詐欺師さとりは騙したい   作:センゾー

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金持ちでも貧乏人でも強い者でも弱い者でも、
遊んで暮らしている市民はみんな詐欺師だ。
 ジャン=ジャック・ルソー ー『人間不平等起源論』よりー


第十三話【銀貨三十オーバーの取引】

 この世には、貧乏神というのは、残念ながら存在する。

 それは誰かにどうにかできる代物でなく、憑かれる家があるならそれはそういうものと受け入れるほかない。

 雨が降れば傘を指す。傘が無ければ軒下で待つ。雨を消すことなんて考えない。

 ただ、それと同じこと。

 

 つまり、たとえ幻想郷きっての謀略家であっても、解決策を用意できない。

 

 彼女が今貧乏神を別の商人に移そうとしているのも、無駄な話。

 だって、これは絶対ではなく相対の話。

 栄えればまた来る。貧すれば離れる。

 根本的な解決には至らない。

 いくら少女がいつもの顔で策謀を巡らせたところで、道理ある限りは繰り返すのだ。

 

 そう貧乏神の妹は考えていた。

 

 彼女の考えは間違っていない。全くもってその通りである。

 

 問題なのは、その謀略少女はこういうどうにもならないような案件を解決してきた人物であり、そして、今回一件に関して少しズルかった事である。

 

 この論には抜け落ちているところがある。

 難しいことではない。至極単純で、当たり前な事。

 それは、霧雨道具店はなぜ今になって貧乏神に憑かれたのか、ということ。端的に言えば、人里一の商家に貧乏神が憑くのはつい最近になって始まったのである。

 あらゆる物事には始まりがある。始まりがあればこそ終わりがあり、無限ですらも始まり無くしては。この貧乏神の誕生は、つい先日、という風に語られるものではない。ずっといて、今になって憑いた。これは極めて恣意的なものだ。

 ここまでは、論理自体は簡単な話。

 しかし、これが妖怪でなく神の話である事が、話をややこしくする。

 神は、超常的な存在だ。幻想郷では比較的分け隔てなく扱われるから忘れられることであるが、妖怪と神は違う。

 妖怪は自然現象の具象化であり、人々の思考の具象化であり、或いは超自然的力を持つ生物だ。結局の所、どこかで生まれてしまえば力を行使するだけの存在に過ぎない。

 神は、願われるものであり、罰するものであり、救うものであり、或いは殺されるものだ。生まれるにも、生きるにも、死ぬにも、人との関わりが断ち切れる事は決してない。普通、日出る国では神は自然な存在として思われる。あなたが近所の小さな神社で祈るからといって友達感覚でないように。伊勢や出雲だからひどく祈りが必死になることもない。それは習慣に過ぎない。生活の中で、神の座す所でそうするという行動がプログラムされているだけの話だ。神は、人の内ではただそうあるだけのものとしか思われない。幻想郷でも、それは少し前の洩矢の異変から徐々に変わり始めたばかりのこと。

 誰も貧乏神に人格を求めない。雨に性格がないように、嵐が怒りではないように。

 

 しかし、謀略少女は知っている。

 

 なぜって、それはこの世界のことを知っているからだ。

 貧乏神の容姿も、性格も、家族も、この先起こす異変も全て知っている。

 だから、彼女はその妹のことも知っている。

 この一点において、少女はズルいのだ。先に起きることも人物も知っているのだから、予想など簡単であるに違いない。

 

 だから、これは謀略少女にとっては、知っている未来への道筋を整えるだけの話。

 

 

 最近、人里の様子がおかしい。そう誰もが思っていた。

 この前のような事件があったわけでもなく、異変があったわけでもなく、里はいたって平和なままである。

 やけに町の景気がいい。自然なものではないとわかるほどに。

 とはいえ、町人にとっては、ただそれだけのこと。いくらか生活に影響はあれども、何かが大きく変わることはない。

 この状況に関心を持ったのは、一部の聡い者達。

 霧雨道具店が妙な事になってから、ほかの商家の金回りが良い。それも、どこかが秀でるということもなく、どこかが儲けては衰え、どこかが儲けては衰えを繰り返している。

 原因ははっきりしている。噂の『覚者』だ。霧雨道具店を主として契約を結んでいた上客。恐らくは人ではないだろう、人里ではお目にかかれない富豪の類。こんな客が『覚者』を名乗るなど皮肉にも程があると思われるかもしれないが、存外にそうと断言できたものでもなかった。そいつが買っていくものは、最近現れた紅の客のような贅を尽くす類の代物でなく、人里では大抵不要な無縁塚の漂流物。何かの理由があって、何かの思惑があって、恐らくは聡いその人は言い値でそれらを買い漁る。まるで不要と思われたものを救うかのように。故に、誰が言うともなく『覚者』、誰が教えるともなく名乗る名は『覚者』となった。

 その『覚者』が最近妙な動きを見せている。

 霧雨道具店との取引を取りやめたのは、大したニュースではなかった。業績が悪化するばかりの商店を切り捨てて他に移るのは商売では当たり前のこと。問題なのは、どこの商店にも定着しないという事。

 商品の質に幻滅したのか、或いはサービスが気に入らなかったのか。定着しない理由など普通はいくらでも考えられる。だが、おかしい。それを確かめるには金づかいが荒い。以前のように目的があって決まったものを皆買い取るような感じでなく、ただ雑に買い漁る。それはまるで、金と交換に何かを得ようとするのでなく、金を使う事で何かを得ようとするかのような。

 皆皆が不思議に思い、皆皆が答えには行きつかない。

 当たり前だ。それは真っ当な理由などではないのだから。

 そして、その真っ当でない理由ゆえに、感じ取るものがいた。

 貧乏神の妹たる疫病神である。

 彼女は疫病神であるが、近頃は病気云々ではなく金銭を巻き上げることを生業としていた。お金を奪い、それで豪奢な服装を身につけ、また奪う。それを繰り返す彼女は、近頃の異常を感じ取っていた。

 

「さて、今回もそれなりに儲かったな。癪だけど」

 

 彼女の脳裏に『覚者』の姿が思い浮かぶ。

 あの時、アイツの目的は単純で、私は姉さんを移すことを考えていたのだと思っていた。それは間違っていなかった。実際、姉さんは移り移りで商店を巡っている。だが、本質はどうやら違うらしい。

 移されてるのは私の方だ。

 私が確実に儲かる状況、間違いなく飛びつくような環境を作り出して私がそれなりに巻き上げた頃に『覚者』は移動している。その頃には姉さんもこちらに移ってきて、私は次に移らざるを得なくなる。

 私達神は嵐のようなものだけど、私達貧乏神疫病神はその手順は極めて人間的だ。お金が瞬時に消滅するわけじゃない。一瞬で大病にかかるわけじゃない。物事の道理に従って、そこに行き着くだけのこと。金銭などはそれなりに手間がかかる。いくらか時間をかけて奪い取っていくのだ。

 それをさせないようにされている。

 だけど、確実に一定の儲けが出るようにもされている。

 癪だ。企みに乗せられているのは実に癪だ。

 じゃあ、どこかでこの話は降りるのかって?

 そんな馬鹿な事をするつもりはない。私は感情より理性を優先する。

 これは儲かる話だ。確実に金になる話だ。私をどこかで陥れるための策略でない。そういう話に私が敏感で、飛びつかないことを『覚者』はきっと知っている。恐らくは向こうも理性的な奴だろう。理性的なやつと理性的なやつが金銭を手段に関係を持つ事を取引という。つまり、これは商売だ。私は向こうの企みに乗る。向こうは私を儲けさせる。この関係に何の問題があるだろうか。

 『覚者』の事を舐めていた。こいつは世の中で一番厄介な類の知恵者だ。だが、こういう奴ほど信用できる。無駄がない。そして、無駄がないものは切り捨てない。必要なことを必要な分だけする。取引をするのはこういう奴が一番裏切らない。

 だから、互いに利益が出るうちは乗ってやろう。ここまで来れば、どこが目的か大体察しはつくけど、問題になるようなことでもない。

 どこかが儲ける。私が奪う。奪えば姉さんが来る。そこが貧すればどこかが儲ける。この繰り返しを作りたいんだろう? そうすれば、商家が潰れたりする可能性は低くなる。どこも突出しないが、どこも潰れない商い。そういうのが良いらしい。

 いいだろう。家を潰して回るのも飽きてきたところだし、ここ幻想郷は向こうと違って家も商家も限りがある。長期的な計画も悪くはない。どこかでアンタが離れたとして、きっとまたバランスが崩れれば介入してくれるんだろうし、私にリスクはあまりない。姉さんも安定してそこそこ貧乏くらいの生活なら今よりマシだって喜ぶだろうし、私がたかられることも減るかもしれない。

 あの時の声が、なぜか思い出された。

 もしも、あれが私への言葉だったなら、最初から最後まで『覚者』の思惑通りで挨拶までされていたということになる。そうだったなら、大したものだ。

 

「さぁ、素晴らしい取引を致しましょう」

 

 あぁ、よろしく。これからも素晴らしい取引を。願わくば、良い顧客でありますように。

 

 

「珍しいわね、あなたが一人の人間を助けるなんて」

「心外ですね。私はそれなりに良心を持ち合わせていますし、人助けをしますよ。それと、私は今そんな事をしている覚えはありませんが、遂に耄碌しましたか、紫。私は無能の助けをするつもりはありませんよ」

「触れられたくない話題の時に雑に毒吐く感じ、信頼の証だから好きよ」

「……」

「あぁ、ごめんなさい。私が悪かったわ、悪かったから。その真っ当な笑顔をやめて頂戴。可愛らしいけど違和感が酷くて気持ちが悪いわ」

「よろしい」

「ホッとした。やっぱりあなたはその陰気な顔がいいわ。ただ、一つだけいいかしら?」

「何ですか」

「これは幻想郷に関わること?」

「長い目で見れば結果的にそうかもしれませんが、大したことはありません」

「つまり?」

「殆ど、ただの買い物ですよ」

「じゃあ、いいわ。これはあなたがいつもよりほんの少し浪費しているだけのこと」

「そういうことです。私も女の子ですから、買い物は大好きなもので。まぁ、少々高くつきましたが」

 

「神の子を裏切るのには銀貨三十で足りるのに、ちょっとした悪神ですら取引にはその十倍あっても足りないとは、なんて不平等な取引でしょう」











次の自分に丸投げしたら何も思いつかなかったので今回は駄目でした。すみません。次は頑張ります。

この作品を読んでいて良いと思う部分

  • シナリオ
  • キャラクター(性格など)
  • 台詞回し
  • 地の文
  • 表現
  • 考察できる点
  • 謎の多さ
  • キャラクターへの解釈
  • 世界観への解釈
  • シリアスな点
  • ギャグ要素
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