ガイウス・プリニウス・セクンドゥス
「地底の管理を、引き受けてよかったのですか?」
「なんでそんなことを? 私のような陰気にはこの上ない適役でしょうに」
「あやややや、えー、まぁ、多少そういうところはありますけど、あなたはもっと地上ですごいことをやるんじゃないかと勝手に思っていたもので」
「あはははは、陰気って認めてしまうんですね。いえ、別に文句じゃなくて」
「覚ですからね。わざわざ嘘をつくこともないでしょう」
「助かります。あなたはたまに覗いても、私に嘘をつかないから好きですよ。恐れてもいるけれど好意的にも見ている。打算がないわけでもないし、かと言って私が気になってるのは本当。あなたらしくって良い。少なくとも、妙に取り繕うより良い」
「私はあなたを、少なくとも他の人らが思っているほど遠くのものと思ってませんから。こうして笑ってるあなたは普通に見える」
少女の顔は美しく、夕日に照らされて映える。
理性に満ちた幼い容姿は矛盾しているのに、彼女に限ってはそれが自然に見えた。
「あはははは、そんなことを言われたのは初めてです。嬉しい」
「あやややや、素直な反応でいいですね。良い笑顔! この表情を他の人に見せることができたら良かったのですけど」
「きっとそんな事がいつかできるようになりますよ」
「予言ですか?」
「予感です。誰だってそうしたい時があるなら、いつか誰かが成し遂げますよ」
いつだったか、随分昔、紅葉に染まる妖怪の山での事だった。
※
「あやややや、あなたもしかして」
「あら、お久しぶりです」
「地底から出てきたんですか。またこちらに戻られるので?」
「いえ、用向きがあって上がってきただけです。この前の異変以来、用事が増えてしまって」
「それは残念……。しかし、またお会いできて嬉しいですね。あっ、覚えていますか。地底に上がる前にあなたが言っていた道具、本当に生まれましたよ!」
「ハハハ、覚えていますよ。是非それで沢山の物事を残してください」
「……そうですね、そうしたいと思います」
「そう落ち込まれると困りますね。では、こう付け加えましょう。沢山の笑顔を撮って残してください」
「! やっぱり、あの時のことを……」
少女は指で口角を引っ張り上げて、感情の希薄な顔に表情を描いた。
そして、自嘲気味に呟く。
「……私は撮られるに向きませんから」
答えに窮する。何も言えなかった。いや、一言でも言うべきでなかった。
静寂だけが二人を見つめる。
「あぁ、そういえば聞きましたよ。新聞を発行しているそうで」
「はい。生憎売れてはいませんが」
「購読しても?」
「えっ」
「えっ」
「俗っぽくてくだらなくてあなたとは縁遠い内容ですよ? きっとあなたに必要な情報はあまりありませんし」
「ハハハ、それでいいんです。それとも、みすみす顧客を見逃すとでも?」
「あやややや、そう言われると痛い。じゃあ、お願いします。お届けはどうしましょう?」
「地底の入り口にポストを立てておくので、入れておいてください。定期的に回収します」
「わかりました。じゃあ、お代の方もそこにお願いします。初月は無料サービス中ですので、購読料の方は配達の際に一緒に入れてお伝えします」
「わかりました。では、あなたの新聞、期待しています」
「はい、あなたにも喜んでもらえるように頑張ります」
森をいく少女の姿を空から見届けた。
同時に、それは私にとって「私の知る彼女」を見届けているような気がした。
彼女の目元には隈があった。だが、あんなに濃くはなかった。
彼女の表情は動きづらかった。だが、動く時は人なりのものを見せた。
声は変わらない。
嗚呼、違う。彼女の言葉で声だけが変わっていない。
森の奥へ消えていこうとしている影を見つめて、揺れる感情からはっきりとした文章化できるようなものは生まれてこなかった。
ただ、自身にしか理解できない情動に従って、手を振るのだ。
次に会う時は、今の彼女とまた仲良くできるように。
「さようなら、またいつか」
『あばばばば』
閑話。
謎もないし欺瞞もない。たまにはこういう回もいいかなと。
考察お待ちしております。
この作品を読んでいて良いと思う部分
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シナリオ
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キャラクター(性格など)
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台詞回し
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地の文
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表現
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考察できる点
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謎の多さ
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キャラクターへの解釈
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世界観への解釈
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シリアスな点
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ギャグ要素