アカメが斬る!〜闇のキバが裁きを下す〜 作:マスティ魔
イヲカルの暗殺から数日が過ぎた頃、新たな問題が帝都で発生した。その内容を確認するためハドー達は作戦会議室へ集まっていた。
「今回の標的は帝都で噂の連続通り魔だ。夜な夜な現れては無差別に人を殺す……しかも被害者全員、首を狩られている。もう何十人も殺されている」
「首を狩る……あのザンクが現れたのか」
ナジェンダの言葉にハドーは壁に背を預けながら言う。するとナジェンダはおろかその場にいたタツミとシェーレを除いた全員が頷き同意する。
「ザンクって誰だ?」
「アンタまさか知らないの? 本当にド田舎からきたのね」
「すいません。私も分かりません」
「シェーレは忘れているだけだ」
タツミの質問とシェーレのド忘れにマインとハドーが呆れてしまうが、タツミにザンクについての説明を始める。
「ザンクは通称“首斬りザンク”と世間では呼ばれている。ザンクはかつて帝国の大監獄に勤める首斬り役人だった。だが、オネスト大臣の所為で処刑される者達が増大し、ザンクは毎日の様に人の首を斬り落としていた。そして、その中にも罪なき者達が存在しザンクに命乞いする者達もいた。そんな日々が数年も続き、とうとう首を斬るのが癖になってしまうが、監獄の中では物足りなくなり獄長を殺し、その帝具を盗み、辻斬りとなった。はっきりと言えばザンクも、この国によって狂わされた被害者だ」
「討伐達を組織された直後に姿を消したが、帝都に現れるとはな……」
ハドーの言葉に続く様にブラートもザンクの情報をタツミ達に説明する。2人の話を聴いたタツミは拳を強く握りしめ、ザンクを討つ決意を固めてる。
「危険な奴だな。探し出して倒そうぜ!」
しかし、熱くなっていくタツミを落ち着かせる様にブラートが嗜める。
「ザンクはハドーも言った様に俺達同様に帝具持ちだ。2人1組で行動しないと………お前危ないぜ」
何故かタツミの顎をくいっと上げさせ、頰を赤らめながら別の意味でタツミをクールダウンさせる。加えて、タツミとブラートの周りには艶かしい薔薇の幻覚を見てしまったラバックとハドーはヒソヒソとブラートから距離を取りながら身の危険を感じる。
「「(アンタが1番危ない相手だよ)」」
すると、ナジェンダが軽く咳払いをし自身に注目を集めさせる。
「よって今回の任務は全員二人一組で動け。相手は帝具使いであるため命の危険は数段に高まっているということを忘れるなよ」
彼女の言葉に全員が頷き、今日の深夜からザンクの討伐に出かけるということになった。ちなみに、ペアはアカメとタツミ、レオーネとブラート、マインとシェーレ、ラバックとハドーとなったが、心なしかアカメが不満そうな視線をハドーに送っていたのは余談である。
「はぁあぁ……マインちゃんとシェーレさんは仕方ないとして、出来ればレオーネ姐さんかアカメちゃんとがよかったな〜また蝙蝠コンビと一緒か〜」
と目の前でブーブーと文句を垂れているのはラバックにハドーは軽い手刀を炸裂させる。
「あだぁぁぁ」
「オレたちでわるかったな。愛しのボスからの命令なのだからキチンと警戒しろ」
『ナジェンダの編成に不備はない』
ラバック的には女子と一緒でなかったことが不満なのだが、ラバックのクローステールとハドーのダークキバのコンビネーションは中々のモノであるためナイトレイドの任務ではハドーとラバックは良くコンビを組むことが多い。
「わーってるよー、つーかさ男だけしかいない方を狙うかねぇ。オレだったら絶対に女の子の方を狙うな!」
「それはお前の好みだろうが……隠れろ」
ラバックの物言いにやれやれと肩を竦めているとハドーは複数の気配を察知し、急いで足を止めてラバックを路地裏に引きずり込む。
「ちょッえ!?何!?お前もそっちの気があんの!?」
「黙れ。静かにしていろ」
割とドスのきいた物言いをしながら先ほどまで自分達がいたところに視線を向ける。すると、警備隊の人間が数人駆けて行った。
「なるほどね。オーガを殺されたからその犯人探しもしてるってわけだ。タツミも大変だねぇ」
「あちらの方にも気を配っておかなければな」
警備隊の隊員が過ぎ去ったのを確認し、二人は再び通りを歩いてザンクの捜索を開始しようとした所で、ハドーはへばりつく様な不気味な視線を感じ、時計塔へ首を向けるが誰もおらず気のせいとして処理し捜索を再開する。
そして、ハドーが振り向いた時計塔の裏には悪鬼の表情を浮かべる男ザンクがいた。
「お〜お〜こんなに離れているのに気づくとはねぇ〜隠れるのが遅かったたら見つかったいたねぇ〜愉快愉快♡。さぁ〜てどの首から頂こうかなぁ〜」
ハドーの気配察知に多少は驚きながらも、暗夜の空の下で自身の首斬りの衝動に従い自身を探すナイトレイドの中から好みの首を選り好みしていく。
先ほどの気配以降怪しい者の姿はなく、一向にザンクは見つかる事はなかったので、適当な路地を見つけた二人は適当に座ることにした。キバットは目立つためハドーの服の中に身を潜めている。
「やはり出てこないな」
「やっぱさー女の子の方に行ったんだって絶対。男二人じゃつまらないじゃん?」
『こんな小僧達の首は好みでは無いのかもな』
「そこにお前が同意するのかよ……」
キバットの発言に唇を尖らせて嘆息しているとラバックが思い出したように声を上げた。
「そういえばさ。ダークキバの奥の手って結局はどんな感じなんだ?」
「キバット曰く今の俺では使えないようだ」
「マジで?」
『今のハドーは使える領域には達してはいない』
帝具には「奥の手」を有するものがある。例としてインクルシオの場合は素材にされた超級危険種、タイラントの特性を生かした透明化が出来る。しかし、気配までは完全に断てる訳ではないのであまり動かないほうがいいとブラートは言っていた。しかし、透明化にも体力・精神力はかなり消費するようだ。
ハドーの持つダークキバにも奥の手が存在しているが、自身は使える領域に達していないためその詳細も不明である。
『歴代の資格者の中で奥の手を使える領域へ至ったのは初代だけだからな。前提条件を言えば、鎧に真の主として認められるということだ』
「革命を成功させるためにも俺自身、もっと強くならないとな。このままではエスデス戦にも遅れを出してしまう可能性も否定できないからな」
「エスデスねぇ……でもさ、あの女はいま北に行ってるじゃん」
「今の任務は北の勇者ヌマ・セイカの討伐だったな。ラバック的にはどれぐらいかかると思う?」
「最低でも一年はあると思うぜ。ヌマ・セイカの軍は中々強いらしいし」
ラバックはそう言っているものの、ハドーは疑念があるのか考え込んでしまう。今現在帝国の軍人の中で大将軍といわれる自分の父であるブドーと並ぶほどの強さを持っているのがエスデス。そして、ナイトレイドで彼女に匹敵できるといえばブラートくらいな筈。
アカメも十分強いがエスデスは彼女をゆうに超える強さを持っている。数年前にエスデスと相対したことがあるため彼女の底知れぬモノを間近で感じ取れたが、バケモノとしか言いようがない。
「アレをサシで戦うのは避けたいが、お前のクローステールの奥の手を使えばどうだ?」
「やめてくれ。クローステールの奥の手でも足止めしか出来ないさ。ダメージなんて与えられねぇーよ」
ラバックも肩を竦めているが、エスデス相手に足止め出来る時点で十分すぎると思う。しかし、新しい国にはあの様な戦闘狂は邪魔でしかない。人外と化しつつある自分同様に。
結局、その後もザンクを探して回ったものの見つかる事はなく、捜索を始めてからしばらく経った後、アカメとタツミがザンクを討伐したということを聞いた。
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ザンク討伐任務の翌日、ハドーと彼の頭に乗ったキバットはアカメ達が回収した帝具「スペクテッド」と眺めていた。
「コレがザンクの帝具か。気色悪いな」
『久々に見たな。この目玉帝具』
「能力は遠視、洞視、未来視、透視、幻視の五視だそうだ。タツミは幻視に惑わされ私と分断された。その間に洞視や未来視で苦戦を強いられたんだろう」
お茶を飲みながら答えるアカメの解析に、ハドーはため息を吐きながら作ったコーヒーを飲む。
「なるほどな。あの時感じた視線は遠視による視線か……全く遠くから此方を観察し俺達を選り好みしていたわけか」
自身が感じた視線の正体が肩を竦めスペクテッドをテーブルの上に置き、タツミの姿を探してみる。しかし、何処にもいない。
「タツミは?」
「多分友人二人の墓だろう。この帝具の幻視は相手がもっとも愛する者の姿を目の前に浮かび上がらせる能力らしいからな」
…もっとも愛する者か………
…ハドー……私の血を吸ってくれ……
「////…⁉︎⁉︎」
な、なななんで!あの時のアカメが出てくるんだ⁉︎
初めて吸血させてもらった時のアカメが脳裏をよぎった事に困惑しているハドーはコレを煩悩と判断し、煩悩を退散させるために壁にガンガンと頭突きする。
「ん?何をしているんだ?自分を傷つけてるのはダメだろ」
「////……す、すまん」
アカメによって壁から引き離されたハドーは顔を赤く染めながら、アカメと視線を合わせようとはしない。そのことをアカメは首を傾げてはいるが、深く考えなかった。そして、そろそろ夕食の準備をするためハドーとともにタツミの下へ向かった。ちなみに物陰からいつの間にハドーから離れていたキバットとともにレオーネはニヤニヤしながら2人を眺めていたのは余談である。
外に出るとやはりタツミが墓の前でしゃがんで手を合わせているのが見える。
「怪我してるところ悪いが、夕食の支度をするぞ」
麻袋を彼の頭に投げたハドーが言うと、タツミは短く返事をしてこちらにやってきた。だが、近くまで来たところでタツミがアカメに問うた。
「アカメ、お前ザンクと戦った時幻視を使われてたよな……あの時、誰を見たんだ?」
その問いにハドーも少しだけ驚いた表情を見せ、心の奥底で気になっている自分も存在していたが、そのことにハドーは気づけていない。
「……時が来れば話す……ただ、これだけは言える。今の私にとって大切なのはナイトレイドの仲間達だ。勿論お前もだぞ、タツミ」
タツミの問いにアカメは伏し目がちに答える。
「んなっ!?」
アカメの言葉にタツミは頬を赤らめ指をワナワナと動かしていたが、ハドーは暖かな笑みを浮かべて二人に告げる。
「そろそろレオーネ辺りが癇癪を起こすから行くぞ。今晩はアカメのリクエストに応えて肉づくしだぞ」
「よし!流石ハドーだ♪」
「って昨日も肉だっただろ!野菜も食べろよ!」
「心配するな野菜もたくさん出すさ。もちろん美味しいのをな」
「ハドーの料理はどれも本当に美味しいから私は大好きだぞ」
「褒めても一品ぐらいしか増やさないぞ」
「………ん…」
「………コイツらこれで付き合ってないのかよ
(−_−;)」
ハドーの言葉にアカメが喜び、気分を良くしたハドーはアカメの頭を撫でる。そして、タツミは2人には聴こえない声量で2人に呆れた後、三人は夕食の支度をする。しかし、ハドーは肉を捌きながらアカメが幻視によってみたという人物を思い浮かべていた。
…恐らくアカメが見たって言う人物……帝国に所属している妹のクロメのはずだ
以前話してもらった彼女の妹クロメ。会ったこともしゃべったこともないが、現在も帝国暗殺部隊に所属しており、帝具使いでもあることから手練れであることさ間違いは無い。
………恐らく戦うことになるだろう。できればアカメとは戦わせなくないな……………例え、アカメに怨まれようとも…
父を討つことを目的の1つにしている自分が言えることではないな…と密かに思いながらつまみ食いするアカメをたしなめながら支度を進めていく。
今思ったのですけど、ラバックのクローステールの奥の手ってどんな能力なのでしょうかね?原作では披露されることはありませんでしたけど。
それでは次回はお楽しみください!