魔法科高校の第三魔法使い 作:揖蒜 亜衣
受験前これが最後の投稿になります。次回は3月に投稿予定です。
その日の夕方、俺は真由美ねぇの家を訪ねていた。
雫には頭を下げて必死に謝り倒して貸し一で手を打ってもらった。後が怖い...
尤も、後のことより今のことだ。真由美ねぇは生徒会の業務で後から来る。それまでに香澄と泉美を味方につけなければ。
「泉美、香澄。少し頼みがある」
「なに?またお姉ちゃんをおこらせたの?」
「何時日さんも懲りませんね」
早速香澄たちに呆れられたが気にしている暇などない。
「言いたいことは山ほどあるが今回はガチめにヤバイ。魔弾の射手を弾くのも限度があるしな」
「そもそも、普通はお姉ちゃんの魔弾の射手は弾けないよ...?音速のドライアイスの弾丸を跳弾で弾くとかホント器用だよね」
「確か3キロ以内なら絶対に外さないんでしたっけ?魔法なしでその実力なら国防軍から引っ張りだこなのでは?」
「ヤダよめんどくさい。俺は自由が好きなんだよ。軍に入ったらお終いだって」
毎度のやりとりに辟易しながらもひたすらに拝み倒す。そしていつもどうり香澄と泉美は協力してくれた。
「代わりに今度跳弾狙撃教えてね。ボクも出来ればやってみたいんだ」
「私もお願いしますね」
「...一応言っておくが完全に感覚派だからな?まともに教えらないんだよ」
「だだいま」
________真由美ねぇが帰ってきた。作戦開始だ。
俺は別室に隠れて聞き耳をたてる。
「お姉ちゃん、また何時日さんと喧嘩したの? 何時日さんが凄い怯えてたけど」
「...いい?今回は私は関係ないの。先輩に対して礼を失していたから怒っているだけよ」
「だけどこれから食事なのにギスギスした雰囲気はイヤではないですか?ここは一先ず水に流して落ち着いて話し合った方がいいのではないでしょうか」
「そうそう。多分、お姉ちゃんと久々に話せてテンションが上がってるんだよきっと」
「……何時日くんがそんなこと言ってたの?」
「実は何時日さん、お姉様と同じ高校に通うためにUSNAから戻ったんですよ。お姉さまには内緒にしてくれと頼まれたので黙っていましたけれどお父様も含めて皆知っています」
ここでその件をバラすのか...。背に腹はかえられ無いし仕方ないと割り切ろう。
「......何時日くん、魔法技能なら一科生クラスなのに二科生なのよ。おまけにまた何か隠し玉があるみたいだし...。もしかしたらほんとに?」
「そうだよ。きっとお姉ちゃんに並ぶために努力してきたんだよ」
真由美ねぇはしばらく沈黙すると諦めたようにため息をついた。
「明日、はんぞーくんに謝るのなら私からはこれ以上何も言わないわ。それでいい?何時日くん」
バレていた。そう。当然ながらマルチスコープを前に潜伏などアサシンでも無ければ不可能だ。
なので途中から気配遮断を解除してちょうど今聞き耳を立て始めた風を装った。
そして目論見通り騙されてくれた真由美ねぇに感謝しつつ俺はそっと香澄たちにガッツポーズをした。
その後、弘一さんの帰りが遅くなると連絡が入り四人で先に食べることになり居間で食卓を囲んでいた。
「最近お姉ちゃんが急にお弁当を作るようになったんだよね。この煮物もお姉ちゃんが作ったやつ」
香澄が食卓に上がった料理の一品を指す。言われてみれば、確かにこれだけ他のとは盛り付けが違った。
「へぇ。真由美ねぇも成長したんだな。ん...少し味付けが濃いな。もう少し薄めにしたらどうだ?」
「もういっそのこと何時日さんにお弁当を作ってもらえばいいのでは?」
泉美が真由美ねぇをバッサリ切り捨てるような発言をして真由美ねぇが石になった。
が、この程度は日常茶飯事だったので今更気にはしない。女子力の代わりに女子力(権力)を得たのが真由美ねぇだから。
食事もひと段落すると俺は気になっていたことを切り出した。
「それより真由美ねぇ。司波が風紀委員とか何考えてんだ?悪手の中でも最悪の一手だろ。場合によれば二科と一科に警察権が分裂するまであるんだぞ?」
「私は良いアイデアだと思うわよ。二科生と一科生の格差をなくしつつ意識を変えれる。それに達也くんは風紀委員に必要なスキルを持ってるから」
「……いまいち分からないけど分かったことにする。尤も、司波に戦闘スキルがあればの話だが」
「それなら大丈夫よ。はんぞーくんを模擬戦で倒したから。摩利と生徒会のメンバーで確認したわ」
どうやら真由美ねぇは司波に全幅の信頼を寄せているようだ。だが、今の俺からすれば司波は精々中の上程度にしか見えない。比較対象がおかしいのは理解しているがどうしても納得がいかない。
「
「……何時日くん。対抗意識は分かるけれど無謀すぎるわ。彼、かなり奥の手がありそうだもの」
「それならこっちも同じだ。こと戦闘に関してなら尚更な」
しばらく悩む様子を見せると真由美ねぇは渋々頷いた。
「分かったわ。それなら明日、勧誘期間の巡回が終わったら模擬戦をしましょう。それでハッキリするはずよね?」
「サンキュー真由美ねぇ!」
約束を取り付けて浮かれ気味な俺を嗜めるように真由美ねぇは軽く溜息をついた。
「ほんっと、何時日くんはバーサーカーよね……」
「今更だろ?」
真由美ねぇは頭痛を堪えるかのように頭を抱え、俺はゲラゲラと笑ってゲンコツを食らった。
明日に備えてさっさと帰る事にして、真由美ねぇの家をお暇し雫の家へと帰る。
と、ドアを開けると仁王立ちした雫が待っていた。
「何時日。昨日から私のことを蔑ろにしすぎだと思う」
開口一番俺への糾弾が始まった。あまりに珍しい怒涛の台詞。それ程に怒りが激しいのか。
「いや。ほら、俺って他人の感情が分かんないからさ……」
「だからポーズでも叩いたりしたんだよ」
「まあ、実際は痛くなかったけどさ?別に俺も雫のことを軽んじてるわけじゃなくて。真由美ねぇに明日の司波戦の件もあるし出来れば明日以降がいいんだけど」
「待って。達也さんと戦うの?なんで?」
「
「…………」
「雫には悪いとは思ってるけどさ。俺のことなら分かってくれるかなーって」
「ほのかが心配。達也さんに惹かれてるみたいだから」
「マジで!?いや予想外……でもないか。エレメントの血筋ならあれぐらいの性格がちょうどいいか」
「何時日」
雫が厳しい声でそれ以上を止めた。
俺の性分の悪さは理解してくれてるから警告で済んでいるが、そうでなければ絶交だろう。
「まぁ、もう決まった話だし。明日に備えて早く寝るよ」
「お風呂は?」
「あっちで入ってきた」
「…………そう」
それだけ言って雫はさっさと自室に戻って行った。俺も自室に戻りプランを考える。とは言え既に初手から3手先までは決まっている。
あとは奥の手をどこまで使うかだが……
「一先ずは小出しにして投影からか」
右手に構築した短刀を握りしめて俺は溢れる嗤いを噛み殺した。