神谷美羽は修羅場を招く   作:大庭葉蔵

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小説の執筆には慣れていません。しかし、込み上げるヤンデレ熱が抑えきれず、遂には拙い文章のまま投稿してしまいました。できれば長く続けたいとは思っています。


その日、変態の芽は埋められた。

 東郷美森。成績優秀、容姿端麗、才色兼備、大和撫子、神世紀の小野小町。彼女を表す言葉は数知れないだろう。しかし、このような彼女を表す輝かしい称号の数々を一度にして全てひっくり返すような、一種の異常な、ある種倒錯した性癖を彼女は持っている。

 

 盗撮、盗聴、ストーキング、不法侵入、etc etc それはまさしく常軌を逸しており、おおよそ挙げられるような変態行為を全て、東郷美森は手を染めただろう。

 

 彼女の部屋は友奈と美羽から盗んだ私物で溢れているし、彼女のパソコンの中には膨大とも言える盗撮写真の数々が取り込まれている。毎晩のように、暗い部屋の中で盗撮写真映写会を一人で楽しんでいるのだ。

 

 そもそも、何故彼女はこのような犯罪を犯したのだろう。もちろん愛故の話なのだが、ここでは犯罪の始まり———馴れ初めを話そう。

 

 

 

 私、神谷美羽が東郷美森という少女と出会ったのは、春休みの真っ只中だった。そろそろ中学校入学が近づき、早咲きの桜ならば満開となっても良い頃合いの、春の風がとても気持ちの良い日でもあった。

 

 その日の私は親友の結城友奈とつい最近になって、私と友奈の家の間に割り込むように造られた和式の豪邸について話していた。

 

「あの大きなお家、誰が住むのかな」

 

「さてどうだろう。人が住んでる様子はないようだけれど」

 

 友奈の部屋の窓から二人揃って盗み見るようにしてその豪邸を覗く。覗き見の趣味はないが、あんなにも大きいと、気にしてしまうのは仕方ないのだ。

 

 可愛い女の子でも住んでくれれば直ぐに仲良くなってみせるけどなぁ。

 

 口から出そうになった言葉をぐっと堪える。口は災いの元、頼むから要らないことを口走らないでくれ。せめて友奈の前では……。

 

「あ、美羽ちゃん! あれ、あそこの人、あの家の人じゃない?」

 

「どれどれ。あ、本当だ」

 

 友奈の指が指し示す先の豪邸の前に、車椅子に乗る少女がいた。その少女は立ち止まって、自分の家を眺めていた。まるで自分の家に驚いているような立ち振る舞いが少し気になったのだが、私の関心の大半はその少女が、友奈に勝るとも劣らない美形だったことに寄せられていた。

 

「行こう友奈。せっかくだし、仲良くなっておきたい」

 

「どうして?」

 

 友奈が子供のように首をかしげる。

 

「どうしてって、仲良くなりたいからだよ」

 

「どうして仲良くなる必要があるの? よりにもよって、わたし以外の女の子と」

 

 不味い。これは、不味い。友奈の奴、深淵の底みたいな瞳をしている。友奈以外の人類と仲良くなる必要はないという事を、私に分からせるつもりだ。

 

「必要もなにも、あの女の子じゃあ学校生活に苦労するだろうからね。見たところ私達と同じくらいの年頃だし」

 

 我ながら聞いた相手の良心を刺激するような言い方だ。クソ、他の言い方は無かったのか。

 

「……美羽ちゃんは優しすぎるんだよ。うん、でも、それでこそ美羽ちゃんなんだろうね」

 

 友奈の顔に影が掛かる。ごめんよ、友奈。友奈の方が私の何百倍、何千倍も優しい子だ。

 車椅子に乗っている人への負担、日々の生活で溜まるストレス、理解しているからこそ、引き止めはしなかったのだろう。

 

 友奈の根底には必ず、壮大な人類愛がある。見ず知らずの人さえも助けたいと思う強い意志がある。私のせいで少しづつ狂ってきてはいるけども、未だその根底に変わりわない。だから、断れない、だから辞めることができない、誰かを助けるということを。

 

 私は、そんな友奈の優しさにつけ込む最低な人間だけれど。

 

「ありがとう。でも、友奈の方が優しいんだよ。私なんかよりもずっとずっとね。さあ、行こう!」

 

 

 

 

 彼女は、神谷美羽はわたしの手を引いて部屋を出た。手を握る力は強く、握る手は白く、艶々している。

 

 美羽ちゃんはいつもそうだ。いつも誰かを助けている。わたしはそんな美羽ちゃんが好きだし、そこが美羽ちゃんの魅力だと思う。

 

 昔はよく、彼女と共に見知らぬ人を助けていた。困り事を抱えている人はまるで磁石のように彼女へ導かれ、わたし達の前に現れた。

 

 わたしはそれを何よりも素敵な事だと思っていた。なにより美羽ちゃんと何かをするというのが好きだった。それが人助けだというなら尚更だ。

 

 今だってそう。今だって彼女の前には困っている人はよく現れるし、今だって彼女はわたしの手を引いてくれている。何も変わってはいない。

 

 変わったのは多分、わたしだ。いつだったかわたしは、困っている人を見ていても何とも思わなくなってしまった。むしろ、彼女が助ける有象無象に怒りさえ湧いてくる。

 

 でも、目に映る人皆んなを助けようとする彼女は眩しくて、とても美しくて、愛らしい。だからわたしは彼女の人助けを拒むことはできなかった。

 

 わたしは、彼女の笑顔が好きだ、静かな顔も好きだ、彼女の声が好きだ、匂いが好きだ、彼女の髪が好きだ。彼女の全てが好きだ、美羽ちゃんが好きだ、彼女が全て欲しい。そしてわたしは、彼女が人助けをしている姿もまた、食べてしまいたい程に愛おしいのだ。

 

 けれどもそれは、いつまで持つのだろう。わたしが彼女の全てを食べてしまわないのは、彼女を永遠にわたしのものにしてしまわないのは、単に彼女がわたしの手を、わたしだけの手を握っていてくれるからだ。

 

 ならば、彼女の手が離れてしまうとき、わたしはどうなってしまうのだろう。彼女は優しい、彼女は美しい、彼女は眩しい、その眩しさに目が焼かれても、満足できてしまうのだ。そんな彼女の優しさを、あの車椅子の少女は向けられてしまのだろう。

 

 今はいい、今はまだ彼女の左手はわたしの手を握っている。しかし、空いた右手は誰が握るのだろう。誰を握ってしまうのだろう。それはきっとわたしではない。彼女の右手は、誰かを助けるための手だ。わたしは彼女の左手に撫でられることはあっても、彼女はわたしを抱いてくれるわけではない。

 

 わたしは彼女の全てが欲しい。これから友達になるあの少女も、必ず同じことを思うだろう、彼女の香りに誘われて。

 

 もし美羽ちゃんが少女の手を取ったら、わたしはどうなってしまうだろう。もしも彼女が、わたしから離れることがあってしまったら、わたしは、何をしでかしてしまうだろう。わたしはそれがただ、恐ろしい。恐ろしい狂気に囚われてしまう。狂気に溺れたわたしなら、彼女は救ってくれるだろうか。

 

 嗚呼、彼女の髪が揺れる。白い髪は太陽に当てられて銀色に輝いている。輝いているのは、むしろ彼女自身なのだろう。

 

 

 家の前に、車椅子の少女は居なかった。居るはずがない。もうとっくに、家の中に入ったらしい。

 

 わたしは胸を撫で下ろして、美羽ちゃんにもう帰ろうと伝えるつもりだったのだが、彼女は既に、家のインターフォンを押していた。

 

 程なくして大人の女性が扉から出てきた。女性は胸を打たれたような顔をして、美羽ちゃんを見ていた。それもそのはず、彼女はモナリザよりも美しいのだから。

 

「あの、ここの家の人ですよね? ずっと挨拶しようと思ってたんです!」

 

「あ、あら、そうなの……」

 

 女性はしどろもどろになりつつも、その瞳は、美羽ちゃんの姿を焼き付けようと、ギラギラ光っていた。

 

「私は、このお家の左隣の神谷美羽です!」

 

「なるほど……、神谷さんね……」

 

 女性の目が更に光る。その目は、完全に肉食獣のソレだった。あの汚らしい脳みその奥では、どうせ碌でもないことを考えているに違いない。

 

「わたしは右隣の結城友奈です。よろしくお願いします」

 

「ええ、結城さんね。これからよろしく」

 

 目だ、目が違う。彼女にもう魅せられてしまっている者の目をしてしまっている。

 

 一刻も早く、あの女性と美羽ちゃんを引き離す必要があった。そして願わくば二度とこの家に来ることがありませんように。

 

「今日は挨拶をしに来ただけですので、そろそろ帰ります」

 

 美羽ちゃんの前にも立ち、女性の視界を遮るようにして言った。

 

「あらあら、もう帰ってしまうの? 折角来てくれたんですから、どうぞ上がっていってくださいな」

 

「いえ、そんな、悪いですよ」

 

 流石美羽ちゃん、ナイスフォローだよ。大好き、愛してる、結婚して。いや、結婚してください。

 

「あら、残念ね。是非ともまたいらっしゃってくださいな」

 

 この女、全く残念そうな顔をしていない。愛想の良いその外面の裏で、何かを企んでいる、そんな顔だ。

 

「あ、そうだ! 折角ですし、家の娘にこの町を案内してくださらない? 今年中学生になる子なの。これから仲良くしてくれると嬉しいわ」

 

「お任せください!」

 

 美羽ちゃんが可愛らしく胸を張って答えてしまった。あの女、自らの娘から美羽ちゃんに接点を持つつもりか……。この女中々頭が回るようだ。これだから大人の女は嫌いだ。狡猾で、残忍で、ずる賢い。そしてその毒牙は周りの人間にも害をなす。

 

 ああ、どうか美羽ちゃん、そんな安請け合いはしないで、早く帰ろう? 

 

 とは思ったものの、結局美羽ちゃんが決めた選択には逆らえないのであった。

 実際、わたしの思いとは裏腹にあの女は娘を呼びに行ってしまった。こうなってしまえばもう、突き進むしかなくなってしまったのだ。

 

 時間は巻き戻らない。時間はわたしたちを置いて、先へ進んでしまう。まるで流れの速い川のように、もたもたしていたら溺れてしまう。ならば流れに乗る他ない。

 

 暗闇で光がよく目立つように、絶望の中でこそちょっとした事が希望へと変わるものだ。

 

 これは、チャンスだ。絶望が光を運んできた、そう考えればいい。あの女の娘をとことん利用してやればいい。

 

 狙うのは女と女の娘の共倒れ。それを成し、わたしは美羽ちゃんと二人で過ごしてみせる。

 

 

 家の奥から車椅子に乗った少女がやって来た。少女は不安で一杯の顔をして、こちらを見ていた。しかしその不安は、美羽ちゃんを見る事で歓喜の表情に変わる。もう魅入られてしまったか。

 

 わたしは美羽ちゃんの前に立っていたから、必然的に先に自己紹介をしなくてはならない。ここで良い印象を与えなくては……。

 

「わたしは、結城友奈。これからよろしくね。君の名前は?」

 

「わ、私は、東郷美森です。よろしく、お願いします」

 

 軽く握手を交わす。少女は緊張した様子で、わたしの手を握った。

 

「東郷さん、ね。かっこいい苗字!」

 

「そうですか? ありがとうございます……」

 

 その少女、東郷美森は、照れて赤くした顔を下に向けて隠していた。出だしは上々、これからが本番だ。

 

「私の自己紹介が済んでないようだけれど?」

 

「ごめんごめん」

 

 本当は美羽ちゃんが誰かにその姿を晒すのは嫌だけれど、仕方なく玄関を塞ぐのをやめた。

 

「初めまして東郷美森ちゃん。私は神谷美羽、よろしくね」

 

「不束者ですが、よろしくお願いします」

 

 東郷さんは美羽ちゃんの手を両手でしっかり握っていた。

 先行きは依然、怪しいままだ。




東郷さんの回なのに東郷さんの出番がほぼ皆無です。原作からヤンデレみたいな方でしたから、動かしやすいですけどね。是非とも仲良くなってドロドロとした展開を迎えて欲しいものです。
友奈さんが全然友奈ちゃんしてくれません。むしろ主人公の方が友奈ちゃんですね。きっとあれがコミュニケーション能力の最高点なのでしょう。
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