3月某日、気づけば雄英入学試験から一週間経ったある日。
今年で3歳になる小さくて可愛い弟・
「ねえたん、ねえたん!つぎこれ!」
「《クッキープリンセス》?あーちゃん、次はこの絵本がいいの?」
「ん!」
いそいそとソファーに座ってる私の膝の上に腰掛け、早く早くと催促するように絵本を持っている腕をぺちぺちしてくる我が家の小さな天使の様子に笑みを零しつつ、見えるように弟の目の前で絵本を開いてゆっくりと読み始める。と、ここで我が家のお手伝いさん、物間
「藤乃さん、雄英からお手紙ですよ」
「寧子さん、ありがとうございます」
「ねえたん?おてがみ?」
「ええ、とっても大事な、ね」
絵本を一旦脇に置いて受け取った封筒を開封する。と、入ってるのは手紙が一枚と映像再生端末が一つ。
まずは手紙からかしら、と封筒の中から手紙を取り出した時、ローテーブルに置いた再生端末を物珍しそうに触っていた蒼翔が偶然スイッチを押してしまったらしく空中にヴン…という起動音とともに映像が投影された。
《私がァ!投影されたァアッ!!!》
「?!え、オールマイト……?あ、電気!えっと、停止はこれかしら…」
いきなりのオールマイトで少しびっくりしたものの、現在は明るい昼間のリビングで投影されたものだから少し映像が見づらい。なので、おそらく停止ボタンであろう■ボタンを押せばいつもの笑みでオールマイトの映像が止まったので、見やすくするべく部屋を暗くしようとまずは膝の上にあーちゃんをどかそうとすれば寧子さんから声がかかる。
「藤乃さん、カーテンは私が」
「ああ、ありがとうございます。…それにしてもあーちゃん?わからないものをいきなり触ったらいけないでしょう?もう」
「ごめんしゃい…」
「次からはしないでね。お姉ちゃんとの約束、ね?」
「あい!」
元気な返事に良い子良い子、と私と同じふわふわとした金色の髪を撫でれば、撫でられて嬉しいのかふにゃっと笑う弟につられて私も笑う。そうこうしてる間に寧子さんがカーテンを締め終れば、昼間といえども部屋が薄暗くなった。これくらいなら大丈夫かなと再度テーブルの上の再生端末の再生ボタンをON。オールマイトがまた動き出した。
《HAHAHA!驚いたかな?何故私が投影されたのか!…ズバリ!それは、今年度から私も雄英で教鞭を取るからだよ!!》
オールマイトが雄英に?思わぬビッグニュースに再び驚くも、続きを黙って待つ。
《さて
いよいよなお話に思わず心臓がドキドキする。映像から聞こえるドラムロール音が更にドキドキを加速させているようで、ちらりと見ればいつの間にか隣りに座っていた寧子さんも両手を握りしめて固唾を呑んで同じく映像のオールマイトを見ているし、膝の上のあーちゃんもよくわからないなりにとても真剣な表情だ。
《結果発表!!筆記は文句なしの好成績!そして気になる実技試験はァ!!……
入試1位…!言葉にならなくてついつい口に手をあて映像のポイント情報を食い入るように見つめる。
《……流石、Dr.ライトとエル・レディの娘さんだけあるね!私も入試の映像を見させてもらったが、怪我人の治療や避難の手助け、実にお見事!敵を倒すだけがヒーローの仕事じゃあない。君のその助けようという尊い心は誇っていいッ!……再度言おう、入学おめでとう!》
オールマイトの言葉に胸がいっぱいに嬉しさが広がるも、まさか両親の名前が出てくるなんてと少し驚く。同じヒーローだし何処かで接点があっても不思議ではないけれど、まさかオールマイトとつながりがあるなんて聞いたこともなかった。
《さて、入学に必要な物品や手続きなどについては同封してある用紙に記載されているから確認するように!》
先程取り出した手紙がおそらく用紙だろう。流れ的にももうそろそろ映像も終わりそうだし、まずは両親に合格の連絡をして、用紙を確認して入学に必要な物を確認して…と頭の中で軽く今後の予定を立てていれば、映像にはまさかの続きがあった。
《………と、本来の受験者にはここで締めの言葉とともに映像が終わるんだが、君の場合は少し特殊でね。続いてはこの方からお話して頂こう!》
え?と思ったのも束の間、オールマイトが画面端にはけてから入れ替わるように映像に出てきたのは……
《……よっこらしょ、と……もう喋っても良いのかい?あ、そのまま回ってる?……こほん。あたしゃあ雄英で養護教諭をやってるリカバリーガールだよ。天使藤乃……入試の様子を見させてもらったよ。あんたのおかげで毎年大なり小なり怪我人が出て大忙しなのに、あんたが演習やってた会場だけ怪我人が少なくてねえ。楽させてもらったよ。まさか
思わぬ人からまたもや思わぬ名前が出てきて驚くも、リカバリーガールはさらに爆弾を落とした。
《光黄……いや、Dr.ライトはね、あたしの弟子の一人でね。治癒の能力についてはあたしが叩き込んだんだよ。で、だ……あの子の娘なら頭もいいんだろうし察しはついてると思うけど、あんたの能力を見て、あんたにその気があるならあたしが教鞭をとるのも吝かじゃないと思ってね。知っての通り、治癒系の個性持ちは他の個性に比べると特に少ない。だから公にはしていなくても、毎年治癒系の個性がいた場合こうして特別教室のお誘いをしてるんだよ。最初はただの弟子育成だったのに気づいたら【チヨ教室】なんて名前がついてるけどね。……はぁ、年寄りに長々と話させるんじゃないよ。お茶かなんか無いのかい?》
一旦お茶休憩をとっているリカバリーガールを見ながら、今まで聞いたことも無い事実、予期せぬ提案にしばし頭を巡らせる。と、一息ついたリカバリーガールが再び口を開いた。
《……ふぅ。ええと、どこまで話したかね?ああ、そうそう、現状この特別教室に在籍しているのは、3年の普通科2名、2年のサポート科が1名、1年ではあんただけだよ。この合格通知が届いた日からだいたい3日後くらいかねえ?それくらいに、雄英の来客用使い切りセキュリティーパスが届くはずだから、セキュリティーパスに同封してある日にちに一旦会いにおいで。返事はその時に聞くよ。それじゃ、会えるのを楽しみにしてるよ》
そうしてプツリと映像が消える。私と寧子さんはあまりの内容に若干放心していて、あーちゃんはリカバリーガールが話している途中から話が難しくて飽きたのかうとうととしていた。
とりあえず寧子さんにカーテンを開けてもらって部屋を明るくする。
「なんだか凄いことになりましたねえ…」
「ええ、本当に。合格や入試1位は素直に嬉しいけれど、そのあとのリカバリーガールの話がもうびっくりし過ぎて……」
「とりあえず、光黄さんがお弟子さんだったという話でしたから、光黄さんが帰ってから話し合われたらどうです?」
「ええ、そうします…」
わからないこと、というより両親から今まで聞いたこともないような話がたくさんでてきたので、寧子さんの言う通りいろいろ考えるのはあとでいいだろうと一旦考えるのを辞めた。
部屋がいきなり明るくなってうとうとが醒めたのか、「ねえたん、おやつ!」というあーちゃんの言葉に、とりあえず今は衝撃を受けた脳みそを回復すべく糖分を取ることにした。
《―――それじゃ、会えるのを楽しみにしてるよ》
今日の昼にも見た映像がブツリと消える。
時刻は夜、合格の連絡を入れておいた両親から両手いっぱいのお祝いと称したお土産と豪華なご飯を楽しんだ後、寝支度を整えて一足先にあーちゃんを寝かしつけ、ソファーで対面して両親と一緒に再度映像を見終わったところだった。
「はぁああ流石僕たちの娘!入試1位だって!!」
「ね!ね!流石藤乃よねー!何度も言っちゃうけど、本当に入学おめでとう!!」
「お父さんお母さん、ありがとう。…でもね、聞きたいことが多すぎて…」
今日何度目かのおめでとうとはしゃぎっぱなしの両親の様子に思わず苦笑いが溢れる。
「ああ、そうだね。藤乃には話したことなかったね。と言っても、治与先生の言ってた通り、医療系ヒーローやるにあたって先生に師事してたってだけだよ。当時は【チヨ教室】なんて名前はなかったけど、僕の他にも弟子はいたから授業っぽいのもあったしね。いやーレポートたくさん書かされたなぁ。実習は吐くほどキツかったし!ちなみに今でも年賀状やらで挨拶はしてるかな」
「そうだったの……ああ、オールマイトは?お知り合いのようだったけれど……」
「オールマイトに関してはまあ守秘義務もあるんだけど……まあ昔大きな怪我をして僕や他に何人か医療系の個性持ちが治療にあたったって関係だよ」
「そんなことが……」
あのオールマイトが大怪我って少し想像がつかないけれど、そういうことなら納得はできる。要は父の患者さんだったということだろう。
「それで?藤乃はどうするの?」
「……お話を、受けようと思ってます」
自分の正直な気持ちを告げれば、まるで予想していたかのような両親の様子。次いで「やっぱりね」とお母さんが一言。
「藤乃は昔からお父さんみたいなヒーローになる!って言ってたもんね。同じヒーローとしてはちょっぴり悔しいけど、でも藤乃には光黄くんみたいなヒーローになれる力がある。頑張りなさい」
「はいっお母さん!」
「じゃあ僕からも一言。……正直ね、僕はヒーローはともかく医療系ヒーローを目指してほしくは無いって思ってるよ」
「…え?」
突然のお父さんの言葉に体が固まった。
「反対……とはちょっと違うんだけど、やっぱり実際に現場に出てるとね…。特に医療系の現場は大変だよ。必ず救えるわけじゃないっていうのを嫌でも実感する。それは医療の現場では勿論当たり前なんだけど、僕ら医療系ヒーローは特にそうだ。ヒーローっていうのは`何か`が起こらないと駆けつけない。逆に言うと、`何か`があってから駆けつけるから現場は常に医療の最前線だ。機器や薬が側にある病院内で診察するのとはワケが違う。…正直、手元手持ちにある
医療系ヒーローとして日々現場に立ってるお父さんの重い言葉がずっしりと私にのしかかる感覚に陥る。
「父親としては子供に憧れてもらえるのは嬉しい限りだけどね。でも、憧れだけじゃやっていけない世界でもある。いざって時、看取る覚悟をしないといけない。……藤乃は、どう?その覚悟、持てそう?」
お父さんの…いや、医療系ヒーロー・Dr.ライトの問いかけに少しだけ怖じ気づいて視線を俯かせるも、一度深呼吸してから視線をあげる。
いつもは優しげな笑みを浮かべるお父さんがいつになく真剣な顔をしていて、隣のお母さんもことの成り行きを静観しているように静かに見守ってた。
「…ヒーローになりたいって思った小さい頃から、お父さんの事務所や病院を見てて、もちろん医療ではどうにもできない人を見てきたりもしました。昨日までは笑ってお話してたお友達の女の子のベッドが次の日には何もなかったように空になってたり、敵の事件で足を怪我して、でもリハビリ頑張ってまたサッカーやるんだって笑ってたお兄ちゃんが、実はもう治らない足に病室で一人泣いていたり……まだまだ小さな世界かもしれないけど、それでも見てきたつもりです。お父さんの憧れだけではやっていけない世界っていうのも少しだけれど想像もつきます。……正直、看取る覚悟はまだわかりません。でも、一度憧れたんだから貫き通したい…!ヒーローになりたいと思わせてくれたあの男の子にも、ずっと見てきた…医療系ヒーローで一番憧れてるお父さんにも、恥ずかしい姿は見せませんっ……だから、勉強…させてくれませんか…?」
まっすぐお父さんの目を見て言い切った後、立ち上がって頭を下げた。
数秒経っても何も言わない両親にだんだん不安が募るけれど、それでも頭を下げ続けていれば、お父さんから「はぁああああ」と大きな大きなため息が聞こえた。
「
「そうだねー光黄くん!二人共良い子に育ってくれて嬉しいねー!!」
思わず頭を上げれば、顔を両手で覆い蹲る父と、父の横からぎゅっと抱きついてよしよしと背中を撫でている母の姿。先程までの空気との違いに少しだけ呆気にとられるものの、いつもの両親だなと肩の力を抜いてソファーに座り直す。
「……藤乃」
「!はいっ」
「治与先生の授業は死ぬほどキツイし、それに加えてヒーロー科の勉強や訓練もある。普通にヒーロー目指すより倍大変だけど……頑張りなさい」
「はいっ!」
医療系ヒーローDr.ライトとしてじゃなく、天使 光黄といういつもの優しげな笑顔のお父さんが、笑顔の中に
まるで何か今後楽しみなものを見つけたような表情を滲ませてそう言った。
どうでもいいメモ
物間 寧子
個性:まねっこ(声)
天使家の通いのお手伝いさん。
昔は保育士をしていたらしく、その個性で一人芝居や流行り物のアニメキャラの真似ができるので人気の先生だった。
御年62歳
名字の通り、とあるキャラクターの親戚を捏造しました!