詐欺師さとりは騙したい   作:センゾー

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正解とは、真実とは、
本人が最も納得できる仮説に他ならないのです。
             ー森博嗣ー


第七話【幻の上】

誰に語るでもない少女の独り言

 

 あの人を殺したのは、お姉ちゃんだ。

 何の理由があったのか知らないけれど、きっとお姉ちゃんはいつも通りに暗躍して幻想郷のために、命を奪った。必要以上に誰かを殺そうとはしない人だったけれど、必要ならばどんな悪に身を染める事も厭わない人だった。ただ、直接誰かを殺すことは少なくとも私の知る限りなかったけれど、そうする事が疑惑を晴らすのに十分かと言えばそうではなかった。

 お姉ちゃんがあの人の死体を埋めるのを見た。藪の真ん中を掘って、死体を隠そうとするのを見た。あの藪が、神仏が宿る場所でも悪妖の蔓延る洞窟のようなものでもなく、お姉ちゃんがずっと昔に幻想郷の始まりに、あちらとこちらを繋ぐ、誰にも秘密の通路として作り出しているものだと知っているから、誰にもあそこに入れないようにいじったのだと知っているから。心を読む瞳でしか、感知ができない、できても通れはしない、本当の覚妖怪にしか使えない現と幻の境界ならざる通り道。あそこに埋めることがあまりにも合理的で、あまりにもお姉ちゃんらしいと思ってしまった。

 あの人はきっと同族だった。なのに、殺した。お姉ちゃんは誰も信用しない。誰であろうと、お姉ちゃんを信用してはならない。

 私が見てしまった時、こちらに気づいたお姉ちゃんのあの眼は、増えた障害に対する苦痛に違いない。

 その絶望は、この眼を閉じるには十分すぎた。

 

 

死後のどこかでとある霊が語る思い出

 

 私を殺したのは、桃色の髪をした覚妖怪ですよ。

 きっと辛いだろうに、きっと苦しいだろうに、それでも進むことをやめない目をしていた。生きることに執着しているのではなく、生きなければできないことに執着する少女。心の奥底を読むことにも、それで人を信じられなくなることにも、耐え切れる心を持った天性の覚妖怪。

 彼女に殺されました。

 人と覚の混血で、人の心を読めてしまった私が、幻想郷に行きたいという願いを口にした時、彼女はそれを許さなかった。それでもなお懇願した私を彼女は鬱陶しく思い殺した。そして、埋めた。とても単純な事件です。ただ、妖怪が人を殺すという当たり前だった。

 え? 自分が殺された話をするには、やけに明るい?

 そんなことはありませんよ。私はとても彼女を憎んでいます。

 彼女は私を殺した。真実はそれでいいのです。

 彼女にとっても、それが都合が良い話なのですから。

 

 

 友人に語る少女の話

 

 私が直接誰かを殺したこと? ありますよ。なんですか、意外そうですね。

 経験は一度だけですよ。聞きたいのですか? 昔の話です。あなたに頼まれた向こうの調査の時ですね。こいしが眼を閉じる前、覚と人の混血を一人殺しました。えぇ、はい。同胞殺しです。幻想郷に来たいと言ってきたので、邪魔になって殺しました。あの頃はこいしが不安定だったので、それに影響するようなものは排除したかった。それだけの理由です。

 どうしてそんな顔をしているのです。やけに悲しそうな。

 こいしを失った私を憐れんで、ですか。仕方がなかったのでしょう。この能力を持つには、あの子は優しく純粋だった。覚妖怪の才能がなかった。どうしようもなかったのです。だから、こうして私には待つことしかできない。

 私は待ちますよ。何があったとしてもあの子は私の妹で、愛しているのですから。

 

 

 とある賢者の話

 

 私は、彼女が独自の道を確保している事を知っていた。だから、私は彼女とその妹の顛末を知っている。

 彼女は同胞殺しなどやっていない。彼女は、誰も殺していなかった。

 何の思惑があってか幻想郷に来ませんかと藪の中から問う彼女の顔を見て、少女は悲しげに彼女を抱き締めて、そして自害した。あの事件に犯人は存在しない。何故か死を選んだ少女がいるだけだ。そして、その遺体を何を思ってか埋めようとした彼女がいて、それを見た妹が彼女が殺したのだと思ったのである。そんな単純な勘違いでしかなかった。

 おかしいのは、彼女が誤解を解く事を一切せず、寧ろそちらを真実に置き換えようとしていること。彼女は殺していない。殺意を抱いてすらいない。救おうとしたのに、彼女は犯人であることを選んだ。

 私は事の顛末を知っている。だが、真実は知らない。

 彼女が何を考えてそうしているのか。相変わらず私にはわからない。

 いつだって、彼女のことは彼女しか知らない。

 彼女は誰も殺していない。少なくとも、私にとっては。

 彼女すらそれを真実と言ったならば、この言葉は如何様にも捻じ曲げられて、虚構の果てに追いやられるのだろう。

 少なくとも、そうするだけの意味が彼女にとってはあるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃんは、どうして私が帰ってくるって分かっていたの?」

「私がお姉ちゃんだからよ」

「何それ」

「お姉ちゃんはね、いつだって妹のことを想っているということよ」

「それで私がお姉ちゃんを嫌いになっても?」

「えぇ、そうよ」

「変なの」

「そういうものなのよ」

「お姉ちゃんは嘘つきだから何が本当かわかんなくなってきたわね。あの人を殺したって私が思っても何も言わないし」

「でも、あなたが私を嫌いになったから、あなたは今ここにいるのでしょう?」

「どういうこと?」

「私が嫌いなだけなら、私を憎んでそれで終わりよ」

「またよくわかんないことを言ってる」

「わからなくていいのよ」

「いつもそう。全部お姉ちゃんの手の上」

「そんなことはないわ。私は分かったふりをしているだけよ」

「でも、大体はお姉ちゃんの思うまま」

「……ねぇ、今は、楽しい?」

「楽しいよ。皆楽しくて、世界が楽しい」

「なら、私はそれで良いわ」




あの日になにがあったのか、あの日になにが思われたのか。






次回から伽藍堂までの感じに戻ります

この作品を読んでいて良いと思う部分

  • シナリオ
  • キャラクター(性格など)
  • 台詞回し
  • 地の文
  • 表現
  • 考察できる点
  • 謎の多さ
  • キャラクターへの解釈
  • 世界観への解釈
  • シリアスな点
  • ギャグ要素
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