詐欺師さとりは騙したい   作:センゾー

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自心すなはち仏たることをさとれば、
阿弥陀ねがふに及ばず、自心の外に浄土なし。
       一休宗純 ー『般若心経提唱』よりー


第二十三話【後の聖人の覚者に会はるる事】

「あぁ、起きられましたか」

「……ここは」

「あなたが倒れた場所からほんの少し先のところです、お坊様」

「……君は」

「倒れていたあなたを偶然見つけて、ここまで引きずって介抱した物好きです」

「すまない、いや、ありがとう。迷惑をかけてしまった」

「尊きお方が倒れられていたのです、下々の者が助けぬ理由がございましょうか。どうかお気になさらず」

 

 衰弱した男の世話をする少女の表情は、その言葉に反して感情の見えないものだった。

 信仰に厚いわけでもなく、何か見返りを求める風でもなく、ただそうすべきだからしたという様子。

 男は不思議に思ったが、それよりも助けた良心のようなものへの感謝と、生きるために必死な少女の手を借りて生きながらえていることへの申し訳なさばかりが胸に込み上げて、やがて少女の手を握っていた。少女に驚く様子はなかった。

 

「私は命蓮、命蓮だ」

「命蓮様、どうかそのような顔をなさらないでください。これもまた御仏の導きでしょうから、あなたの徳のなさった事なのです」

「私にはそのように積み上げられたものはない。偏に君の善き行いの為、だから、一つ聞かせてほしい。君に名はあるか?」

 

 問いに少女は微笑んだ。

 そして、口を開こうとした時、家の奥から足音がした。小さな音だ。大人が出す音ではなかった。

 

「さとり姉ちゃん、魚を取ってきたよ」

 

 声変わりもまだに思える少し高い男の声。姿を現したのは少年だった。

 

「ありがとう、全員分はある?」

「分ければ十分。用意しておくね」

「えぇ、助かるわ。少しこの方の分も用意してさしあげて」

「うん、他のも一緒に」

 

 遠ざかる足音。またこちらを見る少女の表情は、その容姿に似合わない大人らしさを宿していた。

 

「家族かい」

「えぇ、血は繋がっていませんが」

「それはまた珍しい」

「ここにいる子は皆血の繋がりはありません。皆近くで死にかけていた孤児ですから」

「君は、その子らを集めて世話をしていると?」

「そんな大層なものではありません。ただ、集まった皆で協力して生活しているだけです」

 

 手の届く先にある死に行く者を助けて共に生きる。そんな人はこれまでいなかった。

 高貴な身分の者がする事はあっても、それは余裕があるからで、半ば酔狂で、真に善性の発露であるとは言い難い。高貴でない者は自分のことで、家族のことで精一杯で、それ以外の人に多く心を傾けることなどない。

 だから、この少女の行いに、微笑みに、心を大層動かされるのだ。

 

「あの子は、君の名を呼んでいたね」

 

 その名は覚り、その表情の奥を示したかのような名だった。

 

「はい、私はさとり。ただのさとりです」

 

 

「お久しぶりです、八坂神奈子様」

「あぁ、少女の来客と聞いたから誰かと思ったら、あなただったのね。久しぶりね、いつぶりかしら」

「前回お会いしてから10年は過ぎています。諏訪子様とは何度かお会いしていますが」

「そんなに経つのね。それで、用件は?」

「驚かれるかもしれませんが、今日はただ雑談をしに来たのです」

「……あなたが?」

「諏訪子様も同じ事を仰っていました。はい、かつての私を思い出す為に、古くからの知人達とただ話しています」

「わざわざあなたが過去を振り返るなんて、余程の事があるのかしら」

「恥ずかしながら。私事ですから、心配は不要です。ただ、遠い因縁がやってきただけのこと」

「あの船のことかしら」

「……えぇ、あれは私に縁があるもので、誰かが解決して異変が終わった頃に、私が行かないといけません」

「そう、深くは聞かないでおくわ」

「ありがとうございます。それで、こちらにきてからどうですか」

「随分良くしてもらってるよ。慌ただしい日々だが、向こうにいた頃よりは充実している」

「色々と活動されてるようですね」

「……」

「おや、気まずそうな顔をしますね。どうかされましたか?」

「いや、別に」

「へぇ、そうですか。それでは、今展開している事業の話など聞いても?」

「…………いや、すまない」

「何を謝る事が? 今は心を見ていませんし、皆目見当もつきません」

「その、あなたのところの」

「はい」

「霊烏路空ちゃんに色々した件に関して……」

「あぁ、その事ですか」

「ちょっとテンション上がってたというか、今はあなたの家族に手を出した事を後悔してるし反省しているというか」

「私は、怒っていませんよ」

「いや、その顔は多分怒ってるわよね」

「いいえ、怒っていませんとも。私はたかが覚妖怪、神様の行いに口出しなど出来ましょうか」

「本当にごめんなさい。本当に反省してる」

「あぁ、そんな頭を下げて、私は怒っていないのに。しかし、そうですね。そこまで言うのならば、貸し一つという事で」

「えぇ、もちろん。できる事なら、させてもらうわ」

「では、今すぐお願いしましょうか。早苗さんを例の船に行かせてください。異変解決人として」

「……それは、あなたの都合の為?」

「いいえ、これはいつもの私。幻想郷の為に巡らせる策の一つです」

「なら、大丈夫ね。わかった、適当な理由をつけて行かせるわ」

「よろしくお願いします」

「結局、今日もいつものあなたという感じね。この流れも予定調和なんでしょう」

「はい、予定通りです。ですが、これはついで。主たる目的はちゃんと雑談ですよ」

「あなたが言うならそうなんでしょう」

「はい。こういう事では、私は嘘をつきませんから」

「あなたが、必要でない些細な嘘をつく時の基準とかってあるのかしら」

「そうですね。明確な基準はありませんが」

「そのあたり、こだわりとかあると思っていたのだけれどないのね」

「ありません。そして、本当に私がどうこうしようと思っている時は」

「時は?」

「嘘だけでなく、真実も使って騙しますよ。知っていることほど、人が縋りたいものはありませんから」








お久しぶりです。
あまりにも投稿できていなかったので、急ぎ書き上げたものです。
あまり出来が良くありませんし話も進んでいませんが、次の話は頑張ります。

この作品を読んでいて良いと思う部分

  • シナリオ
  • キャラクター(性格など)
  • 台詞回し
  • 地の文
  • 表現
  • 考察できる点
  • 謎の多さ
  • キャラクターへの解釈
  • 世界観への解釈
  • シリアスな点
  • ギャグ要素
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