ていうか!!ルーキー日刊の!!23位だって!!!(執筆時に確認した時点のモノ)
自分の作品がランキングに載るなんて……!
ありがとうございます!ありがとうございます!
「いッ……!」
あまり大きな声を立てると見つかるかもしれないので必死に歯を食いしばりながら携帯医療キットで治療する。できれば個性での治療をしたいところだけれど、思ったよりも傷が深いのか手持ちの小型懐中電灯だと光量が足りなかったので止血だけしかできなかった。薄皮一枚張った程度の傷はまだまだ痛くて、痛みを食いしばりながら包帯を巻いていく。
本当に、何がためになるかわからないものね…と小さくため息を付いて医療キットをしまう。怪我の場所が肩という自分で巻くには巻きにくい部位なものだから多少不恰好ではあるものの、一応治療はできたのでとりあえず一安心だ。
先程紅魔に投げたのは弱化閃光弾。通常の閃光弾はそもそも目と耳を潰して無力化するのが目的だから、いくら人より少し眩しいのに強い私でも通常の閃光弾は使えない。
でも、発現してからずっとこの個性と付き合ってきたのだ。弱点はわかっているので、夜や暗い屋内など光が少ない場所で戦えるようにコスチューム依頼の際発注していたのがこの弱化閃光弾。けれど、音はともかく光の調節が難しいのか、量産ができなかった為手元にあったのは2つ。そのうちサポート科の先生にでも相談しようと先延ばしにしていたのが悔やまれる。
手元にはあと1つ。先程紅魔の攻撃を避けながら翔んでいた際、ご丁寧に街灯も一緒に攻撃していたのでますます外の光は減っているはず。ならば私が攻撃手段を確保できるのはこの残り一つを使った時のみだけれど、逆に言うとそのチャンスを逃すともう私に使える攻撃手段は大幅に減る。
一応翼は無事なので風を起こしたり、母ほど器用には扱えないけれど羽を飛ばしたりくらいはできるけれど、それもあの相手にどこまで通用するか……。皆はどうしているのだろうか、とふと考えて、ワープ直前に藤乃と呼んでくれた声を思い出した。今は……なんとして此処から脱出しないと……!!
「ふーじーのーチャーン?かくれんぼかい?」
外から私の名前を呼ぶ紅魔の声が聞こえる。
「いや違う、どっちかというとかくれ鬼か!あはは、いいよーかくれ鬼しようか!ボクが鬼だよね?じゃあ捕まったら藤乃ちゃんにはボクと一緒に来てもらうね!」
ケラケラと笑って何が楽しいのか全くわからないけれど、とりあえずまずはこのフィールドから出ないと満足に個性も使えない。本当に圧倒的に不利な状況にため息をつきたくなる。
「けど、さっきの攻撃は凄かったなー。あの拘束を抜けるのにちょっと時間食っちゃったよ」
声を聞きながら、音を立てないようにビル内部を進んで外へ向かう。声や翼の羽ばたく音の方向からして、おそらく少し離れたところで翔びながら、私を探しているであろう紅魔に見つからないように慎重に足を動かす。
「君の個性は光だろう?だから黒霧に頼んで此処に送ってもらったんだー。もう気づいてるかもしれないけれど、ボクの個性は闇だよ。本当に何から何まで真逆だよね!」
一番最初に私の矢を防いだ壁、次いで先程嫌という程撃ち込まれた黒い矢の雨。あれが私の個性と似たような原理であるのなら、確かに真逆と言える個性だろう。そして、このフィールドが相手にとってどんなに有利かも嫌という程理解した。
「ボクさ、すっごく興味あるんだよね!…天使と悪魔の間から生まれた子供は果たして……」
ふいに声が途切れた。
一体何が言いたいのだろう。何故子供を産んで欲しいだなんてふざけたこと言ってきたのか知らないし知りたくもないけれど、少し気にはなる。
けれど、今はそんな場合ではないと先を急げば、ビルの出口らしきところを前方に見つける。とそこで、翼の羽ばたく音が聞こえたので慌てて身を隠せば、近くを翔んでいるのか再度紅魔の声が聞こえた。
「うーん、このままずっとかくれ鬼しててもいいんだけど、ちょっと飽きてきちゃったな。よしフィールドをちょっと変えよう!」
言った瞬間、ドォオンッという轟音が響いて、振動でパラパラと砂埃が降ってくる。
「さーて藤乃チャンの隠れてるビルはどれかなー?」
破壊音と笑い声、近くで感じる地響きに、個性でビルを破壊し回っているのを察した。
自分で付き合うと言いながらなんて耐え性のない…!と険しい顔になるものの、どうすればいいかと必死に頭を巡らせる。しかし、考える間も与えてはくれないつもりなのか、「ここかなぁー?」という声と共にとうとう私が潜んでいるビルの隣への攻撃が始まった。このままではこのビルにも攻撃が始まってしまう。
策は何も浮かばないものの、瓦礫の下敷きになるだなんて遠慮願いたいので、意を決してビルの出口から外へ出て、再び翼を出して空へ舞い上がった。
「お、そこにいたんだねー?藤乃チャーン」
案の定早々に見つかって再び始まる鬼ごっこ。出口を探しながら逃げる私と、黒い矢を降らせながら追いかけてくる紅魔に、残り一つの閃光弾を使って何ができるか考える。
と、ここでようやっと出口らしき扉を見つけた。
「出口…!」
外にさえ出られれば!光さえあれば!
逃げながらずっと探していた、やっと見つけた希望とも言うべき出口。自分では決して気を緩めていたつもりは無かったけれど、気づかぬ間に気が緩んだのか、肩をやられたときのように右の太ももと右腕に突如凄まじい熱を感じた。
「あああああッ!!」
先程とは比じゃないくらいの痛みに思わず翼から力が抜けて落下し始めてしまう。どうやら矢が貫通したらしく、矢自体はすぐに消えたものの貫通した傷口が顕になりドクドクと赤い血が流れていた。
咄嗟に受け身を取ろうとしたため全身を硬い地面に打ち付けるようなことにはならなかったけれど、体制が中途半端になってしまった為にずざざ…と音を立てて道路を滑るように不時着する。
なんとか立ち上がらないと…!力を入れるも、紅魔にやられた傷や、着地の際に出来た擦り傷や打ち身であちこちが痛くて思うように力が入らない。
動け…動け…!と必死に身体を震わせる私に、嗤う悪魔の声が響く。
「あはは、良かったねー!出口見つけられて!…でも、油断しちゃダメじゃないかー藤乃チャン」
地面に降り立ったのか、コツ…コツ…と音を響かせて此方に向かってくる紅魔。
逃げなきゃ、逃げなきゃ逃げなきゃ…!
理由なんか知らないけれど、相手は私に『子供を産んで欲しい』と言った。これでも医療に携わるものとして小さい頃から勉強しているのだ。それが
ほんの少しだけ、今だけ女の身の自分に悔しさを覚えながら、動かない身体に喝を入れて無事な左半身を使い必死に這って出口まで向かう。矢が貫通した腕と太ももから溢れた血が地面に線を描きながら水たまりのように広がっていった。
「ああ、あんまり動かないでよ。出血過多で死んじゃうよ?大丈夫、大事な身体だからね!ちゃーんと後で治療してあげる」
背後から迫ってくる靴音。目的の出口まではあと数m。身体が痛みという危険信号を絶えず発しているけれど、それよりも早く脱出を…!
無我夢中で身体を動かしていれば、とうとう「はい、終わり」という軽快な声と共に右肩の傷口を掴まれて痛みに悲鳴が零れた。
「!!ッああぁッ!!」
「おっとごめんね?そういえば肩も怪我してたっけ。まあそれも後で治してあげるから大丈夫だよー!…さあて、藤乃チャン、つーかまーえ――」
言い切る前に突如すぐ近くで轟音が鳴る。
一体何が起こったのかと顔を上げれば、すぐ近くの壁に穴が開いていた。
外からの眩い光とともに一人の人物が立っているのが見える。
うさ耳のようにピンと立つ前髪、筋骨隆々な逞しい身体、そのシルエットは―
「はぁ…はぁ……加減を知らんのかッ…」
誰に向けているかわからないけれど、そう呟きながら肩で息をしているオールマイトが立っていた。
一瞬助けに来てくれたのかと思ったけれど、オールマイトの様子が何だかおかしいことに気づく。
ヒーローコスチュームではなくスラックスにシャツという格好で既にあちこちボロボロ。そして此方に背を向けて腕を十字に組んでいるように見える姿は、まるで何かの攻撃を受けて壁に激突してしまった様な状態で……
「オール…マイト……?」
思わず呟いた声を拾ったのか、此方に背を向けていたオールマイトがちらりと後ろを振り向いた。
「!!天使少女ッ?!」
「!なにッ?!藤乃がいんのか?!」
「え、天使そこにいたのか?!」
オールマイトだけでなく少し遠くの方から勝くんや切島くんの声も聞こえて、突然の出来事に私も、そして紅魔も呆気にとられていたけれど、オールマイトが壊してくれた壁のおかげで今は光がある!
正気に戻るのがほんの少しだけ私のほうが早かった為、瞬時に光球を展開して未だ私の肩を掴みながら傍にしゃがみこんでいる男に向かって全力で至近距離から光を放った。
「!うわっ」
ほぼゼロ距離からの集中砲火。これでもヒーローの卵、矢の状態であの距離から放ってしまうと流石に殺しかねないと思い球状にしたのはせめてもの理性か。
今度はちゃんと当たったらしく、吹っ飛んだ紅魔の身体が近くのビルに突っ込むのを見ながら今度こそ身体を起こそうとすれば、突然ものすごい速さで目の景色が変わった。
「え…」
いつの間にやら気づかないうちにオールマイトの腕の中にいて、一拍してから抱き上げられ移動させられたのに気づいたけれど、早過ぎて見えなかった…と少し呆然とする。
「天使少女…一人でよく頑張った…!」
腕の中の私を見下ろしながらいつもの笑顔でそういうオールマイト。
明るい場所、傍には信頼できるヒーローやクラスメートがいて、逃げ切れた…捕まらなくて済んだ…!
安堵で少しだけ目尻に涙が浮かぶ。
「藤乃ッ!!」
浮かんだ涙を無事な左手の指で拭っていると勝くん達が側に来た。
「勝くん…無事で良かった…。切島くんも轟くんも緑谷くんも、大きな怪我は無さそうね…」
「バカがッお前が一番重傷だろうが!何言ってんだボケがとっとと治せやッ!!」
「えっと、あはは…ちょっと不利なフィールドで戦ってて…つっ。それより、オールマイト先生!助けていただいてありがとうございます!ですが、その傷は…!」
傷に触らないように優しく地面に下ろされたけれど、眼前に立つその姿は、平和の象徴やトップヒーローとは思えないほどの有様で。一見すると血が滲んでいる左脇腹の傷が深そうだった。
「HAHAHA、なあに!これしきの怪我でやられる私じゃあないよ!…それよりも君のほうが酷い怪我だ。治せるかい?」
「は、はい…!でも、私より先にオールマイトを――」
言いかけた私の言葉を遮ったのは、あの灰色の男だった。
「――へえ、ガキを庇うとは…流石平和の象徴様だなぁ!」
その言葉に、私に向けていた笑顔を引っ込めて剣呑な顔つきで
「でも、仕方ないよな?こっちは仲間を救ける為に力を奮っただけ。さっきもそこの…地味顔のやつ。ソイツが俺に殴りかかろうとしたしな?…他が為に振るう暴力は美談になる。そうだろ?ヒーロー…!」
まるで演説するかのように両の手を広げて更に男は続けた。
「俺はなオールマイト、怒ってるんだ!同じ`暴力`がヒーローとヴィランでカテゴライズされ良し悪しが決まるこの世の中に。何が`平和の象徴`…所詮抑圧のための暴力装置だお前は…!暴力は暴力しか生まないのだと、お前を殺すことで世に知らしめるのさ…!」
「めちゃくちゃだな…そういう思想犯の目は静かに燃ゆるもの…自分が楽しみたいだけだろう、嘘つきめッ!」
「ハハッ…バレんの早…!」
ニタリと顔についている手、指の隙間から目を三日月状にして楽しげに笑う
もっともらしい思想を語ったかと思えばすぐバレるような嘘をついたりして何がしたいのかわからないけれど、手負いの状態では完全に足手纏いになる私は、とりあえず移動ができるようにだけでも!と足の治療から始める。
「天使さん、大丈夫ッ?!酷い怪我だ…ッ」
「めちゃくちゃ血出てるじゃねーか!クソッ女の体にひでーことしやがる…!」
「緑谷くん、切島くん、大丈夫…すぐに治しちゃうから。さっきまで暗いところにいたから満足に個性が使えなくて…。…あの、轟くん」
「!…なんだ?」
「ごめんなさい、少し薄暗くて光量が足りないの。炎を出して頂けないかしら?」
施設内で先程よりずっと明るいといっても、如何せん傷が深い。早く治す為にも轟くんにお願いすれば、「わかった」と言って私の傍に膝をつき、左手から炎を出してくれた。
その炎の光を頼りにまずは太ももの傷に手を翳す。やはり貫通した傷跡ということでいつもより少し時間はかかったものの綺麗に傷が消えてホッとしながら立ち上がった。
しかし、血を流しすぎたのが立った瞬間にくらりと視界が回って少しだけフラつくのを誰かが私の腰を引き寄せたことにより今度こそしっかりと立てた。誰が支えてくれたのかとそちらを見れば…
「勝くん…」
「チッ…大丈夫かよ」
「ええ、大丈夫…ありがとうね」
お礼を言いながらやんわりと離れてそのまま腕の貫通した傷も治してしまえば、後は肩の裂傷のみだ。一番深い傷は治したので、轟くんにお礼を言って炎を収めてもらった。
「…天使、平気か?」
「ええ、本当にありがとう、轟くん。深い傷は治したからあとは大丈夫よ」
「いや、別にいい。…さて、これで3対5、…いや6だな…」
5と言いかけた轟くんが私をちらりと伺ってきたので、私も戦えると意思表示するように頷けば言い直された。
白いコスチュームの右半身は先程までの怪我で血塗れだけれど、光がある場所ならば私もちゃんと戦える!気合いを入れるように拳をぎゅっと握りしめ
「靄の弱点はかっちゃんが暴いた…!」
「とんでもねえヤツらだが、俺らでオールマイトのサポートすりゃあ撃退できる…!」
各々が構えだした時に、「ダメだッ!」というオールマイトの鋭い声が静止をかける。
「逃げなさい…!」
「……さっきのは俺がサポートに入らなきゃヤバかったでしょ」
「それはそれだ、轟少年。ありがとな!……しかし大丈夫ッ!プロの本気を見ていなさい…!」
「でもオールマイト…!」
「大丈夫だ…緑谷少年!」
そして向き合う
「脳無、黒霧、やれ。俺は子供をあしらう…」
と、ぽつりと呟いた。能力は未知数だけれど主要陣の一人、紅魔アギトとどっちが強いのかはわからないがきっと一筋縄ではいかない相手が私達に向かってくるのを察して身構えていれば、私達がいるところの後方、先程まで一人戦っていた夜のフィールドのドームにぽかりと開いた穴からがらりと音がした。
ハッとしたように振り返れば、先程嫌という程見た姿が。
「あーあ、せっかく捕まえたのにまさかのオールマイト登場とか……ツイてない」
来ていた黒い服はボロボロで瓦礫で切ったのか所々に裂傷が見られるが、軽口を叩けるだけ元気なのだろう。でも、先程の攻撃が直撃してなったその姿に、ようやっと一矢報いたようで少しだけ胸がすっとした気がした。
「しーがーらーきー!お前オールマイト殺すんじゃなかったの?ボクの邪魔はしないって話だったよね?」
「はあ?お前こそ、女のガキ一人捕まえられないでそのザマかよ…!おまけにお前のターゲットは治癒の個性持ち…邪魔してるのはどっちの方だか…」
軽い調子で言い合いしている敵達。まさかの挟み撃ちのような状態に思わず眉間に皺が寄る。
「まさかあそこであんな攻撃してくるなんて…あーあ、せっかく僕に有利なフィールドだったのになぁー」
つまらなそうに呟きながら服の埃を叩く紅魔に、私達は身体の半身を背後に向けて、前と後ろを同時に警戒さるように構える。
「…おい、天使」
「轟くん…?」
「アイツがお前と戦ってたヤツか?」
「ええ、名前は紅魔アギト。個性は『悪魔』で、私と似た個性よ。空を飛んだり、黒い球体…闇を操ってそれを変形させたり…」
「なるほどな…で、自分に有利な暗いフィールドに天使を引きずり込んだのに、オールマイトの偶然のおかげとは言え取り逃がしたワケか」
「……はぁ?」
最後の煽るような轟くんの言葉に、服の埃を叩いていた手を止め、不機嫌そうに紅魔が反応する。
「くくくっ…アギト、お前ガキに言われてるじゃんか…!」
「煩いよ死柄木。…まぁボク大人だし?ガキの戯言にいちいち突っかかるほど子供じゃないからぁ?……今なら藤乃以外全員嬲り殺しで許してあげるよ…!死柄木、ガキ共はボクがやるからお前らはそっちで勝手にやってな」
「そーかよ」
「さあ藤乃…第二回戦と行こうか?」
言いながら黒球を展開し多量の矢を放ってくる紅魔アギトに、私も同じだけ光球を展開してそれを撃ち落とすように放つ。
「!!皆ッ!」
「オールマイトはそちらに集中を!この人は…私が――」
「俺`達`がだボケッ!」
「…ええ、私達が相手をします…!」
「しかし――」
何を言い募るオールマイトの言葉を聞きながらも、お返しとばかりに更に弓矢を具現化して追撃。手応えは感じなかったものの、すぐ様飛び上がる紅魔を地上から矢でどんどん狙い撃ちしていく。
「あーあ、明るい場所に出た途端元気になっちゃって……本当、さっき捕まえられなかったのが悔しいなぁ…!それに、仲間もいるからボクに勝てるって思っちゃってるのかな?さっきあんなにボロボロにしてあげたのに?」
「…そうね、一人で逃げながら戦っていた先程よりずっと気が楽よ?それに…ここでなら先程のようなことにはならない、わ!」
話しながら多量の矢を撃ち込んでいけば、怪我をしているにも関わらず器用に飛び回り避けられる。
そうして今度は不利な状況下ではないフィールドでの第二ラウンドが始まろうとしていたその時―――オールマイトの方から凄まじい気配を感じて思わず振り返った。
「ッえ…?」
目にも留まらぬ速さで脳無に向かって行くオールマイト。そしてオールマイトを迎撃するように拳を振り上げる脳無。二人の拳がぶつかった時、辺りに強烈な風圧が広がった。
「ッキャアァア!」
「ぐッ!」
「うおおッ!」
あまりの風圧に少し飛ばされたものの何とか地面にしがみつき、足と地面を縛り固定するように光の輪で拘束して耐える。強風ではっきりと目を開けられない中でも腕を壁になんとか状況を確認しようと薄目を開いて前を見れば、一発…二発…と音からしてとても重い拳を繰り出しているオールマイトと脳無。
「おいおい…さっきショック吸収って自分で言ってたじゃんか…!」
「そうだなァッ!!…ハァァアアアッ!!」
死柄木と呼ばれていた灰色の髪の男の言葉に頷きながら、吠える声とともに繰り出されるとてつもないラッシュ。拳の殆どがもう目で追えぬくらいの速さで、オールマイトも勿論凄いが、それに対応しているように見える改造人間脳無の力にも驚く。
「な、なんて風だ…!」
「すっすげえ…ッ!」
「ぐっ……!」
打ち合うたびにどんどん強くなる風圧に轟くんや私と違って地面に身体を固定するすべを持たない勝くん達。彼らの方に腕を翳して飛ばされないように足を地面に固定してあげれば、驚いたようにこちらを見たのが視界の端でわかったけれど、直様視線をオールマイトに戻す。
「君の個性がショック無効ではなく吸収ならァァア!!限度があるんじゃないかァァア!!」
見ただけではもう何発打ち込んだのかわからないくらいの数の拳。ふいに脳無が放ったその一つが、オールマイトの左脇腹の傷に直撃して一瞬だけ体制を崩したように見えた。が、体制を崩したのは本当に一瞬のようで、直様脳無を押し返し始めた。
「私対策?…私の100%の力に耐えるなら…!更に上から捩じ伏せようッ!!」
何発も何発も脳無の身体に拳を叩き込み、ついに脳無の身体が体勢を崩した。そこを全力で地面に叩きつけるように殴りつけ、あまりの威力に脳無が地面にバウンドして宙に浮く。そして――
「
脳無の腹部に、今まで見た中で一番強烈な一撃が入った。
「コミックかよ…ショック吸収を無いことにしちまった…!究極の脳筋だぜ…!」
「デタラメな力だ…再生も間に合わねえほどのラッシュってことか…!」
風圧が止み、皆で立ち上がりながら天井を見上げる。
そこにはポカリと大穴が開いて、燦々と日光が降り注いでいた。
オールマイトの最後の一撃、それによって脳無の身体がまるで彗星のように空へ消えたのはつい先程の光景だ。切島くんが言ったように、まるで本やアニメのような光景が目の前で起きて、その力に愕然とする。
「これが、オールマイト…平和の象徴…!」
出した声は自分でもわかるほどに驚愕をその声音に乗せていた。
「…やはり衰えた……」
オールマイトの言葉にハッと我に返ってそちらを見れば、拳を振り抜いた姿勢から戻し、困ったように笑いながら立っていた。
「全盛期なら5発も打てば十分だったのに……300発以上も打ってしまった…!」
戦闘の名残である土煙が舞う中、呟いたその人はもう全身ボロボロで…先日保健室で見た姿が脳裏をよぎる。とりあえず回復を…!と足を一歩踏み出したところで、バッと掌をこちらに向けて静止を促したオールマイト。その仕草に足を踏み止まる。
「……さてと
私達の方を向いていた身体を残りの
「お互い、早めに決着をつけたいね…!」
不敵に笑いながら言うオールマイトに、黒霧は警戒を顕にし、紅魔は「あーあ」と言いたげな風で天上の穴を見上げ、そして死柄木はわなわなと身体を震わせていた。
「チートかよ…ッ!」
途端ガリガリと首を掻きながら呟く。
「おいおいどういうことだ…全然弱ってないじゃないか…ッ。`アイツ`…俺に嘘を教えたのかッ?」
ブツブツと呟く死柄木の言葉に、アイツ…?誰か情報提供者がいるの…?と、気になる一言が出てきて一瞬そちらに意識が向くも、ガリガリと首を掻き毟る音が言葉の合間に聞こえてきて不気味さが募る。
「…どうした」
「ッ!!」
「来ないのか…?クリアとか何とか言ってたが…出来るものならしてみろよ…!」
聞いたことのないような低い声でオールマイトがそう言えば、死柄木は「うぅ…ッ!」と悲鳴のようなものを零して後ずさる。
そして、そこに場違いなほど呑気な声が響いた。
「…なあ、今日はもう帰らない?藤乃チャン捕まえるのはオールマイトのせいで失敗するし、オールマイト対策した脳無は空の彼方だし、お前らはともかくボクは疲れたしぃ…」
「はあ…?」
「!!紅魔アギト…何をッ!」
戸惑うような死柄木と黒霧の様子に構いもせず怠そうに言う紅魔。
「だってさー?連れてきた雑魚は全滅、脳無もいない。おまけに藤乃ちゃんは怪我を治してピンピンしてる。向こうには無傷のガキが他にも4人、怪我しているとは言え脳無ぶっ倒したオールマイトでしょ?そもそも誰がオールマイト相手すんの?ボクは嫌だよ?こんな明るいところでオールマイトの相手すんの。そもそもオールマイト殺したいのはお前らの目的じゃん?ボクは藤乃チャン手に入れればそれでいーしさ」
「お前…何勝手なことを…ッ」
「はあ?オールマイトにビビって後ずさったヤツにとやかく言われたくないんですけどー?」
「お前…アギトォ…!!」
一触即発といった雰囲気で何やら揉め始めている
「落ち着いてください…死柄木弔、紅魔アギト!確かに脳無はもう手元にはいませんし、あと数分もしないうちに増援もくるでしょう。しかし、やられたとはいえ手下は死んでいませんので使えるヤツらは残っている。それに…よく見ればオールマイトにも脳無にやられたダメージはあると見える。私達で連携をすれば――」
「アホらし。つーか増援来るの?なに、黒霧お前取り逃がしたわけ?」
「それは……ッ」
「オールマイトにダメージがあるからなんなんだよ。手負いの状態で殺せるならとっくに`先生`が殺してんじゃないの?」
先生…?また気になる単語が出てきた。先程の死柄木のアイツという言葉と、紅魔が言った先生。同一人物かそれとも――
「ボク的には一旦引いて、体制立て直したほうがいいと思うんだけどー?」
「目の前にラスボスがいるのぃ……!くそっ!」
「死柄木弔……」
「…チッ…しょうがねえ。黒霧、帰るぞ」
「っ!よろしいのですか?」
「いいさ、今日はあっちに勝ちを譲ってやる」
「だけど―――」
言葉を区切った死柄木の身体が一瞬靄に包まれて視界から消えた。
「一人くらい殺して、スコア稼いでから帰りたいよな…?」
突如緑谷くんの目の前に靄が出現して、上半身だけ靄から覗かせた死柄木の手が迫る。
「緑谷くんッッ!!」
悲鳴のような声で名前を呼ぶも、迫る手に反応できてない緑谷くんに、私もそして勝くん達も手を伸ばそうとするけれど、
「(間に合わ、ない…!)」
そして死柄木の手があとほんの数センチで緑谷くんに届くかというところで……パァンッと一発の銃声が響いた。
「ぐぅッ…」
呻くような声が聞こえた後に靄の中に戻っていく死柄木。緑谷くんの前に発生していた小規模の靄は霧散して、地面には血痕があった。
「クソ…もう来たのか…!」
忌々しげに呟く死柄木は、右手を撃たれたのか血を流していてその手を抑えていた。
その様子にもしやと思って銃弾が飛んできた方向を見れば………雄英の先生方がずらりと並んでいるのが遠くに見える。
「増援が……!」
「来たのか…!」
遠くて声は聞こえないけれど、ミッドナイト先生やプレゼント・マイク先生などプロヒーローがずらりと並んでいるのは壮観だった。完全に捕縛していなかった
「はい、ゲームオーバー。さ、とっとと帰ろ……と、うわっ!」
断続的に銃声が鳴る中、きっとスナイプ先生の個性だろう弾丸が眼前の
壁や靄で防いだ紅魔や黒霧には当たらなかったけれど、死柄木には両足に当たったらしく、少し体勢を崩したものの、追撃で迫る弾丸はそのまま黒霧の靄に防がれ、そしてそのまま
が、そこで靄自体が何かに吸い込まれるように揺らいだ。その方向を見れば、瀬呂くんと砂藤くんに身体を支えてもらいながら13号先生が指先を黒霧に向けていたので、先生の個性だろう。
吸い込まれて少しずつ引きずられながらもどんどんと身体を覆っていく靄。その中で顔だけまだ見えている死柄木が言った。
「あーあ、結局一人も殺せずかよ…!今回は失敗したけど、次は殺すぞ…!平和の象徴…!」
真っ直ぐにオールマイトを見据える死柄木。そして、続くように紅魔を口を開いた。
「藤乃チャン、また会いに来るねー!その時は……今度こそ、手に入れるよ」
ニヤリと笑いながら金色の目を爛々と輝かせてそう言った紅魔。
そして靄が消えるとともに彼らの姿は音もなく消えたのだった。こうして、私達の最悪な一日の幕は降りた――
敵の主要陣が去り、駆けつけてくれた先生方が手下の
戦いは終わったけれど、私にはまだやることがある、と足を踏み出して静かにオールマイトに駆け寄れば、そこにはいつか見たあの痩せこけた姿で地面に座り込んでいた。
土煙がまだ浮かぶ中、近くに来た私以外には見えなくてよかったと心底安堵しつつ先生に声を掛けた。
「オールマイト先生…」
「ああ、天使少女…HAHA、この姿を君に見られるのは2回目だね…そうだ、時間を取ると言いながら連絡できずすまない。この件が終わったらすぐにでも――」
「いいんですよ、そんなのいつでも。…さ、まずはお腹の傷から治しますね…」
「すまないね…だが、そこだけ治したら相澤くんのところに行ってもらえないか。意識がなかったのが気になってね…きっと彼も酷い怪我を負っている」
「でも…」
「きっと君も本当は身体が辛いはずだろう?なら、その体力と力は彼の為に使ってあげて欲しい…」
「オールマイト先生…」
自分だって満身創痍のはずなのにそれでも他の人を優先させるその人に、なんとも言えない気持ちになりながら治癒をしていれば、「オールマイト!」と小声で叫びながら緑谷くんが近寄ってきて、そしてオールマイトと一緒にいる私を見て目を丸くした。
「ええ、あっ天使さんッ?!えっいや僕はその…!」
「大丈夫だ、緑谷少年……詳しい話はまだだが、天使少女も`知っている`んだ…」
「なっ!なんで…!」
「その話も含めて後日ちゃんと時間をとるよ、今度こそ約束だ、天使少女。…さ、もういいから、早く相澤くんのところへ…」
「ッはい」
腹部の傷が消えたのを確認してから、驚愕の表情で私を見ている緑谷くんをちらりと見て、それから駆け出した。
そして背に翼を出して一刻も早く相澤先生の元へたどり着くように空へ舞う。眼下では先生方と
きっと他の人達が固まっているのは入口付近だろうと真っ直ぐにそこへ向かえば、案の定皆が居た。
「!…藤乃ちゃん!」
上空からやって来た私に気づいたお茶子ちゃん達。無事な姿にほっとするも、急いで地面に降り立ち「相澤先生は?」と問えば、救急隊がまだなのか地面に仰向けで寝かされている姿を指さされる。
「先生酷い怪我で…全然意識無くて…!でも藤乃ちゃんもそれ、凄い血が…!」
「ああ、私のは大丈夫よ、もう治してあるから。それより相澤先生の怪我を…!」
「藤乃ちゃんの個性なら治せるかしらッ?相澤先生、私達を助けるためにかなり無茶をして…あの黒い大男の
泣きそうな顔で訴えるお茶子ちゃんと梅雨ちゃんをなだめながら先生の方へ足を進める。黒い大男の
そして先生のもとにたどり着いて状態を見れば、全身ボロボロ、手足はあらぬ方向を向いてまさに満身創痍といった風体で硬く目を閉じていた。僅かにだが胸が上下しているのがわかって、自発呼吸はできているようでほんの少しだけ安心する。
しかし、目の周りが紫色に腫れ上がっていて恐らく顔面か眼窩ら辺の骨折を起こしているのは見て取れた。先生は目の個性故にまずはそこからやらないと今後に関わるかもしれない…!と手足の骨折より先にそちらから始める。
脳に出血などがあった場合は私の力じゃどうにもならないけれど、骨折ならば…!
先生の顔面に両の手を翳して治癒し始めた。
バサリと音を立てて背の翼が先生の身体を覆うように広がり、手に光が集る。ただでさえ疲労困憊と貧血の中ごっそりと自分の力が抜けていくのを感じるが、力が抜けるその感覚に、やはりどれほど酷い怪我なのかというのを再認識した。
時間にして数分は経っているものの、一向に治らない光。これほどの怪我を治すのは初めてだからどのくらい時間がかかるかわからないけれど、疲れた身体に喝を入れて個性を使えば、そんな私とは裏腹に光が淡く点滅し始めた。これは……マズイわ…!
「くっ…!足りない…!」
「え?え?何が足りないの?!」
「光…!光量が足りないの…!本当に酷い怪我…お願い誰か!光を頂戴!ライトでも炎でも何でも良いの!」
「光?!光って、どうすればいいの?!あ、携帯のライト?!って今持ってない!」
「…天使、これでいいか?」
混乱するお茶子ちゃん達を他所にずいっと差し出されたのは赤い炎。
私も自分の怪我を治すのにお世話になった轟くんの個性だった。
「…オラッ藤乃。これでいいんか」
そして逆側には両の手から火花をバチバチと発生させて光を生み出してくれる勝くん。私が空を翔んでここに急いできた時はまだ二人は広場の方から移動中だったのに、戻ってきたんだと察した。
正直今すぐにでも意識を飛ばしそうな程私の体力気力は限界が近いけれど、二人が力を貸してくれたのだ。それに、最初に私を助ける為に動いてくれた先生なのだから、絶対治します…!と気合で持ち堪えて、更に個性の発動を強める。
「うッぐう…!」
「藤乃ちゃん…!」
自分でも無理をして個性を使っている自覚はある。額に脂汗が浮かぶのをそのままに、梅雨ちゃんの心配そうな声が聞こえるけれど返す余裕はない。ただただひたすらに意識を手の光に集中させていれば、やがて徐々に徐々に光が収まってくる。
そうして完全に光が収まりゆっくりと手をどければ、目の腫れは治まっていつもの無精髭を生やした顔が見えた。
「はぁ…はぁ…よかった…っ。」
「藤乃ちゃん大丈夫?!」
「フジノン、顔色が…!」
「だいじょ、ぶ……あとは、てあし、を……!」
まだ怪我は残ってる。他にも怪我人はいる…!そう思うも、既に限界を超えて個性を使用していた私は、そのまま後ろに倒れ込んだ。意識が薄らぐ中、誰かが倒れる私の背を支えてくれたような気がしたけれど、誰かを確認するまでもなく私の意識は闇沈んだ。
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某県某所のBAR
「いってぇ…っ。手と両足を撃たれた…完敗だ…ッ。脳無もやられた!手下どもは瞬殺だ!子供も強かったァ…ッ!」
黒霧の靄の中から出てくるなり店内に倒れ込んだ死柄木が言う。
「なぁ…平和の象徴は健在だった……話が違うぞ先生ェッ!!」
そして暗闇に《SOUND ONLY》の文字が浮かぶ液晶画面から、声音からして壮年だろうか。低い男の声が響く。
《違わないよ。ただ見通しが甘かったねぇ…》
続くように老人の声が聞こえた。
《ふむ、舐め過ぎたな。『
小馬鹿にしたように言う老人が更に続ける。
《ところで、儂と先生の共作、脳無は?》
《回収してないのかい?》
その質問に、一拍置いた後、まるでバーテンダーのような格好をした黒霧が口を開く。
「吹き飛ばされました」
《なにッ?!》
「正確な位置先がわからなければ、いくらワープとは言え探せないのです、そのような時間も取れなかった…!」
絞りすように答えた黒霧の言葉に、《せっかくオールマイト並のパワーにしたのに…!》という老人の悔しげな声が部屋に呻く。
《ま、仕方ないか。残念。…そういえば、アギトの方はどうだったんだい?会えたんだろう?》
「会えたよー!超可愛かった!ボクの子を産むなら藤乃チャンしかいないね!」
《ははは、良い出会いだったようでなによりだよ》
「ただ、途中オールマイトやらの邪魔が入ってね…もう少しだったのにさー。まあ次はうまくやるよ」
楽しげに答える紅魔の声を聞いて、また壮年の男は少しだけ笑った。
《へえ、そんなに良い子だったのかい。僕も会ってみたいねぇ…》
「嫌だよ。先生に会わせたら壊されるか
《おやおやこれは手厳しい…ははは》
《…弔。今回はこのような結果になってしまったのは仕方ない。だが決して無駄ではなかったはずだ。精鋭を集めよう。じっくり時間をかけて》
「ああ……」
《我々は自由に動けない。だから、君のようなシンボルが必要なんだ…なあ、死柄木弔。次こそ、君という恐怖を世に知らしめろ》
「…わかってるよ―――先生」
やっと終わったぞー!USJ編!
ってあれ?次は体育祭と職場体験……?
oh…また難産の気配を察知。早く日常が書きたいんじゃー!
閲覧、ありがとうございました!