詐欺師さとりは騙したい   作:センゾー

4 / 37
我々は理性によってのみではなく、心によって真実を知る。
            パスカル ー『パンセ』よりー


第三話【謎の草と謎の人】

「謎の植物の栽培と、新たな人外の出現、ふむ」

「ご存知でしたか?」

「えぇ、まぁ、噂程度には。けれど、地上、或いは向こう側からの干渉なのだから地底とはいえ八雲の仕事ではないですか?」

「はい、その通りでございます」

「というか、はっきり言ってしまえば目星はついているのでしょう?」

「……やはり、古明地家には隠し事ができないようで」

「心を読んではいませんよ。開きっぱなしはとかく喧しいと言わざるを得ないので」

「では流石、と言うと溜息を吐かれるのでしょうね」

「言うまでもなく。……まぁ、長い付き合いですし、紫のことは信頼しています」

 

 やたらと分かれて数える事九つ、その格を辺りに誇示するかのような尾が、女性の小さな笑い声に揺れる。

 それを見て、館の主人は結局溜息を吐いて、おもむろに立ち上がった。

 

「わかりました。八雲紫が、あれが私に任せたいと言うのならばそういうことなのでしょう。不承不承ではありますが、引き受けるしかないようで」

「有難う御座います。紫様も、喜ばれるかと思います」

「報酬は期待していると伝えておいてください。そうね、セイロンティーでもいただきましょうか」

「我が主人を困らせるのがお好きなようで」

「お互い様でしょう」

 

 やがて、狐は去て、覚は独り部屋にて静寂に浸る。

 いつもながら嫌々という素振りを見せつつなんだかんだで了承したが、今回、八雲が依頼してきた案件は恐らくはとんだ厄ネタである。

 実の所、この一件については、お燐などに行かせていくらか調査を行っている。とはいっても、問題の場所には近づかせず、その近隣である南区への聞き込み調査などに留めており、情報は確たるものではない。この事は、先程の会話でも八雲藍は気づいているだろう。大体、いつもそういう言い方をするから。

 目撃されるようになったのは二週間ほど前から、場所は決まって南区の西南の端。

 特徴を聞けば、返ってくるのは決まって三つ。

 その在り様、人に似るが人にあらぬこと誰もが知る。

 さりとて妖というには面妖でなし。

 ただ一つ、その姿は眼には綺麗に見えども、誰の心にも歪を映す。

 正体不明の人物。その正体は勿論の事、正体すらも、知る者はこの地底にはいない。

 

「一番問題なのは、コイツの配っているものね」

 

 机の奥にしまわれていた、なにかを包んだ御札を摘むようにして持ち上げる。

 重量はほとんどなく、揺らしてもカサカサと音を立てるのみ。

 しかし、幻覚効果がある。

 

「こんな場所で薬物とは、中々面倒なことを……」

 

 件の人物は、南区に住人に「これからどうぞよろしく」と言って、この御札を渡す。

 そして、この御札を手に入れた者は、数日中に軽度の幻覚を見る。

 どうやら、入っているのは例の植物らしいが、その種について目星はついている。

 だが、配布量に対して情報の生産量が多過ぎる。

 実際の目的は別であると考えたほうが良い。いや、別だ。こんな御札は大した意味を持たない。私への撹乱が四割。六割は、くだらない理由ね。聞く価値もないけれど、聞けば答え合わせにはなる。

 問題なのは、もう一つの用途。こちらが厄介だ。時間を与えないほうがいい。早めに片付けておかないと。

 御札をそのまま紙袋に放り込んで、それを抱えて少女は部屋を後にする。

 

「私の得た情報だと半信半疑だったけれど、紫が関わってくるならもう正解のようなものね」

 

 扉を閉めると同時に、影が背後を横切った。

 気がつけば、少女の足元には猫がいて、人懐っこく足に頬を当てていた。

 

「さとり様、お出掛けで?」

「あら、お燐。そうね、例の南区へちょっと行ってくるわ」

「えぇ! それはアタシもついていきませんと」

「大丈夫よ。今回の件は暴力なく解決するわ」

「どうしてそう言えるんです?」

「弱者が二人揃って争いになることなんてないもの」

「相手のことを知ってるんで?」

「えぇ。正体についてはなにも言えないけれど。まぁ、そうね。一つ言えることがあるとすれば、長い旅の果てに辿り着いたのがここだなんていうのは、あまりにも哀れなものよ」

「ははぁー、流石はさとり様! よくわかりませんが、やっぱり賢い!」

「あまり褒めないで。頬が赤くなるわ」

 

 血の気の薄い青い顔で、幸薄そうな微笑みを浮かべて、少女は館の無駄に大きな玄関を開けた。

 

「あ、お燐」

「はい?」

「万が一、私に何かがあったなら、即刻紫のもとに走って地底を閉鎖するように伝えておいて」

「え?」

「まぁ、紫のことだから見ているでしょうし、そのあたり分かっているから私に依頼したんでしょうけど」

「え、えぇ!?」

「それじゃあ、よろしく頼むわね」

 

 地霊殿に、火車の絶叫がこだまする。












謎は謎。
人伝にかすかに聞いた程度でわかるならば、それは殆ど明るみに出ている。
故に、暴く者が必要である。さて、此度の謎はいかなる顛末を迎えるか。

この作品を読んでいて良いと思う部分

  • シナリオ
  • キャラクター(性格など)
  • 台詞回し
  • 地の文
  • 表現
  • 考察できる点
  • 謎の多さ
  • キャラクターへの解釈
  • 世界観への解釈
  • シリアスな点
  • ギャグ要素
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。