詐欺師さとりは騙したい   作:センゾー

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And as we wind on down the road
Our shadows taller than our soul
There walks a lady we all know
Who shines white light and wants to show
        Led Zeppelin - Stairway to Heaven


第二十一話【その花束は誰が添えたのか】

 一週間ぶりの来訪。

 解読範囲は拡大している。もう他の人とそう変わらない。例えるならば霧が立ち込めている程度で、読むのに苦労はあるが困難はないという具合である。

 存在の変質は続いている。彼女はいずれかの頃に、彼女でなくなるだろう。変質過程の今封印を行っても問題の先送りにしかならない。

 その時を待とう。機会は残っている。

 もう、彼女を救うことはできない。彼女は幻想郷にいてはいけない。

 

 

「あなた、私を止めないのね」

「止めて欲しかったので?」

「いいえ、きっとあなたが泣いて懇願しても私はこの道を選んだ」

「はい、だから止めないのです」

「花は?」

「ありますよ。ちゃんと、綺麗なままで」

「やることは?」

「わかっていますよ」

「そう、あなたは聡いからね」

「友人と呼称する人物に願うことではないでしょうけど」

「友人だからよ。あなたがいなかったら一人で好き勝手にやってたわ」

「そうでしょうね」

「私は自由だから」

「あぁ、そうではなく、私を友人だと思っているからという部分への肯定です」

「あら」

「私の都合を随分重く考えてくれたようで」

「数少ない友人であるあなたをこれ以上苦しめたいとは思わないからね」

「……行く先に何があるか知りたくはないの?」

「知りたいわ。だから、変わるんだもの」

「なら」

「なら、なぜ私に自身の殺害なり封印なりを願うのか?」

「……」

「私の行くところは、私が私でなくなった時点でもう行ける場所だと思っているの。たとえ殺されようと、変質の決定的瞬間に封印されようと、それは、あぁそう、人間が求める天国というものね。死者の行く場所でなく、魂の安楽の地。私は変わりたいんじゃなくて、変わることで全てから解放されてそこに行きたいのかもしれない」

「だから、私が幻想郷の為にあなたに危害を加えてもいいと言うのね」

「えぇ、あなたの為になら変わった後の私が犠牲になっても構わない」

「愛されたものね」

「皆、あなたの事が好きなのよ」

「冗談」

「あなたはまさかと思うかもしれないけれど、いつかあなたは近しい誰かから愛の告白を受ける日が必ず来るわよ」

「ハハハ、それこそ冗談」

「言ってなさい。いつかあなたを嘲笑えないのがとても残念だわ」

「安心しなさい。そんな日は生きていたとしてもありはしなかったでしょうから」

 

 

 事件は解決した。問題は解消した。彼女が幻想郷の敵となる事はなく、彼女の変化が幻想郷に何かを齎すことはなかった。

 彼女は私が封印した。私以外に封印を解除する事はできず、同時に私は決して彼女の封印を解く事はないだろう。

 役目は果たした。古明地さとりが成すべきことを成した。

 

 

「来たわ」

「意識は?」

「まだある」

「もう終わりが近そうね」

「お別れの時間ね。ようやくあなたと仲良くなれた気がして嬉しかったのに」

「向こうに誰かいるのか知らないけれど、いるなら私なんかよりよっぽど仲良くなれるわ。こんな根暗妖怪の一人くらい忘れ去ってしまうことね」

「誰がいてもあなたの方がいいと思う気がする。あなたが、変わりゆく私の唯一の後悔かもしれない」

「死の間際にはやはり妙なことを口走るものなのね」

「フフ、照れてるのね」

「最期の言葉がそんなんじゃ死んでも死に切れないでしょう」

「大した言葉を残せもしないもの。なんでもいいわ」

「私が変な気持ちになるじゃない。多少でもそれらしいことを言って頂戴」

「あぁ、それじゃあ、この後の話をしましょうか」

「あなたはいなくなるのに?」

「だからよ。ねぇ、私をどうするつもりなのかしら」

「封印するわ。あなたの意思が消え失せ、光に傾くあなたの境が最も曖昧になる瞬間に、光と闇の傾きすら空になって、ただ闇の妖怪である最後の瞬間に」

「そこには、きっと何も覚えていない、私のような何かがいるのよね」

「そうでしょうね」

「私をよろしくね」

「また、あなたは私に任せる」

「あなたくらいしか頼れる人はいないもの」

「ただでさえ忙しいのに子育てはごめんよ。幻想郷で生きるといいわ」

「優しいのね」

「なぜ?」

「封印したとしても危ないことには変わりないのに、幻想郷にいることを許してくれる。幻想郷の為に生きるあなたがそう言うことは、ずっと私のことを注意していてくれる、面倒を見てくれると言うのと同義よ」

「……こういう時ばかり察しがいい」

「アハ、どれだけ長い間ちょっかいかけてきたと思っているのよ。あなたのことなんてお見通しよ」

「あなたほど私のことをよく理解している人も珍しいわ。あなたがいなくなれば、私の思惑を読める人はいなくなるわね」

「そうなれば、きっとあなたは無敵。そして、誰より孤独」

「置いていく人の言うことかしら」

「後悔の理由の大半はこれよ。あなたを置いていくべきではなかったかもしれないと思っている」

「孤独は考える時間をくれる。私に何より必要な時間をね」

「あなたの旅路に安息のあらんことを」

「どこへ向けた祈りなのかしら」

「いわゆる神様へ。最初で最後のお願い事をね」

「聞き届けられないんじゃないかしら」

「酷いことばかりしてきたから、その可能性は高いわね。でも、やらないよりはやった方がいいでしょう?」

「最後の最後だし?」

「そう」

「楽観的ね」

「あぁ、マズイわね。眠くなってきた」

「長い長い夜が終わるのね」

「そう、私は朝日の中へ消えゆくの」

「新たなあなたとは別に、このあなたの為の墓くらいは作ってあげるわよ。そこにあのカレンデュラも添えてね」

「ありがとう、本当に」

「どういたしまして」

「ねぇ、古明地さとり」

「急に名前を呼ぶのね」

「私も名前が欲しいわ」

「急にまたどうして」

「あなたに覚えていてもらう為に、私がいた痕跡を残す為に」

「……」

「難しいかしら」

「……ルーミア」

「ルーミア」

「これから光に旅立つあなたへ、闇の中の道標、星明に似た名を」

「ルーミア……気に入ったわ」

「それはよかった」

「この名を忘れないでね」

「きっと」

「あぁ、話していると眠くなってきたわ。どうやら、本当に時間みたい。じゃあ、あとはよろしくね」

「えぇ、気ままに旅立つといい。後のことは気にせず。それはいつだって私の仕事なのだから」

「さとり、いつか楽園で」

「……また、楽園で会いましょう」

「会いましょうね」

 

 

 これを読んでいるのが紫ならば、これだけは伝えておきます。これを読まれているのなら、きっとあなたの横に、幻想郷に私はいないでしょうから。

 私は決してその階段を登りはしません。希望に溢れ、夢に満ち、輝ける階段です。我々が存在を知らなければならないもので、忘れてはならないもので、しかし近づいてはならないものです。

 私は何があろうとその階段に踏み出す事はないでしょう。

 だから、決して花束を添えないでください。

 私は彼女の為に花束を添えました。

 だから、もういいのです。

 それは訣別。後を追うことも、その袖を掴むこともなく、見ることしかできなかった証左。

 私は今後悔しています。

 少なからず動揺して今このメッセージを書いています。

 彼女は友人でした。私にとっても、きっと友人だったのです。

 だから、私の行いは裏切りなのです。友として彼女の幸福を祝福することも、友として別れを惜しむでもなく、行ってしまった後に、彼女が彼女を忘れた頃に彼女を残す選択をした事が。たとえそれが彼女が望んだ結末であったとしても。

 私は同じ状況になっても階段を進みません。彼女がどうなったか知ることはできませんが、少なくとも最後まで進ませなかった私にその資格がないのです。

 だから、私は階段を前にしてそこに留まり続けるのです。

 これは贖罪であり、故にこそ花束は必要ないのです。

 誰も知らない私だけの悔恨を、どうか止めないでください。

 きっとこの記録の前書きに、私はいつもの私としてメッセージを書いているでしょう。

 だから、この泣き言を知るのは紫だけです。

 私が死んだ後にようやく垣間見える私の良心に、どうか細やかな軽蔑を。

 彼女が遺した最後の願いを、私は叶えられない。









『アルジャーノンに花束を』
『Stairway to Heaven』

この作品を読んでいて良いと思う部分

  • シナリオ
  • キャラクター(性格など)
  • 台詞回し
  • 地の文
  • 表現
  • 考察できる点
  • 謎の多さ
  • キャラクターへの解釈
  • 世界観への解釈
  • シリアスな点
  • ギャグ要素
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