詐欺師さとりは騙したい   作:センゾー

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ある真実を教えることよりも、
いつも真実を見出すにはどうしなければならないかを
教えることが問題なのだ。
          ジャン=ジャック・ルソー


番外編
繝。繧ャ繝ュ繝槭ル繧「【蟇セ蟷サ諠ウ縺ョ螂エ髫キ】


 たとえば、その古明地さとりに鉄心がなかったとして。

 たとえば、その古明地さとりが瞳を閉じることがあったとして。

 たとえば、古明地こいしが瞳を閉じず地霊殿の主人になったとして。

 

 その古明地さとりは、古明地こいしと同じ顛末を辿ったであろうか。

 瞳を閉じて無意識に宿った先で、奔放でありながら思慮深さをどこか持ち合わせる、いかにも不思議な古明地こいしのようになれたであろうか。

 

 なれない。いや、ならないのである。

 その古明地さとりは、きっと理性を手放すことなどできないのである。

 その古明地さとりは、きっと欺瞞を手放すことなどできないのである。

 

 これは、どこにもあり得ない『もしも』の話。

 幻想郷の陰、地底を管理する妖怪としてではなく、ただ生きた場合の古明地さとりのお話。

 

 

「なんて、そんな話はどうかしら?」

「どこに向かって話しているんですか、そして何の話ですか、紫」

 

 紫の空を見上げての言葉に、さとりは純粋な困惑を以て返した。

 春先は頭がおかしくなってしまった者がよく出るものだが、もしや賢者までもがそうなってしまったかと。

 さとりの手が、不安に揺れながら紫の背中をさすった。

 

「心配しなくても狂ってなどいないわよ。兎に会うには早い季節だもの」

「しっかりしてください。あなたが大丈夫じゃなくなると、幻想郷が危ないのですから」

「フフフ、それでどうかしら?」

「何がです」

「もしもあなたが逆だったとしたら、どうしていたかしら」

 

 賢者の微笑みが鋭く突き刺さる。答えが求められている。

 これは、さとりという妖怪について更なる知見を得ようという試みである。つまり、さとりの本質をより知ろうという紫の企みがあって、それは勿論、さとりには透けて見えていた。

 そのはずだった。いつものさとりがそこにいるはずだった。

 さとりの瞳が天を仰いだ。何かを考えているのか思い返しているのか、だらしなく口を開けて、らしくない有様を見せている。

 それがどうにもおかしくて、紫はクスクスと笑った。

 

「目的はわかっているでしょうに。あなたにしては珍しい反応を見せるのね」

「……私は、きっとどうしようもない阿呆に成り果てていたでしょうね」

「……あなたが? 冗談も程々にした方がいいんじゃないかしら?」

 

 いつもの軽口と捉えてケラケラと返したものの、さとりの様子は想定と違っている。

 やけに深刻そうで、やけに不安そうで、どうしようもなく弱々しい。

 仮定とは違う、現実の理性の鬼が空想だけでここまで弱ることなど誰にも読めるはずがなかったのである。それこそ、心が読めなければ。

 

「私は、きっと誇大妄想を抱いて、家族の為と思ってひたすら周りを敵視する化け物に成り果てた」

「何を根拠にそんなことを」

「今も、そう変わらないからです」

「え……?」

 

 硬直。

 古明地さとりは誇大妄想狂だと、目の前の古明地さとりは語る。

 

「違うのは、私は心を読めるからやたらと疑わない事と、信じる相手を選ぶことくらいはできるという事」

「じゃあ、あなたは違うじゃない」

「私の瞳は地上に届かない。私は、幻想郷の殆どの真意を知らないで生きている。勿論、合理的な推測から大体わかります。だけど、心はそれだけじゃない。私は誰も信じていない。私は家族を守るために、いつだって全てを疑って生きています」

 

 弱々しい瞳の奥から、冷たい視線が紫を刺した。

 

「……そんな言い方は酷いのではなくて?」

「……フフ、嘘ですよ。皆の事を疑う余裕なんて、私にはありません。そんなの必要最低限でいい」

 

 嘘。

 あの言葉は、さとりの真実。

 そして、その真意は私にすら100%の信用は抱いていないという事。

 きっと彼女は家族が何より大事なのだろう。家族に対しては、絶対的な信用を失うことがないのだろう。それ以外には相対的な信用しかなくて、私はなんとか99%に立てているだけなのだろう。

 

「なんて酷い嘘。あなたにしては程度が低い」

「これは手痛い。何せ嘘など慣れていないものでして」

 

 いつもの欺瞞に戻った少女は、また嘘で本心を塗り固める。

 さっきの言葉は私が踏み込んだことに対する警告であり、そして、自分と過剰に関わらない方がいいという忠告なのだろう。

 それに関しては、傷ついた。

 だが、その言葉を出す為に自身の本質を晒した事と、あのあまりに脆く弱い姿を見せた事は、どうしようもなく私への信用に他ならない。

 私は99%の先へは進めない。だが、99%でいいのだろう。

 この誇大妄想狂にとって、二番目に信じられる存在ならば、それはあまりにも光栄で、極めて素晴らしき少女の関係なのだろうから。

 

 とある日のマヨヒガの出来事。




嘘つきが嘘の日に真実を語ったならば、それは嘘か真か、誰にもわからない。





エイプリルフールなので特別編。どう解釈するか、どこまで真実と捉えるかは自由です。

この作品を読んでいて良いと思う部分

  • シナリオ
  • キャラクター(性格など)
  • 台詞回し
  • 地の文
  • 表現
  • 考察できる点
  • 謎の多さ
  • キャラクターへの解釈
  • 世界観への解釈
  • シリアスな点
  • ギャグ要素
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