天使なヒーロー!   作:寧太

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っだああああああ!日刊3位ってマジかぁぁあああああ!!!(執筆時のモノ)
ありがとうございますぅぅうううう!!!


12 戦いの後

 

 

「やぁ、塚内くん!」

 

うすぼんやりとした意識の中、オールマイトのなんだか嬉しそうな声が聞こえた。ついで聞こえた知らない男の人の声。

うっすらと目を開ければ何処かで見たような天井。身体は柔らかな布に包まれていて、おそらくベッドか何かに寝かされているのを悟った。

 

「ここ、は…」

「!目が醒めたのかい?天使少女!」

 

寝起きでぼんやりとした頭で声の方を見れば、隣のベッドで身体を起こしているオールマイトとベージュのコートを来た見たこと無い男性。そして、いつもの位置に座っているチヨ先生がいて、ここが保健室なのを知る。認識した途端、ガバリと勢いよく起き上がった。

 

「なっなんで私保健室に…いえ、それよりも相澤先生達は?!」

「まあまあ落ち着きなさい天使少女。…彼は塚内くん。私の友人の刑事さんでね。今他の子達の様子について聞こうとしていたんだよ」

「藤乃、アンタ血を流しすぎたのと個性の使いすぎで倒れたんだよ。まったく、事態が事態なだけに文句は言えないけれど、それにしたっていつも口を酸っぱくして《自分の限界を知れ》と言ってるのにっ。課題増やしたほうが良いかね?」

「チっチヨ先生……!」

「まあまあリカバリーガールも落ち着いてください。…はじめまして天使藤乃さん。警視庁の塚内といいます。君のお父さんとは面識があってね。写真は見せてもらったことがあるんだが、実際会ったのは初めてだね」

「父が…」

 

警察とヒーロー、共に治安を守る組織として自ずと接点はあるだろうけど、オールマイトの友人である刑事さんとも面識があるとは…と素直に驚く。

 

「して、塚内くん。他の皆の様子は?」

「ああ、貧血と疲労で倒れた天使さん以外は数人が軽傷。イレイザー・ヘッドも13号も命に別状はないそうだよ」

「そうか…」

「そうそう天使さん。病院から連絡があったんだけどね」

「!はい…」

「イレイザー・ヘッドなんだが、身体はボロボロなのに首から上は無傷だっていうのでだいぶ驚いていたよ。脳にも損傷はなし。…医師の話しだと、顔面が骨折痕だらけで、下手したら目の障害が残るほどだったそうだ。君の個性のおかげだよ」

「そう、ですか…!良かった…良かった…!」

 

他の怪我の治療をする前に倒れてしまった私だけれど、それでも、少しでも助けられることができて本当に良かったと胸の前で拳を握りしめながら、安堵と嬉しさで涙が頬を伝うのを指で拭う。

 

「3人のヒーローが身を挺していなければ、生徒らも無事じゃいられなかっただろうな…」

 

そんな私の様子を見ながら呟いた塚内さんの言葉に、オールマイトが待ったを掛けた。

 

「…一つ違うぜ、塚内くん。生徒達もまた戦い、身を挺した。こんなにも早く実戦を経験し、生き残り、大人の世界を、恐怖を知った一年生など今まであっただろうか」

 

オールマイトの言葉に、顔を上げる。

 

「……(ヴィラン)もバカなことをした。このクラスは強い!強いヒーローになるぞ…!…私は、そう確信しているよ」

 

世界一のヒーローからの言葉。

言いながら優しく見つめるオールマイトの青い瞳が夕日でキラキラと輝いていて――その言葉を、光景を、私は一生忘れないようにと胸に刻みこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう身体も大丈夫ならさっさと帰りな、とチヨ先生に言われたので素直に保健室から出る。

私自身大きな怪我は自分で治したし、あの落下した時に打ち付けた身体にできた細かい擦り傷や打ち身などは寝ている間にチヨ先生が治してくれたのだろう、もう何処にも怪我はない。貧血も休んでいる間に輸血してくれたらしくもうすっかり体調はいい。ただ、やはり疲労はすぐにはとれないので、早く帰ろうと更衣室に向けて歩き出す。

 

そういえば保健室を出る時にチヨ先生に言われた言葉を思い出した。

 

《その服の御礼はちゃんと伝えとくんだよ》

 

その言葉に、ふと今の自分の格好を見下ろしてみる。

コスチュームの白いノースリーブハイネックは肩の怪我により右側が血で染まっていたはずなのに、今はシンプルな半袖の白いシャツを着ていた。下はコスチュームの短パンのままだけれど、太ももの怪我によって血まみれだったニーハイソックスも、腕の怪我で汚れたロング手袋もつけていない。ただ、短パンの中から歩くたびに揺れるガーターベルトとショートブーツだけがコスチュームの名残を見せる。

 

あまり人に見せたい格好ではないなと足早に更衣室に向かえば、前方に見えてきた女子更衣室からぞろぞろと人が出てくるのが見えた。

 

「!藤乃ちゃん!」

「え?フジノン?!」

「藤乃さんッ!」

 

一番先頭にいたお茶子ちゃんを筆頭に女の子たち全員が私の名前を呼びながら駆け寄ってくる。

 

「もう身体は大丈夫なん?!」

「心配したのよ」

「うわあああん!フジノン無事で良かったよー!」

「本当に!一人で何処かにワープさせられちゃった時は焦ったけど、無事で良かった!」

「切島達から聞いたんだけど、一人で(ヴィラン)と戦ってたんだって?怪我も酷かったって聞いてたけど、元気そうだね」

「本当に良かったですわ…ご無事で何よりです…!」

 

口々に言うみんなにありがとうを返せば、皆もう着替えたはずなのに更衣室まで付き合ってくれて、お話しながら着替えていく。

 

「そういえば、このシャツは何方のかしら?チヨ先生に誰かが用意したものだと聞いたんだけれど…」

「ああ、それなら百ちゃんが!倒れた最初は病院に運ばれるはずだったんだけど、原因が怪我とかじゃなくて貧血と過労だってわかって保健室にってことになったんだけどね。リカバリーガールがこのままじゃ寝かせられないって言っててそれで…」

「まあフジノン血塗れだったしね……姿見た時はビックリしちゃったよ!」

「まあそうだったの…百ちゃん、ありがとうね」

「そんなとんでもない…!このくらい、相澤先生の怪我を治す為に頑張ってくれた友人のためですもの!」

 

丁寧に頭を下げてお礼を言えば、にこやかな笑顔でそう言ってくれた百ちゃん。いい友人を持ったなぁと嬉しく思っていれば、「それに、良いものを見させて頂きましたから!」とさらに輝くような笑顔で言われ、良いもの?と首をかしげる。

 

「そうそう!あの時気絶して倒れた藤乃ちゃんをね!」

「なんと爆豪くんが!」

「お姫様抱っこで運んだんだよー!」

 

お茶子ちゃん、透ちゃん、三奈ちゃんが順番に説明してくれた内容に、そういえば…と倒れた直後誰かの腕が背を支えてくれたのを思い出した。

 

「ああ、あの腕勝くんだったのね…後でお礼を言わないと…」

「えーフジノンそんだけ?!」

「ふふふ、意識がなかったときのことだもの。それに、勝くんの筋力ならたしかに持ち上げられても不思議はないわよね」

「なるほど、覚えてないからノーカンってことか」

「ふふ、そういうことよ響香ちゃん。これが起きているときだとちょっと照れくさかったかもしれないけれど、流石にあの時はもう気を失っていたから…」

 

口と表情では何でも無いことのように取り繕ったけれど、内心重くはなかっただろうかという不安ながよぎる。が、即座に頭の中からそれを追い出して手を動かせばあっという間に着替え終わった。

 

「藤乃ちゃん、あなたのコスチュームは私が預かっていたの。付けていた装備品は全部あると思うわ。血で汚れていたのも…一応ビニール袋で分けて一緒にいれてあるの、けろ」

「梅雨ちゃんありがとうね、とても助かるわぁ」

「いいのよ、相澤先生を助けてくれた大事な友だちのためだもの。…これ、このトランクに入っているから、そのまま提出すれば修繕に出せると思うわ」

「本当にありがとう」

 

受け取ったトランクの中を開ければ、たしかについ先程まで着用していたコスチュームが入っている。脱いだコスチュームの残りを中に詰めていれば、梅雨ちゃんが言ったとおりビニール袋に入れられた血まみれの手袋とニーハイソックスらが視界に入った。

 

途端、暗闇の中逃げるしかなかった苦い記憶が蘇る。もしあの時オールマイトが来なかったら――。

もっと、もっと強くならないと…!

 

あのときの恐怖や無力感が零れ出ないよう蓋をするように、パタリと静かにトランクを締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、たくさん食べてたくさん寝た私はすっかり元気になっていた。昨夜の事件を理由に本日は休校だ。

 

昨日の夜は学校側から事情説明された両親と、その後私からの話を聞かせて話し合っていたが、どんな目的にせよ私自身が狙われているというのは確かなので、あまり一人で行動しないこと、暗い場所には近づかないことなどを約束して終わった。

最初は父の相棒(サイドキック)を誰か護衛につけようかと言い出したのを必死になだめたのは記憶に新しい。愛されているのはとても嬉しいけれど、前線で働いているヒーローを護衛に学校生活を送るなんて申し訳ないし、何より校内は今回の件で確実にセキュリティーを強化するだろうから学校に着いてさえしまえば大丈夫だと言えば、渋られたもののなんとか収まってくれた。ただ、東京駅までは送迎が着いてしまったが、これはもう仕方ないと諦める。

 

そんな私は今、警察署に事情聴取に来ていた。

今回の件、オールマイト以外だと、生徒の中で明確に(ヴィラン)に狙われたのは私一人だったために、話を聞きたいと昨日のうちに連絡があったので訪れたそこは、スーツや制服に身を包んだ警察官の方々が忙しなく行き交っている。

 

昨日の今日で一人で外出できるはずもなく、あーちゃんが保育園に行っている間に付き添ってくれている寧子さんと一緒にロビーで待っていれば、「やあ、待たせたね」と声がして、そちらを見れば昨日オールマイトから紹介された塚内さんという刑事さんが立っていた。

 

「昨日の…塚内さん、でしたね。本日はよろしくお願いいたします」

「これはこれはご丁寧に。こちらこそご足労いただいて感謝します。…さ、此方へ」

「あ、寧子さんは待ってて頂ける?きっと人に聞かれてはならないお話もするだろうから…」

「わかりました。…あの刑事さん、藤乃さんをよろしくお願い致します…!」

「ええ、署内は安全ですし、軽くお話を聞くだけですから。…さ、行こうか、天使さん」

 

促されるまま歩き出せば、程なくある一室に通された。

机に椅子、棚しか無いシンプルなお部屋で、何故かドアは開け放した状態のまま椅子を勧められる。

向かい側に塚内さん。そして少し遅れて入ってきたのは制服を着た猫のお巡りさんだった。手には湯呑を一つ乗せたお盆が。

 

「どうぞ」

「ありがとうございます。…ふふっ猫のお巡りさんなんですね」

「ああ、よく言われるよ。彼は三茶、僕の部下でね」

「は!玉川三茶であります!」

 

びしりと敬礼付きで名乗っていただいたので、私も「天使藤乃です」と椅子から立ち上がり頭を下げる。

 

「さて、ではお話を聞かせてもらおうか」

 

塚内さんの言葉に再び席について、そしてゆっくりと口を開いた。

昨日どんなことがあったか、どんな話を聞いたかを事細かに説明すれば、塚内さんは眉間に皺を寄せながら「…そうか」と考え込むように呟いた。

 

それからいくつか質問された後に、答えられるだけの情報をすべて話し終えれば、「本日は来てくれてありがとう。ご協力感謝するよ」という言葉とともに見送られる。

時計を見れば、警察署に来てから2時間ほど経っていた。

 

「藤乃さん、蒼翔くんのお迎えまでまだ少し時間がありますし、お茶でもして行きましょうか?」

「あら、いいですねえ。じゃあ駅への道すがらお店を探してみましょうか」

 

寧子さんの思わぬ提案に笑顔で頷きながら、二人並んで駅への道を歩く。

歩道橋に差し掛かったところ、ビルの大型ディスプレイから昨夜のニュースが聞こえてきた。

 

《――昨日、雄英高校ヒーロー科の災害訓練施設で生徒たちが(ヴィラン)に襲撃を受けた事件の続報です》

 

思わず足を止めてディスプレイを見る。

 

《警察の調べによると、犯人グループは自らを『(ヴィラン)連合』と名乗り、今年春から雄英高教師に就任したオールマイトの殺害を計画していたことが新たにわかりました。警察は72名の(ヴィラン)を逮捕しましたが、主犯格の行方は依然としてわかっていません》

 

思わず手すりをぎゅっと握りしめる。キャスターはもう次のニュースを読み始めていたけれど、じっと画面を見つめながら昨日の出来事が頭の中でぐるぐると流れていた。

オールマイトの殺害を企てた(ヴィラン)、対策として生み出した人造人間《脳無》、希少なワープの個性を持っている黒霧、明らかに主犯格の一人と思わっる死柄木弔、そして――私の拉致・誘拐が目的だった紅魔アギト。

あの金の瞳が脳内をチラつくたび、あの時の恐怖や絶望、無力感が胃の辺りを撫でるようにざわざわとする。

 

「あら、怖い顔してるわねえ、お嬢さん?」

 

明らかにこちらに向かって呼びかけているような声が聞こえたのでそちらを向くと――

 

「!!ミッ……香山、先生?」

「ハァーイ、天使さん!」

 

いつものコスチュームではなく私服に身を包んだ香山先生が立っていた。

何故こんなところに…?と疑問を浮かべていれば、

 

「ちょっとお時間あるかしら?」

 

薄く微笑んでそう言う先生に、今度こそ首を傾げた私だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごゆっくりどうぞ」

「ありがとう、マスター」

「ありがとうございます」

 

お洒落なジャズが流れる落ち着いた店内、私達二人の前にはそれぞれ頼んだ飲み物とケーキが置いてあった。

先生の突然の誘いに首を傾げた私だったけれど、先生が来たということはおそらく事件のことだろうと察して、寧子さんには先に帰ってもらうことにした。私を一人にするのは…と少し心配そうな様子を見せた寧子さんだったが、香山先生が責任を持って送る、と言ってくれたので先生に頭を下げながら歩き出す寧子さんを見送り、そして先生の案内のもと訪れたこの喫茶店。

こじんまりとした佇まいで、平日お昼過ぎの時間、お客さんは私達のみ。香山先生のお知り合いがやっているお店らしく、メニューを提供したら慣れたように裏に引っ込んでしまった店主さんに軽く頭を下げる。

 

「突然ごめんなさいね」

「いえ、とんでもないです。…あの、先生がいらしたということは、昨日の件ですよね?」

「ああ、やっぱりわかっちゃった?」

 

コーヒーのカップを傾けながら微笑む香山先生。それに伴うように私も紅茶を頂けば、茶葉にこだわっているのか香りがとても良くて美味しい。

…しかし、何故香山先生なのだろうかと思っていれば、まるで思考を読んだかのように先生が話しだした。

 

「私が来たのは、私が女性ヒーローだからよ」

「!」

「貴方のことはオールマイトやリカバリーガールから聞いてるわ。昨日貴方に何があったのかもね。でも詳細は知らない。だから、警察で話してきたと思うのだけど、私にも詳しい話を聞かせてくれないかしら?同じ女性なら話しやすいんじゃというアレね!」

「そういうことでしたか。わかりました。……まず、訓練を始めようとしたら(ヴィラン)が出現したのは聞いているかと思います。他の皆が余興かなにかなのかと騒ぐ中、私自身は過去に(ヴィラン)に会ったことがあったので、直様その人達の雰囲気が余興などではなく本物なのだと思い辺り、いつでも攻撃できるように個性を使って警戒していました。その時に敵の主犯格を観察していたのですが、黒霧、死柄木、脳無、そして例の紅魔アギトがいて、その紅魔と目があった途端強烈な悪寒を感じて気づいたら攻撃していました。…あ、そういえばその件で相澤先生に反省文を提出しないと…」

「反省文?」

「ええと、先生方の指示を聞かずに先走って攻撃してしまったので…それで先生に言われたんです」

「ふふっそうなんだ?でもまあ、確かに先走っての攻撃は反省すべき点ではあるけれど、状況が状況だったもの。大丈夫じゃない?」

「そう、でしょうか?」

 

いいんだろうかと思うものの、先生に先を促されたので続きを話す。

 

「ええと、それで…私が攻撃した直後くらいに頭上から紅魔が現れて、そこでやつに名前を呼ばれ『会いに来た』と言われました。すぐに相澤先生が応戦してくださって、私達は13号先生の指示の下避難を開始したんですが、出口直前にあの黒霧というワープの個性の(ヴィラン)が現れ、私一人だけワープさせられました。ワープさせられた場所は夜の災害訓練上で、混乱したものの早く脱出をしないと、と出口を探そうとした時に再び紅魔が現れました。そこで、最初は紅魔と話をしていたんです」

「どんな内容か聞いても?」

「始めに『やっと二人きりで話せる』と。相手をしていた相澤先生はどうしたのかと聞いたら『広場の方に蹴り飛ばしたので、今頃は手下が相手をしているだろう』と言われました。そして、何故か私の個性を知っていて、何故知っているのか訪ねたら『お願いを聞いたら教えてあげてもいい』と言われ…」

「お願い?」

「はい」

 

今思い出すだけでも不快感が湧く内容だ。が、香山先生が話の続きを待つようにじっと見ているので、紅茶で口を湿らせてから再び息を吸う。

 

「『子供を産んでくれ』…と言われました」

「な……子供?」

「ええ、たしかにはっきりとそう言われたので間違いないです。そして、紅魔が名前を名乗り、個性を明かして、真逆の個性に運命を感じた、私に会いたくて作戦に着いてきたと話しだしたので、作戦とは?目的は?と聞けば、紅魔の目的は私だけれど、他の奴らはオールマイト抹殺だろうと言われました。そこであの脳無という改造人間のことなどを聞きました」

「…随分素直にお話してくれたのね?」

「ええ、私も気になって聞いたんですが、『君たちに勝てるだなんて思ってないからだ』と言われまして……そのあと戦闘に入りました」

 

冷静に思い出せば、あの時攻撃を仕掛けたのは私からだった。不利な戦場で、不意を打ってからの逃げ一択だったのはあの場ではそれしか取れる行動が無かったと思っていたけれど、今はもっとやりようがあったのではと思えてくる。自分では気の長いほうだと思っていたけれど、あの挑発で気づいたら攻撃していたのだから、まだまだ冷静さが足りなかったなと改めて反省点が出てきた。

 

「それからは攻撃を避けながら出口を探して翔び周っていました。『天使と悪魔から生まれる子供に興味がある』と言っていたんですが、言葉通り興味本位なのか、それとも別に目的があるのか…何故私にそんなことをさせたいのか、具体的な目的はわかっていません。

翔び周り逃げ続けるうちに出口を見つけた私は、一瞬の気の緩みから攻撃を受けて腕と足に怪我を負い追い詰められ、偶然とは言えオールマイトが来なかったら確実に捕まっていました。あとはオールマイトや皆と合流して…という形です」

「そう……話してくれて、ありがとうね」

 

テーブルの上で、負の感情が混ざり合って小さく震える私の拳に、柔らかく手を重ねながら香山先生がそう言った。

顔をうつむかせながら、「先生」と呼ぶ。

 

「私…あの時、本当に逃げ回るしか出来なかったんです…っ。不利な戦場だから…相手は自分に悪意を持つ(ヴィラン)で、プロでもないヒーローの卵と1対1。…ええ、状況的には逃げるしか無かったのはわかっています。でも…」

「でも…?」

「すごく…悔しい…!だってあの時、オールマイトが来なかったら、私は捕まっていました…っ。偶然に助けられただけなんです…!他の皆はほぼ無傷だったと聞きました。私と似た状況で一人で戦っていた尾白くんだって。でも、私だけ怪我を負った。私だけ逃げ続けるしか無かった…それが、とても悔しいんです…!」

 

恐怖、不安、絶望…確かに感じたけれど、一夜明け私の胸の内を占めているのは`悔しさ`だった。

あの更衣室の時、女の子たちから聞いた他の人の状況。確かに敵の主犯と当たって尚且つ一人だったのは私だけかも知れない。けれど、他の皆だって実戦は初めてだったはずだ。なのに一人だけこの体たらく。おまけに怪我人がいたのに力の使い過ぎにより途中で気絶とは、チヨ先生が呆れるのも無理はない。

 

「先生…私、強くなりたいんです…!もう逃げなくても良いように、もう偶然の幸運で助からなくても良いように…!ちゃんと最後まで患者さんを診てられるように!…去り際に紅魔が言ってました。『また会いに来る、その時は必ず手に入れる』って。勘ではありますが、必ずまた彼は現れます。だから、次はちゃんと戦えるように、ちゃんと立ってられるようになりたい…!」

 

ずっと燻っていた胸の内を吐露して香山先生をまっすぐ見据えれば、そこには顔をうつむかせて何故かふるふると小刻みに震えている先生の姿があった。震え……怒り?!あ、もしや次は戦いますというのがダメだったかしら。そうよね確かに先生方から見れば子供で生徒な私達はしかるべき時までは守るべき存在。確かに先生に堂々と言うようなことでは……と怒られる不安を感じながら恐る恐る声をかけた。

 

「あの、先生……?」

「もぉぉおお!!!天使さん!貴方めちゃくちゃいいわ!!そういう青い感じ、めちゃくちゃ好みよ私!!」

「はい?」

 

いきなり興奮したように話す先生に思わず目が点になる。

 

「ああ、私にも覚えがあるわぁ…自分の力の無さに憤り、悔しさが胸の中いっぱいに広がって、強くなりたいと願ったあの日…!はあ、青春ねえ…!」

「えっと、あの、先生?」

「!ああ、ごめんなさい。こほん。…貴方の気持ちはわかったわ。ところで話は変わるけれど、貴方確か6月の()()受けるのよね?」

「お存じでしたか。…はい、チヨ先生からの課題ですし、何より自分のレベルアップにも繋がりますから」

「正直治癒の能力についてはリカバリーガールや貴方のお父様に師事したほうがいいけれど、戦闘技術に関しては私達でも教えてあげられる」

「つまり……?」

「ここは先生方に任せなさいってこと!強くなりたいのでしょう?そういう生徒を、先生は…いえ、雄英は全力でバックアップしますからね!」

 

ウインクしながら言う先生に、一拍遅れて内容を理解し、その場で立ち上がって頭を下げる。

 

「ありがとうございます!よろしく、お願いします!!」

「ええ、まかせといて!」

 

人より便利な個性故に初めて味わった無力感や敗北感を、しっかりとバネに変えて強くなる…!

決意を胸に秘めながら、カップ片手に微笑む香山先生に笑い返す私だった。

 

 

 




これ前半のシーンめちゃくちゃ悩んだんですけど、きっと緑谷少年は入れ違いくらいに保健室へ訪れて似たような会話をしているという設定です(適当
場面外のことだからね!きっとそう!!
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