

 

 計6基のBT兵器が最も重点的に攻撃していたのは、やはりというべきか萌だった。シャルロットが専用防御パッケージ『ガーデン・カーテン』によって搭載されたエネルギーシールドで萌を守らなければ、今頃直撃をもらっていただろう。打鉄・雷火に搭載された武装は火力が高い代わりに隙が大きいものが多く、その分狙われやすくなっていたのだ。

 

「面倒な……」

「僕がいる限り、萌には指一本触れさせないよ!」

 

 お返しといわんばかりに、高速切替で即座にマシンガンを二丁展開し、マドカへと向けて乱射するが、距離が離れているためそれらは容易く躱されてしまった。

 

「では貴様から……っ!?」

 

 攻勢に転じようとした次の瞬間、誰から見ても分かる変化が起こった。

 サイレントゼフィルスのスラスターの内1つが、何の前触れもなく爆発したのだ。

 

「何、が……!?」

「あら、意外ね。熟練のテロリストさんはアハ体験ってご存じないのかしら?」

 

 声がした方にマドカが視線を向けると、そこにいたのはISを纏っていないように見えるにもかかわらず浮遊している楯無と、それを守るような立ち位置で佇んでいる簪だった。

 清き激情(クリアパッション)。構成するパーツの殆どにナノマシンで構成された水を使用している楯無のIS、ミステリアス・レイディの能力のようなものであるそれは、水をナノマシンの発熱により蒸発させ、水蒸気爆発を起こす。

 

 更識はそれを、自身を守るものすべてを犠牲にして張り巡らせていた。その範囲がどれほどのものになるかなど、マドカが知るはずもなかった。

 

「さて、どこからでも吹っ飛ばすことができるけど、どうする?」

「くっ!」

 

 そこで初めて焦りの表情を浮かべたマドカは攻撃に回していたBT兵器を戻し、周囲を闇雲にレーザーで薙ぎ払いながらその場から退却し始めたが、

 

「残念、もう遅いわよ」

「ぐぅっ!!」

 

 続けざまに戻したビットの内の2つが爆破されてしまう。そして、楯無のクリアパッションを警戒するあまり他への警戒が疎かになった結果、ラウラたちによる射撃も命中するようになり始めた。

 

「チッ、一旦退くか」

 

 流石に劣勢が過ぎる。そう判断したマドカは、先ほど以上に闇雲にBT兵器を乱射しながら、凄まじい速度で退却し始めた。

 

「待って!!」

「ダメよ、簪ちゃん。今追ってもしょうがないわ」

「けど!」

 

 マドカの後を追おうとする簪をゆっくりとミステリアス・レイディを再構築している楯無が引き留めた。楯無はどこか疲れたかのようにため息を吐きながら言葉を紡ぎだした。

 

「本当、こんな賭けは二度としたくないわね」

「え……?」

「簪ちゃん、落ち着いて考えてみなさい。防御を捨てるとはいえあれだけの広い空間どこでも爆破し放題なんて能力あったらお姉ちゃん今頃モンドグロッソで優勝してるわ」

「あ……」

 

 簪が何でそんなことも気づかなかったのかとほんの少し唖然とした表情を浮かべる中、恐る恐ると言った感じでシャルロットが楯無に問いかけた。

 

「つまり、ハッタリですか?」

「シャルロットちゃん大正解よ」

「ええ……」

 

 一応とはいえ戦闘が終了し、全員警戒こそ解いていないものの緊張は幾分か解けた雰囲気が立ち込め始めた。勿論、全員がすぐにシルヴァリオ・ゴスペルの対処に向かうつもりだった。

 

 数秒後までは、の話だが。

 

 

―・―・―・―

 

「萌!?」

 

 その異変に真っ先に気が付いたのは、簪だった。それまでは援護に徹していたはずの萌が、何も言わずに亡国機業を追いかけ始めたのだ。完全な暴走状態に陥ったシルヴァリオ・ゴスペルなど視界に入っていないとでも言わんばかりのその勢いは、普段の萌を知っている者ほど異常と分かる光景だった。

 

『焔! 止まれ!』

「…………」

 

 千冬が通信で呼びかけても、萌は返事すら返さなかった。間違いなく、精神に何らかの異常が生じている。萌を戦場に出すという事になっていてからずっと懸念していた事柄が、ここにきて最悪の形で表に出てしまったと言えるだろう。

 

『くっ……楯無、簪、デュノア、ボーデヴィッヒは焔の後を追え! 残りの面子は引き続き福音の対処だ!』

「了解。簪ちゃん、行くわよ!」

「う、うん……!」

「シャルロット、行くぞ!」

「了解!」

 

 焦りこそしたが、作戦中であることに変わりはない。即座に思考を切り替えた千冬によって各員に指示が飛ばされた。実力的に萌を追う方に戦力が偏っているのは、相手の退却が罠であるという事を考えての事だろう。

 

 楯無、簪、シャルロット、ラウラは即座に萌の後を追おうとしたが、

 

「何?」

「何これ、雷火ってこんなに速かったの!?」

 

 彼女達が追おうとしたときには、既に萌はハイパーセンサーが探知できるギリギリの範囲まで行ってしまっていた。確かに、萌のIS、打鉄・雷火のメイン武装であるロケットエンジン搭載型パイルバンカー、綴雷電に搭載されたロケットは加速力こそ弱いものの、その最高速度を知る者はこの中にはいない。

 

 しかし、それを考慮に入れたとしても今の萌は速すぎたのだ。

 

『萌くんの位置情報はこちらで逐次知らせます。皆さんはそれに従って萌くんを追いかけてください!』

 

 そんなとき、真耶からの通信が入り、楯無たちのISに恐らく萌のものであろうビーコンの位置情報が送信された。4人はその情報に従い、それぞれがなるべく離れないように萌の後を追いかけた。

 

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