イナズマイレブン ~Hungry Heart~   作:巻波 彩灯

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 他人のキャラクターを預かっている身なのに、平気で名前を間違える人間は私です。
 どうも、巻波です。この度はキャラクターの名前を間違えて表記してしまい、大変申し訳ございませんでした。以後、間違えないように善処します。

 では、話を切り替えて……この作品って、やっぱり他の方のと雰囲気が違うんですよね。
 三人称視点は他の方も使っていますが、それでも何だか雰囲気が違う……でも、分からねえ。

 まぁ、そんな事より本編ですね。今回は前回以上に急展開しておりますので、心して読んでください。
 またサッカー的な描写も若干入れていますが、クオリティはお察しで()

 それでは、後書きにてまたお会いしましょう。


第三話:あなたは太陽。煌々と闇を照らす太陽、私はその光を地より見つめるもの

 朝、サッカー部の部室にて――。

「この玉林天科、本日よりお世話になりますのん! サッカー部の皆々サマ、よろしくお願いしますのん!」

「えっと、椈月まのんです! 今日からサッカー部のマネージャーを務めさせていただきます! よろしくお願いします!」

 天科とまのん、二人の小柄な少女がメンバーの目の前に立ち、自己紹介をする。しかし、立ち振舞いはそれぞれ個性が出ていた。

 天科は仰々しく大きく一礼して、まのんは丁寧にそれでいて柔らかくお辞儀をする。エンターテイナーとメイドの違いだという事だろうか。

「おう、よろしく頼むぜ! 天科、まのん!」

 キャプテンである閃理がハッキリとした声音で二人を迎え入れる。他のメンバーを各々歓迎する言葉を吐く。

「ふむ、これで選手は十人か……後、一人欲しいな」

「なぁ、お前らさぁ、早速で悪りぃけど誰か心当たりないか?」

 鈴司の言葉を受け、大地が二人に訊ねる。まのんはマネージャーを務める為、選手希望は天科だけ。

 それ故に選手ができそうな人材がもう一人欲しいのだ。後、一人で十一人揃う。

「……一人だけイケそうなのがいますのん」

 しばしの沈黙の後、天科が口を開く。彼女が言うには入学式前日に学校近辺でサッカーボールをリフティングしていた人物がいたらしい。

 しかもその人物のリフティングは天科とはまた違うタッチで行っていたと言うのだ。

 大地は話を聞いてスカウトしがいがありそうな人間だなと思った。このチームは比較的テクニカルなタイプが少ない。

 どちらかと言えば、パワーやスタミナに偏っている気がする。自分が言えた口ではないけども。

「……なら、その人物がどこにいるのか調べる必要があるな」

「ケケッ、これは時間がかかりそうだナ」

「んなの、そこら辺の奴をとっちめて聞けりゃいいだろうがよ」

「荒木君、手荒な事はしちゃ駄目だよ」

 二年生が各々意見を述べた。名前も学年も分からない為、手探りでその人物を探し当てる事になる。

 今回は総動員になるのだろうと誰しもが思った。ある一人の言葉を聞くまでは。

「私、もしかしたら知っているかもしれません」

 舌足らずな口調で話すまのんは記憶を呼び起こしていく。彼女が図書室で手伝いをしていた時、一緒に作業をしていた少女……他愛ない身の上話に花を咲かせていた時にふと耳にした「フリースタイル・フットボール」という単語が思い浮かぶ。

 その競技について詳しく訊ね、少女は丁寧に教えてくれた。ついでにその手の選手だった事も。天科の話と組み合わせれば、彼女が一番その特徴に近いのでは推察する。

「なるほど、図書室か……誰が行く?」

 鈴司はメンバー一人一人に目を合わせていく。図書室に行くメンバーは比較的静かにできるのが良いだろう。そう考えるといつも騒がしい日ノ丸とフェリシーは確実にアウトだ。

 また強志も避けた方が良い。彼の気質的にスカウトに向いているとは思えない。脅迫という手まで使いそうだ。

「俺が行きたい」

 大地が挙手する。誰もが彼なら問題ないだろうと認める。候補者は一人決まった。

「それで俺からの提案だけど、まのんも一緒に来て欲しい」

「ふぇ!? わ、私ですか!?」

「ああ、そいつと顔見知りなら初対面の俺よりかは話しやすいだろ?」

「そういう事ですか……はい、なら喜んで!」

 大地の推薦でまのんもスカウトに行くメンバーとなる。後、もう一人ぐらいは欲しいと大地は考えて……海人と目を合わせる。

「よし、俺も行くぜ!」

「決まりだな。キャプテン、今回はここまでにしよう」

「そうだな、次は放課後だ! 解散!」

 

 それから昼休み、昼食を食べ終わった大地と海人はまのんと合流して図書室へと向かう。室内に入ると大量の書籍が収められた棚と部屋の隅に設けられた受付が目に入った。

 受付にはブロンドのロングヘアーの少女が読書しながら、静かに人を待っている様子が見受けられる。

 まのんは彼女が以前話した事のある人物だと確認し、大地達にその事を告げた。大地達は彼女の元へ歩み寄る。

「あのぉ……月宮(つきみや)さん……」

 恐る恐るまのんが声をかける。月宮と呼ばれた少女は呼びかけに応じ、本を閉じてまのんと目を合わせる。大地のとは少し違う色合いの茶瞳はとても穏やかに訪問者を受け入れる。

「何かしら?」

「月宮さん、サッカー部に興味ありませんか?」

「どうして?」

「今、俺達の部活は人手不足なんだよ。お前がフリースタイル・フットボールっていうヤツの競技者って聞いて、それでお前をスカウトに来た」

 大地が包み隠さず理由を話す。落ち着いてはいるが、元々まどろっこしい事は苦手かつ直情的な性格だ。遠回りに聞くのは面倒この上ない。

「ふーん、なるほどねえ……」

「まっ、無理には言わねえよ。できれば、力を貸して欲しいけどよ」

 海人が口を開く。あと一人でサッカーができる人数に達する。無理強いはしないが、加入をしてくれれば大助かりだ。

「でも、私はボールコントロールには自信があるけれど、その他は駄目よ?」

「安心してくれ。ゼロからスタートしている初心者もいる」

 日ノ丸の事だ。彼は天科や月宮のような特別な経験を持ち合わせていない初心者であり、この中では最も経験値が低い選手にあたるだろう。その事も話題に出しながら大地達は話を進める。

「俺もサッカーやっていたが、リトルとかジュニアチームに入った事ねえし、経験者なんて数える程だぞ?」

「……そう。でも、少し考えさせて。そんなに急に言われても決められないわ」

 月宮の言葉で話は区切られた。「そうか、ならまた来るぜ」という大地の一言を最後にスカウトチームは図書室を後にした。

 

「すまないな、こんな時間に集まってもらって」

「良いって、気にすんなよ!」

「うんうん、空賀君が呼び出すって事は重要な事だと思うし」

「そうか、ありがとう」

 大地達が月宮と交渉している間、部室にて鈴司と閃理、有希の三人が集まってホワイトボードを眺めていた。

 ホワイトボードにはサッカーのハーフコートが描かれており、一人欠けた状態でポジションが組まれている。

 最前線は日ノ丸、大地、強志のスリートップ。中盤の中央には鈴司がおり、右サイドの中盤に天科、反対側として藤四郎で支える。

 ディフェンダー陣はセンターバックに閃理、両サイトはフェリシーと蛇崎で守りを固めていた。

 ゴールキーパーはこのチーム唯一の守護神、海人が務める。

「これは俺なりに現メンバーでフォーメーションを組んでみたのだが……」

 鈴司は考え込むように重く留める。その視線の先にはフォワードを務める三人の名前。彼の悩みはそこにある。

「まぁ、一人足りないのは仕方ねえとして、どうしたんだよ?」

「ああ、ちょっと言葉にするのが難しい問題だなと思って……」

「もしかしてだけど、三人ともドリブル技がない事に悩んでいるの?」

 鈴司は目を見開き、有希の方に顔を向ける。彼女は鈴司に顔を合わせず、フォワードの三人を見つめたまま続けた。

「だって、荒木君や日ノ丸君はともかく、巽君もシュート技しか使えなかったよ?」

 ここ数日の練習で最初に仮入部してきたメンバーの技は把握している。ただドリブル技はゴールキーパーの海人を除いて、フェリシーしか覚えていない。

 おまけにフォワード三人のドリブル技術は、お世辞にも上手いとは言えない。

 初心者の日ノ丸はまだしも身体能力が高いのに何故か不器用な強志とボールキープ力はあるものの躱す能力が低い大地。

 有希はこの二人を見比べてある事を言う。

「何だか、荒木君と巽君って似ている気がする……」

 その言葉の意味を察した鈴司は反応した。

「確かにな。部長も巽も似ている節はある」

「どこかだよ? サッカーに対する情熱は二人とも似ていてるだろうけどよ」

 閃理は一人置いていかれてしまい首を傾げる。二人のゴールに対する執念は似ているものがあるのは、もう分かっている。

 しかし、二人のプレースタイルは似ているようで似ていない。

 強志はテクニックは壊滅的だが、持ち前の身体能力で突破しゴールを確実に決められる決定率の高さを誇っている。

 対する大地は高さとパワーを活かして中央突破し、時には最前線の司令塔として仲間をアシストするポストプレイヤータイプだ。

 と、ここまで考えて閃理はようやく気付く。二人ともドリブラーに向いていない事を。

「なぁ、鈴司に有希……これって意外とヤバくねえか?」

「ああ、俺もそう思う」

「うん、そうだね」

 三人は触れていない一人に目を向ける。彼は二人にない強みがある。飲み込みの早さと二人よりは幾分か器用な事……もしかしたら、また違う突破口が生まれるのではないかという期待の眼差しが注がれた。

 

 それから放課後、サッカー部は今までとは少し違う練習をしていた。

 二手に分かれて初心者である日ノ丸と天科に基本的な事を教えている。

 日ノ丸には大地、藤四郎、閃理、海人が付いて練習を行っている。天科の方には強志、鈴司、フェリシー、蛇崎で手解きをしていた。

 ただ、天科の方はボールを用いたパフォーマンスをしていただけあり、ボールの扱いは問題がない。如何にサッカーの動きに対応できるかというだけ。

「ふむ、思っていたよりも早く慣れそうだな」

「そうですのん? あたしチャンの感覚だとまだまだですねん」

「ケケッ、まぁ今の段階でも部長よりか上手いゼ?」

「蛇崎、てめぇ後で覚えとけよ」

 若干、険悪なムードはありつつも天科の方は思ったより早いペースで事が進みそうだった。一方、日ノ丸の方では……。

「ええ!? オレにドリブル技を!?」

 日ノ丸は大きく驚く。閃理からドリブル技を習得する特訓を行うと聞かされたからだ。何で自分なのが少し分からない。

「……なるほどな、確かに日ノ丸が適任だな」

 閃理の意図を読み取った藤四郎は、静かに理解したという趣旨の言葉を呟く。

 確かに日ノ丸は初心者だが、運動神経は悪くないし、小柄ながらも身体能力もそれなりに高い。それに二人と比べるとドリブルに関しての才能はある。彼らとは違う強みを日ノ丸は持っているのだ。

「良いじゃねえか、日ノ丸! とことん付き合うぜ!」

「大地の言う通りだな! 俺はキーパーだけど、手伝うぜ!」

 熱血コンビは閃理の提案に対して肯定的。なおかつ、協力的な姿勢で日ノ丸の背中を後押しする。

 大地は自身があまりドリブルが得意ではないのを自覚している。昔から足が遅いし、機敏な動きもできない上にそこまで器用ではない。

 ただ力と高さは昔からあった。それを武器に今まで戦ってきて、足の遅さは戦術眼を養ってカバーする事で何とかしてきたが、ドリブルは本当に上手くならなかったなと振り返る。

 だからこそ、日ノ丸には期待していた。自分にはない武器を持つ可能性があるという事は、自分の弱点をカバーしてくれる上にチームの戦術にも幅ができる。これは最大のチャンスだ。

「大地も海人も特訓手伝ってくれるって言うし、オレやりますよ!」

「マジか! よし、早速やるぜ!」

「待ってくれ、キャプテン。何の技を習得するか決めないと」

 日ノ丸が承諾してくれた事に閃理は意気揚々と練習に取り掛かろうとするが、藤四郎が制す。

 何の取っ掛かりがないまま特訓しても意味がない。藤四郎は日ノ丸に「何か希望あるか?」と質問を投げかけた。

 すると、日ノ丸は珍しく悩んだ表情を浮かべる。初心者だし、無理もないかと藤四郎は早々に切り上げようとしたら、「どういう名前の技かは忘れたんですけど……」と日ノ丸が話し始めた。

 元々サッカーは遊び程度しかやっていなかった日ノ丸。しかし、去年のある日、たまたま友達に誘われて見に行ったジュニアの試合で転機が訪れた。

 自分よりも同じぐらいか少し小さな体格の子が次々と相手選手を抜いてシュートを決めたところを見た瞬間、日ノ丸は頭から電流が流れたかように強い衝撃を受けた。

 ただ凄い、自分もあんな感じにやってみたいと。サッカーというスポーツに強く興味を惹かれたのだ。

 その時に日ノ丸に強く影響したプレイヤーが使っていた技が、一人でワンツーを成立させるようにボールを回転させ、相手を抜かす技だったという。

「……ひとりワンツーか」

 藤四郎は日ノ丸の話を聞いて、技を推察する。ひとりワンツーを使うプレイヤーは多い。そう難しい技ではないだろう。

「じゃあ、それにしようぜ! どうせなら、思い入れのある方が良いだろ?」

 同じく話を聞いていた大地が推し進める。自分がファイアトルネードを習得した時は、有名プレイヤーに対して特に思い入れはなかった。

 けれど、この技は使えると直感し、ひたすらに真似して特訓していた。そして、今使えるようになっている。

「おう! いつかオレも使ってみたいって思ってたんだ! だから、頑張ってものにしてみせるぜ!」

 日ノ丸は太陽のような眩しい笑顔で意気込みを言い、改めて特訓を受ける事を示した。

 

 日ノ丸の特訓で熱くなっている頃の図書室。昼休み時、大地達にスカウトされていた月宮クレアは、図書の整理を終えると窓辺に立って景色を眺めていた。

 彼女の視線の先にはサッカー部が練習しているサッカーグランド。技に失敗して何度も転んでは立ち上がる日ノ丸を凝視する。

 特に彼と関わり合いがある訳ではないが、どこか惹かれる。太陽、ふと頭の中に浮かんだ。

「あなたは太陽。煌々と闇を照らす太陽、私はその光を地より見つめるもの」

 彼女の言葉は誰の耳にも届かず、どこかへと消えていく。

 

 それから翌日もサッカー部では部員総出で日ノ丸の特訓をサポートしていた。もちろん基本的な動きもレクチャーしながらだが。

 思いの他、日ノ丸の吸収は早い。言動からして脳筋まっしぐらかと思いきや物事に筋を通して考える為、他人のアドバイスも的確に受け取って自分のものにできる。

 しかし、彼が修得しようとしている「ひとりワンツー」までは中々辿り着かない。ボールコントロールに関しては、天科からもアドバイスを受けているが、そのきっかけすら掴めないままでいた。

 だが、特訓は始まったばかりだとめげずに日ノ丸はチャレンジし続ける。

「でも、雨はないだろう! 雨って!」

 また一日が経った放課後、日ノ丸は教室で声を張り上げていた。この日はあいにく雨が降ってしまい部活は休み。

 基本的に仮入部期間は雨天時だと外で活動する部活は休みにするというのが決まり。例外的に室内練習を行う野外スポーツ系の部活もあるが、新入生は参加できない形となっている。

「仕方ねえだろ。それにここは室内練習場なんてねえし」

「でも、退屈だよー」

「確かにお暇なのよねん」

 海人がなだめるが、別のところでフェリシーと天科が嘆く。雨により動き回れる場所が制限されてしまった事により、少々気が落ちている。

「だから、使えそうな場所探してんだろ? うーん、部活棟の連絡通路でも使うか?」

 大地が言っている通り、彼らは日ノ丸の特訓の為に使えそうな場所を探していた。だが、体育館はバスケ部やバレー部などが占領しており、使える状況ではない。

 他に使える場所がないかと検討してみるが、基本的にスペースが狭いのと窓ガラスがあるという関係で候補はことごとく消えていく。

 そういった状況で大地は連絡通路を使う事を提案した。部活棟への連絡通路は野外に出る為、屋根と壁のみという造りとなっている。

 さらにスペースも一対一をやる分には申し分がないし、今日は野外の部活が休みとなっている為、人の行き来も少ない。

「そこなら使えそうですね! 賛成です!」

 まのんは大地の意見に賛同する。他のメンバーも特に異を唱える事はなかった。大地達は部活棟の連絡通路に向かう。

 

 大地の目論見通り、連絡通路は人通りがなかった。ただ野外に出ている通路の為、風が吹く方向によっては雨が直撃するのは覚悟するしかないだろう。

「っしゃ! 早速特訓だぜ!」

「おっし! よろしく頼むぜ、皆!」

 天科が用意したサッカーボールを足元に転がし、日ノ丸と大地が対面する。他のメンバーはボールが奥に行かないように出入り口を塞ぐ形で立って見つめていた。

 日ノ丸はボールを飛ばす場所のイメージを浮かべ周りを確認。あらぬ方向に行って、この雨天の中で取りに行く事がないように。

 試合だとそんな時間はほんの一瞬しかない。実戦を想定したものなら時間をかけるべきではないが、現段階ではまず技を修得する事が目的。だから、大地は何も言わずに彼が動き出すのを待つ。

 そして確認を終えた日ノ丸はあの時見たドリブルを重ね、大地を突進するかのように走り出す。大地とすれ違う前、斜め右手の方向へボールにスピンをかけて蹴った。

 回転は上手くかからず、ただボールが勢いよく放たれただけになり、壁と激突して進行方向を変える。結果的には大地を抜かした日ノ丸の足元に収まった。

「大地! もう一回だ!」

「おう!」

 日ノ丸は反転して再び挑戦するがボールを上に蹴り上げてしまい失敗。大地の頭上を通過し、校舎側の方にいたまのんと天科では高さが足りず、校舎内に入っていく。

 しかし、通りかかった人物がそれを受け止めたおかげで奥に転がっていく事はなかった。

「久々に人が蹴ったボールを受け取ったけど、まだ止められるわね」

「あ、月宮!」

 大地が受けた人物の名前を言う。天科もクレアがいつぞやで見た人物と似ている事を認め、大きく目を開いた。自分と似た強みを持つ者、まさかここで再会するとは……。

「あら、あなたはこの間の……」

「巽大地だ。県内一最強の矛だぜ!」

「矛……なるほどね」

 クレアは大地を品定めするかのように見つめる。同い年とは思えない程に背がとても高く、ガタイも良い。確かにこれなら矛としては申し分ないのだろう。しかし、クレアはそうではないと感じた。

 彼の中には地を這う竜が見える。しかも、炎を纏い周りを焼き尽くさん限りに燃え盛っていた。

 昔読んでいた本の中に地球の核は太陽よりも熱いと記されていた事を思い出す。まさしく地球だ。彼は地球に近いものを感じる。

「あなたは地球ね」

「は?」

「いえ、気にしないで。こちらの話よ」

 そう話が途切れた頃合いに天科が口を開く。その目つきはとても挑戦的だ。

「月宮チャン……って言ったかしら? あたしチャンはあなたがボールを捌いているところを見た事あるのよん」

「そう、あなたに知られるとは光栄だわ。ミス・エンターテイナー」

 クレアは片眉の尻を少し上げるだけで特別動揺しない。元々隠すつもりがなかった為、知られていても問題はないと。

「あら、あたしチャンの事をそう呼んでもらえるなんて……」

「ねえねえ、あなたボールの扱い上手なんでしょ? 見せてよ、あなたの技を!」

 フェシリーの声が割って入ってきた。続けて、海人もクレアに対して頼みを言う。

「俺も見たいぜ! フリースタイル・フットボールとかいうヤツの実力をよ!」

「妖精に海神(わたつみ)も……良いわよ」

「良いのか!」

 日ノ丸がクレアに期待の眼差しを向ける。もしかしたら、彼女のプレーで必殺技に繋がるきっかけを得られるかもしれないという微かな希望が彼の胸の中に芽生えていた。

 一方のクレアは日ノ丸の真っ直ぐな瞳に自分が惹きつけられている事を自覚。月は地球に引かれているが、私はそうではなかったと。

 太陽が闇を照らす。その光を見つめて思うは、己の影の濃さ。それ程に陽光は強いのだ。どうしてこんなに強いのか、私は知りたい。

「ええ、別に隠していた訳ではないし……でも、あまり期待しないでね?」

 思いをそっと胸の内にしまいながら、クレアはボールを軽く上げてリフティングを行う。最初は右左右とボールを静かに足の上を往復。続いては膝も使う事で上下の動きも加わり、時々足の甲やうなじにボールを止め緩急も付けていく。

 最後にブレイクダンスの決めポーズを用いて両足でボールを挟み込み、数秒その姿勢でを制止。ボールを落とさないように扱い、姿勢を正す。

「スゲェー!」

 日ノ丸が感嘆の声を上げる。フェリシーも海人も大地もだ。しかし、天科はエンターテイナー魂に火が付いたのか、対抗心剥き出しでクレアに突っかかる。

「あたしチャンもそれぐらいはできるのよん!」

「むしろ、ミス・エンターテイナーがこれぐらいできなければ、名折れでしょう?」

 クレアは天科の勢いに呑まれる事なく悠然と受け答える。同じぐらいの背丈で似たような特技を持っているというのに正反対な二人。

 これまた面白そうな組み合わせだなと大地は思う。しかし、クレアの目を見てある事に気付いた。クレアの興味は天科にはない事に。

 眼中にないという訳ではないだろうけど、それよりも強く惹かれるものがあるという感じだろうか。真意は彼女の胸の内、これ以上は推し量れない。

「あの玉林さん、落ち着いてぇ……」

「落ち着いているのん! ただ私のエンターテイナー魂に火が付いちゃっただけですねん!」

「だから、落ち着いてぇ!」

 天科とクレアの間にまのんが割って入り、何とかして天科を宥めようとしている。

 だが、天科は落ち着く様子はない。ヒートアップしていくばかりだ。

 困り果てているまのんを見て、これ以上は話がこじれていきそうだなと判断した大地は助け舟を出す。

「玉林、そこまでしとっけって」

「何よ、大地チャン! これは私にとって」

「月宮がチームに入ってからにすりゃ良いだろ?」

 大地は無理やり天科を黙らせて、クレアに入部の事を持ちかける。先程の彼女の動きなら十分やっていけると確信して。

「っで、お前をサッカー部に入れたいんだが……まだ駄目か?」

「ええ、もう少し考えさせてちょうだい。けれど……」

「けれど……?」

 クレアは視線を日ノ丸に合わせる。自身がサッカー部へ興味を持ったきっかけ、少しぐらいは手助けしたい。

「あなたの特訓を少しだけ手伝って良いわよ?」

 

 日にちが経ち、仮入部期間の最終日。日ノ丸は相変わらず技の特訓をしていた。

 しかし、以前よりもコツを掴んできている。

「鏡が必要よ。太陽の光を反射させるには鏡が必要なの」

 クレアの抽象的なアドバイスを理解した日ノ丸はあの時憧れていたイメージではなく、自分に合った感覚で一歩ずつ完成へ近づけていく。

 重ねる必要はない。自分のプレースタイルにあった形がどこかにあるはずだ。だからこそ、ボールを強弱なんて考えられていれない。

 ひたすら強く蹴り込みスピンをかける。パスは苦手だが、そのままの勢いを使えば武器になるだろう。

 しかし、失敗は繰り返される。その度に日ノ丸は立ち上がり、何度も挑戦していく。

「もう一回! もう一回だ!」

「そのいきだぜ、日ノ丸! さあ、かかってこい!」

 閃理が立ちはだかり、日ノ丸の動きに合わせて進路を塞ぐ。技量差は歴然だが、ここはあえてボールを奪わない。

 目的はあくまで日ノ丸の必殺技の完成であって、精度を高めるという事ではないのだから。

 一方の日ノ丸は、ぎこちない動きで右往左往して閃理を揺さぶりつつタイミングを窺う。そしてボールを強く蹴り、反対方向に飛び出す。

 ボールはスピンがかかりきらず、あらぬ方向へ飛んで行ってしまった。先には端で見守っていたクレア。物凄いスピードで来たが、何とか捌いて止める。

 自分にはない強さを感じた。なるほど、少し惹かれた意味が分かった気がする。

 クレア自身も努力は怠っていない方だが、この力強さはない。折れない心……その光はまさしく太陽だ。

「悪かったな、クレア! ありがとう!」

「いいえ、どういたしまして」

 そう言い、クレアはボールを取り近づいてきた日ノ丸にそれを手渡す。よく観察すると彼のあちらこちらに絆創膏が貼られてあり、いかに彼が特訓に全力で取り組んでいるのかを物語っていた。

「あなたは何故、そこまでするのかしら?」

「え?」

「あなたを駆り立てるものは何なのか……少し知りたいの」

「うーん、それはオレにもまだよく分かってないけど……憧れている人がいて、その人に近づきたいからかな」

 首を軽く傾げ答えを口にする日ノ丸。自分がサッカーを始めたきっかけ、同じ舞台を見てみたいという憧れは心中にある。

 クレアは日ノ丸の答えを聞いて「そう、引き留めて悪かったわね」と言い、日ノ丸に練習へ戻るように促した。

「あの……月宮さん」

「何かしら、椈月さん」

「どうして、そんなに日ノ丸君の事を気にしているんですか?」

 一歩引いた位置にいるまのんが開く。彼女の観察眼と洞察力は鋭く、些細な事でも感じ取れてしまう。故にクレアが日ノ丸に興味を持っている事は察していた。

「……それは私にも分からないわ」

 胸の内を覗いてみたが、答えは見つからない。ただ何となく彼の力強さに惹かれているのは分かっている。惹かれている……?

 果たして、その言葉は適切だろうか。もしかしたら、憧れているのではないか。……疑問は尽きない。

「なら、いっその事入った方が良いんじゃないでしょうか? 答えが見つかるかもしれませんよ?」

 隣に並び立つまのん。彼女も背は低い方だがクレアよりは背が高い。舌足らずな話し方でどこか幼げな印象があるが、この時だけ少し大人びていた。

 クレアはまのんを一瞥した後、フィールドの方に視線を移す。視線の先には相変わらず悪戦苦闘している日ノ丸の姿があった。

 それでも太陽は燦々と煌めき、楽しんでいる。眩しい……だからこそ、心が動く。

 クレアがまのんの提案を呑んでみるのも良いなと考えていた次の瞬間、日ノ丸に変化が訪れた。

 何回、何十回目の挑戦。日ノ丸がボールにスピンをかけて蹴り出し、同時に相手を抜かす。ボールはまるで光が鏡に反射したかのように軌道を変え、飛び出した彼の足元に収まる。――技が完成した。

 日ノ丸を含めチーム全体が歓喜に包まれる。その中で端にいるクレアとまのんは言葉を交わしていた。

「椈月さん」

「何でしょう?」

「私、サッカー部に入るわ。この胸に溢れる激情を知りたいもの」

 クレアの言葉にまのんは満足げに微笑み、頷く。そして確信していた。このチームなら彼女の望む答えはきっと出て来るだろうと。

 当のクレアは日ノ丸に視線を釘付けにされている。考えても答えが出ないのであれば、行動あるのみ。そうして掴み取った物語の主人公はいる。ならば、やってみない手はない。

 月は太陽に吸い寄せられ、青天中サッカー部はようやく十一人の選手が集まった。




 え~、かなりの急展開ですみません。またスポットの当たり方にも偏りが出てしまい、ごめんなさい。
 一応、他のキャラクターにもスポットを当てる回は作りますので、それまではご辛抱を。

 それはさておき、告知の方もしていこうと思います。
 現在、青天中の監督を募集しております。こちらの募集は近い内に締め切りますので、案があるのにまだ投げていない方、よろしくお願いします。
 また募集を行っていませんが、予選で当たる対戦校の一覧も上げています。よろしければ、ご確認していただけると幸いです。

青天中の監督募集→https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=222187&uid=201775

予選の対戦校一覧→https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=225431&uid=201775


 では、この辺りで筆を休めたいと思います。感想の方もお待ちしています。

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