ご指摘がありまして、《恋愛》タグ追加しましたー。いやー失念してましたうっかりうっかり。
そして、あくまで、あくまでイメージではあるのですが!あらすじのところにイメージ画的なサムシングでアバター作成サイトでなんちゃって藤乃ちゃん作って貼ってますので良ければどぞー。あ、イメージ崩れるからいいやって方は見なくてもなんも問題ありませんw
今日で入学3日目。初日、二日目となかなかに濃い一日だったなと思いを馳せながら通学路を歩いていれば、前を歩く人混みの中に見覚えるある色合いの金髪がカバンを後ろ手に背負い歩いていた。
あ!と思った瞬間にはもう駆け出していて、その背に「勝くん!」と呼びかけてる。無言で立ち止まりちらりと肩越しにこちらを振り返る彼は、いつも通りというか、何処か不機嫌そうな顔だ。
「おはよう」
「……ん」
小さい声ながらもちゃんと挨拶を返してくれて思わず口角があがる。
「一緒に行こう?」
「…勝手にしろ」
ぼそりと呟いて歩き出す勝くんの隣を歩く。
別に会話なんて無かったけれど、また会えて、またこうして一緒にいられるなんて夢みたいだと思いながら、もうすぐ正門というところまで来て何か人集りが出来ていることに気づいた。
「あれは……」
「チッ……朝っぱらからクソうぜえな」
どうやら人集りはマスコミの人たちのようで、正門をくぐる生徒を捕まえて何やらマイクを向けている。このままじゃ捕まっちゃうかしら…と不安が頭に過ぎっていれば、もう一度だけ舌打ちをした勝くんが何故か歩調を早めた。きっとサッと通り過ぎようとしているのかなと考えて、私もそれに伴うように足早に正門へ向かう。
「あ、雄英の生徒さんですね?オールマイトが教鞭をとっているということでちょっとお話を…あれ?貴方ヘドロの時の…」
「ッうぜえ!遅れんだろうがっ!」
「ひっ」
「!あ、君!ちょっとお話を…」
「(ヘドロ?)…その、すみません始業に遅れますので…」
勝くんにマイクを向けていた女の人がなんだか気になることを言っていた気がするけれど、それよりもまず向けられたマイクと取り囲むような記者さんに苦笑いを零して先を急ぐ。流石に勝くんみたいな対応はできないのでやんわり断って勝くんの後に続こうとすれば、「ちょっとだけでいいので!」と腕を掴まれた。
「!あの、すみません、離してくださ…」
「それで!オールマイトはいったいどんな授業を?!」
「何処の科の生徒さんでしょうか?オールマイトの授業は受けられたことは?!」
「いえですから、すみません腕を離していただけると……!」
腕を捕まれ無理やり引き止められて詰め寄られるけれど、一向に離してくれないこの男の記者さんにどうしようかと困っていれば、突如ボンッという音が響く。
「遅れるっつってんだろーが!腕離せや!」
どうやら勝くんが威嚇として個性を使ったみたいで、片手の掌から少し煙を立たせながら怖い顔で私の腕を掴んでいる男記者さんを睨む。その音と勝くんの鋭い眼光に驚いたのか腕を掴んでいた力が抜けのでするりと腕を引き抜いた。
「おら、行くぞ藤乃」
「えっと、うん」
勝くんのおかげでやっと正門を通り抜けられて、小走りでまた勝くんの隣に戻る。
「ちんたらして捕まってんじゃねーよボケッ!」
「ごめんなさい…まさか腕を掴まれるとは思っていなくて。助けてくれてありがとう、勝くん」
「フンッ…」
鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった勝くんに再度お礼を言いながら微笑む。改めて、口は悪くなったけど優しいのは変わってないんだなあと朝から胸の中がほっこりした。
「昨日の戦闘訓練お疲れー。VTRと成績見させてもらった」
いつもの覇気のない声で相澤先生が言う。
「爆豪」
「!」
「お前もうガキみてーな真似するな。能力あるんだから」
「…わかってる」
静かな声で勝くんが呟いた。
「で、緑谷は……まーた腕ぶっ壊して一件落着か。個性の制御、いつまでもできねーから仕方ないじゃ通させねえぞ」
ちらりと視線を向ければ、相澤先生の言葉に気まずげに俯く緑谷くんが見えた。
「俺は同じことを言うのは嫌いだ。それさえクリアすればやれることは多い。焦れよ、緑谷」
「!…はいっ!」
その言葉に俯いていた顔を上げて、しっかりと先生の目を見つめながら返事をする。そういえば、様子を見る限り今日の朝にでもチヨ先生に治してもらったのか、昨日つけていたギプスは見られなくて怪我は治ったみたいだと安心した。
「よし、ホームルームの本題だ。急で悪いが、今日は君らに――」
また何か突拍子もない事をさせられるのかと一瞬にして教室内の空気が緊張する。
「――学級委員長を決めてもらう」
「「「「「学校っぽいのキター!!」」」」」
そしてその空気が一瞬にして消え去った。途端、あちこちで手が上がり始める。
「委員長やりたいです!それ俺!」
「俺もー!」
「ウチもやりたいっす」
「リーダーやるやる!」
あちこちで同じような声が上がり、逆に声や手を上げていないのは私を含めても極々少数だった。
確かに集団を率いるという点ではヒーロー科での学級委員長という役職は、トップヒーローとしての素地を鍛えるに当たりうってつけなのかもしれないけれど、私は特に興味が湧かなかった。そもそも特別教室での勉強に時間を取られる分、何かあったときは必然的にそちらを優先せねばならなくなることがどうしても出てくる。それに、昨日の特別教室で伝えられた件で今は尚更時間が惜しい。
と、ここで後ろの席から大きな声が聞こえる。
「静粛にしたまえッ!」
各々好き勝手話していた声がピタリと止まった。
「他を牽引する責任重大な仕事だぞ!やりたい者がやれるものではないだろう。周囲からの信頼あってこそ務まる政務!民主主義に則り、真のリーダーを皆で決めるというのなら、これは投票で決めるべき議案!」
言いながらもピンと立つ腕に、「腕そびえ立ってるじゃねーか!」とツッコミが入る。
そして、自分もやりたいのに何故発案したのか、だとか、入学して日が浅いのに信頼もなにもないのでは、皆自分に投票するだろうといった様々な意見が寄せられる中、さらに飯田くんが言い募る。
「だからこそ!この投票で複数票をとったものこそがふさわしいと思わないか?!……どうでしょうか、先生!」
「時間内に決めればなんでもいいよ」
先生の許可も得つつ、投票という形で学級委員長を決めることになった。
かくして始まった学級委員長選挙、各々メモ帳やノートの切れ端で投票者の名前を書き、それを教卓の上に置いていく。発案者ということで飯田くんが開票しその結果を黒板に名前とともに書き込んでいくと、なんと驚くべき結果になった。
3票 緑谷出久
2票 八百万百
2票 爆豪勝己
2票 天使藤乃
1票 尾白猿夫
1票 耳郎響香・・・
――と続々と名前が続く。
「ぼっ僕が3票ー?!」
「なんでデクに?!誰が…ッ」
「まあおめーに入れるよかわかるけどなぁー。つーか誰だよ爆豪に入れたやつ」
勝くんの言葉に瀬呂くんがそう茶化すように言う。ギっと睨みつけて何か言い返そうとしていた勝くんとその時丁度目があったのでにこにこと笑っていれば、ハッとしたように黒板を見た後にまた私を見て、立ち上がっていた席にむっつりとした顔でどかりと腰掛け窓の方を向いてしまった。私の様子できっと誰が自分に入れたかわかったのだろう。その仕草にまたくすりと少しだけ笑って前を向く。
「あれ?というか、私が2票…?」
どうせ自分には入らないだろうと思ってあまりよく見てなかったが、黒板に名前がないのが飯田くん、お茶子ちゃん、透ちゃん、梅雨ちゃん、轟くんのみ。ええと、名前が無いメンバーを顧みれば、誰が誰に入れたかは予測しやすくて、おそらくそうだろうとすぐ前の席の梅雨ちゃんや遠くの席の透ちゃんに視線を向ければ、私が見ていることに気づいた梅雨ちゃんにはいつもの「けろっ」という声とともに微笑まれ、透ちゃんは服の様子から手を振ってくれたのがわかって嬉しさやら就任する気の無い申し訳なさやらで曖昧に微笑み返す。
「ぜ、ゼロ票…っ。わかってはいたが、流石は聖職というところか……っ」
「他に入れたのね…」
「お前もやりたがってたのに…何がしたいんだ飯田?」
自分もやりたがっていたのに違う方に票をいれたことが発覚してまあたもやツッコミを入れられる飯田くん。
「ん、票は出揃ったんだな。2票が3名いるが、どうする?」
相澤先生の言葉にハッとして、その場で「あの!」と手を上げた。
「どうした天使」
「ええと、私は辞退を……」
「ええー?!フジノンやらないの?せっかく入れたのにー!」
「ごめんね透ちゃん。私は特別教室の関係でどうしてもそちらに時間がとられるから、学級委員はちょっと……」
「けろっ…それなら仕方ないわね」
「梅雨ちゃんも、ごめんね」
「いいのよ。私は入れたい人に入れただけだもの」
勿体無いなーとちらほら聞こえる中はっきりと辞退を申し出れば、「じゃあ天使は辞退で、残りは爆豪と八百万か」と黒板の私の名前を消しながら話す相澤先生。
「じゃあもうめんどくさいから、ジャンケンで決めろお前ら」
との一言で、副委員長の座を賭けた勝くんと百ちゃんの壮絶な一騎打ちが……と思われたところで、何故か勝くんが声を上げた。
「チッ……いい。俺も辞退で」
「「「「「ええ?!」」」」」
「なんでだよ爆豪!お前やりたがってたじゃねーか!熱でもあんのか?!」
「うっせえな!無えよ!…`副`じゃ意味無ェからいいっつってんだよ!!」
なるほど、トップを目指す勝くんらしい言い分だと納得していると、後ろに座っていた緑谷くんが何故か信じられないものを見たような顔で勝くんのことを見ていた。
「(かかかかかかっちゃんが、辞退…?!そそそそんなっ昨日の様子といいなんの前触れだ?!もしや天変地異が…?!)」
「じゃあ委員長は緑谷、副委員長が八百万で。はい決定なー。じゃ、この後の授業頑張れよー」
そう言って教室を出ていく相澤先生。
こうして、我が1-Aの学級委員は無事に決まったのだった。
午前の授業が終わり、さあお昼だとお財布を取りに席を立とうとしたところで、ふと思い立ったのでそろりと目的の人物の机の前に立つ。
「ねえ、お昼ご飯一緒に食べない?ご馳走するから」
「…はあ?」
「今朝のお礼、ね?」
「……ケッ…はよしろ」
「ふふ…ええ、一緒に行きましょうか」
「「「「「「ええええええええ?!」」」」」」
どうやら一緒に食べてくれるようで、勝くんに笑顔で頷けば何故か教室内から驚愕の声が。何かあったのかしら?と周りを見渡せば、誰も彼もがこちらを驚いたように見ていた。
「??どうかした?」
「いやどうかしたって……え?天使って爆豪と仲いいの?!昨日まで話してるとこ見たことなかったけど?!」
「そうだよフジノン!なんで爆豪くん?!」
「なんでってなんだコラァ透明女!」
「知らなかったわ……藤乃ちゃんて爆豪ちゃんともお友達だったの?」
「ちゃん付けで呼んでんじゃねーぞ蛙女ァ!」
「もう、ちゃん付けくらいいいじゃない、勝くん」
「「「「「勝くん?!」」」」」
「梅雨ちゃん正解よ。勝くんとは雄英に入学する前からのお友達なの」
「……チッ。さっさとしろ、藤乃」
「はいはい、ちょっと待って。…じゃあ今日は先にお昼行くわね」
梅雨ちゃんの質問にさらりと答え、教室後方のロッカーからお財布を取り出して勝くんと連れ立って教室を出た。
「……ふふふ」
「何笑ってんだ、ああ゛?」
「さっきの皆の顔を思い出して。とても驚いていたわね。そんなに意外だったのかしら?」
「フンッどーでもいいわ」
鼻を鳴らしながら歩く勝くんに気付かれないようにまた小さく笑って、隣同士で食堂への道をゆっくりと歩いていく私達だった。
******
その頃教室では――
「なにあれ。なにあれなにあれ?!なんであんな仲良さそうなの?!だってあの爆豪でしょ?!」
「つーかさりげに名前呼び捨てにしてなかったか?」
「俺も聞いた。確かに藤乃って呼んでた!」
「ひえー藤乃っちすごい!流石入試1位!もう爆豪とも仲いいんだー!」
「いや入試は関係ないんじゃ…」
「おう、緑谷なんか知ってるか?幼馴染なんだろ?」
「しししし知らない!僕もかっちゃんに他校の女友達がいるなんて全然知らなくて…というか、女子の名前を呼び捨て…!」
「他校?じゃあ中学同じだったとかじゃないのか?」
「いや、天使くんは聖グレイス女学院出身だ。それは無いだろう」
「じゃあ学校が近かったからとか!天使くらい美人なら他校でも見に行くだろー!しかも聖女だし!」
「緑谷、出身中学は?」
「ぼ、僕もかっちゃんも折寺中出身だよ」
「聞いたことねえな。何処だ?」
「ええと、静岡らへんなんだけど…」
「ほーん。少なくとも天使は聖女で都内か東京近郊住みだろ?んで、爆豪は緑谷と一緒で地元がこっから近いから……接点なくね?」
「「「「「(謎だ……)」」」」」
「ハッこれはもしやアオハルの予感…?!今度フジノン問いたださなきゃ!」
「ケロケロっそれは楽しそうね」
「ウチもあの爆豪とって興味ある」
「そ、そうですわね。後学のためにぜひお話をお伺いしたいですわ…!」
「あ、私も私も!たぶんあの学級委員長の投票も爆豪くんに入れてたみたいだし、ぜひ聞きたい!」
「え、藤乃っち爆豪に入れたんだー!よし!近いうちに日にち決めて皆で女子会ね!」
「「「「「おー!」」」」」
「……女子会…」
「辞めとけ峰田。お前は女子じゃあない」
******
「今日は何を食べようかしら…」
「何でも良いがウジャウジャとモブ共がいてクソうぜえ」
「それはお昼時だもの、他の科の生徒もいるでしょう?勝くん食堂は初めてなの?」
「誰が好き好んでモブ共が集まる場所に行くってんだよ…」
心底人混みが忌々しいという風に呟く勝くんに苦笑いを零す。そうこうしてる間に私達の番が来たので注文をお願いする。
「勝くんは何を食べるか決めたの?」
「激辛麻婆豆腐チャーハンセット大盛り」
「ええと、私はどうしようかしら……ではクリームシチューをパンでお願いします」
「了解!じゃあ精算機でお会計して隣で待っててね!」
言われるがまま精算機に向かって二人分の会計を済ませたようとした時、何故か「おい」という言葉とともに肩を引かれて、え?とびっくりしている間にささっと自分の分の会計を済ませてしまった勝くん。
「え?あの、今朝のお礼って…」
「うっせえ、てめえの分くらいてめえで払うわっ」
「そう…?」
お礼にご馳走するということでお昼についてきてくれたと思ったんだけど、違うのかしら?
隣の受け取り口にまた一人さっさと移動してしまう勝くんの背を不思議そうに見ながら自分の会計を済ませて私も隣に向かう。
程なく待っていれば、美味しそうな香りとともに料理がやって来てお盆を受け取る。受け取るなりずんずんと歩いていく勝くんの後ろをついていき、彼がお盆を置いたテーブルは端も端の席。きっとあまり騒がしくないところへ来たかったのだろう。勝くんのお向かいには既に人が座っていたため、隣にお盆を置いて席に着く。
「いただきます」
「………す」
手を合わせて食前の挨拶をしてからスプーンを手に持ち一掬い。一口含めば丁寧に作られたのがわかるホワイトソースの味が口いっぱいに広がってとても美味しい。白い海に浮かぶ人参やジャガイモやブロッコリーなどの色鮮やかな具が目にも楽しく美味しいクリームシチューは、母の作るそれに負けないくらいの出来だ。お盆の上のミニバスケットに入っている二つのバターロールのうち一つを手にとり、一口ちぎって口に運べばこちらもバターの香りがふんわりと広がってまた美味しい。付け合わせのサラダも野菜がシャキシャキで瑞々しくて、掛かっているドレッシングもサッパリしたものなので食べやすい。
「ニヤニヤしながら食いやがって…キメェわ」
「!あらいやだ、顔に出てた?一番好きなお料理だからつい、ね。…勝くんのはどう?美味しい?」
「……まぁ」
「ふふふ、勝くんだっていつもの眉間のシワが無いわねぇ。流石ランチラッシュよね。辛いものお好きなの?」
「ああ゛?!悪いかコラ!」
「もうっすぐ怒鳴る。悪いなんて一言も言ってないわぁ」
「チッ……黙って食えやボケ」
「ふふ、本当に昔と比べてお口が悪くなったのねぇ」
食べながら思わず呟けば、また一つ舌打ちが返ってきた。
「…6歳と15歳比べてんじゃねーよ」
「それもそうね、ごめんなさい。……あら、15歳?ええと、たしか初めて会ったあの日って初夏よね?勝くん春生まれなの?」
問いかければ、特に返事は無く食事を続けている勝くんに、否定の言葉は無かったからたぶん春生まれで合っているということだろうと一人勝手に納得して話を続ける。
「まぁ、じゃあもうすぐお誕生日?いつかしら?」
「…んでテメェに教えなきゃなんねぇんだよ」
「あら、ダメ?」
じ…と勝くんの横顔を見ながら聞けば、レンゲを持って思い切り眉を顰めながらチャーハンをモグモグと咀嚼してた勝くんがごくんと嚥下し、口を聞くことなくさらにもう一口頬張った。
これは答える気がないわね…と内心ため息を付いてシチューを掬おうとした時、隣でボソリと「4月20日」と声が。
「え?」
「テメェ聞いたからには何か寄越せやコラ」
「…ふふ、まるで恐喝ね。何が欲しいの?オールマイトグッズとか?」
「……メシの最中にどっかのクソナード思い出さすようなこと言うなや…!」
レンゲを持ったまま地を這うような声で此方を睨みつける勝くんに「失礼しました」と返事をしながら笑えば、また舌打ちが返ってくる。勝くんのプレゼントに関してはまた何か考えておこうと頭の隅に入れておく。
「…お前、なんで俺に入れた」
「…?あ、もしかして今朝の投票のこと?」
「………」
「なんでと言われても、そもそも私自身は勉強のことがあるからなる気はなかったもの。…じゃあ誰に投票しようかしらと考えた時に勝くんが浮かんだだけよ?」
「はあ?」
はあ?と言われてもそれが全てなのだけれど、一体どんな答えを期待していたのかしら?
「昨日も言ったと思うけれど、勝くんは私の憧れのヒーローですからね。リーダーという肩書も似合いそうだったから……という理由じゃあ不満?」
「……そうかよ」
どうやらこれでよかったらしい。返事を返すなりそれきり黙々と真っ赤な麻婆豆腐とチャーハンを食べている勝くんを少し眺めてから、私も自分の食事を再開した。
そして、勝くんはとっくに食べ終えていて私ももう少しで食べ終わろうかというところで突然けたたましい音でベルが鳴る。
「え?」
ジリリリとなった警報ベルの後に校内アナウンスで《セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外に避難してください》と繰り返し流れるそれに、セキュリティ3が何かわからないけれど、上級生らしき人たちの会話を漏れ聞くにどうやら校舎内に不法侵入者があったらしい。食べかけの食事をそのままに、皆が我先にと食堂の入り口に詰めかけていくのが見えた。
「まぁ不法侵入者…!」
「チッ…だりぃな。
二つある食堂の入り口はどちらも人が集まって遠目から見ても寿司詰め状態だ。恐らく廊下も似たような状況だろう。あそこに詰めかければ押し合いへし合いで怪我を負いそうだと判断したので、周りを見渡し窓か何かで外に出られそうな場所を探す。と、運良く二階の窓が開いてるのを見つけた。
「勝くん、ちょっと外の様子を見てくるわね」
ひと声かけてながらブレザーを脱いで椅子の背もたれにかけ窓の方へ走り出す。後ろから「おいッ!」というドスの効いた声が聞こえたような気がするけれど、気にせず走りながら背に翼を出して窓目掛け翔び上がった。そのまま窓の下枠に一旦着地して、再度足にぐっと力を込めて空へ翔び上がる。
今はコスチュームではなく制服のスカートだけれど、万が一の為に下には短パンを着用しているからなんの問題もなく翔び続ければ、侵入者はここから見えるかしらと少し上の方から学校の敷地内を見渡せば、程近いある一箇所で見覚えのある先生二人が何故か今朝のマスコミの方々に囲まれていて、なるほど不法侵入者は記者の方たちだったかと来た道を戻った。
「!藤乃ッ!!」
出てきた窓から再び食堂内に戻って地に足をつければ、勝くんが怖い顔をしながら私のブレザーを片手に持ってずんずんと近づいてきた。
「勝くん、ただいま。あら、ブレザーありがとうね」
「ただいまでもありがとうでもねえよこのアホ女!!テメェ下スカートなの忘れてんのか?!無闇に飛んでんじゃねえ!慎みっつーのがねーのかクソボケが!痴女かあぁ゛?!」
「まぁ痴女とは酷いわぁ。ちゃんと下に履いてますよ。いつ翔んでも良いようにちゃんとそこは抜かりなく」
「そういうことじゃねぇッ!」
「あのね勝くん、不法侵入者、マスコミの方たちだったわ」
「ああ゛?!…今朝のか」
「ええ多分」
勝くんから受け取ったブレザーに腕を通しながら、どうやって雄英のセキュリティを抜けたのかしら?と頭に疑問が浮かぶものの、侵入者が敵でも何でも無いただの一般人だとわかった。けれど、もうゆっくり食事を再開するなんて気分でもなくなってしまったので、とりあえずここから出ようかと入り口方面に足を向ける。
「クソが…これじゃあいつ出れんのかわかりゃあしねえ」
「確かにねぇ…」
廊下から食堂入口までたくさんの人が押しかけていて到底出られそうにない。食堂と廊下の間にある壁の材質はガラスで、パニック中の人達が我先にと前へ前へ詰め掛けているのがここからでもよく見える。
ふと、ガラス越しに廊下の様子を観察していれば、人の群れとは逆方向を向いている赤い髪と黄色い髪が見えて、よくよく目を凝らせばそれはクラスメートの切島くんと上鳴くんだった。人々のパニックの声やらなにやらで二人の声は聞こえないけれど、口の動きと身振り手振りでどうやら「落ち着いて!」と訴えかけているらしい。が、パニック中の生徒たちには届いていなくて、ここはお手伝いすべきか、とさらに近づくように入り口方面に歩を進める。
「あ?何する気だテメェ」
「彼処、見えるかしら?クラスメートの切島くんと上鳴くんが落ち着くように呼びかけてるんだけれど届いていないらしくて、少しお手伝いしてくるわね」
「はあ?彼処突っ込むんか」
「いいえ、ちょっと傍に寄るだけよ」
近くまでくれば先程は聞こえなかった怒声やら悲鳴やらが喧騒の中に混じって聞こえる。これは本格的に早くなんとかしないと怪我人が出かねない、と気合を入れて大きく息を吸い込んだ。
「♪Ama――zig gra―ce,how swee――t the sou――nd」
落ち着いてください、という気持ちを込めて個性でリラックス効果を乗せて唄を歌う。
「♪That sa―ved a wre――ck like me――」
まずはもっとも声が聞こえる手前側から何事だという感じで人々が振り返ってきた。
「♪I on――ce was lo―st but no―w I'm fo――und」
更に個性を込めて歌えば、徐々に少しずつではあるが此方を振り返る人たちが増えてくる。落ち着いた人達が増えるということは、それだけパニックが収まってきているということだ。もう少しかしらと最後の一小節に更に効果を乗せた。
「♪Was bl――ind but no―w I see――」
そして歌い終わると同時に何故かエンジン音が響く、その直後「グフッ」という悲鳴が。何事かと廊下奥の方を見れば、何故か飯田くんがメガネを外した状態で非常口の上にそっくりなポーズで立っていた。
「皆さん、大丈ーー夫ッ!!ただのマスコミです!!」
飯田くんの大きな声が響いて、今度はそちらの方に視線が集中する。
「何もパニックになることはありません!大丈ーー夫ッ!!ここは雄英!最高峰の人間に相応しい行動を取りましょう!!」
そして完全にパニックは収まった。だが私はまだこれで終わりではない。飯田くんの後に続くように私も声を張り上げた。
「皆さーん!今のパニックで怪我をしている方はいらっしゃいませんか?こちら保健委員なので手当できますよー!周りの方にも怪我してらっしゃる方はいませんか?どうか見てあげてください!」
正確に言うとまだクラス内で委員会決めはやっていないけれど、特別教室のことを一から説明してもキリがないし、この場合は嘘も方便だろう。
少しのどよめきの後にちらほらと「足を捻った」「擦り傷が…」という方たちが数人出てきた。足を捻った方はお友達の方に肩を支えられてこちらにやってくる様子が見えたので、慌てて一番近くにあった椅子を移動させてそこに座るように促す。
「どちらの足ですか?」
「み、右…」
「右足…少し触りますね」
「!いっつ!」
「…うん、ただの捻挫のようですね」
言って、いつものように光で治療していく。
「と、これでどうでしょうか?」
「すっげえ…君治癒の個性持ちなの?!やべえ足もう痛くねえ!」
「それは良かったです。…他に怪我をしている方はいらっしゃいませんか?」
「あの、あたし膝擦りむいちゃって…」
「ごめんなさい、私も…」
「俺もお願いします!」
「はい、順番に診ますからこちらにお願いします!足を怪我して歩けない方は、お近くの方!肩を貸して差し上げてください!」
幾人かの治療をしていけば、幸いどれもこれも擦り傷や捻挫などの軽傷のみで特に大幅に体力を使う間もなく治療が終わる。が、一人あたりが軽くても数が続けば流石に少し疲れるもので、最後の方の治療をした後に小さく息を吐いた。
「ふう……」
「わっ治ってる!ありがとう!」
「いいえ、他に怪我はないですか?」
「うん!大丈夫みたい!本当にありがとう!」
「いえ、治ったなら良かったです」
さて今のが最後の人のはずだけれど、もういないかなと周りを見回していれば、一人の男子生徒が「あの…」と近づいてきた。
「はい?」
そちらを見れば、何故か先程最初に捻挫の治療をした方が。他にも怪我があったのかしらと首を傾げていると、何故か顔を赤くして興奮気味に捲し立てた。
「さっきは手当ありがとう!ねえ君名前は?!何年何組?よければ俺と―」
「言わせねーよ!それよりさっきは俺も手当ありがとう!ただあっという間に怪我を治してしまった君にどうやら胸を撃ち抜かれたようなんだ。だからこっちも診て――」
「おいおい、ちょっと待てよ。胸を撃ち抜かれたのはお前だけじゃねーから!なあ君さっき個性使ってパニックを沈静化してた子だろ?すげえ綺麗な声だったな!今度一緒に―」
「ああ!君入試の時に一緒の演習場にいた天使みたいな子だろ?!俺あの時君に助けられて普通科に今いるんだけど――」
「天使!ああそうだねまさに天使だ!綺麗な歌声にその容姿や個性も相まってまるで天上の女神のような――」
「天使か女神かはっきりしろや!!つか俺が一番最初に話しかけて――」
「うっせえモブが出しゃばんじゃねえ!」
「誰がモブだお前だってモブじゃねえか!」
「んだとコラ!」
「えっあの、すみません喧嘩は……というかあの、え?怪我人はもういらっしゃらないんですか?」
いろんな人からいろんなことを捲し立てられてて正直全く聞き取れなかったけれど、なんだか今にも殴り合いの喧嘩が始まりそうな雰囲気で一人オロオロとしていると、気づけば勝くんが側まで来ていて「おら、藤乃行くぞ」と促した。
「え?でも、あれ放って置いていいのかしら…?」
「いいんだよそこら辺のモブなんざほっとけや」
「そう?まあそろそろ行かないと時間になっちゃうし……うん、もう怪我人はいないみたいなので、行きましょうか」
そっとその場を離れて勝くんと連れ立って食堂を出る。先程の警報で起こったパニックが嘘のように落ち着いていて、どうやらもう普通に教室まで帰れそうだ。
「お前ほいほい治し過ぎなんだよバカか」
「そうかしら…軽率だった?でも怪我人を放っておくのは…」
「ああ゛?保健室にはあのババアがいるだろうが」
「そのチヨ先生の負担を減らす為にやったのよ。まだ短い付き合いだけれど、厳しくもいい先生だもの。少しでも力になれればな、と…」
「だからってあの場ですることじゃねえだろ。ちったー考えろやボケ女。だから変なモブ共に群がられんだよクソウゼエ」
「ああ、あの人達…早口だし皆がほぼ同時に話すから何を話しているのかよくわからなくて…勝くんはわかった?」
「知るか。モブが何を言おうと興味ねえわ」
「もう…本当に口が悪くなったのねぇ。何人かは先輩もいたようだし、モブだなんて言っては失礼よ?」
「ハッ…モブはモブだろーが」
これは改める気がないなぁと苦笑しながら、来たときと同じように隣同士で教室への道を歩く私達だった。
やっと第四の能力(笑)が出せました。作中デクくん達3名も勿論その場にいましたが、藤乃ちゃんの位置からは見えなかったということで。お茶子ちゃんはともかく黒髪と黒に近い髪色なら埋もれるよね!切島くんと上鳴くんはまあ目立つ髪色なので気づいた、ということで一つ。
あ、制服verのなんちゃって藤乃ちゃんアバターを追加しましたので、よければあらすじからどうぞ!