詐欺師さとりは騙したい   作:センゾー

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And if you listen very hard
The tune will come to you at last.
When all are one and one is all
To be a rock and not to roll.
        Led Zeppelin - Stairway to Heaven


第十九話【その花束は誰へのものか】

 こいし、お燐へ。この記録が私の遺品整理などで発見された場合、即刻破棄するように。

 少なくとも私の心情や行動に関する事項の記載はなく、そしてここに書かれた情報の流布は幻想郷に良からぬ影響を齎します。一頁たりとも開くことなく、誰の目にも触れることなく灰に変えなさい。

 

 二人でない誰かがこれを見つけたのならば、見ないことを推奨します。

 これは誰かの弱みでも、誰かの秘密でもなく、ただ知るだけで人生を蝕み得る、知るべきでない記録です。古明地さとり(私)が誰にも話さずに死んだのならば、この記録が消えれば不穏の種が芽吹くことなどないのです。

 

 紫へ。あなただけはこれを読まなければならない。

 我々が築いたものが未完成の幻想ならば、これは真実の希望です。

 この記録と同じ事例を決して作ってはいけない。この記録の先を望んではいけない。

 諦めなかった彼方に天国があるのならば、幻想を去り行く者達がいる。希望はささやかでなければならない。

 

 これは希望への階段。私にできたのは記録する事と彼女の後に続こうとしなかった事だけ。

 

 止める事も連れ合う事もなく、私はただ彼女の歩む階段に花束を添えたのです。

 

 

 本日を起点とし、これから彼女に関する記録をつける。

 彼女とは闇を操る力を持つ長い金髪と黒い洋服の背の高い彼女である。名前がない為、彼女と呼称する他ない。

 記録の理由は彼女に何か決定的な変化のきっかけがあった事と、私らしくもないが嫌な予感がした為である。もし私が死んだとしても問題ないように。杞憂である事を願う。

 

 彼女が訪ねてきた。地霊殿を訪ねる者は少ない為、回数は把握している。

 27度目の来訪で彼女は妙な事を言い出した。

 自身と逆の性質への関心であるが、妙な憧れを感じると。

 彼女の変化が良からぬものでない事を願う。

 

 

「ここに来る前は私が人を食べようとしたらよく同じような言葉を皆口にしたのよ」

「生きたいとか死にたくないとか、そんな所でしょう」

「それが違うのよ。なんて言ってたのかしら、確か、る、るあ、いや、るいあ?」

「ルミナ、ですか」

「そうなのね。なんでわかったのか聞いても?」

「推測の域は出ませんよ。ルミナとは星明の事です。夜に闇に覆われれば、誰もが光を求めて神に縋るでしょう。あなたの闇に呑まれた時などは特に」

「光ってそんなにいいものかしら。ただ眩しいだけ」

「あなたには理解し難いかもしれませんが、希望や素晴らしき事を人は光と重ねて見るのです。少なくとも、真っ当に育った人は」

「そんな良いものなら見てみたい」

「神は光あれと言われた」

「あら」

「すると光があった。神はその光を見て、良しとされた。神はその光と闇とを分けられた。神は光を昼と名づけ、闇を夜と名づけられた。夕となり、また朝となった。第一日である」

「信仰なんてないくせに」

「神がいようといなかろうと関係なく、闇が光を見れるわけないでしょう。あなたにとっては極上の毒です」

「でも、私と正反対の綺麗が、私にとっても美しいかもしれないじゃない?」

「闇は闇で美しいものです。北の果ての人々は氷河を知り、幻想郷の私は桜を知る。あなたがいる場所は闇を見る場所で、あなたはそこを離れると良くない。人も同じです。互いに知らないままが平穏」

「停滞ではなく?」

「そう言い換えてもいいですよ。ここは立ち止まる為の世界ですからそれが正しい」

「つまらないこと」

「つまらなくても在り続ける事を望んだから、いかにもここは素晴らしく、そして残酷なのです」

「それでも私が光を見たいと言ったら?」

「私に止める手立てはありませんね。それが幻想郷に関わらない限り、止めようとも思いません」

 

 

 彼女の来訪があった。彼女は些かやつれて見えた。

 光への接触を果たしたようだ。不思議ではなかった。彼女の中では無意識の内に避けている概念だろうから、望めば触れられるものではあった。ただ、同時にそれがやはり良くない働きをしている事も明らかであった。

 この先どうなるかなど私には知る由もない。

 経過を見守るべきか、或いはここで無理にでも止めてしまうべきか。

 私は取り敢えず前者を選択した。幻想郷の存続に関わらない以上、個人への過剰な干渉は避けるべきであるからだ。

 

 

「調子は悪そうですが、気分は良さそうですね」

「良いものね、光って」

「人にとっては、とても。あなたにとっては語るに及ばず。言うまでもないでしょうが、このままだとどんどん弱っていきますよ」

「知ってる。けれど、離れられないの。人の言う悪い、クスリって、こんな感じなのかしら」

「さぁ、どうでしょう。アレは快楽の奴隷とでも言うべきものですが、あなたは寄り添っているようにも見えます。隷属ではなく、恋慕のような。真っ黒な心など読めないから関係ありませんが」

「そういえば、あなたでも私の心は読めないのだったわね」

「闇ですからね。見えないものです」

「見えるあなたにとって見えない事は、ただの人間より恐怖ではなくて?」

「えぇ、とても怖いですよ。これは本当の事です。ですが、それでいいのです。恐怖はいつになっても忘れるべきではありませんから」

「理性的ね」

「私ですから」

「あなたなら、この光への渇望も理性で抑えられるのかしら」

「……」

「ちょっとした問い掛けなのに、あなたにしては真面目に難しい顔をするのね」

「いえ、正直なところ、私でも御せないだろうと思いまして」

「謙遜かしら」

「いえ、むしろ傲慢でしょう。そこまでの事でなければ理性でなんとかできると思っている。あなたの渇望は、どれほど強固で堅牢な理性であろうとも、それが心で思考である限り逃れ得ぬものかもしれません」

「光とはそういうものだと?」

「いえ、闇にとって光とはそういうものだと」

「酷く確信に満ちて語るのね」

「憶測ですよ。今、光に呑まれる人を前にした愚者の瑣末な言葉です」

 

 

 再度の来訪。どうやら、かなりまずい状況であるらしい。

 やつれて見えた顔つきは戻り、目の下に隈もない。明るい表情で、光を求める前と同じように私に語りかける。前と同じ顔で、光の話を私にするのである。

 不審に思った私は第三の瞳を開き、想定はしていたものの決してそうであってはいけないと思っていた事項の確認を行った。

 結果は想定通りだった。

 

 この日記はただの日記では済まされなくなった。厄介な事この上ない事象に対する古明地さとりの対処の記録であり、今起きている事、これから起き得る事が幻想郷に与える影響を考慮するに必要不可欠な情報である。また、古明地さとりが介入すべきか、或いは古明地さとりに何かがあったとして介入すべきであったかを判断する判断材料として欲しい。

 本件は幻想郷の構造思想に壊滅的な影響を与えかねないものであり、それゆえに賢者達が監視による影響を受けることは断じて避けるべきである。よって、地底観察者古明地さとりが自身を最適と見做し、独断により単独での観察を継続する。

 

 彼女の心は読めるようになっていた。










歌詞引用機能初めて使いました。
この話は次で終わります。

この作品を読んでいて良いと思う部分

  • シナリオ
  • キャラクター(性格など)
  • 台詞回し
  • 地の文
  • 表現
  • 考察できる点
  • 謎の多さ
  • キャラクターへの解釈
  • 世界観への解釈
  • シリアスな点
  • ギャグ要素
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