でもしょーがないね!二次創作だもの!(言い訳)
感想・誤字報告、いつもありがとうございます!
なるべく誤字がないように数回見返してはいるもののやっぱりどっかに抜けがある作者はポンコツ。はっきりわかんだね。
試合が控えていたから止められてしまったが、やはり気になってつい着替えもせずに来てしまった保健室。
中に入る前に走って息が上がってしまったのを扉の前で落ち着けていると、中から扉を隔ててくぐもったようなチヨ先生の声がした。
「入学間もないっていうのにもう2度目だよ?!なんで止めてやらなかったオールマイト!」
チヨ先生が怒ってる……今回の緑谷くんの怪我は、昨日の体力テストの比じゃないくらいのものだった。本当に、強力な個性とはいえどうしてあんなにも酷い反動が来るのだろうか。しかも訓練明け、あれだけ派手な試合運びならきっと身体自体もヘトヘトだろう。
おそらくチヨ先生の個性では今は治せない。チヨ先生の個性【治癒】は、本人の体力を使って自己治癒力を活性化させるから、今の緑谷くんにはその体力が無いという状態と共に、相応の体力がないと治せないような大怪我なのだと更に続けて話す先生の言葉に察した。
じゃあ私の個性ならもしかして!と保健室の扉に手をかけようとしたその時のことだった。
「…まったく、力を渡した愛弟子だからって甘やかすんじゃないよ!」
`力を渡した愛弟子`?いったいどういう……?
突然のセリフにフリーズしていると、いつものような覇気のないオールマイトの声が聞こえた。
「返す言葉もありません。彼の気持ちを組んでやりたいと訓練を中断するのを躊躇しました……して、あまりワンフォーオールのことを話すのはどうか…!」
まるで懇願するように言うオールマイト。
ワンフォーオール?いったいなんの話をしているのかさっぱりわからなくて、その動揺が手に現れたのか指先がドアのセンサーに触れ、無情にもシュインッと音を立てて保健室のドアが開いてしまった。
「「!!」」
突然の開閉音にチヨ先生と……そしてオールマイトの衣装を纏った金髪の痩せこけた男性が此方に振り向いた。
「あんた、どうして……」
「天使くん…?!」
目を見開いて驚愕の表情を浮かべるチヨ先生達に、喉が渇いてひりつくのをこらえながら口を開く。
「も、申し訳ありません…っ。緑谷くん、酷い怪我だったので……お役に立てれば、と…!」
「……そうか。訓練のときにも申告があったな。優しい君のことだ……着替えもせずすぐに駆けつけてくれたんだろう」
「本当に、申し訳ありませんっ……お話を、聞いてしまいまして……」
「そうか……」
「本当に……そのお姿……オールマイトなんですね…?」
状況的に見てまず間違い無いのに、平和の象徴と謳われるトップヒーローのあまりな姿に信じたくなくて思わず確認してしまう。しかし、明確な返答はなかったものの黙って顔を俯かせたその様子を見てやはり、と確信してしまった。
「ったく、献身が過ぎるのも考えものだね、藤乃」
「!チヨ先生…本当に申し訳ありません…あの、先生の腕を信頼していないだとかそういう訳ではなくて……お話を聞いてしまったのも故意ではないんです…っ」
「わかってるよ。まだ短い付き合いだけどあんたの事だ。光黄みたいに怪我人は放っておけないと駆けつけたんだろう?本当にそっくりだよあんたら親子は。…話についても、不用意に口に出したあたしにも原因がある…こうなったらオールマイト、藤乃にもしっかり話してやんな」
「!しかし……!」
「この子はあの光黄の娘だよ。それに、緑谷出久はこの先個性が確実に馴染むまでまた何度でも怪我をするだろう。いっそ藤乃を主治医にでもすりゃあいい。あんたが光黄に診てもらってるようにね」
「それは……っ」
何処かで聞いたような話だとふと思ったときに、前にお父さんが言ってたオールマイトとの接点の話を思い出した。大きな怪我を負って診たことがあるというのはきっとこのことだと直感が告げる。そして今のチヨ先生の言葉で、やはりさっきの`力を渡した`というのは聞き間違いでもなんでもないというのもわかってしまった。大きな怪我、普段の様相とはまるで違う痩せこけた身体、お父さんに診て
「……わかりました。今回のことは緑谷少年を含めて話す場を設けるから、また改めて連絡させて欲しい。……さ、天使少女、とりあえず着替えてきなさい」
オールマイトのその言葉に、せめて火傷の傷だけでもと言い募り、チヨ先生の許可を得た上で緑谷くんの左腕の包帯を外した。黒く焦げ生々しい火傷があるそこを治した後に今度こそ保健室を後にする。
後日話す場を設けるということだったが、今はいろんな情報が頭の中を駆け巡っていて正直混乱していた。けれど、オールマイトがああ言った以上は待つ他ないと無理やり気持ちを切り替えて着替えに戻る。
と、更衣室へ向かう廊下、おそらく着替え終わりだろう爆豪くんとばったりと出くわしてしまった。切り替えたと言っても先ほどの混乱が尾を引いているのが、思わずそのまま足を止めて彼を真正面から見据える。
眉間に皺を寄せる不機嫌そうな顔に暗さを滲ませる表情の爆豪くんが真っ直ぐ私を見据えていた。
「爆豪くん……」
「………」
正直何と言ったらいいかわからないけれど、でも何故だか今口を開かなくちゃいけない気がした。だって授業中もずっと違和感を感じて考えていたから。それに、いい機会だとずっと気になっていたことを聞くことにする。
小さく深呼吸をした後に口を開いた。
「あの……あのね!私のこと、覚えていらっしゃいますか…?」
途端、ピクリと片眉が動く。
「む、昔……貴方に助けてもらったのだけれど……」
「………」
「ええと……ごめんなさい、もう10年も前の話だから、覚えてないですよね。すみません、変なこと言って……それじゃ、あの、また教室で……」
何も反応がないことに、きっと覚えてないのだろうと思って彼の横を通り過ぎ更衣室に向かおうとすれば、背後から「おい」と声が聞こえた。
「え?」
振り返れば、肩越しに彼が此方を見ていた。
「……うまく飛べるようになったのかよ」
「!!っうん!あの頃よりずっと、うまく翔べるようになったのよ…!」
「そうかよ」
そう言って視線を外し再び歩き出した彼。
その背中を見て、何故胸の奥が粟立ったのか、どうして授業中そんな顔をするんだろうとイライラしたのか。その答えが喉からせり上がってきて、彼の背中に向けて声を張り上げた。
「あのね!!」
爆豪くんがピタリと足を止める。
「私爆豪くんに助けられたあの日!初めてヒーローになりたいって、こんな風に人を助けられる、こんな風に手を差し伸べられるヒーローになりたいって思って、此処まで来たの。……あの日、泣いてる私に泣いてんじゃねーって手を差し出してくれた人は、ちょっと負けたからって暗い顔するような人じゃなかった!」
「なっ!」
驚いたように此方を振り向く爆豪くんと再び目があって、怒りが浮かぶ鋭い眼光で身体が竦みそうになるけれど、気にしないようにして更に続ける。
「自分への酷い講評を気にして顔を俯かせるような人でも無かったし、自分よりすごい個性を見て愕然とするような人でも無かった!あの日!私が憧れたヒーローは!そんな顔しないわ!!」
「テメェ何を…ッ!!」
いきなりの私の言葉にカバンを落として怒りの形相で一歩踏み出した彼に更に言い募る。
「なんでそんな顔してるの…!爆豪勝己くんは、強くて、優しくて、自信家で、`今は`凄い、`今は`勝てないって思っても、あっという間にそんな壁乗り越えちゃうような人でしょう?たった一度、たった一日過ごしただけの私でも、そう思ったのに!」
「………っ」
「一度プライド折られたくらいで……!これ以上私が憧れたヒーローと同じ顔してるのに、そんな顔しないでっ!!」
言いながら、興奮したのか目の端に滲んできた涙をそのままに、あの日の記憶がぼんやりと脳裏を駆け巡る。
《ほら、おくってやるから立てよ!》
《でも、足が…っ》
《なんだ立てないのか?チッしょーがねえな。……ほら》
《え…?》
《はこんでやるっつってんだよ!いいから早くのれよ!》
《う、うん…!》
《おもくない?》
《こっこれくらいよゆーだし!》
《ほんとう?…えへへ、すごいね!ちからもちだね!》
《なんたっておれさまはしょーらい、オールマイトみたいな……いや、オールマイトをこえるヒーローになるんだからな!まいごの一人くらい、はこんでやるわ!》
《おおー!オールマイトより?すごいヒーローになるの?》
《あったりまえだろ!》
《…でも、このまえパパがいってたよ…?すごいヒーローになるにはかべがたくさんあるんだって》
《かべぇ?そんなんこわせばいいだけだろ》
《でもこわれないようなかべだったら?とってもかたくて、たかかったら?》
《そんなもん――》
「……ぎゃーぎゃー何言うかと思えば、クソうざってえなオイ」
「!ごっごめんなさい……つい……」
「ホントウゼェわ。10年も前にたった一日一緒にいたくらいで俺の何がわかんだよ…!」
「確かにっ何も知らないのかもしれない…。でも!あの時オールマイトを超えるヒーローになるって言った爆豪くんは、成長してもそのままなんだろうなって……勝手に私が信じてるだけだから!」
此方を睨みつけながらぎゅっと拳を握る爆豪くんに、私も胸の前で拳を握りしめる。
「《凄いヒーローになるためには壁がたくさんあるんだって》」
一瞬呆けた後ハッとしたような顔になる爆豪くん。
「《壁?そんなん壊せばいいだけだろ》《でも、壊れないような壁だったら?とっても硬くて、高かったら?》《そんなもん――》」
「「《――壊れるまでブン殴りゃあいいだろうが》」」
二人の声が重なった。
覚えてた…!私の存在だけでなくあの日の会話まで覚えててくれた嬉しさになんだか胸がいっぱいになる。
爆豪くんは一度目を閉じてゆっくりと息を吐くと、再び目を開いてまた真っ直ぐに私を見た。そこにはさっきまでの怒りや暗さはもう映っていない。
「…チッ…お前、まだそんなこと覚えてんのか」
「爆豪くんだって…覚えててくれたじゃない」
「うるせーよ。俺をそこら辺のモブの頭と一緒にすんじゃねえ。それに―」
「??」
「なんださっきからバクコーくんバクゴーくんて。聞いてて痒いんだよボケ女」
「!!」
今度は此方が驚いて目を見開いた。それってもしかして――あることに思い至ったところで、にっこりと笑って目尻に浮かぶ涙を指で拭う。
「ふふ、ごめんね。久しぶりだし覚えてないと思ってたの、
「だから俺をそこら辺のモブと一緒にすんじゃねーって言ってんだよアホ。つーか相変わらず泣き虫は治ってねーのか」
「そ、そんなことないわ!これは…話してるうちに少し興奮してしまって…生理的なもので…」
「どっちでも変わんねーわ。…にしてもよくも偉そうに説教たれてくれたな、
「えへへ……そっか、勘違いなら良かったわ。勝手にベラベラ喋ってしまって、ごめんね」
「ふんっ……いいからさっさと着替えてこいや。コスチュームのままこの後の授業受けるつもりかよ、ああ゛?」
「うん、早く着替えなくちゃ間に合わないものね。引き止めてごめんなさい、勝くん!じゃあまたあとでね!」
言うなり踵を返して更衣室に小走りで向かう。その胸中は、安堵と嬉しさが綯い交ぜになって、向かう道中自然と頬が上がるほどだった。
やっぱり勝くんは、昔のまま、強くて素敵なヒーローだったなぁ、なんて思いながら、更衣室への道を急ぐ私だった。
******
「かっちゃん!」
夕日が照らす中、やっと見つけたその背中目掛けて声を張り上げた。
いつもの金髪が夕焼けで少し濃く色づくその背中の主は、僕の声でピタリと足を止め少しだけ顔を横に向けていつもの
ここで、あれ
けれど、けれど…!言わなきゃ…!オールマイトとの約束で他言無用だけれど、彼だけには…!と意を決して口を開こうとした時、なんとかっちゃんの方から先に話しだした。
「なんだクソデク。負けた俺を笑いに来たのか?」
「ちっ違うよかっちゃん!…その、僕の個性のことで…」
「ああ゛?個性?ああ、俺を騙してたヤツか?」
「それも違うっ!かっちゃん…!ぼ、僕の個性は…人から授かったものなんだ…!」
「は?」
怪訝そうな顔でかっちゃんが言う。でも、これだけは君に伝えなきゃと思って走ってきたんだ。緊張と走ったことによって乾く口内で少し話しにくいのを振りはらいつつ続ける。
「誰かからは絶対言えない!…言わないっ。…でも、コミックみたいな話だけど、本当で、おまけに、まだろくに扱えもしなくて…全然モノにできていない状態の借り物で……だから……っ」
「だから、なんだよ?どうでもいいわそんなこともうよ!」
「え?」
「テメェの個性が、`もらいモン`で`借り物`?だからなんだよッ!俺はッ!今日お前に負けたんだよッ!」
「かっちゃん……」
激昂したように吠えるかっちゃんだけど、ここでまた違和感を覚えた。なんというか、怒ってはいるけれど、その怒りは
「ッッ!!!……氷のヤツ見て、`かなわねえんじゃ`って思っちまったッ。ポニーテールのやつの言うことに、納得しちまったッ……おまけに、アイツも……っ」
最後の方は声が小さくて聞き取れなかったけれど、流石に聞き返すような雰囲気ではないため押し黙った。
「だけどなッ!!」
「!!」
「それが何だ?!自分殺してェぐらい……`今は`なんて思っちまったけどッ俺は!!それ全部越えていくッ!」
「え…?」
かっちゃんが、認めた?今までにない行動に思わず動揺する。そんな僕にかまわず、さらにかっちゃんが吠えた。
「壁がある?上等だコラァッ。壁なんつーのは《壊れるまでブン殴りゃあいいんだろうが》ッ!!」
壁?今かっちゃんは壁と言ったのか?あのかっちゃんが、僕はともかく他の人を壁だと認めてる、のか…?まるで自分の知らない幼馴染を見るようで、声が出ずただただ目を見開く僕。
「いいかクソデクよく聞けェ!!俺はなッいずれオールマイトも超えるヒーローになるんだよッ!お前の個性がどうとかもう関係ねえ!俺は全部を超えてトップヒーローになるッ!!……だから、」
「!?」
「次は無ぇぞ、このクソナードがっ」
「え?」
「お前が勝つのは後にも先にもこれっきりだ!覚えとけクソデクッ!」
言いたいことを言ったらいつものようにふんっと鼻を鳴らしてそのまま歩き出すかっちゃん。
今まで敗北を認めるなんてことをしてきたことがない男が、敗北を、そしてあろうことか`壁`を認めた…。あまりの出来事にそのまま立っていたら、怪我をしていない方の肩を誰かがポンと叩く。
「ふむ、君からの話ではとても自尊心が高い男で、とても敗北を認めるような性格では無いと聞いていたんだが……」
「!!オールマイト!……そうだと、思ってたんですが……」
「おそらくだが、試合が終わってからの間に何かあったんだろうね…」
「そう、なんでしょうか…?」
あのかっちゃんが誰かに何かを言われたくらいであんな風になるとは思えないと思うんだけど……。
不思議な事もあるもんだと、僕とオールマイトはそのまま遠ざかっていくかっちゃんの背中を見つめ続けた。
あーやっとちゃんと爆豪くんを絡ませることができて安心です。
今回の話、むちゃくちゃ難産だったんですが、もういいや!と突っ切りました。あれですよ、「宿題やんなさいよ!」っていう親の言葉に「うっせー!今やろうとしてたわ!あーあ、うるさくいうからやる気なくなったー」ってなるのに対し、「宿題、やらないと困るのは自分だよ?だから一緒にやろ!」って明るく笑顔で言う可愛い女の子。そう、そういうことですね!(適当)まぁあれです、近すぎると聞けない言葉がある的なサムシングです(更に適当)苦情は受け付けないぞ☆