【完結】IS 亡国機業殲滅ルートRTA 男子チャート   作:sugar 9

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裏語 15

『焔君! 返事をしてください、焔君!』

「…………」

 

 通信越しに聞こえる真耶の声にも返答を返すことなく、萌は、ロケットエンジンを噴射させ続け、亡国機業の支部に当たる施設へとたどり着いた。もはや周囲への影響など思考には存在しないのか、綴雷電で以て施設を破壊しながら、施設の中心部へと向かっていった。

 

 そこで待ち構えていたのは、オータムとマドカ、そして、彼女らの部隊の隊長であり、亡国機業の幹部である女性。スコール・ミューゼルだった。

 

「まさか、本当についてくるとはね。ただの命知らずか、それとも……」

「無駄話をしに来たつもりはありません。さっさと終わらせます」

 

 そう言い、萌は綴雷電のロケットエンジンを噴射させ、スコールへ向けて突貫した。

 

「無駄よ、貴方1人でどうこうできるような問題じゃないわ」

 

 しかし、その拳がスコールへ届くことは無く、スコールの専用機、ゴールデン・ドーンの持つ巨大な尻尾によって受け止められた。そして、その隙を見逃すオータムとマドカではなく、即座にアラクネとサイレント・ゼフィルスを展開し、それぞれが萌へと射撃を開始した。

 萌も元から当たるとは思っていなかったのか、即座に綴雷電のロケットエンジンを逆向きに噴射させることによってスコールから距離を取り、銃撃を回避した。

 そして、そのままロケットエンジンを噴射し続け、ISが戦闘を行うにはお世辞にも広いとは言えない大広間を突き抜け、そのまま上空へと飛び出した。

 

「お得意の鬼ごっこもどこまでもつかねぇ!!」

「黙れオータム」

 

 しかし、オータムと1対1で逃げ切ってみせた時とは状況が違いすぎた。ただでさえ消耗しているにもかかわらず、今回は3対1な上に、多角的な攻撃を得意とするサイレント・ゼフィルスもいる。とてもではないが、逃げ切れるようなものではないだろう。

 

「萌くん!!」

「萌!!」

 

 だが、それはこの状況が続けばの話だった。すぐに、楯無達が救援に入ったのだ。

 楯無がオータムに、シャルロットとラウラはマドカに、簪と萌はスコールに攻撃を仕掛け、それまで一方的だった戦況は、一気に混戦模様へと陥った。

 

 

―・―・―・―

 

 

「てめぇらはいつもいつも邪魔ばかり!!」

「あなた達が、萌に手を出すからよ!!」

 

 オータムの銃撃をナノマシンによって操作された水流で受け止め、苛立ち交じりに放たれたオータムの怒号に対して怒号で返しながら、楯無は蒼流旋による刺突を放つが、それはあっさりと装甲脚によって受け止められた。

 

「ハッ、更識の長だかロシアの国家代表だか知らねえが、こんなもんかよ!!」

「そんなわけが、無いでしょう!!」

 

 しかし、蒼流旋の先端に搭載された四門のガトリング砲から放たれた弾丸が、受け止めていた装甲脚に命中し、爆発した。致命的とまでは行かないまでも、煙が晴れたそこには黒焦げた装甲脚があり、少なくともそれ以上動けるようには見えなかった。

 

「チッ、クソがぁ!!」

「させないわよ!!」

 

 オータムがいったん距離を置こうとするものの、ここが勝負所と見た楯無はそれを許すことなく、蒼流旋による連撃がオータムへと襲い掛かる。

 

「なんて、なぁ!」

「しまっ……!?」

 

 しかし、そこで近接戦に出た楯無を見て獰猛な笑みを深めたオータムはそれを受け止めることなく、受け流し、その勢いのまま近接戦に持ち込んでみせた。本来は近接特化型の機体であるアラクネにとってそこは最も得意とする領分であり、同時に楯無が先ほどまで本格的な近距離戦を行わず、一撃離脱の戦法を取り続けてきた原因でもあるのだ。

 

「そらそら、どんどん行くぜぇ!!」

「くっ……!」

 

 すると一転して、不利となったのは楯無の方だった。近距離戦においてはやはり分があるのはオータムの方であり、装甲脚による多角的な攻撃は楯無に距離を置く暇も、反撃をする暇も与えないでいた。

 

「こ、のぉ!!」

「無駄無駄ァ!!」

 

 どうにかして距離を置こうと、既にかなり消耗してしまった装甲を再び水へと変換し、小規模な爆発をオータムの眼前で起こすものの、そうして逃げ出そうとする頃には既に逃げ道はエネルギーネットでふさがれており、再び近接戦が始まってしまう。

 

 既に、戦況は誰がどう見ても一方的だった。

 

「……しょうが、ないか」

「あぁ? なんか言ったか?」

「……ええ、そうね」

 

 

 一緒にあの世に行ってみない? って言ったのよ。

 

 

 その言葉と共に楯無が浮かべた、それまでの表情からは考えられないような不敵な笑みを見たオータムは、とっさに装甲脚で楯無の全身を貫くべくエネルギーネットで逃げ道をふさぎ、全ての装甲脚を楯無に向けて放った。これ以上こいつに好き勝手させてはいけないと、本能が叫んでいたのだ。

 

 次の瞬間、オータムの視界を爆発が包み込んだ。しかし、アラクネにはオータムが予想していたようなダメージは入っておらず、そのことに対して困惑したオータムの思考が一瞬、止まる。

 

 それによって生まれる隙は、楯無に最後の一手を打たせるには十分すぎるものだった。

 

「まぁ、お姉さんは不死身だから死ぬのは貴方だけになるかもしれないけど!」

「なっ!? てめぇ、何を!?」

 

 爆発による煙を引き裂くようにして現れたのは、水を槍のように纏っている蒼流旋をオータムに突き付ける、もはやほとんどISを纏っていないようにすら見える楯無だった。

 

 ミストルテインの槍。ミステリアス・レイディを構成するアクアナノマシンの大部分を攻撃に転ずることで放つことができるミステリアス・レイディ最大にして最強の武装。防御面をほとんど無視しているため、最強の武器であると同時に諸刃の剣でもあるそれは、既に先のマドカとの一戦においてかなりのナノマシンを消費してしまっている今の状態では、本来の威力の半分も出せるかどうか怪しい所だった。

 

 しかし、楯無の最低限の安全すらも考慮しなかったのならば、ただでさえこれだけの威力を一点に集中して放つミストルテインの槍をさらにより小さい一点に集中して放つのならば。

 

「さて、神様にお祈りする準備はいいかしら!?」

「調子に、乗るんじゃねぇ!!」

 

 オータムが最後の抵抗とでも言わんばかりに防御を完全に無視し、装甲脚を乱暴に振り回す。

 

 それらの内の一本が楯無の身体を貫くのと同時に、

 

「ミストルテインの槍、発動!!!!」

 

 耳をつんざくような轟音と共に大爆発が起こった。

 

 

―・―・―・―

 

 

 シャルロットによる制圧射撃の隙間を潜り抜けて、ラウラのレーザー手刀がマドカへと襲い掛かる。しかし、マドカは少しも動じることなく、それをレーザーライフル『スターブレイカー』で受け止め、そのまま弾き返した。お返しといわんばかりの銃撃をラウラとシャルロットに浴びせながら、バイザー越しに冷たい視線を向け、マドカは言葉を紡ぎだした。

 

「本当に理解に苦しむな。死にたがりの馬鹿なのか?」

「貴様に、何が分かる! シャルロット!」

「わかった!」

 

 激昂したラウラがマドカの射撃をAICで無理矢理受け止め、ラウラのワイヤーブレードとシャルロットの高速切替による絶えることのない射撃により、逃げ場のない多角的な攻撃がマドカへと襲い掛かるが、

 

「十全ではない今ならばやれると思ったのか? 嘗めるな」

 

 マドカの余裕が崩れることは無く、既に2基落とされているはずのBT兵器でそれらの攻撃をいなし、さらには反撃に転じてみせた。

 

「ぐっ、まだそんな動きが……!」

「まだだと? まさかお前、お前達程度に私が本気になっているとでも思ったのか?」

「何……!?」

 

 BT兵器による反撃にラウラたちが苦戦する中、まるで世間話でもするかのようにマドカの口から紡がれた言葉に、ラウラたちの表情が固まった。

 

「良いだろう、興が乗った。お前達には試し斬りに付き合ってもらおう」

「っ来るぞ、シャルロット!」

「分かってる!」

 

 ラウラとシャルロットが弾かれたかのように動き出し、身構えた刹那。

 

 

「行くぞ、黒騎士」

 

 

 サイレント・ゼフィルスが、黒い輝きを放った。 

 

 

 

 

―・―・―・―

 

「シュヴァルツェア・レーゲン、並びにラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ、反応途絶! サイレント・ゼフィルス、戦線から離脱します!」

「何だと……?」

 

 楯無の特攻、ラウラ、シャルロットの撃破により、作戦室には悲愴な雰囲気が漂っていた中、突如撤退したサイレント・ゼフィルスにより、作戦室には絶望と困惑が混在することとなった。

 

 千冬は即座に思考を切り替えた。全員、生体反応は消えていないものの戦場でISを使えなくなったというのは死に等しいだろう。幸いにも、亡国機業が逃げた先の支部らしき場所には人員は配置されていなかった。既に廃棄された場所なのか、それとも別の理由があるのか、いずれにせよその事実だけが彼女達の命綱と言えるだろう。

 

 

『織斑先生……聞こえますか』

「ラウラ、無事か!」

『はい、シャルロットも、無事です……』

 

 そんな中、ラウラからの通信が入った。聞くだけでも痛みをこらえていることが分かる口調だったが、それでも確かに無事だったのだ。真耶が涙目になりながら胸を撫で下ろしたのもつかの間、ラウラが言葉を紡ぎだした。

 

『織斑先生、サイレント・ゼフィルスの武装に、展開装甲が使用されていました。恐らくは、篠ノ之束博士によるものかと』

「何だと? ……わかった。間もなく教員部隊がそちらに到着する。それまで、安全な場所に身を隠していてくれ」

『了解、しました……申し訳、ありません』

「何のことだ。お前たちは何も失態など冒していない」

 

 ラウラの、どことなく嬉しそうな弱弱しい笑みを最後に通信は切れ、作戦室には再び緊迫した空気が張り詰め始めた。

 

(どういうことだ……束!)

 

 焦る心を必死に抑え込みながら、千冬は未だ続いている戦いへと意識を向けた。

 

 

―・―・―・―

 

 

「萌、そっち!」

「わかった!」

「あらあら、妬いちゃうわね」

 

 簪が萌に合図した後に放たれた山嵐がスコールへと襲い掛かるが、スコールは少しも慌てる様子を見せず、彼女のIS、『ゴールデン・ドーン』の両肩に搭載された炎を纏う鞭、プロミネンスが全てのミサイルを打ち払った。

 

「はぁ!!」

 

 しかし、余裕こそ見せているがそこで隙が生まれたのは確かであり、そこを見逃さなかった萌がロケットエンジンを噴射させながら突貫し、右の綴雷電による一撃を放った。

 

「流石に、食らってあげるわけにはいかないわね」

「ぐっ……!」

 

 しかし、その一撃はゴールデン・ドーンの特徴でもある大きな尻尾によってあっさりと受け止められてしまい、そのまま萌は放り投げられてしまう。ロケットエンジンを噴射させることで体勢を立て直した萌だったが、勢いまでは殺しきれず、そのまま壁に叩きつけられてしまった。

 

「萌!!」

「他人の心配している暇なんてあるのかしら?」

「え……きゃあ!!」

 

 放り投げられた萌の方へと視線が動いてしまった簪の隙を突く形で、スコールは簪との距離を詰め、火の粉を纏ったその巨大な尾を振るった。視線を戻した簪はとっさに薙刀を構えようとするもののとてもではないが間に合わず、簪もまた吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐ……う……」

「あのミサイルは厄介だし、まずは貴方に居なくなってもらいましょうか」

 

 既にほとんどのシールドエネルギーを消耗し、強制解除寸前とはいえISを身に纏っているにもかかわらず、全身を蝕む鈍痛に簪が動けないでいると、スコールの周囲に火の粉が舞い始めた。

 スコールがそういう間に、ゴールデン・ドーンの尾に周囲を浮遊していた火の粉が集まっていき、球体を成した。超高熱の火球、『ソリッド・フレア』がゴールデン・ドーンの尾から離れようとした次の瞬間、

 

「させません」

「あら、意外と早かったわね」

 

 再び綴雷電のロケットエンジンを噴射させた萌がスコールへと殴り掛かった。かなりの速度で突っ込んできた萌に対しても、スコールは少しも慌てることなくソリッド・フレアを萌に叩きつけんばかりの勢いで尾を振るうが、

 

「おおあ!!」

「へぇ、本当に強いのね」

 

 もう片方の綴雷電で尾を殴り飛ばし、無理矢理尾の軌道をそらしてみせた。当然、かなり無理な体勢から殴ったため萌の関節に激痛が走るが、萌は眉一つ動かさずにそのままロケットエンジンの噴射による勢いだけの拳を放った。

 

「まぁ、無駄だけれど」

「くっ、ああ!!」

 

 しかし、その拳がスコールに届くよりも早く、軌道を反らされた尾から離れていたソリッド・フレアが萌へ襲い掛かった。萌はとっさに身体を反らし、振り切った状態の片方の綴雷電のロケットエンジンを無理やり噴射させ、スコールから離れた。しかし到底避けきれるようなものではなく、シールドを貫通するレベルの熱が萌に襲い掛かっていた。

 

「その腕じゃ、もう無理なんじゃないかしら」

「萌、逃げて!」

 

 代償は大きく、ほんの少し見える右腕の関節部分はあまりにも無理な動きの為に赤黒く腫れあがっており、だらりと垂れ下がっていた。簪の悲痛な叫びがこだまするものの、萌がそれに応じる様子は無かった。

 

「ここから、です」

「何?」

 

 平坦な声で、萌がそう言うと共に、打鉄・雷火を眩い光が包み込んだ。

 奥の手か、それとも特攻か。次にどんな手が来たとしても対応できるようにスコールが身構え、思考を巡らせていると。

 

 

 

 

 光を爆発により吹き飛ばし、打鉄・雷火ではないISを身に纏った萌が現れた。

 全体的なシルエットはそれほど大きく変わったわけではない。しかし、打鉄・雷火を象徴する装備であると言っても過言ではない綴雷電はさらに巨大化し、その凶悪さを増していた。その武装に目を奪われて気付かないがそれ以外にも随所に変化点が見られ、明らかに打鉄・雷火とは別物であるという事が分かった。

 

 その名は、打鉄・雷轟火。打鉄・雷火と焔萌の同調が高まった結果、打鉄・雷火が萌に更なる力を与えるべくその身を変化させた姿である。

 

「一体、何が……」

 

 簪も、スコールも唖然とする中、萌一人だけ、背面に搭載されたブースターを噴射させてスコールへと殴り掛かった。

 

「くっ、まさか、こんな時に第二次移行(セカンドシフト)!?」

 

 スコールがとっさに尾でその拳を受け止めようとするものの、萌はお構いなしにその拳を振りぬき、尾を弾き飛ばしてみせた。警戒を最大にまで強めたスコールは尾を地面に叩きつけることで周囲に火の粉をまき散らし、一旦萌と距離を置いた。

 

「もゆ、る……?」

「簪さん、もう動けないのはわかってる。だけど、もう一発だけ山嵐をお願いできる?」

「っ……うん、わかった!」

 

 その間に、簪と萌は短い会話を交わした。簪は、未だに何が起こっているのか完全に把握できたわけではないものの、その萌の声に、ここ最近ほとんど聞くことのなかった暗さを一切感じさせないその声に突き動かされ、痛みで未だに動くことを拒否する体に鞭を打って立ち上がった。

 

「おおおお!!」

「くっ、しつこい、わね……!」

 

 再び、背面のブースターと、さらに凶悪さを増した新たなる拳、『還雷電(かえりらいでん)』に搭載されたロケットエンジンを噴射させた萌がスコールへと殴り掛かった。

 全身に搭載されたブースターにより、打鉄・雷轟火以外では不可能と言っても過言ではないレベルの複雑な軌道による超高速機動を実現させた打鉄・雷轟火は、如何に実戦経験が豊富なスコールと言えども到底避けきれるようなものではなく、

 

「はぁ!!」

「っぐぅ!!」

 

 とっさに展開したプロミネンスを高速回転して形成したシールドを粉砕しながら放った拳を、スコールはまともに受ける羽目になってしまった。

 

「もう一度だけ、お願い、打鉄弐式!」

 

 そして、萌がスコールへと殴り掛かっている間に即座にデータ入力を終了させた簪が、山嵐を放った。先ほど山嵐が放たれた際にスコールを守ってみせたプロミネンスは既に萌によって破壊されており、それ以前にスコールは還雷電の対処で精一杯となっていた。

 

「やって……くれるわね……!」

 

 その結果、尾で数発は凌げたものの、山嵐の大部分が直撃する結果となってしまった。装甲の所々が破損しているものの、スコール自身はそれほど堪えた様子もなく、むしろ先ほどまでとは明らかに異なる怒気を孕ませた口調で再び萌の対処に回った。

 

「行きます!!」

「甘く見ないでもらえるかしら!?」

 

 そこから始まったのは、凄まじい速度で両者の立ち位置が入れ替わるインファイトだった。尾やソリッド・フレアによって手数を大幅に増やしているスコールに対し、萌は全身のブースターを適切なタイミングで個別に噴射させることにより速度を大幅に上げた連撃で対応していた。

 

「何……ですって……!?」

 

 だが、均衡状態はほどなくして崩れ始め、形勢は徐々に萌へと傾いていった。スコールが驚愕の表情を浮かべる最中も、萌は紫電を迸らせながら拳を振るい続けた。その速度は徐々にではあるがさらに加速していっていた。

 

 スコールが驚愕するのも無理のない話であった。いくら萌が第二次移行をしたとしても、才能あふれる操縦者だったとしても、圧倒的な経験量を誇るスコールに追いすがるにはそれでは足りないはずなのだ。それは、先程までの戦いを見ていたスコールだからこそ言えることであった。

 

 そこには理由があった。萌は第二次移行に伴い単一仕様能力(ワンオフアビリティ)も発現させていたのだ。

 

 『激闘深化(げきとうしんか)』。打鉄・雷轟火の単一仕様能力であるそれは、本来のISと操縦者の間に独自の電磁ネットワークを形成し、操縦者の脳とISを接続することにより、IS側の限界と操縦者側の限界を大きく超えたパフォーマンスを可能にする単一仕様能力である。

 

 萌は、この能力を常時発動させることにより、常人ならばまず不可能な操縦速度を実現させ、スコールを圧倒していたのだ。

 

 戦局が傾き始めてからは、完全に萌のペースとなっていた。今や攻勢に出ているのはスコールではなく萌であり、スコールは激しさを増し続ける萌の攻撃に危機感を抱いていた。

 

「こ……のぉ!!」

 

 このままインファイトを続けていては、いずれ確実に致命的な隙を晒してしまう。そう判断したスコールは全身を迸る火の粉を一点に集め、それを破裂させることによってもはや爆発と言っても過言ではない熱波を萌に叩きつけようとした。元から今の速度で動ける萌に当たるとは思っていない。距離を取られてしまうのがオチだろう。しかし、多少の隙を許容してでも今の萌と近距離戦を続けるのは危険だと判断したのだ。

 

「はぁっ!!」

「しまっ……!?」

 

 しかし、萌の速度はさらにその先を行った。まるでその熱波を予知していたかのような速度で熱波が届かない場所まで後退し、そのまま力をためるかのような動作を取った。

 

 それは正しく、熱波によって生まれるスコールの隙をちょうど突けるようなタイミングだった。

 

「はあああああああああああ!!!!」

 

 裂帛の気合と共に、紫電が迸る還雷電のロケットエンジンが、打鉄・雷轟火の背面のブースターが一斉に噴射する。音すらも置き去りにせんばかりの勢いで萌は完全な隙を晒しているスコールへと一直線に突貫し、

 

「こんな、所で……!!」

 

 スコールがそれを言い終わる暇もなく、両の還雷電が、スコールの腹部を文字通り貫き、両断した。如何にISの操縦者を守る機能が優れているとはいっても、それは決して絶対ではない。

 

 彼女の身が人のそれから大きく外れていることを示すかのように明らかに血液や体液のそれではない液体をまき散らし、スコールはその場に崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

「萌…………」

 

 簪は、既に使い物にならない打鉄弐式を解除し、痛む体を引きずり、肩で息をする萌へと歩み寄った。厳密に言えば、スコールは戸籍上ではいないことになっている。だから、この件も、決して公にされることは無い。萌に何か罰が降りかかることもないだろう。

 けれど、萌は確かに、初めて自分の手で他人を殺めたのだ。今の彼には支えてあげる誰かが必要だと思ったのだ。

 

「大丈夫、大丈夫だから……」

 

 萌の傍に寄り添おうとした、その刹那。

 

 

 

 萌が、弾かれたかのように再び動き出した。

 

 

 

―・―・―・―

 

『焔! 何をしている!!』

『駄目です! 通信回線が強制的に切られています、再接続できません!』

『くっ、簪、何があった!』

「…………………え?」

 

 簪が呆然と、萌が飛び去って行った方向を眺める中、耳には教師たちの慌ただしい声が届いていた。

 

 簪は、自分の胸にある感情が何なのか、理解できないでいた。悲しみではないし、怒りでもない。ただ、わからなかった。何故、萌は再び何かへ向けて動き出したのか。どこへ行こうとしているのか、何をしようとしているのか。何もかもが分からなかった。だからこそ、自分がそれをどう思っているのかすらも分からなかった。

 

「おー、やーっと終わったみたいだねー」

 

 そんな中、その場に現れたのは、束だった。その様子はいつもと変わらず無邪気で、しかし同時に近寄りがたい何かを秘めていた。

 

「……あなたの、せいなんですか?」

「んー? 誰だよ君は……なーんてウソウソー! 今の束さんはマックス機嫌がいいから君の質問にも答えてあげよう!」

 

 いつの間にか、千冬たちとの通信は途絶していた。そんなことに簪が気付く間もなく、束は言葉を紡ぎだした。

 

「もうちーちゃんには耳にタコができるくらい言ったけど、私のせいじゃないんだよねー。だって私はあれに何もしてないし」

「……じゃあ」

 

 簪がゆっくりと束の方を向いた。その表情は、何らかの恐怖を堪えているようにも見えた。

 

「……貴方は、何しに来たんですか?」

「そりゃもちろん亡国機業とかいうののデータを片っ端からもらうためだよー! いやー今時データを紙にしか残してないとかどう思う? いくら古いって言ったって限度ってもんがあるでしょーに……」

「……………」

 

 簪の胸を訳の分からない安堵が包み込む中、ぶつくさ言いながら、束はその場を後にした。

 

 

 

―・―・―・―

 

 

 

――あなた、だあれ?

 

――説明している時間はありません。それは全部ロスになりますから。

 

 

 イギリスが開発している生体融合型IS、エクスカリバー。それはもはやISというよりは1つの巨大な衛星砲と表現した方が良いそれに、萌は接触し、コアネットワークを通じてこのISの操縦者でありコアである存在、エクシア・カリバーンと通話を行っていた。

 

――私がこれから命令する座標に向けて、一発。貴方の最大威力の放射をお願いします。

――え? でも……

――いいから、早く、やりなさい。

 

「…………あ」

 

 次の瞬間、エクシアの脳内を何かが駆け抜け、その口から出るはずのない声が、漏れ出るように多量の空気と共に漏れ出た。

 

――……そっか、あなた_

 

 

 命令プロトコル、優先順位強制変更。

 

 

 

 モード・エクスカリバー、起動。

 

 

 

「…………」

 

 萌はエクスカリバーから離れ、エクスカリバーの砲口から300m下に位置する場所で佇んでいた。すでに目や耳や鼻からまるで蛇口でも捻ったかのように血が流れだしており、真っ赤に染まった眼球の中で辛うじて焦点を保っている瞳は霞んでいる。もはやハイパーセンサーを頼りにしてどうにか周囲を把握していると言った状況だろう。

 

 閉じていた目を萌が開くと同時に、打鉄・雷轟火に付随して大量のエネルギー兵装が展開され、それら全てがさながら巨大な翼の形を成すように無理矢理連結され、打鉄・雷轟火に接続される。

 

 

 

 そして、エクスカリバーから極大のエネルギーによって構成された触れたものすべてを溶かしつくす熱線が萌へ放たれた。

 

 

 城1つ程度ならば軽く蒸発させることが可能であろうその熱線は一直線に萌へと向かっていき、

 

「っぐ……ああああああああ!!!!」

 

 それらを全て、打鉄・雷轟火のスラスターが吸収し始めた。凄まじい熱量は、ISのシールドを貫通して余りあるものであり、萌はそれを体内から逃がそうとするかのように叫び声をあげた。

 スラスターは紫電をほとばしらせながらも、リミッターを完全に外し、吸収したエネルギーを一瞬ですら留めることなく、あらかじめエネルギー残量を空にして展開させたエネルギー兵装達に循環させ続けることでどうにか壊れることなく機能していた。

 

 スラスターだけではなく、凄まじい量のエネルギーを循環させているエネルギー兵装も、限界を示すかのように紫電がほとばしり、一部の兵装はヒビが走り始めていた。

 

「ぐっ……うう、ああああ!!!!」

 

 そして、その影響は萌本人にも及び始め、激闘深化によってリミッターを完全に外した弊害か、エネルギーが萌へと逆流し、萌の皮膚の一部が火傷を通り越して炭化し始めていた。

 

 

「ああっ!!!!」

 

 

 そして、全てのエネルギーが打鉄・雷轟火に吸収された。打鉄・雷轟火自身にも限界が来ているのか、所々にヒビが入り始め、その姿はもはや無惨という他なかったが、それでも今の打鉄・雷轟火はもはや一個の兵器としてみるならば規格外のエネルギーをその身に宿した怪物と化していた。

 

 

『っ萌、駄目!!!!』

 

 

 そこで、無理矢理回線を繋いだのか、簪の悲痛な叫びが萌の耳に届いた。

 

「…………_____」

『…………え?』

 

 

 最期に紡いだその一言は、簪だけに届き、

 

 

 極大のエネルギーが噴射した。

 

 

 それはまるで巨大な翼のように、スラスターから噴き出してもなおしばらくの間は視認できるほどの密度で以て噴射し続け、ISを以てしても、否、現行のどんな存在であっても不可能な加速で以て、落下した。

 

 それは、さながらかつてISが台頭する前に大国が極秘で開発していたという神の杖。ある程度の初速度をつけ、質量の塊を叩き落し、原子爆弾以上の破壊力を実現する今や机上の存在となった兵器。

 

 

 それを、本来ならば想定していない質量と、想定していない加速度を以て行えばどうなるか。

 

 

 過剰なエネルギーを自身の防備へと回し、辛うじて弾丸である自身の身を保護し、萌は落ちていった。

 

 初速度の段階で音速を超え、さらに加速を続ける。

 

 

 高まった熱量により、それは流星のように、しかし流星のように周囲を抉ることなく、一本の槍のように落ちていく。

 

 

 亡国機業の本部の防衛設備といえど、それは到底防ぎきれるようなものではなく、それ以前に察知したときにはすでに手遅れの所まで来ており。

 

 

 はるか遠くまで届く轟音と、大地震にすら匹敵する揺れだけを残し、亡国機業の本部は、地下に広がる施設ごと跡形もなく消滅した。

 

 

 

「っ、焔萌の生体反応、消失しました!」

「そ、そんな……焔君! 返事をしてください、焔君!」

 

 管制室に真耶の悲痛な叫びがこだまする。千冬も、信じられないと言った表情で、ただモニターを眺めることしかできなかった。

 

「っ、すぐに落下地点に教員部隊を送れ! 急げ!」

 

 そして、最悪の、既に確定しているといっても過言ではない現実から目を背けるかのように指示を飛ばした。

 

 

 

「も、ゆる…………」

 

 簪は、掴んでいたマイクを手放し、まるで魂が抜けたかのようにその場にへたり込んだ。

 

 ISを使えなくなり、彼の背中を、再び見送ることしかできなかった。何かできることは無いかと必死に考え、亡国機業支部にあった通信装置を用いて、必死に集中力を巡らせ、すでに遥か彼方へと行ってしまった萌に声を届けた。

 

 

 今、誰かが止めなければ、萌は間違いなく取り返しのつかないことをする。真耶から送られてくる萌の位置情報が、それを如実に告げていたからだ。

 

 

 しかし、声は結局、声でしかなかったのだ。

 

 

「簪、何が……」

「ラウラ、さん。シャルロットさん……」

 

 そんな彼女の元へと歩み寄ってきたのは、応急処置を終え、どうにか動けるまでには回復したシャルロットとラウラだった。両者ともにISを強制解除させられていたため、ラウラと千冬の通信を最後に通信を行っていなかったのだ。

 

 

「もゆ、るが……もゆるが……」

 

 誰よりも萌の事を思っていた彼女が、まるで機械のようにその言葉を繰り返しながら、ただ涙を流し続ける姿を見て、何が起こったのかを察したラウラとシャルロットはその場にへたり込んだ。

 

「馬鹿な……」

「そんな、ことって……」

 

 

 数秒後、ラウラの絶叫が虚空に響き渡った。愛する者の為に、軍人として、作戦を確実に遂行するために、それまで自身の感情を抑え込んでいた蓋は、あっさりと崩れ落ちた。

 

 シャルロットは、ただただ涙を流していた。だが、声を上げることは無かった。できなかったのだ。

 彼女が想いを告げることなく、萌は彼女の前から姿を消してしまった。その事に対するどうしようもない後悔と自身への怒りが、彼女に嗚咽を噛み殺させていた。

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言ってしまえば、萌が放った特攻により亡国機業の指揮を執り行っていたとされる幹部会は殲滅された。

 

 残党による行動は今のところ確認できていないが、『更識』が総力を挙げて残党、ひいては亡国機業と協力関係にあった組織や団体を片っ端から見つけ出し、7月が終わるころには、亡国機業と呼べるものは書類の中にしか存在しなくなった。

 

 亡国機業の本拠地だった場所は、巨大なクレーターのようになっており、残骸のようなものは見つかっているものの、そこから遺体が見つかるようなことは無く、行方知れずとなっていた萌の捜索は、1週間で打ち切られることとなった。

 

 

 彼女達の日常から、災禍と呼べるものは取り除かれた。彼女達の穏やかな学園生活を阻む者はもう誰もいない。

 

 

 

 彼女達は、1人の友人を無くした代わりにその日常を歩むこととなったのだ。大切な物が欠けてしまった、その日常を。

 




はい、言いたいことは色々ありますし皆さんにもあると思いますがとりあえず私の言いたいことは活動報告にてまとめさせていただきました。


長きにわたるご閲覧、本当にありがとうございました。
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