部室にくるまでの道中、ライヒちゃんは言っていた。うちの部は実力主義だと。学年ではなく実力によって上下関係が成るのだと。
「おい、今なんつった。俺らが雑魚だと?」
一人の男子生徒が肩を怒らせ前に出た。他の生徒もデュエルを中断してこちらに向かってくる。
靴の柄を見る限り、彼は二年生だ。ここにいる大半が二年生。三年生はいなさそうだ。きっと主要メンバーとやらだからここにはいないんだろう。
「ここにいるってことはそういうことでしょう? いいからさっさとデュエルの準備をして下さいよ。で、さっさと負けろ?」
おお。強い口調のライヒちゃんというのも新鮮だ。
「舐めてんじゃねえぞ、一年がよお!?」
「ハリーハリー。テーブルに着いて、早く」
「ぶっ殺すぞ、コラァ!?」
「そーいうのいいから。貴方たちただの踏み台だから」
ライヒちゃんは怯まない。完全アウェイな状況なのによくやるよ。私はちょっとビビってるのに。
「ライヒちゃん、やり方が強引すぎない?」
この場から離れたい気持ちを追いやって、ライヒちゃんの制服の袖を引っ張る。
「最初だからね。インパクトが大事なんだよ」
インパクトか。でも、一向に二年の先輩はテーブルに着こうとはしてない。怒るだけだ。さらに煽っても、デュエルをする流れにはならなさそうだし、うん、仕切り直そう。
「あの、新宮月乃といいます。私とデュエルしませんか?」
「ああ!?」
睨まれる。怖い。
「視た感じ、この中で一番強いのはあなたですよね。私は手っ取り早く全国大会に出たいんです。皆さん、煽るようなことをしてすみません。でも私は訂正はしません。事実、あなた方は雑魚だから。なので否定したければ、デュエルを受けて下さい」
「⋯⋯⋯⋯んだと?」
落ち着いて、理路整然と物申す。なるべく柔らかく、ただし引くことはしない。
「ごめん、月乃っち。先走っちゃった」
ペロリと舌を出して謝るライヒちゃん。
「ううん、良かったと思うよ。本気なのはわかったから」
と言うと、照れたように笑った。
同じく、場が冷静になって行く。
「本気なのはいいけどよ。てめえら、ただでデュエルしようってんじゃねえだろうな?」
男がデュエルテーブルに回り込み口を開く。
「というと?」
「てめえら、俺に負けたらこの部から出て行け。強くもねえ大口野郎は邪魔でしかねえからな」
なるほど、実力主義というやつか。そういうのが根付いてる。
「いいですよ、それで。いいよね、ライヒちゃん」
「うん。覚悟の上だよ」
「良し、決まりだな。俺を侮辱したこと、後悔させてやる!」
私もテーブルの前に着く。そうしてデュエルが始まった。
新宮月乃 LP4000
多田豪 LP4000
「先行はもらいます。ドロー」
「ち、まあいい」
ふう。公式じゃないから多少の強引は許される。この手札は先行向きだ。
「私は手札から5枚セットして《メタモルポット》を攻撃表示で召喚」
《メタモルポット》攻撃力700
「はあ!?」
「な、なんだそれは!?」
「意味がわからない⋯⋯!」
口々に周りから反応が上がる。思わずニヤリと口角が上がった。
「ターンエンド。どうぞ?」
新宮月乃LP4000 手札0枚
《メタモルポット》攻撃力700
セットカード5枚
「⋯⋯舐めてやがるな。そうか、てめえら冷やかしできたな?」
「ううん。ちゃんと私は勝つ気でいますよ」
けどそう思うのも無理はない。《メタモルポット》はリバースモンスターだ。裏側から表側になって初めて効果を発揮するモンスター。その効果は強力だけど、普通に召喚してはただの攻撃力700。弱小モンスターといって差し支えない。
私の狙いなんてわかるわけもないだろう。
「ちっ。俺のターン、ドロー! 《神獣王バルバロス》を妥協召喚!」
《神獣王バルバロス》攻撃力1900
「バトルだ! 《バルバロス》で《メタモルポット》に攻撃だ!」
「いいですよ」
「なんもねえのかよ、そんなに伏せてんのによ。だったらダメージ計算前に《禁じられた聖杯》を発動! 対象は勿論《バルバロス》だ!」
《神獣王バルバロス》攻撃力1900→3400
「そういうデッキか」
《バルバロス》はレベル8のモンスターだけど、攻撃力を1900にするかわりに生贄なしで召喚することができる。そして《禁じられた聖杯》はそのターンの間だけ対象のモンスターの効果を無効化して、攻撃力を400上げる速攻魔法だ。効果を無効化された《バルバロス》は素のステータス、つまり攻撃力3000に戻り、ターンを終えても1900になることはない。効果がなくなったことで、妥協召喚したという事実もなくなるからだ。
要するに《神獣王バルバロス》は脳筋ってこと。おそらくはパワー任せがこの人の戦い方だろう。
「月乃っち、大丈夫なの?」
「うーん、まずいかも。でもまあ何とか。⋯⋯じゃあダメージ計算時《プライドの咆哮》を発動する! 戦闘を行うモンスターの攻撃力の差分のライフを支払い、支払った分プラス300の攻撃力をこの時だけ《メタモルポット》に加算する!」
新宮月乃LP4000→1300
《メタモルポット》攻撃力700→3700
「返り討ちです」
「ちっ」
多田豪LP4000→3700
《メタモルポット》攻撃力3700→700
「《プライドの咆哮》って⋯⋯」
「あんだけ伏せがあってそれかよ」
「大したことないな」
まあ、汎用的ではないよね。攻撃力だけの破壊耐性がないモンスターなら、他の汎用罠を使った方がいい。ライフを削らずに済むし。
けど、
「《禁じられた聖杯》の後に発動できたからね。良いカードだよ」
ダメージ計算前に発動されたカードを、見てから使用できる数少ないカードが《プライドの咆哮》だ。そういう理由で私はこのカードをデッキに入れている。今回も1:2交換できたしね。
「なるほどな。ただのバカじゃねえってことだ」
さっきまで怒っていた対戦相手は、冷静な評価を述べていた。
「だが悪手には変わりねえ。カードを3枚伏せターンエンドだ」
悪手ね。《メタモルポット》のことかな。
「何で3枚もセットしたんですか?」
「あ? 話しかけてんじゃねえ。さっさと始めろ」
「予想したんじゃないですか、《メタモルポット》が裏側になるのを。セットカード《心鎮壷》を2枚発動。あなたの3枚のセットカードを封じます」
「なにっ!?」
多田豪LP3700 手札1枚
セットカード3枚
「エンド宣言したので私のターンです。ドロー」
「てめえ、やりやがったな⋯⋯!」
《メタモルポット》は互いに手札を全て捨て、5枚になるようにドローするリバース効果を持っている。多分彼は私の5伏せを見て《メタモルポット》に警戒心を持ったんだろう。
《メタモルポット》を使うプレイヤーは大抵そのカードと一緒に伏せられるカードは伏せてしまうのが常だ。効果で手札として捨ててしまうより、セットできるカードはセットして取っておいた方がいいからである。
「いくら表側でもあからさまに怪しいよね」
「月乃っちそういうセコイの好きだよねー」
「まあね。じゃ、行きますよ。罠カード発動《徴兵令》」
「んだと!?」
「あなたのデッキトップをめくり、通常召喚可能なら私のフィールドに特殊召喚、それ以外ならあなたの手札に加えます。さあどうぞ、めくって下さい」
私に促されるまま、デッキトップを裏返す。そのカードは、
「ち、《ガンナードラゴン》だ」
「ハズレですね。まあいいや」
《可変機獣ガンナードラゴン》攻撃力2800
「いや、どこがよ。アタリでしょ」
「ううん。アタリなら《バルバロス》が来るよ」
「ふざけてやがんな⋯⋯!」
ま、悪くはないけど。
「バトル。《メタモルポット》で攻撃」
多田豪LP3700→3000
「⋯⋯戦闘ダメージを受けたことで、手札から《トラゴエディア》の効果発動、特殊召喚だ!」
《トラゴエディア》守備力0
「ん⋯⋯?」
それか。⋯⋯ああ、そういう。
「どうかした?」
「んー、やっぱり危なかったなって。負けるとこだった」
「あ? まだ勝負は決まってねえだろ」
「どうかな。《ガンナードラゴン》で《トラゴエディア》に攻撃」
「それで終わりだろうが。俺のターンがまだ残ってんだよ!」
「いや、まだですよ。もう1枚、セットカード《徴兵令》を発動します」
「またかよ!」
めくって下さいと促す。
「な、何だと⋯⋯、あり得ねえだろ⋯⋯っ」
《神獣王バルバロス》攻撃力3000
「だと思いました。それがアタリです。それで攻撃して終わりです」
ジャスト3000。手札なし、フィールドにも墓地にも防げるカードはない。
ライフはゼロ。これで私の勝ちが決まった。あっさり3ターンで勝敗がつき、しん、と静まり居た堪れない空気が流れる。
「⋯⋯クソみてえなデッキ組みやがって。やっぱてめえ冷やかしできたんだろ」
「勝ちは勝ちですよ」
「くそが」
多田先輩は捨て台詞を残し足早にこの場を去っていった。後に残ったのは、私とライヒちゃん、そして私を冷ややかな目で見る部員の人たち。
まあ、気持ちはわかる。原因は《徴兵令》というカードだ。もっと言うならその使い方。事前に相手のデッキトップをピーピングするならまだしも、さっきの使い方は傍目から見れば完全に運任せだ。ギャンブルにも満たない。
きっとたまたま上手くいったに過ぎないと思ってるんだろう。不誠実な戦い方だと。
でも気にしない。これが私の戦い方だと胸を張って言える。
「あ」
ふと気づいた。多田先輩は去ったがデッキはそのままだったことに。気になったのは《心鎮壷》で封じた3枚のセットカード。一目視ただけでヤバいと予感できた。
自然と手が伸びていた。3枚のカードを手繰り寄せ裏返す。3枚とも同じカードだった。
「《デーモンとの駆け引き》⋯⋯」
次にデッキトップをめくると《強欲な壺》。さらにその奥の2枚は《ハーピィの羽箒》と《Sinサイバー・エンド・ドラゴン》。
うん、デュエルが始まったときから負けの気配は感じてた。だからそうならないように仕向けたし、それで勝てたけど、でもやっぱりこういうのが勝負だよね。
「ライヒちゃん」
「ん、なに?」
「私、久しぶりにデュエルしたけど、ちょっと再燃しちゃったかもしれない」
「ほう?」
「プロ、本気で目指すよ」
「なら、私も私のやることをやらないとね」
ライヒちゃんはそこで言葉を区切り、観客となっていた部員たちを見渡す。
「ねえ、見てるだけ? そうやって、勝てないからって目線だけで非難するのって、ホントお前ら雑魚って感じ! さっきの先輩の負けがまぐれだって思う奴は、どんどん月乃っちに勝負を挑んできてよ。全部返り討ちにしてあげるから! はい、月乃っちからも一言」
んー、実に悪目立ちって感じ。でもライヒちゃんがいなければ、私は何もやれずにいただろう。デュエルをすることだってなかった。だから、一緒に乗っかっていこう。
「皆さん。私の実力を疑っているのなら、デュエルして下さい。まずはあなた方に、全勝することで認めてもらいます」