詐欺師さとりは騙したい   作:センゾー

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生まれけり、死ぬるまで生くるなり。
               武者小路実篤


第十八話【朧月抄】

「あなたが何も変わらなかったというのだから、私はそれを信じましょう。友達の言うことって、信じてあげるのが情というものでしょう」

「私とあなたが友人であるかはひとまず置いておいて、そういう言い方をしているうちは、感情の理解には程遠いでしょうね、至極残念な事ですが」

 

 さとりの言葉に輝夜はヘラヘラと笑いながら自分の湯呑に適当に茶を注いだ。そして、ついでにとばかりに、さとりに湯呑を寄せるよう求める動きをしたが、さとりは小さく「結構です」と言って注がれることを拒んだ。湯呑には、お茶が一口程度しか残っていなかった。

 輝夜は、一度微笑むと、意地の悪い笑みを浮かべて言った。

 

「今日は、泊まっていってはどうかしら?」

「……はぁ」

 

 心底面倒くさいといった具合のため息だった。面白がった輝夜がさとりの顔を覗き込むと、少し視線を寄越すばかりで顔を向けることはされなかった。疲れ果てたと言わんばかりの表情は、余計にお姫様の嗜虐じみた好奇心を刺激した。

 

「いいじゃない、ここは良いところよ。仕事に疲れたあなたの療養には最適だと思わないかしら」

「あなたがいなければ、或いはそうだったかもしれません」

「でも、私がいなければ門前払いもいいところよ?」

「あなたが招かなければ、私がここに来ることもありません。余程の事がない限りは」

 

 何を言っても返される素っ気ない反応にクスクスと笑って、輝夜は満足げに伸びをしたかと思うと、すぐに立ち上がった。それはからかうことに飽きたのか、それともそれ以上踏み込む事をやめたのかは誰にもわからなかった。相手は古明地さとりであったから、彼女の心と同じように彼女への心もいつだってわからないものなのである。

 少なくとも、蓬莱山輝夜は立ち上がった。それは、それまでさとりが望んでいた、会話の終わりを告げるものだったから、歓迎されるべき事に違いなかった。

 

「宴もたけなわだけど、そろそろお客様はお帰りの時間のようね」

「宴もたけなわという言葉を選んだ神経は疑いますが、そうですね、もう帰らなければならない。生憎と忙しいもので」

「お土産を準備しているわよ。あっ、今また変なものをって思ったでしょう?」

「いつもそうじゃありませんか。前にいただいた蓬莱の玉の枝のレプリカ、既に物置の奥に眠っていますよ」

「永琳に呆れられたから、ちゃんと良いものを用意したのよ。ほら、疲労に効く薬と髪染めの薬、あと、瞳の色を変える薬とか、って、どうしたのかしら、そんな驚いた顔をして。あなたらしくもない」

「いえ、あなたにそんな有用なものを贈られる日がくるとは思っていなかったもので」

「心外ね」

 

 小さく笑って、小さな鞄を差し出した。受け取ってみると然程重くもない。中身を除くと、言った通りのラベルが付いた瓶がいくつか見えた。どうやら、本当にこんな贈り物を輝夜はしたのである。

 

「ありがとうございます。こちらは有用に使わせていただきます」

「えぇ、是非ね。永琳作だから効き目はバッチリ」

「言うまでもありません。永琳女史の腕前を疑う者など何処におりましょうか」

 

 さとりの言葉を聞いて、輝夜は少しはにかんだ。自分の事を褒められるのには慣れていても、信頼する永琳の事を褒められるのにはあまり慣れていないらしかった。

 その人間らしさを小さく笑うと、さとりは徐に立ち上がって、お辞儀をした。

 

「では、お邪魔しました。またいずれお会いしましょう。その時は、私が必要である事を願っています」

「また何の用もなく呼ぶわ。あなたが必要な時は、そうね、きっと凄く恐ろしい事でしょうから」

「その恐ろしくかつ厄介な事象の為に私はいます。それが必要ならば、私はあなたを助けますよ。あの時だってそうだったでしょう?」

「最初の事を言っているのなら、あれは妹紅の為にやった事でしょう。感謝しているし、助けられた事は否定しないけど、あなたの心情を否定させはしないわよ。友達を助ける事って、とても良い事だから」

「意地悪なお姫様。結局のところ、私のような浅慮な者は見透かされているのでしょう」

「表面だけよ、見えてるのは」

「そうですか、それは良かった。これからも、どうか私の事はわからないままでいてください」

 

 その言葉を最後に、古明地さとりは永遠亭の敷居を跨いだ。引き戸を閉める動作は落ち着いていて、気を張った泥棒よりも静かに思えた。名残惜しさなど少しもなく、ただそこからいなくなったかのように去る。まるで幽霊のような彼女は、しかし誰よりも悍ましいほど強く生きていた。

 蓬莱山輝夜は不老不死である。しかし、古明地さとりは定命である。彼女がこの先何千年を生きるとしても、永遠の前にはかの愚者の時間など塵にも等しい。それでも、彼女を忘れない理由があるのだとしたら、それは彼女が古明地さとりであるからで、いわゆる生き様が既に過ぎたる時間のうちでも際立ったものであるからなのである。

 もっと勝手に生きてもいいと思うのだけれど、なんて言葉にすべきでないとわかった事を思って、遠のく足音を見送った。消えかける頃、足音は二つになっていた理由を彼女は知っていたが、それこそ自分が触れる事ではないとわかっていたから、そのまま欠伸をして、自室で夜の午睡に耽るのであった。

 

 

「どうだった」

「どうだった、とは」

「アイツがまた余計なことしたんじゃないかと思って」

「今回は珍しく普通にしていたわよ。この前の騒動に関して話を聞きたがっただけだったし、ほら、今回の土産物は永琳女史の薬」

「じゃあ、いいけど」

「ねぇ、妹紅」

「なに?」

「嫉妬?」

「はっ⁉︎」

「最近、あなたと会う事も少なくなった中で何度も永遠亭への案内を頼むから、友達として嫉妬しているんじゃないかと思って」

「……心、読んだ?」

「いいえ、読まなくても顔に出ている」

「……さとりには敵わないわ。八割くらいそれ。でも、正直言ってあなたはあまりあそこと関わらない方がいいんじゃないかって思ってる」

「中立が揺らぐから?」

「そこは信用してるから大丈夫。それよりは、永遠を生きる者と関わっていい事なんてないと思うから」

「自分は棚に上げて?」

「そ。私は元々地球人だし、あの二人よりは人間性あるって自負があるからね。幻想郷があるうちはずっと今と変わらないと思う」

「えぇ。私が死ぬまでの間くらいは、きっと変わらずあなたのまま」

「あなたが幻想郷を存続させるから?」

「当然。いつか隠居する日はあるかもしれないけれど、本当にここが終わりかけたら、何としてでも存続させる」

「あなたが言うのなら、きっとできる」

「心配しなくて大丈夫。たとえ死んだとしても、旧友の為ならば、止まった心臓のまま蘇ってしまうから」

「あなたが言うと本当にやりそうだからその手の冗談はやめた方がいいわよ」

「言う相手なんてほとんどいないから大丈夫よ。それにこういうのはあなたの方が得意でしょう。あなたも言いやすい相手はいないでしょうけど」

「お互い、友達が少ないからね」

「ふふふ」

「ふふふ」

「そういえば、生活に不便は?」

「慧音が良くしてくれるから、最近は随分良い生活をさせてもらってる」

「放っておくと野人同然な事もあったかしら」

「あれは、慧音には秘密ね。多分、過保護になるから」

「過保護にされた方がいい気もするけれど」

「お願いよ。あんまり心配かけたくはないから」

「わかっているわ。そんな余計な干渉をできる立場でもないし」

「……」

「……」

「月が綺麗ね」

「死ねないあなたがそれを言うのね」

「死ねないあなたにだからこれを言うのよ」

「私はまだ死ねないものね」

「死ねないあなたと、死ねない私。死んでもいいだなんて言えはしないでしょう」

「えぇ、そうね」

「だから、この言葉にこれ以上の意味なんてないのよ。月が綺麗ね」

「あぁ、相変わらず、月が綺麗ね」













お久しぶりです。あまり面白みのない回になってしまいました。次回は頑張ろうと思うのでよろしくお願いします。

この作品を読んでいて良いと思う部分

  • シナリオ
  • キャラクター(性格など)
  • 台詞回し
  • 地の文
  • 表現
  • 考察できる点
  • 謎の多さ
  • キャラクターへの解釈
  • 世界観への解釈
  • シリアスな点
  • ギャグ要素
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