魔法科高校の第三魔法使い   作:揖蒜 亜衣

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第7話:悪意の使徒

ある少年の話をしよう。

 

彼は悪意に、殺意に、敵意に満ちていた。

だから彼に善悪はあれど、それは普通とは乖離していた。しすぎていた。

 

『自らが悪たることを良しと笑う。おおよそ幼児の思考ではない。』

彼を見たとある大人はそう、恐れおののいた。

 

けれども。彼にとって家族同然の少女は変わらぬ関係を築き上げた。

『何時日は悪い子だけど、悪人じゃないから』

そう言って手を握った少女がいた。

 

だからこそ、彼はそれを嗤い、その思いを裏切るかのような行動を繰り返した。

 

そして、抑え切れない飢えを満たすため。

 

 

 

その日の放課後、俺は司波兄と真由美ねえたちと向き合っていた。

「決闘なら、俺は別にかまいません。」

「...本当にごめんなさい。次からは私がきつく言っておくから。」

 

真由美姉が司波兄に頭を下げるのを俺は他人事のように見ていた。

「確認したいことがあるんですが

 

手始めに司波の実力を測ろうか。

瞬時に接近して想子の波を放った司波に対して、俺は後ろに飛び退きつつ膨大な魔力を放出する。

 

今の俺は聖杯から直接魔力を引き出せる。ゆえに、俺は事実上無尽蔵に魔法が行使できる体質になっていた。

だからこそ、高々三角波など力業で簡単に押し流せてしまう。

「っ!」

膨大な魔力の波で逆に押し返されて司波にわずかな表情の変化が走る。

 

しかし、それでも司波は止まらなかった。

即座に拳を防ぐ。

油断したせいか、或いは司波が規格外なのか。

掌底の衝撃を殺しきれずに後ろに軽く吹き飛ばされる。

魔法式を介さない近接武器攻撃は禁止のルールがある以上、普通の投影は使えない。故に俺は払い蹴りで大きく距離を取ることで回避した。

 

ここまで、司波は驚きこそすれど的確に対処をしてきた。

 だが、それもここまでだ。

 

 

「全投影、一斉掃射!」

 

威力をギリギリまで絞り投影を放つ。寧ろ威力調整に9割の集中力を割いて贋作の雨を降らせる。

「待て!それは過剰攻撃だ!」

「いいえ。大丈夫ですよ」

 

贋作は司波を貫く直前に自壊しその結果のみが残される。

「情報強化、なの?」

「…あれは意図的に過剰強化して使い捨てたように見えました」

「相手に触れる前に自壊して仕舞えば魔法式のみの攻撃になるからルールには抵触しないという訳か…。だが一歩間違えれば司波もただでは済まないだろう。」

「今は大丈夫よ。何時日くんが威力調整に全力を尽くしているから。けれどここから反撃を受けた際には、直ぐに動けるようにしなきゃいけないわね」

 

生徒会三人の考察を聞き流しながら俺は再度想子の波を放った。

今度は明確に範囲を絞らずに爆発的に拡散させる。

司波の放った魔法式は完成する前に押し流されて不発に終わる。

そうしているうちにもどんどん魔力を増幅して放ち続ける。手持ちがオーバーキルな以上、意識を奪うのが手っ取り早いと判断したからだ。

 

司波が僅かに顔をしかめ司波さんの方を見やる。

 

司波妹はふらつきこそしていないが顔色は悪い。

と、同時に同伴していた中条先輩がふらつき始める。

 

まずい、と思った時にはすでに手遅れだった。

中条先輩が倒れ、司波さんがしゃがみ込む。

そして渡辺先輩の声が響き____

 

「幾年何時日。危険行為により失格だ。」

 

俺はあっさりと負けてしまった。

 

 

「何時日くん!」

その後はもう悲惨なものだった。

中条先輩を保健室に運び込み、司波さんの介抱を司波にまかせ、俺は生徒会室で真由美姉から叱責を受けていた。

 

「なんなのあれは!あれだけの想子を放出したら周囲に被害が出ることぐらいわかったはずでしょう!それに何時日くんもただじゃすまなかったのかもしれないのよ!?」

「いやー、俺もまさか卒倒までするとは思わなくて...。あの程度ならぎりぎり耐えれる範疇___」

「ギリギリ迄持ち込むこと自体がダメなんでしょ!?それに、何時日くんは自分の心配はしてないの!?」

「あー、その件なんだけど、絶対にオフレコで頼むんだけどさ...」

 

俺は真由美ねえに簡単に今の状態を説明した。聖杯の件は伏せて単純に想子がほぼ無尽蔵に保有される体質になったとだけ伝える。

すると案の定真由美ねえは絶句した様子で口元を震わせた

「それって」

「俺にもよくわかんないけどさ、入学までにだいぶん制御の練習はしてるから暴発はしないよ。せいぜい人より余剰想子が多くなる程度。」

「本当に、大丈夫なの?今からでも検査してもらったほうが___」

「真由美ねえ」

「...ごめんなさい。でも、何かあったらすぐに報せて。」

「わかったよ。それに、あの意志を持った想子?ってやつもよくわかんないし、当分は控えておく。」

 

生徒会室を出た俺は真っ先に保健室に向かい司波達に謝りに行った。

「すまなかった。まさかあそこまで影響が出るとは思わなかったんだ。」

「私は大丈夫ですよ。それに中条先輩も意識がなかったのはほんの一瞬だけだったようです。後遺症の心配もないそうですよ。」

「そうか...。それならよかった。司波も、本当に済まない。」

「幾年に悪気があったわけじゃないのはわかっている。深雪も無事だったんだ。深雪がいいというならおれはそれでいいよ。」

「...何かあったら雫を通して言ってくれ。可能な限り力になる。」

「分かった。俺はこの後レオたちと合流するが幾年はどうする」

「いささか気まずいんだが、雫に引っ張られるのが目に見えてるからな...。俺も行く」

俺は苦り切った表情で返しその様子を見て司波さんは苦笑した。

「それから、俺のことは達也でいい。」

「じゃあ俺のことも何時日でいい。これからよろしく頼む。達也。」

「ああ。よろしく頼む。何時日。」

 

握手を交わした達也の手は、軍人のように武骨に鍛えられた手だった。

 

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